なかばジャングルのような山道を、ハイキングをしながら丘の上まで上がっていくと、突然目の前に真っ青な海が広がり、チャイナマンズ・ハットと呼ばれる帽子のような形をした島がぽつんと浮かんでいるのが見えてきた。「いやあ、気持ちいい!」と感動する私に「あのチャンなマンズ・ハットは水晶でできた島なんだよ」と衝撃的な発言をしたタイラー。このあたり一帯の霊力が強いことをまさに物語っている。「だいたい太平洋の真ん中にあるハワイは、地球のおへそなんだよ。だから地球上でいろいろな霊的パワー(霊気)が集まりやすい場所で、ここだけじゃなく、カウアイ島のある地面下には世界で一番大きな水晶の塊があり、そこに立つと不思議な体験をしたり、活力の元となるパワーを得ることができると、昔から伝えられているんだよ」という興味深い話に釘付けになってしまった。たしかに地盤に水晶があれば、水晶のエネルギーが発せられているのだから、かなりの霊力を受けるに違いない。「ねえねえ、もっとおもしろい話を聞かせてよ!」と、タイラーの腕をつかんで、その場に座らせてしまった。
「実は昔からこのクアロアのあたりで、開発や工事をしようとすると、海の水位が急に増して洪水になることがしょっちゅうなんだ。今でもそうだよ。これはおそらくここに住む霊が、自分たちの土地を荒らされたくなくて、水害を起こしてるとみんな思ってるんだ」とタイラー。「へえ、そうなの。で、あなたは自分の目でも、このあたりで起きた不思議なことをいろいろと体験したことがあるの?」と聞くと、自慢そうに「もちろん!」という答えが返ってきた。「このあたり一体、夜になるとね、かなり真っ暗になるんだけど、誰もいないのに、誰かが歌をくちずさんでいたり、影が走ったりなんかはしょっちゅうだよ!」。思わず無口になった私に「このあいだなんか、夜中に家の窓から外を見ていたらさ、海の上をハワイアンの髪の毛の長い男が歩いてるんだよ! もちろん足には何もつけてないし、まさに海の上をスッーと滑るように歩いてたんだ。あれにはちょっとたまげたけどね」とタイラー。「うわっ! それってすごい」と驚く私に「だって俺にはハワイアンの血が入ってるんだぜ。こういう体験は子供のときからしているし、俺の母親もよく『ほら、あそこにお化けがいる!』なんて平気で言ってたもんだよ。見えないっていうと、自分の目に指を当てて、それからその指を俺のまぶたの上に置くんだ。そしたら俺にもそのお化けが見えるようになるってわけ、まあおまじないさ」。「それで、ほんとうにお化けが見えたわけ?」「見えたこともあったさ」と肩をすくめて笑ってみせた。
「ハワイアンってほんとうに不思議な力をもっている人が多いわよね」というと、「実はね、昔のハワイアンのカフナ(祈祷師)は、今の時代のカフナとは比べ物にならないくらい、パワーを持ってたんだよ」とタイラー。なんでも毎年8月になると、その土地のカフナが集合して、会議を行い、地域に関する問題や領地のことで争ったりするならわしになっていたのだとか。そのとき、問題によっては大喧嘩になり、そうなるとカフナ同士が、まるでドラゴン・ボールさながらに、手から火の玉を作り出して相手に投げつけたり、身体を動かさずして、近くにあるものを投げつけたりして喧嘩をしたという。そういえば、昔フラの先生からも昔の「カフナ」は今の「カフナ」と違い、とんでもない魔力を身につけていたと聞いたことがあったので、あながち嘘ではなさそうだ。「でもそういうパワーを喧嘩に使うだけじゃなくって、本来は癒しとかほかの作業にも使うわけでしょ?」という私の質問に「そうそう、たとえばロミロミなんかにね」と答えながら、腕を揉むしぐさをしてみせた。
ハワイには、古くから伝わるロミロミと呼ばれるマッサージ方法があり、実はこのマッサージ法も以前は誰でもできる技ではなかったのだそうだ。長年の修行を積んだのち、選ばれた者だけがロミロミ専門のカフナとして認められたのだ。このマッサージは、本来はハワイ独特のハーブを使用しながらマッサージをするのだが、中国の「気功」的なものも取り入れ、マッサージをしながら悪い部分を「気」を用いて取り除くというものだ。エネルギーに敏感な人なら、エネルギーをカフナに注入されているときに、それを感じることができる。「ロミロミ・マッサージだけではなく、ハワイにはエネルギー・ヒーリングができるヒーラーはけっこういるよ。ハワイの大きな病院でも、希望すればヒーラーによるエネルギー・ヒーリングやハーブ治療も可能なんだよ」とタイラー。ハワイならではの治療方法が今も民間に伝わり、病院でも行われているというのは、文化継承の意味でもとても喜ばしいことだと思う。
「でもね、なんで今の時代の人間には、昔のカフナのようなパワーがないと思う?」とタイラー。「さあ、修行できる人が少なくなったからかしら」と言う私に、「それだけじゃなくてね、みんな物質的にも恵まれてきて、欲や自我が出てきてしまって、人のためにパワーを使うというよりは、自分のため、お金のためになってきてしまったから、そういうパワーを神様がもう、お授けにならなくなったんだよ」とタイラー。たしかに最近、日本でもスピリチュアルな物事は、ビジネスとして立派に成立し、ある意味では人を助けるより惑わすことをしている場合も多い。目の前に限りなく広がる太平洋を見つめながら、タイラーはぽつんと言った。「忘れちゃいけないよね、感謝の気持ちと人への優しさ。これって俺らハワイアンの文化だし、世界中の人にもそういう気持ちを持ってほしいよ。そういう気持ちが持ててこそ、はじめてスピリチュアルについて語れるんだからさ」。


