2008年01月08日

「てんかん」と歯科治療

「てんかん」という病気をみなさんご存知でしょうか?昨年の12月、ある患者さんのご家族の方が「日本てんかん協会」というところに勤務していた関係で、私その「日本てんかん協会」の発行する「波」という月刊誌に寄稿することになりました

てんかんのことなど何も分からない私 いろいろ調べましてなんとか原稿を書き上げました。そのときの文章をそのままここに掲載いたします。「てんかんのお子さんでも一般歯科での歯科治療ができる」ということをテーマに、てんかんのお子さんを持つご家族の方に向けて書いた文章なので、てんかんの病態そのものについてはほとんど触れていません。てんかんについて詳しく知りたい方は日本てんかん協会のHPにアクセスしてみて下さい。

さっそく参ります。とても偉そうな文章で、読み返すとちょっと恥ずかしい気もしますが、以下本文です


一般歯科開業医の立場から
東京都江戸川区西葛西 たろう歯科医院 佐々木太朗

・はじめに
 てんかんのお子さんをお持ちのご家族の方、お子さんの歯の治療はどうされていますか?日本人は100人に1人にてんかんの既往があるといわれていますが、私の今までの経験からすると、てんかんを持っているお子様が一般開業医に治療にいらっしゃる数はその数値よりうんと少ないように思います。おそらく、大きな病院の歯科や口腔外科に通っているお子さんが多いのではないでしょうか。大きな病院だと何かあったときに迅速に対応できるからというのがその一番の理由だと思いますが、果たして一般開業医ではてんかんのお子さんの歯科治療はできないのでしょうか?

・てんかんのお子さんは一般開業医では歯科治療ができないのか?
 結論から申しますと、薬の服用で発作がコントロールできているお子さんは、何ら問題なく一般開業医での治療が可能です。特別な治療でなければ、麻酔や抜歯も含めほぼ全ての処置を行うことができます。しかし、重度の障害をもつ場合や発作が頻発している場合、休薬中、感染症や極度の疲労を起こしている場合には、やはり一般開業医で診療を受けるには問題があります。これらのお子さんは発作に対するリスクが高くなりますので、大きな病院に行かれるか、もしくは症状が安定してから受診されるのがよいでしょう。
 治療はどこの医院でもよいのですが、てんかんを持つお子さんの場合、できるだけストレスがかからないように治療しなければなりませんので、できれば子供の治療に慣れたドクターのいる歯科医院を選ぶことをお勧めいたします。

・歯科治療を受ける前に・・・
 どんなに薬でコントロールできていて日常生活に支障が無いとしても、治療前の問診票にはてんかんの既往歴を必ず記入して下さい。かかりつけの病院および医師名、服用している薬も書いて下さい。発作の頻度はどのくらいか、ほかの疾患や障害はもっていないか、疲れていないかなどもなるべく細かく記入するようにします。発作が起きる特定の事象があるときは、その原因となる事象も教えて頂けると大変参考になります。
 しかし、せっかくそのことを書いても、歯科医師側からそれ以上の問診が無いことも考えられます。その場合には、ご家族の方から積極的にてんかんについてのお話をしてみて下さい。重要なのは、歯科医師にお子さんのてんかんの存在を把握させることなのです。

・歯科治療における注意点
 一般的に子供にとっての歯科治療は、ストレスとの戦いといっても過言ではありません。てんかんのお子さんにとっても、治療中のストレスが発作の直接的な原因ではないにしろ、十分な精神的ストレスになることには間違いありません。我々歯科医師はそれらを出来る限り軽減し、子供をリラックスさせ、過度の興奮を与えないようにしなければなりません。光のちらつきに発作原因があるお子さんの場合には、ライトを消す、目にタオルを置く等の措置も必要になります。
 処置後に投薬が必要な場合には、てんかんを誘発する恐れのあるニューキノロン系の抗生剤は避けるようにします。服用ではありませんが、ニューキノロン系の薬の入った3-mixを治療に使用されている歯科医院では、気付かないうちに使用されていることもあるので注意が必要です。鎮痛剤を処方する場合には抗てんかん剤との飲み合わせによる副作用も考えられますので、かかりつけの医師に問い合わせてからの投与が望ましいでしょう。

・発作が起きてしまったらどうするか?
 残念なことに、ほとんどの歯科医師はてんかんについての正しい知識を持ち合わせていないと思います。目の前でお子さんが発作を起こしてしまったら、どうしてよいかわからず間違った行動に出てしまうことも十分考えられます。ある歯科医師向けの資料には「咬舌しないようにバイトブロックを噛ませる」とか「気道を確保し必要があれば酸素吸入や呼吸補助を行う」などと書いてありますが、これらは決して正しい対処ではありません。
 周知のとおり、発作が起こった場合の多くは「静観する」が正しい対処方法です。できるだけ冷静に見守り症状の経過を書き留めておくことが必要です。常にお子さんのそばを離れず、嘔吐物の誤飲や不意の動きに細心の注意を払います。それでも10分以上けいれんが続く場合(個人差があるようですが)には救急車を呼ぶなどの緊急な対応を取らなければなりません。いずれにしても発作が起きてしまった場合には、早急にかかりつけの医師に報告し、どうすべきかの指示を受ける必要があります。もし歯科医師が適切な対応を取ることが出来ない場合、ご家族の方がその場を取り仕切っても構わないと思います。お子さんの発作のことを一番理解されているのはご家族の方なのですから。

・おわりに 
 てんかんについてあれこれ調べていくうちに、歯科治療においても健常者となんら変わらずに処置ができるということが分かりました。同時に、万が一のときにも適切な対応が取れるように、我々歯科医師も最低限の知識を持って治療に臨まなければならないことを痛感いたしました。お子さんをどこで歯科治療を受けさせようかとお悩みのご家族の方、是非一度お近くの歯科医院の門をたたいてみて下さい。お子さんにとってはわざわざ遠くの大学病院まで行って治療を受けることの方がずっとストレスだったりするのです。きっと、なんだこんなものかと安堵されるに違いありません。
最後に、私この仕事を12年やっておりますが、歯科治療中にてんかんの発作が起きたという話は一度も聞いたことがないことを付け加えて、この稿を終わりにしたいと思います。



Posted by taroden at 19:58│Comments(0)