元旦の夜、TVでウイーンフィルのニューイヤーコンサートを堪能しました。今年はコロナの影響で無観客での演奏でしたが、事前に登録した人たちの拍手・ブラボーがオンラインで会場に響き、しみじみしました。会場ががらんとしている分だけ、黄金ホールの美しさも際立ちました。

 1998年のお正月、私はウイーンにいました。私にしては結構なお金をはたいて、憧れのウイーン音楽ツアーに乗ったのです。しかし、ニューイヤーコンサートは無理無理! チケット代は何十万円もしますから。
 年末にウイーン交響楽団のベートーヴェン第9やウイーン国立歌劇場のオペラ「こうもり」を楽しんで、ニューイヤーコンサートはホテルの部屋でゆっくりTVです。
 
 しかし! 恒例のクライマックス「美しき青きドナウ」「ラデツキー行進曲」に至るちょっと前、ホテルを飛び出し、開催劇場のウイーン楽友協会前へ。さて、演奏会は終わったらしい…。
 「さあ、行くわよ!」。連れになった、ウイーン通の、けれど同じくお金がなくてニューイヤーコンサートは聴けない人たちの先導で、何と、演奏会終了後、楽友協会に突入したのです。
 着飾ったセレブな方々が、満足そうなお顔で、しゃなりしゃなりと階段を下りていらっしゃる間を縫って、私たちは普段着に分厚いコートで逆走! 夢に見た楽友協会に潜入です。
 きらびやかなホールに、むせかえるようなお花の匂い! TVで見るより格段とゴージャスです。

 驚くべきことに、コンサートが終了すると会場は自由に開放され、観客が好き好きにあのお花を抜いて持ち帰っていくのです。両手に余るほどのオアシスをそのまま持ち去る人もいれば、胸にお花を挿して指揮台で記念撮影する人も。私たちのように、あれ?普段着?の人もちらほら。(今は許されるかどうか分かりません)

 私たちはちゃっかりいただいたお花を手に、その後、モーツアルトのお墓参りをしました。
 ウイーン郊外のザンクト・マルクス墓地。最期は貧しくて、ろくな葬儀もしてもらえなかったモーツアルト。きっと一般の人たちと一緒に、このあたりに放り込まれたのだろうところに天使の像が置かれ、そこがモーツアルトのお墓とされます。
 その日は曇天で凍えるように寒く、楽友協会の華やかさとは打って変わった寂しさでしたが、ニューイヤーコンサートのお花がたくさんお供えされていて、感慨深かったです。

 私はこの後、5度ほどウイーンに行っています。退職した年は、とうとう楽友協会ホールでウイーンフィルの定期演奏会を聴くこともできました。何とも言えないあったかい響きです。
 びっくりしたのは、トイレのある廊下が舞台袖に通じるようになっていて、休憩時間に普通に音出しをしている団員たちの姿に接することができたことです。華やかなだけでなく、聴衆を隔てないホールの作りに、芸術都市ウイーンの意匠を感じました。

 今年のニューイヤーコンサートの指揮者リッカルド・ムーティは、新年の挨拶で、為政者に対して文化の保護を訴えられました。異例のことです。我々には深い思考や心の健康が必要だ。音楽がその助けになる。文化が社会をより良くするのだと。 

 私はこんな風に、旅行などでさんざん散財しているのでお金が貯まりませんが、いいお金の使い方をしたと思っています。その体験の一つ一つが私の中に残って、今の私を形作っていると確信できるので。
 コロナ禍の中でも、心を豊かにする営みを大切にしたいものです。
 みなさまにとっても、2021年がいい年となりますように!

                            心理面接室TAO 藤坂圭子
                            HP:http://tao-okayama.com