昨晩、あえりあ遠野にてアンサンブルベルリンのコンサートが行われて大歓声の内にその幕を下ろした。繊細にして大胆な、そして質実剛健なその演奏に観客は酔いしれていた。一瞬たりともこの音のベールを聴き逃すまいぞと、小さな眼を大きく見開いて私はこの2時間少々のあっという間の時間を堪能した。彼らの旋律を聞きたいのであれば先ずはCDかコンサートに足を運んでみてはいかがだろうか?因みに来る10月22日は神戸でコンサートを開く予定だ。
こんなクラシックに精通してはいないが単に好きと言う私だが、2年前の遠野公演に引き続いて今回もまた現地実行委員のメンバーに入る事が出来た。そのお楽しみは講演の後に行う打ち上げの宴に同伴して供に再開と公演の無事終了を祝う事が出来る事である。間近にベルリンフィルのメンバーを見ながらバカ騒ぎをする事は実に楽しい。彼らもまたステージが終われば普通の人間で、ましてや普通に考えれば知り合いが一人として居ない異国の地で安心して飲食が出来る事がどれだけ疲れを癒す事が出来るのかは容易に想像が出来る事であろう。
全世界で空前の日本食ブームと言う事もあって彼らは寿司屋のカウンターで目の前で板さんが握ってくれる寿司が事の他好きなようだ。どのくらいかと言うと板場で魚や貝をさばき始めるとデジカメやスマホで撮影するほどだ。この様に書いていると現地スタッフと彼らの間にコミュニケーションはあるのか?と言う疑問が浮かんでくるのでは…?心配ご無用。彼らには英語が堪能な日本人通訳がマネージャーを兼ねて同行しており打ち上げででもその役目をしっかりと果たしてくれているからだ。と言う訳で私はこの非常に恵まれた環境下でアンサンブルベルリンのメンバーとコミュニケーションを取っていた。
簡単な英会話に加わって彼らとマネージャーの漫才みたいな会話を楽しんだりコントラバスのウルリッヒ・ウォルフさんと手の大きさを比べたり(私より関節一つ分も大きい。しかもその時に弦を抑える左手の薬指の指先に弦に当たって出来るタコを見つけた。)一緒に写真を撮ったりして楽しんでいたが、ウォルフさんに質問をしてみた。(彼はカラヤンがベルリンフィルの指揮者をしていた時から在籍しているベテランである。)カラヤンは私の勝手な想像で繊細な気難しいイメージがあるのだが本当の処はどうだったのか?と。答えは…非常に情熱的に音楽に取り組む人物でそのイメージを伝える時に涙を流す事もあった。そしてとても優しい人物であった。文献を紐解きカラヤンの人物像を調べるよりも遥かに価値のある生の意見が聞けて私はカラヤンと言う指揮者が少しだけ身近に感じられた。しかも優しい人だったなんてオーケストラの指揮者ともなると組織の隅々までまが行き届かせなければならない高尚な人物だからこそ優しかった(プロ集団であるからこそ)事が何だか嬉しかった。
次にファゴット担当のモル・ビロンさんにオーボエのクリストフ・ハルトマンさんが見せてくれた循環呼吸法(オーボエを演奏する時に鼻で吸って同時に口で吐き出す高速で演奏する時に使う演奏方法)はファゴットでもやったりするのか?と聞いてみた。するとその質問には隣の席にいたヴォルター・クシュナーさんが割り込んで答えてくれた。循環呼吸法自体はやらなくはないがそれだとファゴットの演奏がゆったりと出来なくなり感情が込められない。だからあまりやらない。と言う事であった。その時のハミングで違いを見せてくれたのが「ふるさと」であった。東日本大震災で住む処を追われた人達の心の拠り所の歌が「ふるさと」である事は彼らにとっても周知の事実である事が垣間見れて音楽家の心の深さを感じ取れた。
第1バイオリンのルイス・フィリペ・コエーリョさんはブラジル出身のイケメン。公演の時に知り合いの女の子が盛んにその事を話していたので、それならばとそのエピソードを話しつつ写真を撮ってもいいか聞くとポーズをとってくれた。どうやらあちこちでそんな話があるらしい。スマホに入れてあるその女子の写真を見せると「おぉ!」と言いつつ「僕の写真を売るなら10%のマージンで良いよ」と悪戯っぽくニヤッと笑った。第2バイオリンのベッティーナ・サルトリウスさんは3週間前に結婚したばかり。と教えてくれた。「声をかけてくれるなら結婚前にしてくれればいいのに」とこちらもニヤッとおどけて見せる。皆、限られた時間の中でお互いに精いっぱい楽しもうとしている。これは文字通り民間レベルの国際交流なのではないだろうか?
後はサインをいっぱい書いてもらったりと楽しい時間はあっという間に過ぎてしまった。また次回の遠野来訪で再開しましょうと約束をしてその晩の打ち上げが終了したのは日をまたいで0:30の事であった。それから家に帰って布団に入ったのは2:00近く。起床したのが6:20だからあまり寝ずにまた1日が始まったが、興奮冷めやらぬ状態なので少々ダルイ程度で動ける事に我ながら驚いた。きっとアドレナリンの分泌が半端無いのだろう。それにしても早く次の遠野公演が決まらないかなぁ…