2007年08月26日

一番ファースト…

優勝した佐賀北のオーダーで気になったのは1番打者が一塁手だったということ。一塁手ってのはウッズやカブレラのようにスラッガーというのが一般的な印象。
 だが、高校野球ではそうでもなくなるかもしれない。「高校野球小僧」に大体大浪商の金藤前監督のインタビューが掲載されていた。金藤氏は5年前のセンバツに9番一塁というチームで出場した。バント処理の際に一塁手の動きが極めて重要だと考えた金藤氏は遊撃手の控え選手を一塁手に転向させたという。
 
 佐賀北の「1番一塁」ってのはそういう考え方に基づいているのか。また、他校はどうなのか。 

 まずは、週刊朝日の別刷りを基に、49代表の一塁手が何番を打っていたのか調べてみた。


1番 3 (星稜、福井商、佐賀北)
2番 4 (愛工大名電、今治西、長崎日大、八代東)
3番 6 (駒大苫小牧、青森山田、金足農、常総学院、近江、報徳学園)
4番 12
(帝京、桐光学園、松商学園、大垣日大、桜井、京都外大西、智弁和歌山、広陵、境、楊志館、日南学園、興南)
5番 8 
(駒大岩見沢、花巻東、仙台育英、前橋商、市船橋、金光大阪、開星、高知)
6番 9 
(日大山形、浦和学院、創価、常葉菊川、宇治山田商、智弁学園、岩国、徳島商、東福岡)
7番 6 (聖光学院、文星芸大附、甲府商、岡山理大附、尽誠学園、神村学園)
8番 1 (新潟明訓)
9番 0

 やはり一塁手は4番打者が最も多かった。クリーンアップトリオに一塁手を置いているのが26校で全体の半分以上となっている。
 ただ、意外と言うか1・2番に一塁手を置いているのが7校あった。どんな選手かというと・・・

1番打者
星稜(石川)   島内 宏明 180 80 左左
福井商      酒井 健生 172 60 右右
佐賀北      辻  尭人 165 60 左左
2番打者
愛工大名電(愛知)石黒雄一朗 171 65 右右
今治西(愛媛)  福井 貴明 170 72 左左
長崎日大     出口 雄大 172 72 右左
八代東      今村 直樹 170 72 右右

 「チームでいい打者を1番に置く」と考えるチームもある。星稜の場合、どちらかというとそういうケースだろう。
 それ以外はいかにもすばしっこそうな選手が並んでいる。たまたまかもしれないけれど。

 一塁手というのは守備機会が多い。ギリギリで捕った内野手が送球するボールってのはハーフバウンドとかが多く、しかも全力で投げてくるから、バウンドを合わせるのは難しい。帝京高校が見せた二遊間の見事な連携も、最後に一塁手の中村が難しいハーフバウンドを合わせたところで完成した。あそこでポロっとやったら興ざめである。

 バント処理、特に走者二塁での送りバント処理は一塁手の見せ場だ。一気にプレッシャーをかけて、三塁方向に転がさせて投手が処理する。こうしたプレーの練習は各校やっていることでしょう。今大会は各校のバント処理技術が高くて驚いた。ちょっとでも強いバントは禁物という印象だった。バント技術を高めることと、バント以外の作戦を臭わせる動き(一旦バットを引くことや、早いイニングでエンドランを仕掛けることなどなど)もより求められてきているんじゃないだろうか。

 外野からのカットプレーでも一塁手の比重は高い。無駄なバックホームで打者走者を二塁に行かせるほど無駄なプレーは無い。一塁手がしっかりカットして走者をけん制するのは当たり前のプレーになっている。

 守備の良い選手を一塁手で使うチームは今後増えていくように思える。よく「イチローが9人いるチームが一番強い」と思うんですけど、限りなくそういう方向に高校野球は近づいているかもしれない。

 佐賀北の場合、なぜ辻君が一塁手だったのだろう。思うに、辻君は外野もできるんじゃないだろうか。何せ身長165センチ。こりゃ、大会最小一塁手だろう(多分)。佐賀北がみんな小兵かというとそうでもなくて、ベンチには結構大柄な選手も入っている。決勝戦で代打で出てきて貴重なライト前ヒットで逆転劇をお膳立てした新川君なんて鋭い振りをしていた。この新川君を一塁手にして辻君を中堅手にするほうが打線に厚みが増すようにも思える。
 しかし、やっぱり中堅の馬場崎君は外せないんだろう。守備範囲の広さ、足の速さは打撃を目をつぶっても使いたかった選手なんじゃないだろうか。レフトの大串君と、ライトの江頭君はともに2年生。大柄で結構いい打撃をしていて外せない。じゃあ、辻、お前一塁やれ、ってなもんだったんじゃないかと想像する。
 
 あくまで想像ですが、限られた人材の中でどういうオーダーを組むかで監督さんがどういう野球をやるのかがわかる気がします。実際、9番馬場崎君、1番辻君、2番井手君という打線は帝京戦のサヨナラや、広陵戦の大逆転を演出した。いずれも170センチに届かない3人を並べておいて良かった。この3人が並ぶことで「あぁ、俺たち足使って、バントして1点取って、それを守りきる野球で勝つんだな」ってことがわかる。だとすれば、各選手はそれに向かって練習すればいいってことです。人をどう配置するかが、どんな言葉を並べるよりもチームの方向性を雄弁に語るもんだと思います。

 ただ単にいい選手をスタメンに並べているわけでもなく、8回勝負どころで安打を打てる2年生をベンチに持っている、百崎さんってのはやっぱり甲子園で優勝する監督さんですよね。

 ところで、百崎監督がインタビューで「選手」とも「子供たち」とも言わず「生徒」と言ったのは、なんかほほえましかったです。やっぱりこの人は「監督」である前に「先生」なんだなぁと感じました。

 最後に、佐賀北の守備と言えば、遊撃手の井手君が凄かった。驚かされた。こんなに打球が飛んだだけでワクワクした選手は平野恵一(当時東海大2年、現オリックス)以来です。
 宇治山田商と引き分けた試合だったと思う。三遊間寄りの打球を横っ飛びで捕った井手君はそのままヒザ立ちし、前宙するような格好でアンダースローのように二塁に送球したのです。二塁は間一髪セーフだったが、普通であればどこにも送球できない内野安打。捕球しただけでも凄いが、そこから二塁に投げたのがもっと凄い。それも、プロでも見たことのないような態勢で、ストライク送球をしたのだ。こりゃ「奇跡の送球」でした。
 このワンプレーにたまげてしまって毎試合注目するようになったのだが、どのプレーも安定していた。自分のプレーに自信があるから判断を間違えない。前に出るのかバウンドを合わせるのか、ギリギリでアウトに出来るタイミングを図りながら、最もリスクの少ないプレーを選択していた。送球も必要以上に強い送球をすることなく、安定した送球を送っていた。もちろん、深い位置からは全力で投げて、それでもストライク送球を放っていた。
 前述した「奇跡の送球」も自分の中で、アウト・セーフは一か八かだったろうが悪送球になることは無いという自信があったのだろう。もしも、そんな無理な体勢から悪送球して進塁を許しては、チーム全体に与える影響は大きい。

 何日か前に楽天の選手がタイムリーエラーをして負けたことがあったけれども、投げても絶対セーフなタイミングなのに放ってしまって悪送球なんてプロでもやるんですからねぇ。ファインプレーを出来る選手は多いが、自己の能力を知った上で無駄なくベストプレーが出来る選手ってのは案外少ない。体は小さいのですが、この子は野球、続けてほしいなぁ。


ted9aoki23 at 22:03│Comments(5)TrackBack(0) 高校野球 

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この記事へのコメント

1. Posted by 通りすがり   2007年08月27日 00:14
辻一塁手は、肩を痛めて外野から一塁へコンバートされたようです。
地方紙記事
ttp://www.nishinippon.co.jp/nsp/sports/highschool_baseball/20070825/20070825_002.shtml
百崎監督の動画コメント
ttp://www.pref.saga.lg.jp/web/kitakolive.html
2. Posted by 佐賀西卒業生   2007年08月27日 10:38
大変興味深い内容、楽しく読ませていただきました。ありがとうございます。佐賀北の優勝についてここまで詳しく解説してくださって、地元住民としてはこの上なく嬉しいです。
また他の方へのコメントで「佐賀西も強い」と書いてくださってて、感激です!!内田先生が監督になってからは、いつもいいとこまで行くんですけどねー。今年の地区予選も、佐賀北と一番いい試合をしたのは佐賀西でした。来年こそは…と毎年思っています。
お邪魔しました。
3. Posted by 3gou@西高OB   2007年08月27日 18:39
はじめまして。

佐賀西は今年も惜しかったんですけどねー。
甲子園での北高の野球を見て負けたことに納得しましたけど。

その佐賀北ですが、井手君の守備が派手さはないものの
実に堅実と言うか、基本に忠実なプレーで北高ナインでは最初に目が行きました。
その後、他の選手も同じく基礎を大事に練習を重ねていることが見え、
百崎監督の指導の手堅さに感心したものです。
馬場崎君や久保君のファインプレー以外はあまり取り上げられませんけどね。

クロスロード、高速道路の十字路って鳥栖だけなのですか。知りませんでした。
今は改修されてだいぶ楽になったんですけど、免許取立ての頃は
鳥栖のインターチェンジは分かり難くて怖かったですよw
4. Posted by 匿名   2007年08月27日 20:51
9,1,2番のちびっ子トリオは
我がタイガースの藤本、鳥谷、赤星を彷彿とさせます。
上手いファーストはアンディでしょうか。

ちなみに守備で言うと、外野手が捕れる飛球を捕れずに
長打にしてしまうのを今大会でもよく見かけました。
いい肩してるなあ、と思ったのも
常葉菊川のライト・相馬君ぐらいでした。
甲子園の外野を守るのは大変だとは思いますが、
高校生外野手の守備力は全体的には
向上していっているのでしょうか?

P.S.
記事があんまり面白いので
ついコメントを書いてしまいます……。
5. Posted by 純正野球ファン   2007年08月28日 22:53
通りすがり様
貴重な情報ありがとうございます。

佐賀西卒業生様
3gou@西高OB様
実は私の知り合いに「栄城」OGが居まして、個人的にも結構注目しているんですよ。毎年いい選手が出てきますし。ただ、佐賀北がここまでメジャーになっちゃうと好選手が「そこまで勉強しなくても北高でいいや」ってことになっちまいそうで心配です。センバツに期待しましょう。

匿名様
>9,1,2番のちびっ子トリオは
>我がタイガースの藤本、鳥谷、赤星を彷彿とさせます。
そりゃ、鳥谷に失礼でしょw もうちょっとスケールが大きくならないといけない選手です。
外野守備については能力というよりベンチを含めた「状況判断力」の問題かと思います。詳しくは次のエントリーを。
常葉のライトは攻守にパワフルな選手でした。

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