2007年08月25日

垣ケ原、かく闘えり

 今大会ナンバーワン投手は誰かと聞かれれば、私は迷わず帝京高校背番号1・垣ケ原達也を挙げる。この選手ほどクールで、ピンチに動じない高校生がいただろうか。2ちゃんねるに「垣ケ原は最高の投手だった」という良スレが立つほどだった。(現在2スレ目に突入)。

 昨年の斎藤祐樹は「冷静」だったが、垣ケ原の雰囲気は「冷酷」の域に達していた。

 これまでずっと大エース大田阿斗里の影に隠れて背番号10だったが、最後の夏に背番号1を勝ち取った垣ケ原、智弁学園を完封してもニコリともせず整列した垣ケ原、佐賀北との激闘で9回一死満塁を切り抜け一瞬吠えたが、平然とした顔に戻ってベンチに戻った垣ケ原、サヨナラ負けして一瞬「ウッ」と涙ぐんだがベンチ前に整列したときには平然とした顔に戻っていた垣ケ原、負けて「打球が抜けたときの気持ちは」と聞かれて「刺してくれると思っていました」と事も無げに答えた垣ケ原…あぁ、全てが美しい。

 最後のコメントについて。最近の強豪校は「走者二塁で本塁突入を許さない守備、走者二塁で必ず本塁に帰ってくる走塁」が必須な状態です。垣ケ原のコメントは帝京がそういう野球をやってきたことの証でしょう。実際、刺すのは相当難しい当たりでしたが。他校から見ると「ミラクル」のようなプレーを普通にやって成功し続けるのが帝京野球の真髄。それゆえ確率が低くて、競り負けることもしばしばなのだが。

 この投手の判断力、精神力に畏怖すら感じたのは、佐賀北戦9回の攻防。
9番馬場崎君のセーフティバント、1番辻君が犠打野選で無死一・二塁となった場面。次の打者井手君はセオリー通りの送りバント。タイミングは三塁で刺せた。しかし、垣ケ原は見向きもせず一塁に送球した。

 これは非常に興味深い。まず、ワンアウトを確実に取ろうという判断。もう一つは、3番の副島君との勝負を避ける判断。副島君は本塁打を含む安打2本を打っており、垣ケ原とのタイミングが合っていた。例え、満塁にしても副島君との勝負は避けて一死満塁から4番と勝負しようと、最初から決めていたのではないだろうか。
 帝京は2番井出君を前にして伝令を送っている。そこで「確実にワンアウトを取れ」という指示が出ていた可能性はある。しかし、私はその可能性を否定する。一死二・三塁となった場面で、捕手・鎌田君が「あぁ、三塁行けたのに」って顔をした。こちらのコラムでも「帝京らしくないプレー」と紹介されている。

 垣ケ原の選択は「市丸勝負」。カウント1−0からスクイズを空振りし三塁走者アウト。2−0から1球ファールを挟んで、そのまま直球勝負で空振り三振。自分で3つアウトを取る工程をデザインして、その通りに仕留めていく。4番市丸君には全て直球で挑んだ、まさに圧巻の投球だった。垣ケ原は一瞬吠えたが、その後は「まだ試合は続いている」とでも言いたげな表情でベンチへと小走りで帰っていった。

 結局、垣ケ原は延長13回に力尽きた。二死から前のイニングに大ファインプレーを演じた9番馬場崎君に2−0から勝負に行った高めの速球をレフト前に弾き返され、続く1番辻君にも追い込んでから勝負球のスライダーが高く浮きセンター前。二死一・二塁で打者は井出君。外角を狙った速球は力なく高めに浮き、非力な井出君が思い切り振りぬいた打球はセカンドの頭を超えていった。垣ケ原の球威からすれば、外野まで運ばれないはずだったが、打たれた球はたった129キロしか出ていなかった。

 嗚呼、垣ケ原… 

 技術的にも垣ケ原は十分プロでやれる逸材。横浜が上位候補にリストアップしているそうですが。制球力、低目を丹念につける精神力、小さなテークバックはタイミングが取りにくい投法だ。

 そして、何より勝負根性が素晴らしい。走者を背負ったときほど、腕が振れる。内角にストレートを投げ込める。これは、教えてもどうにもならない。スピードがあったり凄い変化球があっても、この「根性」がないとピッチャーは使い物にならない。

 現在の実力だとスライダー、シンカーの制球を常に低めに集めることができれば、一軍でも通用するクラスだろう。裏を返せば「一軍半」くらいの実力だと言うこと。垣ケ原に二軍は似合わない。大学の舞台でしびれる勝負を経験して、勝負根性をさらに磨いてからのプロ入りでも十分だと思う。大学に進学してさらに力をつけてからのプロ入りの方が、いいような気がする。

 もっとも、垣ケ原の雰囲気からすると、来年はどこかで大人を相手にセットアッパーなんかやっていそうな気もするが。

 



ted9aoki23 at 08:29│Comments(4)TrackBack(0) 高校野球 | ドラフト候補評

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この記事へのコメント

1. Posted by soggy   2007年08月25日 19:55
お久しぶりです。
私も帝京対佐賀北の試合だけはじっくり見ました。
あのバント処理をそう推理するんですね。あの時キャッチャーは3塁を指示したように記憶してます。
それを無視して・・・。垣ヶ原スゲーっすね。
でもほんとあの無表情と、両肘を少し左右に広げたジョグでマウンドとベンチを往復する姿は、まさに野球サイボーグだった。
でもやっぱり日本人的に弱い「KITAKO」を応援してましたよ。あの試合はほんと面白かったです。
2. Posted by 匿名   2007年08月26日 15:52
ブログ復活おめでとうございます。
今後も深く、熱い記事を期待しております。

垣ヶ原のポーカーフェイスぶりは
際だっていましたね。
他にも、常葉菊川・田中、広陵・野村、
佐賀北・久保あたりは
マウンドで表情を変えないよう
意識していたように感じます。
去年のハンカチ王子の影響でしょうか?

あと、前の記事へのコメントに
なってしまいますが、
審判の能力向上は、究極的には
サッカーのようにプロ・アマ一体の組織が
担うしかないように思います。
その道のりはあまりにも遠いような……。
3. Posted by 純正野球ファン   2007年08月26日 22:18
soggy様
久しぶりだね。駒苫負けちゃったね…。
おいらも帝京を支持しつつもスクールカラーが緑の「KITAKO」は気になる存在でした。
あのシーンは判らんよ。垣ケ原のボーンヘッドかもしらん(笑)。そう思いたいっていう叶わぬ片思いっすよ。
匿名様
確かに「無表情エース」多かったですね。個人的には田中将大的吠え系エースが好きなんですけど、無表情な子が一瞬吠えるのもいいなと思いました。
審判の能力向上は、考えるだけあほらしくなるほど遠い道のりですね。個々人の「自覚」に任せるしかありませんねぇ…。
4. Posted by オータムラン   2007年09月05日 02:18
9月30日に「東京六大学オータムラン」という
楽しいイベントがあること知ってました?
5kmを走るコースもあるけど、外苑周辺をゆっくり歩いてから、
六大学野球を観戦できるウォークもあるそうです。
しかも、その日の試合は、慶應対東大、そして早稲田対立教。
「ハンカチ王子」斎藤投手が、その日、投げるかはわからないけど、
ゆっくり歩いてから、野球を応援するって、新しくない?
なんかよさげな「東京六大学オータムラン」。
応募サイトは、<a href="http://www.sportsentry.ne.jp/event.php?tid=12048">http://www.sportsentry.ne.jp/event.php?tid=12048</a>。締切は9月7日(金)ですよ。

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