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「薄情じゃありませんことよ、ザカーズ。お払い箱にして、奥さんのところへ送り返すのがいいわ」彼女は考えこむように人さし指であごを軽くたたいた。「ただし、自宅の前dermes 脫毛の通りに絞首台をたてることね。今度かれが喉が渇いたときのために、考える材料を与えるのよ」
「きみは本当にこの女と結婚したのか?」ザカーズがガリオンに向かってさけんだ。
「ぼくたちの一族によって、お膳だてが整えられていたようなものでね」ガリオンは泰然自若と答えた。「あまり口出しできることじゃなかったんだ」
「ねえ、いいかげんにしてよ、ガリオン」セ・ネドラがばかに平然と言った。
 かれらはテントの外で馬に乗り、野営地をぬけて、はね橋へ向かった。はね橋のかかる杭の林立した深い溝は、外側の要塞の一部を構成している。溝を渡ったとき、ザカーズが大きく安堵の息を吐いた。
「どうしたんだ?」ガリオンはたずねた。
「野営地にひきとめられる方策をだれかが考えだしでもしたら困ると思っていたのだ」と、ちょっと不安そうにうしろをちらりと振り返った。「しばらくのあいだ、できるかぎり早足で進めるだろうか? 部下たちに追いつかれたくないのでね」
 ガリオンはその科研項目時点で懸念しはじめた。「あんた、本当にだいじょうぶなのか?」疑わしげにたずねた。
「生まれてこのかたこれほどいい気分に――というか、自由な気分に――なったことはないくらいだよ」ザカーズは高らかに言った。
「そうじゃないかと思った」ガリオンはつぶやいた。
「なんだって?」
「いいから緩いかけ足で進んでってくれ、ザカーズ。ぼくはベルガラスと話し合いたいことがある。すぐに追いつく」ガリオンはクレティエンヌの手綱を引いて引き返した。後方で祖父とおばが並んで熱心に話し合っていた。「ザカーズはまるで心ここにあらずなんだ」ガリオンはふたりに言った。「どうなっちゃってるんだろう?」
「これまでずっと肩にのしかかっていた世界の半分の重みが、生まれてはじめてとりのぞかれたんですもの、むりもないのよ、ガリオン」ポルガラが穏やかに答えた。「いずれ落ち着くわ。一日かそこら見ててごらんなさい」
「一日かそこらの余裕なんてぼくらにあるのかい? ザカーズはまるでレルドリンそっくりだ――それともマンドラレンのほうかな。あれをだまって見てていいの?」
「話しかけることだ」ベルガラスが言った。「なんでもいいからしゃべりつづけろ。なんなら『アローンの書』を話してやれ」
「でも、ぼくは『アローンの書』を知らないんだよ、おじいさん」ガリオンは反論した。
「いいや、知っとるさ。おまえの血の中に流れておる。ゆりかごにいたときだって、一字一句まちがえずに話せたはずだぞ。さ、ザカー阿柏西普ズが手に負えんようにならんうちに、あっちへ戻れ」
 ガリオンは悪態をついて、ふたたびザカーズのところへ引き返した。
「厄介事か?」シルクがきいた。
「その話はしたくない」
 道の次の角を曲がったところで、ベルディンが一行を待っていた。醜悪なちびの魔術師は言った。「やれやれ、うまくいったらしいな。しかし、なんだってそいつを連れてきたんだ?」
「シラディスがザカーズを説得して、わたのだ」ベルガラスが答えた。「どうしてシラディスのところへ行こうと考えたんだ?」
「やってみるだけの価値はあったぜ。ポルがクトル・マーゴスでシラディスがザカーズに言ったことをいくつか教えてくれた。あの女予言者はザカーズになんらかの関心を持っているらしいぞ。それにしても、ザカーズがおれたちと一緒にいくことになろうとは、考えもしなかった。シラディスはザカーズになんて言ったんだ?」
「わしらと一緒に行かなければ、命を落とすとね」
「それじゃのほほんとしちゃいられまいて。よお、ザカーズ」
「知り合いだったかね?」
「おれがおまえを知ってるんだ――とにかく、外見をな。何度かマル・ゼスの町を練り歩いてたところを見たことがある」
「わしの兄弟分のベルディンだ」ベルガラスは小柄な魔術師を紹介した。
「兄弟がおいでとは初耳だ」