『データ』 2007年4月7日現在
・身長174センチ
・体重54キロ
・体脂肪率6.5%
・アトピー性皮膚炎の後遺症あり その他アレルギー多数
・胃腸が弱く慢性的な下痢
・血行が悪く慢性的な冷え性
・骨年齢89歳
・ヘルニア持ち
・膝を痛める


俺は健康になりたかった。
まだ25才の俺がこんなこと言うと、冗談だと思われたり、ジジくさいとか揶揄されたりもする。
しかし体を壊して前の仕事を辞めた俺にとっては、切実なる願いだった。
筋肉にフルマラソンに誘われたときに躊躇しながらも応じたのは、
「フルマラソン走れるくらいの体を作ってみよう」という気持ちからである。

3月18日、自分の中で着々と進められてきた「健康プロジェクト」総決算の日。
この日に起こったことを人生の一つのマイルストーンとしてここに記す。

『スタート地点』
その日、俺は不安だった。
早めに会場に着いてしっかり準備をするつもりが、
前日入りした筋肉と共に遅刻したせいでロクに準備体操もできなかった。
受付やらトイレやら何やらかんやらにバタバタしているうちに、
いつのまにかレースは始まっていた。
おまけに寒かった。冷え性の俺にはつらい。体も全く温まらず。
しかしもう走るしかなかった。
こうなったら勢いで行くしかない。そう思った。
スタート地点で声を張り上げるゴスペル隊の歌声に背中押されながら。
そんなグダグダの中で42.195キロの幕は切って落とされた。

『5キロ地点』
筋肉の作るペースを意識しながらリラックスして走る。
肋骨と喋りながら。
思っていたよりも応援の人が多くて驚く。
「がんばれー」とか言われると突然ペースが上がる俺。
筋肉に叱られる。

『10キロ地点』
この辺が一番楽しかった。
応援もいるし。まだ喋る余裕があったし。
チョコパンとかバナナとか食えるし。
10キロ地点で「金芽米」のおにぎりを配っていた。
折り返して戻ってくる人用に。帰りに食べようと誓う。

風も完全に追い風で走るのが楽だった。
前日に筋肉と買いに行ったサポーターのおかげか膝の痛みが全くなく、
このまま走りきれるんじゃないかという錯覚に襲われていた。
しかし沈まない太陽がないように、俺の膝は確実に下り坂に差し掛かっていた。
マラソンの折り返し地点すらも待たずして。

13キロ地点から徐々に膝に違和感を覚え始め、こまめにストレッチを挟みながら走る。
15キロ地点から膝を引きずり始め、18キロ地点から脂汗が出始める。
筋肉が「まだマラソンは始まってへんで!」と励ます。
まだ始まってねーのかよ、とガッカリする。

『20キロ地点』
急にガクッと膝が動かなくなる。
痛い。痛い痛い痛い。
おまけに折り返しからは完全に逆風。来た道を戻ったのだから当たり前だけど。
足が動かないのと逆風とで、ちっとも前に進まなくなる。
肋骨はそんな俺を他所に先に行ってしまった。
当たり前だ。歩いているのと変わらない速度になっていた。
筋肉が「ここからがマラソンスタートやで!」と励ます。
スタート地点で怪我してんのかよ、とガッカリする。
壮絶な戦いの始まり始まり。

『25キロ地点』
足が動かないなら腕の力で走るのみ!!!
そう思い、めちゃくちゃに両腕を振りながら走る。
そうしているうちに腕を後ろに向かって大きく振る反動で前に進むという走法を編み出す。
たぶん傍目から見たらかなりみっともない動きになっていたんじゃないかと思うが、
すでになりふり構わない状況になっていた。
周りはすでに俺みたいにどこかを痛めた人とかばかりになる。
敗戦ムードが漂いまくるランナーの中、ボランティアのスタッフもだれまくっている中、
俺だけがゴールを諦めていない。
そんな自分に酔いしれまくっていた。
そして筋肉が俺を焚きつける。二人でわけわからんこと叫びながら走る。
「こういう展開はもっと後やと思ってた」と言われた。
俺もそう思ってたよ。

とかやっているうちに本当に走れなくなる。
しかたないので早歩きだ。
歩くと途端に寒くなる。風が強い。川沿いだから遮るものもない。
なんで俺は短パンを履いているんだ。どうなってんだ荒川。
膝がいたい。もういやだ。
なんて調子で世界を憎みはじめる。

『30キロ地点』
歩くのもままならなくなる。1キロがとても大きく感じる。
たのしみにしていた金芽米は食べつくされていた。
もう既に二人とも無口。とにかく前に進むことだけを考える。
しかし今のペースではゴールに間に合わないことが判明。
しかたなく早歩き。
腰の曲がったおばあちゃんランナーとデッドヒートを繰り広げる。
俺の骨は89歳だから年では負けてないぜ!!!!

『35キロ地点』
再びテンションが上がってくる。既に両膝痛い。
そのせいで体のいろんなとこが痛い。だけどゴールはあきらめなかった。
リタイアの文字は一度も浮かばなかった。とにかく筋肉の背中を見ながら歩き続けた。
もう健康になるとかはどうでも良く、ただゴールしたかった。
むしろ膝を痛めて健康から遠のきながらも、ゴールは徐々に近づいていった。

『40キロ地点』
もう足痛すぎて頭がおかしくなりそうだった。
このまま早歩きでもなんとか間に合いそうなペースだ。
だけどせめて最後は走ってゴールしたかった。
そうじゃないと胸を張って「完走した!!」と言えなくなる。そう思った。
「ゆうすけ、俺行くわ!」
「分かった、止めないから絶対に止まるなよ!!」

ラストスパートが始まった。
もう勢いだけだ。「うおーうおー」「このやろーこのやろー」と叫びながら走る。
周りのランナーの注目の的になる。「すげー、なんだありゃ」とか言われる。
みっともなくてもいい。完走するぞ。
足がもつれる。左足に体重をかけられず、ほとんどケンケンしてるみたいになる。
たった1.295キロがやたら遠い。歯を食いしばる。
ゴールが見えた。
先にゴールした肋骨と和尚が何か叫んだ。
でももう何も聴こえない。自分の叫び声だけだ。

『42.195キロ』
見たか!こんなにひ弱な俺がフルマラソンを完走したぞ!!
ゴールしたときちょっとだけ涙が出た。
タイムは6時間55分。リミットの5分前だった。
沿道で応援してくれた人たちに。スタッフの人たちに。鎖骨と和尚に。
誘ってくれた筋肉に。そしてタスキを繋いでくれたロックスに感謝した。
しかし走り終わってまず思ったのは「二度と走るもんか!!」ということだった。

だがあれから1ヶ月もたたないうちに、俺はすでにトレーニングを再開している。
まだ膝は本調子ではない。3キロも走れば疼き始める。
当初の目標の「健康」に近づいたかは分からない。
しかし俺は思う。
フルマラソンを完走した俺やロックスのみんなは既に「アスリート」と呼んでいい存在なのでは?

その自覚が俺を次のレースへと駆り立たせる。
次こそは膝を克服してちゃんと完走したい。
ロックスの挑戦は続く!!!