コロナ禍になって以来、TAOではずっと窓を開けています。外の音が入ってきて会話が途切れることがあり、煩わしいです。もうすっかり慣れましたが、最近、あれっ?と思うことがあります。音が前より響く。でも、カラッとした響きで何だか爽やか。

 つい、「秋になると音が響く感じがしませんか? そう言えば、こんな歌がありますよ」などとお話しすることがあります。
  秋来ぬと目にはさやかに見えねども風の音にぞ驚かれぬる(藤原敏行 古今和歌集)
 「秋立つ日」に詠まれた歌です。立秋は8月初旬(今年は7日)で、夏真っ盛りといったところですが、さすが平安歌人の感性は繊細です。どこ見ても秋だなんて思えないけれど、風の音にハッと秋なんだなあと気づくよ、と言うのです。確かに、このころから植物の水分量が減ってくるので、葉擦れや稲穂を渡る風音が、かさかささやさや、爽やかかつしんみりしてきます。

 ただ私は、秋になると風音だけでなく、車の音や人の声さえも乾いて聞こえるような気がしていて、どうしてだろうと前から疑問に思っていました。そこで、調べてみたのです! 
 うまく説明できないので、分からないところは読み飛ばしてください。

1.湿度との関係
 音は、空気中の水分などの物質の振動によって伝わる。だから、湿度が高く水分量が多いと、音は基本的によく伝わる。が、高音は振幅が小さく振動数が多いので、振動が吸収され過ぎて伝わりにくくなる。つまり、湿度が高いと高音と低音のバランスが崩れて、鈍い音になってしまう。だから、海外の音楽家は、じめっとした夏の日本で演奏することを嫌います。
 けれど、秋になって湿度が下がると、高音も伝わりやすくなって低音も高音もバランスよく響き、クリアな音になる!
2.気温との関係
 気温が高いと空気分子の動きが激しいので、音速が早くなり音は上向きに屈折し上空に逃げていく。が、気温が下がってくると、音速が遅くなり、音の屈折は下向きになるので、遠くまで響く。
 だから、秋になると、ちょっと遠くの運動会の歓声やスターターピストルの音なども、風に乗るように聞こえてくるのです。もっと寒くなる冬の夜には、かなり遠くの踏切音なども届きます。

 ゴチャゴチャ申し訳ないのですが、個人的には、どうして秋になるともろもろの音がカラッとよく響くのだろうという長年のナゾが解けて、スッキリです。
 ちなみに、私は春先になると、水音がコロコロ柔らかくなる気がしていて、このナゾにもいつか挑みたいと思います。

 秋は音も空気も光も澄んできます。空に向かって手を広げて息を吸うと、心も広々爽やかになれそうです。ですが、裏腹にしんみり物淋しくもなります。P.ヴェルレーヌの一節が、ふと思い出されたり。
  秋の日の / ヴィオロンの /  ためいきの / 身にしみて / ひたぶるに / うら悲し。
      (上田敏訳「海潮音」より。 *ヴィオロンはヴァイオリンのこと)
 秋は、物思いにはうってつけの季節です。 

 まだまだ蟄居生活を強いられそうな今年の秋。しっかり耳と心を澄ませて、心の奥底にしまっている本当の気持ちに気付けたらいいと思います。不安や孤独感もそのまま大事にしましょう。自分をいたわって折り合いをつけられたら、新しいスタートも切れるかもしれません。
  爽やかにあれば耳さへ明らかに  高浜虚子
  秋澄むと何くれとなく家に居り  森澄雄 

                            心理面接室TAO 藤坂圭子
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