高等学校教員時代の、ずっと前のことです。 
 ある「狂暴」だと言われている女子生徒が、私の授業の名簿に載りました。これは、いつかは対決せねばならないかもと、半分腹をくくりながら授業を進めていました。夏前だったか、とうとうその時が来ました。
 ある重要な提出物がなかなか出ないので催促したところ、まあ、口を荒らすこと。すったもんだの末、やっと彼女は提出の約束をしました。
 しかし、私は引き下がらず、「提出が遅れたことと、さっきの暴言について、言うことがあるでしょ」と言うと、「謝れん」。「は~?」。彼女は目を剥いて、「私は謝れんのんじゃ‼」と、強く言い放ちました。
 私はその瞬間、彼女のことがちょっと分かった気がしました。彼女の意地と悲しみが、グサッと刺さってきました。この子はこんな風に生きているんだ、としみじみ感じました。
 私は、思わず「あー、そうなんだ」と言いましたが、それでもやはり引き下がらず、彼女に一言「すみませんでした」を言わせました。彼女にとっては屈辱だったでしょう。教師って、ホント嫌な人種です。
 しかし、それ以来、彼女は私の授業では全く態度に問題なく、お互いに距離を置きながらも穏やかでした。彼女は今、どうしているのだろう? あまりきれいには生きていないかもしれないけれど、きっと彼女なりの人生を歩んでいることでしょう。

 ある男子生徒は、入学時から、教員の言うことなんか聞くもんかオーラを発していました。私が担当するトイレ掃除にも全く来ないので、私は他の生徒を休ませて、彼一人だけ呼び出して掃除させようとしました。しかし、掃くにしても、レレレのおじさんみたくいい加減で、埒が明きません。私が、〇〇部は毎朝素手でトイレ掃除してるんだって、なんてことを口にすると、「そんなのオレには関係ねえ!」。
 私はハッとして、「そりゃそうだ。あなたには関係ない。私変なことを言った。ごめん」と言うと、彼はそれから素直に掃除をしました。最後まで一緒にやって、その後ゴミ捨てをお願いして終わりました。
 次の日から、彼は真面目に掃除をするようになりました。なーんだ、ちゃんとホウキの使い方、知ってるじゃん。

 ある女子生徒は、しょっちゅう遅刻しては相談室に来ました。欠課時数が嵩み、進級も危ぶまれる状態でしたが、ニコッとして、「私、急ぐのが嫌いなんです」。
 あ~、いいなあ。それは人間の本来だ。
 一年遅れの彼女の卒業式の日に、「実は私、あの時のあの言葉には感動したのよ」と伝えました。
 私の今年の目標の一つは、「急がないこと」です。いつもバタバタ品なく動いている私にとって、あの子の「急ぐのが嫌い」は憧れです。せかせかしそうになったら、あの屈託のない笑顔を思い出します。

  私の宝物の生徒の言葉を三つ、書かせていただきました。子どもからはいつも、教えられることがいっぱいです。


                           心理面接室TAO 藤坂圭子
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