栃木の理工系を元気にするプロジェクト「T-BERRYプロジェクト」の、 これまでに放送されたテレビ・ラジオ、そして新聞記事の内容が全てご覧になれます。中高生対象の『理科王選手権』という科学クイズイベントも実施中!ぜひ、参加してくださいね。 掲載内容に関する質問はこちらへ! t-berry@leaveanest.com

新聞

FILE NUMBER 50 H.C.TOCHIGI日光アイスバックスアスレチックトレーナー 大川靖晃


選手にベストな環境を
体調管理でチーム支える

 「選手がケガから復帰して活躍してくれることが一番うれしいです」と話す大川靖晃さん。アスレチックトレーナーはスポーツの現場で大切な役割を担っているが「認知度はまだ低い。多くの人にその存在を知ってもらいたいですね」

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 小学校から大学まで野球を続けた大川さんは、大学卒業を控え「選手を支える仕事に就きたい」と考え、スポーツ傷害の予防、健康管理、応急処置、トレーニング、リハビリなどを担うアスレチックトレーナーの存在を知った。

 スポーツ医学の先進国・米国に留学し、全米公認のアスレチックトレーナーの資格を取得した。論文テーマは「食事のタイミングと慢性的な傷害の関連性」。留学中は大学院の野球チームのトレーナーに就いたが、日本に比べ選手のけがが多いことに気付いた。選手の30人中6、7人が、けがで手術を受けていたが、過去に在籍した日本の大学の野球部では120人以上の部員がいたが、けがで手術した部員はいなかった。

 疑問に思った大川さんは、選手の食生活に注目。午後9時以降に摂取したカロリー量と傷害の発生率に関連性があることを突き止めた。日本では試合のほとんどが週末の昼間だが、米国は試合数が多い上に、夜の試合も多く食事を午後10時すぎに取る選手が多かったのだ。

 現在は、アイスバックスの選手が、けがを負った日時、部位、重症度などを細かく記録し続ける。「データから読み取れるものがあるから。もちろん食事の摂取時間にも気を遣っています」

 日本では体に痛みがあっても「監督に言い出しにくい雰囲気があり、無理をしがちになります」という。トレーナーがいれば、選手と監督の間に入って調整し、選手がいい状態で練習や試合に臨める環境をつくれる。米国では中学、高校でも必ずトレーナーがいるほどだ。「日本もプロだけではなくアマチュアスポーツの現場でも、アスレチックトレーナーが配置されるような状況になればと思います」

 おおかわ・やすあき 1981年、三重県生まれ。米国ルイジアナ大学、クレムソン大学大学院でアスレチックトレーニングを学ぶ。その後、ニューイングランド・ペイトリオッツ(NFL)で働き、2010年夏、帰国。バックスのトレーナーに就いた。



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FILE NUMBER 49 栃木県立宇都宮白楊高等学校 生物工学科動物分会


生徒自ら研究テーマ模索
動物との多様な関わり

 宇都宮白楊高等学校7学科の一つ、生物工学科の動物分会では、動物バイオテクノロジーを学ぶ。マウスやウサギなどの動物の飼育・繁殖管理を学習し、生徒自身が見いだした課題の研究に取り組む。

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 中学生の時、同校の「一日体験学習」で生物工学に興味を持ったという斎藤蒔人さん。「花物の組織培養とか、簡単なバイオサイエンスの説明を聞いて面白いと思いました」。小さい頃から、は虫類など凝った生き物の飼育が好きだった。今は「タナゴの三倍体作出」と「飼育面積によるマウスの増体変化」をテーマに研究に取り組む。「細胞が増えるときの仕組みなど飼育だけでは分からないことを知ることができ、もっと深くバイオサイエンスを学びたいと思うようになりました」。卒業後は大学に進学する。

 斎藤さんと共同研究を続ける分会長の茂呂拓也さん。「生き物の体の仕組みが知りたかったのです。ネズミの胃に直接、水を投与する授業なんて経験したことがなかったので専門的だなと思いました」

 動物を実験に用いる際、人間が極度に怖がってしまうと、余計な恐怖や痛みを動物に与えてしまうことを学んだ。動物の「命」を扱っていることに、常に気を配る。

 祖父母が酪農家で「酪農や遺伝子技術を学びたいです」という浅川美幸さん。研究テーマは「マウスの体外受精」に決めた。「授業で体外受精の具体的な話を聞き、興味を持ちました。説明を聞くだけではなく実際に挑戦したかったのです。目標は受精卵を親の体内に戻し子どもをつくれる技術を習得すること。難しいけど、そこまでできたらいいな」。将来は酪農技術を開発する仕事に就きたいという。

 指導の篠崎教諭は「人間が動物といかに関わっていくかを伝えていければ。可愛がるだけではなく医療分野での検証に役立てられていることなど、動物を多面的に見られる生徒を育てたいです」と話す。

 11月の文化祭では中間報告と今後の課題検証をした。来年2月には研究発表がある。

 宇都宮白楊高等学校生物工学科は、植物、微生物、動物のバイオテクノロジーを中心に学ぶ。1、2年で基本的な部分を学習し、3年次に植物、微生物、動物の3分会に分かれる。本年度の動物分会の生徒は14人。

FILE NUMBER 48 帝京大学理工学部バイオサイエンス学科教授 大島治之


抗がん剤の研究開発
分かると楽しい最先端

 研究や専門英語のことで質問がある学生には土、日曜でも対応し、持っている可能性を十分に引き出そうとする。専門科目の授業では、最新の発見のどこが新しいのか、といった背景まで含めて授業で展開。大島治之先生の心に常にあるのは、「分かると楽しい、役に立つとうれしい」という気持ちだ。

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 研究室では、がん細胞以外の正常細胞に影響を及ぼさない、副作用の少ない抗がん剤の研究をしている。正常細胞に対する抗がん剤の毒性を下げるために、ある分子を集めて作った「ミセル」を利用して、抗がん剤の抗がん作用を残しつつ副作用を下げる実験に取り組んでいる。

 現在、がん細胞を移植したマウスに、ある抗がん剤をミセルで包んで投与し、効果を調べている。1回の実験結果を得るには少なくとも2カ月、その前段階ではマウスの世話やマウスに薬を投与することに習熟するのに3カ月以上も掛かるため学生は主体的に動くことを求められる。「再現性ある実験のためには確かな技術を身に付けること」が研究室のモットーだ。

 大島先生の役割は、テーマを与え、それに必要な実験技術を教えることと、実験結果を学生とディスカッションしながら学生のアイデアを引き出すこと。「卒研は卒業研究であって単なる実験ではありません。研究は確かな技術とアイデアに支えられて未知のところに突っ込むことなのです」と語る。

 そんな先生が3年生を対象に行う専門科目の授業は学科内で一番難しいと言われている。「専門の講義であっても、学問を縦割りに理解するのではなく、いろいろな視点で生命科学の最先端がどうなっているかを伝えたい」という思いが伝わっている証だ。モチベーションの高い学生の気持ちを、授業と卒業研究を通して、かき立てていく大島先生。自分と同じ分野でなくても活躍してくれる研究者の誕生を楽しみにしている。

 おおしま・はるゆき 東京大学大学院理学系研究科生物化学専門課程博士課程修了、理学博士。帝京大学薬学部、生物工学研究センター、国際教育研究所を経て、1999年から同大学理工学部バイオサイエンス学科勤務。

FILE NUMBER 47 帝京大学理工学部航空宇宙工学科教授 畝本宜尹


偏らぬ「バランス」重要
大学でヘリパイロット育成

 大学の文学部を卒業後、農林水産航空協会のヘリパイロット訓練生(後の航空大学別科)として学んだ畝本宜尹先生。その後はヘリコプター、旅客機のパイロット一筋の人生を歩んできた。「他の先生とまったく違う経歴でしょ」と元キャプテンは笑う。

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 全日空からアイベックスエアラインズまで、先生がパイロットとして勤め上げた約40年間の総飛行時間は1万8200時間。そして今年3月、豊富な経験を生かし大学教授へと転身。ヘリコプターパイロット養成コースでの指導を担当するためだ。

 「最近は民間のヘリパイロット養成組織がなく、免許を取るには自衛隊に入るか、自費で学ぶしか方法がない。それを大学がやるということに引かれました。ヘリパイロットになる楽しさ、つらさ、厳しさを教えてあげたい」

 先生が思うよきパイロットの資質は「バランス」。「専門の理論的裏付けのほかに、幅広いジャンルへの好奇心を持ち、偏らない判断をするためバランスよくいろいろなことを経験しているといい。搭乗するお客さまの立場を想像して、思いやりや協調性を持てるかどうかなんです」

 飛行機の機長をしていたときは、気象や航路に関する情報をどういうタイミングで話せば乗客が安心できるかを考えていた。パイロットとして何が求められるのか、「理屈だけではない世界の話もできればと思います」。

 授業では、実践的なヘリコプター操縦のための座学を担当。ヘリコプターの飛行力学やフライトコンピューターの使用法を学ぶ航空操縦学入門などがある。ほかにも、航空特殊無線の免許取得のための講義や航空英語、航空管制、航法など、コースに入った学生が学ぶことは数多い。学生が、実際にヘリに乗り始めるのは1年生の9月から。「そうすれば座学以上に理解が進むでしょう。僕の場合、40年以上空を飛んでいた経験しか伝えられるものがないけど、いろいろな刺激を与えられればと思います」

 うねもと・のぶまさ 1970年、全日本空輸(株)に入社。ヘリコプター部に配属となり、NHKを中心に報道取材飛行に従事。74年、旅客機部門に転出。以後、各機の操縦資格を取得。2005年よりアイベックスエアラインズ(株)を経て、3月より現職。

FILE NUMBER 46 パラグライダー免許を持つ小山工業高等専門学校生 鈴木雄也


地上と異なる発想必要
自力で空を飛ぶ不思議

 小学生の時からパラグライダーで空中散歩を楽しんでいる国立小山工業高等専門学校2年の鈴木雄也さん。「自力で空を飛んでいるという感覚が非常に不思議。そこが魅力」という。パラグライダーのフライトでは「地上とは全く違う発想が必要になる」と話す。

   ◇   ◇

 パラグライダーは、布とひもを組み合わせて形づくられた滑空翼に風をはらませ上昇するスカイスポーツ。鈴木さんは、小さい時から父に連れられ宇都宮市の「スカイパーク宇都宮パラグライダースクール」のフライトエリアに足を運んだ。

 小学4年の時、スクールの校長と一緒に2人乗りで初めてフライトを体験した。「上昇気流に乗って雲の高さまで上がった。地上では絶対見られない、本当に下界を見下ろしているという感じが新鮮で感動しました」 

 自力でフライトするようになったのは小学6年から。今も、週1回ほど宇都宮のフライトエリアに足を運ぶ。

 「パラグライダーは、飛行機のような固定翼とは違う軟体翼なので不安定ですが、その飛行は空気力学などできちんと理論付けられています。それを知った時はすごいと思いました。ただ飛ぶことの面白さだけではなく、地形、風や雲や、ほかのパラグライダーの動きなどから上昇風をつかまえることを考える、それもこのスポーツの魅力。感覚だけではなく、頭で考えテクニックを見つけていくのです」

 小、中学生のころからパソコンやオーディオに興味があった。エンジニアを志し高等専門学校への進学を決めた。今は「電気回路の勉強が楽しいです」という。

 「フライト中は地上とは全然違う発想が必要になってきます。普通、上下や空間的にものを考えることはめったにありませんが、空中は立体的な世界なので、普段使わない脳をフルに使って考える。そうでなければ長く、遠くに飛ぶことはできません。その考え方や発想は、普段の勉強にもかなり影響していると思います」

 すずき・ゆうや 埼玉県出身。2009年、国立小山工業高等専門学校入学。現在、電気情報工学科2年。09年、JPA(日本パラグライダー協会)パイロット証取得。17歳。

FILE NUMBER 45 帝京大学理工学部ヒューマン情報システム学科教授 間多均


自然が人に与える影響を探る
謎解けるまで真摯に研究

 日常生活で意識しなくても感じている音やリズム。人間には聞こえない自然が発する音には、人間のリズムと偶然にも一致するものもある。こうした音やリズムは人間の感覚に影響を及ぼしているのだろうか。間多均先生は、そんな何気ない疑問から新しい発見に挑戦している。

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 大学時代から「液晶」について研究を続けてきた間多先生。転機が訪れたのは帝京大学理工学部の「電気・電子システム工学科」が「ヒューマン情報システム学科」に変わってから。「人間の営みを理解する」という学科の理念もあったが、何よりも人と自然がどのように影響を及ぼし合っているかに関心があった。そこで自然が発する電磁波や音波が、人間の感覚に対してどのような影響を与えるかを調べる研究を始めた。

 現在は、メトロノームを2つ用意し、故意にリズムをずらしながら人間がどこで不快に感じるようになるか統計を取り調査している。 

 自然が発する音の中には、音域が低いために人間には聞こえない音もある。地震が起こる前に動物たちが慌ただしく活動したりするのも、地面が揺れる前に発生する非常に低い音を感知しているからではないかといわれている。

 地球の周りの電離層という空間と地表の間で響き合う「シューマン共振」のうち7・88ヘルツは、人間の脳がリラックスしているときに発生するといわれているα波と同じ周波数だ。偶然の一致なのか、何らかの影響を受けているのか、まだ疑問は解かれていない。

 「音楽を聴かせると牛の乳の出がよくなるといった研究結果が出てきたときに、はっきりとした証拠が見つかるまで論文を調べ、証拠がなければ信じない」という堅実さを持つ間多先生。今挑戦している問題の真実を明らかにするには、苦労の道が待っているかもしれないが、ごまかすことなく真摯(しんし)に問題と向き合いながら、研究を続ける。

 まだ・ひとし 1970年、武蔵工業大学電気通信工学科卒業。72年、東京農工大学大学院電気工学専攻修士課程修了。同年、日立化成工業(株)に入社。77年に東京工業大学で工学博士取得。89年に帝京大学理工学部に赴任し、現在に至る。

FILE NUMBER 44 (株)本田技術研究所四輪R&Dセンター 井上敏郎


騒音低減し燃費も向上
音を音で打ち消す技術

 本田技術研究所四輪R&Dセンター(芳賀町下高根沢)で振動騒音の研究開発に携わる井上敏郎さんは、車の室内騒音を低減するため「アクティブ・ノイズ・コントロール(ANC)」と呼ばれる「音を音で打ち消す」技術を開発した。この技術は、騒音の低減と車両の軽量化、燃費向上を実現させた。

   ◇   ◇

 音の原因となる振動を抑えるには、車体を硬く重くすることが効果的とされる。しかし、この対策方法では振動騒音が低減されても燃費が悪くなる。自動車の研究開発では、環境的な面、また経済的な面から燃費を良くすることが最も大きな課題で、新たな振動騒音対策が求められていた。

 「ANCは、音を音で消すという技術なので車を重くしないで騒音を低減できる。この技術がたくさんの車に採用されるようになった理由は、燃費です。車体が軽くて燃費が良い、しかも騒音を低減できる技術が認められました」

 「音」は「波」の一種であり、波と同じように干渉する。ANCは、波同士が重なり振動を強め合ったり弱め合ったりする現象を利用している。騒音に対して、それと同振幅、逆位相となる音をぶつけて騒音を打ち消す。

 室内に備え付けられたマイクロフォンを使って騒音の位相(1周期内の進行段階を示す量)をキャッチし、オーディオ用スピーカーから騒音を打ち消す音を放射し、室内の静粛性を保っている。

 入社以来一貫して振動騒音を研究し、ANCに携わって15年になる。「始めは研究成果が出ませんでしたが、自分のやりたいことができたし、会社もやらせてくれました。続けてきた結果、自分が開発した技術が、商品として世の中に出ていく。そういうところがエンジニアの醍醐味だと思います」

 ANCは、まだ「走り出したばかり」の技術で今後さらなる発展が期待されている。「振動を振動で打ち消す方法も考えられます。車を軽量化し、気持ち良さを演出できるようになればと考えています」

 いのうえ・としお 1991年、(株)本田技術研究所入社。以来、振動騒音研究部門に所属し、室内騒音の低減に取り組む。現在は、同社四輪R&Dセンター第12技術開発室第1ブロック主任研究員。

FILE NUMBER 43 (株)フケタ設計一級建築士 和氣文輝


環境にこだわった建築物
伝統的手法と知恵生かす

 「建築は理工系でありながら、芸術的要素があり美的感覚が必要とされます。そこが楽しい」。建築士の仕事の魅力を語る和氣文輝さん。今年、CO2削減を目的とした「矢板市道の駅エコモデルハウス」の設計を手がけた。本格的に環境にこだわった建築物の設計は初めて。「私にとってチャレンジでした。地域の伝統的な技術と最新技術の融合により新しいライフスタイルが生まれることを実感しました」と語る。

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 エコハウスは、環境省のモデル事業として矢板市の「道の駅やいた」内に建設された。「地域の気候風土に合わせた住まい」「自然エネルギーを最大限に生かす」「身近に手に入る材料を使い、環境に負担をかけない工法」。エコハウスの基本的な考え方を踏まえながら和氣さんのアイデアが盛り込まれ、標準住宅に比べCO2排出量88%、光熱費93%削減を実現している。

 太陽の光と熱のエネルギーをともに利用できるハイブリッドソーラーシステムなど最新の手法を取り入れる一方で、地域に残る蔵の通気を参考に屋根の下地に空間を設け、屋根で熱くなった空気を棟から排出する構法を採用。自然と一体となったライフスタイルとして土間空間を提案するなど、随所に伝統的な手法が生かされている。 

 「結(ゆい)」という地域の人たちが協力し合う昔ながらの家づくりの考え方も採用した。矢板産の杉「たかはら材」、大谷石、烏山和紙など地元素材を使い、地元の職人、工務店、林業家がかかわった。「建物への愛着がわき、永く地域に受け入れられます」。設計で大切にしたのは「古き良き手法であり人間の知恵」だ。強い北風は屋敷森で遮る。南側は落葉樹を植えて直射日光を遮り、暑い日には打ち水をする。

 「昔の家には長い間に培われた知恵が凝縮されていました。高度成長期以降、利便性、快適性を求めすぎて(化石)エネルギーを浪費してきた。次世代にエネルギーを引き渡していくために、便利さだけを求めず、知恵を使う暮らしが必要だと思います」

 わき・ぶんき 1986年、国立小山工業高等専門学校建築学科卒。94年、フケタ設計入社。県立なす高原自然の家の設計、栃木県庁旧庁舎「昭和館」、宇都宮大学旧講堂の保存修復工事などを担当。現在、同社設計課長補佐。

FILE NUMBER 42 バイオサイエンス学科教授 柳原尚久


超臨界をリサイクルに活用
最新技術で環境改善

 ガスボンベのコックをひねると、容器の中に勢いよくガスが噴き出した。底にどんどんたまる液体の二酸化炭素。容器に栓をしてから温めると、液体が消えた。この瞬間、容器の中では超臨界状態が発生している。

   ◇   ◇

 物質には固体、液体、気体の三態があるが、これ以外の別の状態も存在する。密閉された容器の中で、温度と圧力を高めたときに発生する超臨界状態だ。水の場合374度、220気圧以上で超臨界水になる。1気圧の世界では、温度が100度までしか上がらない水も、密閉容器の中で高温・高圧にすると特殊な性質を発揮する。

 超臨界流体は、すでに身の回りでも応用され始めている。最も有名なものとしてカフェインを減らしたインスタントコーヒーがある。二酸化炭素の超臨界状態を利用すると、コーヒーから風味をそのままに、カフェインを除去することができる。

 超臨界流体は環境問題の中でも、土壌や水質汚染に対応できる技術として認められつつある。その一番の例が、ダイオキシンの分解だが最近では、そのほかでも利用が考えられている。特に、加工した材料を原料レベルまで分解して再利用するケミカルリサイクルというリサイクル方法だ。

 二酸化炭素の場合、31・1度、73・8気圧という現在知られている中では最も簡単な条件で超臨界状態に到達が可能だ。そのため、水と比べるとはるかに実験を実施しやすい。この超臨界二酸化炭素を利用してプラスチックを分解する研究が始まった。「現在のところ、50ミリリットルの密閉容器を使って0・5グラム程度のプラスチックを1時間反応させた時に、0・2~0・4グラムという高い収率で分解物が得られるところまできています」と柳原先生は語る。研究室の学生とともに、この技術に磨きをかけ、地球環境に優しい化学反応とリサイクルを目指す研究が続く。

 やなぎはら・なおひさ 1979年、宇都宮大学大学院修士課程修了後、85年、メキシコ・グアダラハラ自治大学大学院で博士課程修了。同大学化学科助教授、米国アリゾナ大学博士研究員を経て、90年に帝京大学理工学部に赴任。2008年より現職。

FILE NUMBER 41 帝京大学理工学部バイオサイエンス学科教授 篠村知子


基礎と応用 2つの研究
個性に合わせ活躍の場を

 研究は、好奇心に突き動かされて原理を追う基礎研究と、社会に役立つ技術化を目指す応用研究の2つがある。26年間、企業で経験を積んできた基礎と応用、両方の経験と人脈を活用し「学生一人一人の個性にあった研究を、一緒にしていきたいです」と篠村知子先生は言う。

   ◇   ◇

 生命科学の世界に飛び込んだきっかけは、高校の生物部での屋外活動。「生物は暗記科目じゃない、外にいるいろいろな生き物を勉強するものだと感じたのです」。筑波大学第二学群生物学類では、電子顕微鏡を使って植物プランクトンや藻類の分類学を学んだ。

 博士課程1年の時、大学院を辞め日立製作所に入社したが、2007年から「船舶バラスト水の浄化技術の開発」という研究プロジェクトに携わり、再びプランクトンに巡り会った。バラスト水とは、船舶がバランスを取るための重りとして船底に引き込む海水のことで、海の生態系を乱す一因となっている。かといって、バラスト水を使わないわけにはいかない。そこで、船内で水生生物を除去する技術が必要となり、工学や化学が専門の日立やグループ会社のスタッフとともに研究を進めた。この事業は2010年3月、日本国政府から型式承認を受けた。

 現在進めているのは、プランクトンからバイオ燃料を生産する技術のための研究。プランクトンの中には体内で油を合成する種があり、それを利用した燃料が、現代の石油消費の一部を肩代わりすることが期待されている。

 「自分自身の特性は、好奇心を追求する基礎研究者」と話す篠村先生。企業で育ち、技術の産業化も経験してきたからこそ、その基礎研究が実社会で生きるために何が必要かが分かる。産業界への人脈もあり「興味があれば、企業の中で研究をしてもらうこともできます」という篠村研究室には、科学好きの学生も、社会に役立つ技術を開発したい学生も、ともに活躍できる場が用意されている。

 しのむら・ともこ 1984年から日立製作所中央研究所と基礎研究所で植物バイオテクノロジー、ゲノム科学分野の新しい研究手法やツール開発などに従事。2000年に理学博士取得。10 年4 月より現職。

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