2006年07月20日

建築家・富田眞二さんが語る「家族と住まい」

Check このエントリーをはてなブックマークに追加

「吹き抜けのある居間 ・・・家族と住まい・・・」

「家族と住まい」と聞いて、真っ先に思い浮かぶのが「ひとつ屋根の下」である。
ひとつ屋根の下の小さな部屋で寄り添って住まう家族の姿が脳裏をよぎる。それはモンゴル草原の簡易住居ゲルや水上に建つ東南アジアの高床式住居のようなものだ。それらは建築とは呼べないほど仮設的で規模も極端に小さいが、プライバシーの取れないところを気遣いながら助け合って住まう理想の家族像が見えてくる。住まいの最もプリミティブな形であるひとつ屋根の下の一室空間なのだ。
かつて「うさぎの寝床」と酷評された日本の住まいもそれに近かった。屋根は単純なひとつ棟の形が多いし、部屋も襖や障子を取り払えばひとまになる。その畳の間に布団を敷いて子供を中にして寝る夫婦の姿が普通の光景だった。 「子が出来て 川の字なりに 寝る夫婦」と川柳にも詠われている日本独自の「川の字文化」である。今は建物の規模も大きくなり家族数に合わせて個室を持つようになって川の字文化は消えつつあるが、それでも幼子とは夫婦二つのベッドを寄せ川の字になって寝る家族は今も多いようだ。
 その子供たちもある時期から個室が与えられ、自分だけの世界を持てるようになるが、個室に籠もれば当然家族とのコミュニケーションは取りにくくなる。その欠点を補うために家族が集まる居間や食堂に吹き抜けの空間を提案することになる。
吹き抜けは空間をダイナミックに演出すると共に、上部の壁や天井にハイサイドライトやトップライトを設けることで採光や通風を容易に確保することができるし、上階にある子供室とのコミュニケーションを取り易くする。幼児期や発育期、また個室に籠もりがちになる反抗期にも下階から十分に気くばりできるから、子供の成長にとって大いに力を発揮してくれる装置といえる。吹き抜けには階段が付きものだが、居間や食堂から上がる階段は個室を隔離することがない。
もう20年以上も前の話になるが、ある高校教諭の「階段の位置と子供の非行率の関係についての研究」の中で、玄関ホールや廊下にある階段と比べて、居間に置かれた階段を持つ子供の非行率が極端に低かったことを報告していた。家族のいる居間を通らないと自分の部屋に行けないプランが子供を非行の誘いから守っているのだ。
小さな家ほど家族愛ははぐくまれると思うが現実は益々大きな家になっていく。そんな中、吹き抜けのある居間は家族の絆をはぐくむ力になると考えている。

建てようネット[徳島]は7/23(日)〜30(日)に第3回パネル展「徳島の建築家20人 〜家族と住まい〜」を開催

Posted by tateyou at 08:30