2008年01月10日
早慶対決迫る
大学選手権決勝を前にNumberがラグビー特集を組んでいて、そこに早稲田と慶應についての特集記事が掲載されていた。非常に興味深い内容だった。
読後、感じたのは、「慶應はもしかしたら勝つのではないか」ということだ。
読後、感じたのは、「慶應はもしかしたら勝つのではないか」ということだ。
●大学ラグビーの指導法
大学のラグビー部というのは不思議な組織で、長年フルタイムで指導にあたる監督がいないのが伝統とされてきた。つまり、サラリーマンがヒマを見つけて練習を見に行く。雑駁に言えばそんな感じで、特に早稲田、慶應はその代表格で、早稲田はチームが上手く行かない時は、監督と選手たちの関係がしっくり行っていなかったように思える。
近年、フルタイムの監督が増えたのは関東学院大の影響が強いと思う。関東学院は春口監督がフルタイムで指導にあたり、無名の選手を技術的に相当細かい部分まで鍛え上げて、大学ラグビー界に一時代を築いた。京産大も大西監督というフルタイムの監督がいるため、強くなったと言えるだろう。
早稲田が2000年代に入って急激に強くなったのは、清宮克幸監督がフルタイムで指導にあたり、技術・戦術からチーム組織に至るまで徹底的に改革し、最も近代的な大学クラブのあり方を築いた。入試制度や、地域との密着性などなど、ありとあらゆる分野で「清宮イズム」がプラスに作用した結果の黄金時代と言えるだろう。
ナンバーによると、清宮の後任となった中竹監督の指導法は、清宮監督のそれと異なるようである。
●選手の自主性にゆだねる中竹監督
中竹監督は原則として、選手たちの自主性、自分たちで考えて方向性を決めるということに非常に拘っているようだ。中竹監督の指導方針は、監督が何もしないでも選手たちで課題を見つけたり、試合の中で相手の弱点を見抜いたり、相手のやってくることへの対応を考えたり、相手の戦略に対抗できる戦略を見出せる選手を養うことを目的としているように思える。
これは、ラグビーを教えるというより、真の意味での大学の「教育」と言っていいだろう。清宮は大学・社会人で活躍したラグビー選手で、その風貌も見るからに「ラガーマン」。デカイ体で圧倒的な理論を駆使して選手たちに指導をすれば、たちどころに「この監督についていこう」と思わせるタイプの人間である。「説得力」が全身から満ち溢れている。
一方、中竹は大学時代も主将を務めたが、4年生で初めて公式戦に出場した選手。体も小さいし、選手としての実績は無い。ただ、周囲の人をとてつもなく引きつけるものがあることは間違いないだろう。早稲田大学ラグビー部で、公式戦の出場経験が無いものが主将を務めるのは初めてだったし、若干32歳で監督に就任したのも、周囲が中竹に何かを託したいと思える人間なのだろう。清宮が「親分」ならば、中竹は「教育者」なのである。
●中竹竜二という人
もう10年近く前になるが、実は私は中竹さんと話をしたことがある。当時、取材と称して中竹さんと1時間近く話を聞くことが出来た。実際は「リーダーの心得」を教わりに行っていたと言っていいだろう。
そこで感じたのは、何かとてつもない人に会ったという印象だった。
中竹さんの代のラグビー部は、早明戦で負けて、大学選手権の準決勝で関東学院を相手に奇跡的な逆転勝利を演じて、決勝で明治の前に敗れた。その代のとんでもない緊張感は「オールアウト」という本にもなっている。
私は、中竹さんに関東学院戦のことや、明治との決勝戦のことなどを詳しく聞いた。改めて思い返すと、中竹さんに敗戦のことばかり聞いていたように思える。「中竹は『勝負師』としては甘いと言わざるを得ない」とまで書いている。全く若気の至りなのだが、中竹さんは真摯に答えてくれた。
中竹さんはラグビーの試合で「相手を叩きのめしたいと思ったことは一度も無い。常に自分たちのやってきたことが正しいと証明したい」と思っていたという。
私は、当時、このように書いている。
「中竹は敵と闘うことは無かった。もし『相手』を見極めて闘っていたら、結果は違ったものになっていたかもしれない」
●昨年の関東学院戦の敗因
昨年の関東学院戦を改めて思い返してみた。下馬評は早稲田有利だったと思う。ただ、ラインアウトという一点を関東は徹底的に崩して、そのほころびがやがては試合全体を覆っていった試合だった。早稲田は関東学院に崩された部分を修正出来なかった。予想外の事態となって、選手全員が浮き足立った。逆に関東は目論見が当って、選手全員が乗りに乗った。そんな試合だった。
コーチングとは「関東がこう攻めてくる。これに対しての対処法はこうだよ。こういう場合はこうだよ」と指し示してあげることだとしたら、中竹は最初からコーチングを捨ててかかっていたわけだ。選手の自主性に任せて、選手に勝たせられなかった責任は自ら負うという姿勢だった。
本当の意味での「強いチーム」とは、指導者から事細かに指図されなくても、自ら判断できるラグビー選手としても、人間としても「オトナ」が15人集まったチームと言えるだろう。ただ、コーチングのレベル自体が向上した現在、こういうチームを標榜することは非常に危険と考えられる。
●慶應・林ヘッドコーチの認識
ナンバーに慶應・林ヘッドコーチの面白いコメントが掲載されていた。
「筑波戦の敗因は、ゲームプランを持たないで臨んだことにありました。これも自分のミステイクなんですが、ウチのBKだったら細かい決め事を与えなくても大丈夫だろうと思ったんです。学生はそれだと不安なんですね。それよりも相手を丸裸にして、すべての情報を与えた方が安心して戦えるみたいで」
ある意味では選手を「コドモ扱い」した発言である。しかし、コーチとしてはこういう認識が正しいのだろう。シーズン初頭、慶應を5−32で降した筑波も、徹底した分析で相手の弱点を突いてくる試合運びで、今季台頭した。昨年の関東学院を見ていても指導者が選手にゲームプランを徹底した方が勝利への近道のように思える。
早稲田も分析は大学屈指である。しかし、その分析を基にゲームプランを練り上げたり、試合中の修正は選手に任されているように思える。それが早稲田のやり方なんだろう。
●試合は互角か
早稲田が勝てないかもと思うのは、もうお分かりだろう。ゲームプランという意味で、慶應が早稲田を上回るのではないかと思うのだ。私自身、理想としては早稲田(というか中竹)のやり方で勝ってほしい。勝てばカッコいい。
しかし、勝負というのはもっとシビアなものだ。五郎丸歩という選手としてもリーダーとしても一級の選手が戻ってきたとしても、慶應に混乱させられると危ない。特に帝京大戦は、タックルで早稲田を混乱させられることが証明された。慶應はタックルに自信を持っている。恐らく、自信を持って早稲田に襲い掛かってくるだろう。
ただ、選手個々の技量では早稲田が慶應を圧倒しているし、早稲田もモールという強みがある。これは中竹が『最後のより所となる部分』として一年間鍛えてきたらしい。全く、何もしないわけではないのだ。最後の最後で頼れるプレーがあることは、まだ安心できる。
とはいえ、慶應も早稲田のモール対策を考えてくるだろう。モールを止めるのは不可能だが、ゴール前でのモールを組ませなければいいわけだ。慶應はトライを取るのに時間はかからない。早稲田にゆっくり攻めさせて、一瞬でトライを取る。そんな試合運びを標榜してくるだろう。
現実を見れば慶應はかなり上手い試合運びをしてくる。ただ、私の中にある理想主義的な側面が早稲田に勝たせたい…
日々、現実の中で生きているからこそ、打算的にうまくやろうと考えるようになってしまっているからこそ、スポーツくらいは日常を離れたい。
「何の打算もないものに人は感動する」
と言ったのは、早稲田ラグビーの「神様」大西鉄之祐だ。
それで勝てなくってもいいじゃないか、とすら思う。
大学のラグビー部というのは不思議な組織で、長年フルタイムで指導にあたる監督がいないのが伝統とされてきた。つまり、サラリーマンがヒマを見つけて練習を見に行く。雑駁に言えばそんな感じで、特に早稲田、慶應はその代表格で、早稲田はチームが上手く行かない時は、監督と選手たちの関係がしっくり行っていなかったように思える。
近年、フルタイムの監督が増えたのは関東学院大の影響が強いと思う。関東学院は春口監督がフルタイムで指導にあたり、無名の選手を技術的に相当細かい部分まで鍛え上げて、大学ラグビー界に一時代を築いた。京産大も大西監督というフルタイムの監督がいるため、強くなったと言えるだろう。
早稲田が2000年代に入って急激に強くなったのは、清宮克幸監督がフルタイムで指導にあたり、技術・戦術からチーム組織に至るまで徹底的に改革し、最も近代的な大学クラブのあり方を築いた。入試制度や、地域との密着性などなど、ありとあらゆる分野で「清宮イズム」がプラスに作用した結果の黄金時代と言えるだろう。
ナンバーによると、清宮の後任となった中竹監督の指導法は、清宮監督のそれと異なるようである。
●選手の自主性にゆだねる中竹監督
中竹監督は原則として、選手たちの自主性、自分たちで考えて方向性を決めるということに非常に拘っているようだ。中竹監督の指導方針は、監督が何もしないでも選手たちで課題を見つけたり、試合の中で相手の弱点を見抜いたり、相手のやってくることへの対応を考えたり、相手の戦略に対抗できる戦略を見出せる選手を養うことを目的としているように思える。
これは、ラグビーを教えるというより、真の意味での大学の「教育」と言っていいだろう。清宮は大学・社会人で活躍したラグビー選手で、その風貌も見るからに「ラガーマン」。デカイ体で圧倒的な理論を駆使して選手たちに指導をすれば、たちどころに「この監督についていこう」と思わせるタイプの人間である。「説得力」が全身から満ち溢れている。
一方、中竹は大学時代も主将を務めたが、4年生で初めて公式戦に出場した選手。体も小さいし、選手としての実績は無い。ただ、周囲の人をとてつもなく引きつけるものがあることは間違いないだろう。早稲田大学ラグビー部で、公式戦の出場経験が無いものが主将を務めるのは初めてだったし、若干32歳で監督に就任したのも、周囲が中竹に何かを託したいと思える人間なのだろう。清宮が「親分」ならば、中竹は「教育者」なのである。
●中竹竜二という人
もう10年近く前になるが、実は私は中竹さんと話をしたことがある。当時、取材と称して中竹さんと1時間近く話を聞くことが出来た。実際は「リーダーの心得」を教わりに行っていたと言っていいだろう。
そこで感じたのは、何かとてつもない人に会ったという印象だった。
中竹さんの代のラグビー部は、早明戦で負けて、大学選手権の準決勝で関東学院を相手に奇跡的な逆転勝利を演じて、決勝で明治の前に敗れた。その代のとんでもない緊張感は「オールアウト」という本にもなっている。
私は、中竹さんに関東学院戦のことや、明治との決勝戦のことなどを詳しく聞いた。改めて思い返すと、中竹さんに敗戦のことばかり聞いていたように思える。「中竹は『勝負師』としては甘いと言わざるを得ない」とまで書いている。全く若気の至りなのだが、中竹さんは真摯に答えてくれた。
中竹さんはラグビーの試合で「相手を叩きのめしたいと思ったことは一度も無い。常に自分たちのやってきたことが正しいと証明したい」と思っていたという。
私は、当時、このように書いている。
「中竹は敵と闘うことは無かった。もし『相手』を見極めて闘っていたら、結果は違ったものになっていたかもしれない」
●昨年の関東学院戦の敗因
昨年の関東学院戦を改めて思い返してみた。下馬評は早稲田有利だったと思う。ただ、ラインアウトという一点を関東は徹底的に崩して、そのほころびがやがては試合全体を覆っていった試合だった。早稲田は関東学院に崩された部分を修正出来なかった。予想外の事態となって、選手全員が浮き足立った。逆に関東は目論見が当って、選手全員が乗りに乗った。そんな試合だった。
コーチングとは「関東がこう攻めてくる。これに対しての対処法はこうだよ。こういう場合はこうだよ」と指し示してあげることだとしたら、中竹は最初からコーチングを捨ててかかっていたわけだ。選手の自主性に任せて、選手に勝たせられなかった責任は自ら負うという姿勢だった。
本当の意味での「強いチーム」とは、指導者から事細かに指図されなくても、自ら判断できるラグビー選手としても、人間としても「オトナ」が15人集まったチームと言えるだろう。ただ、コーチングのレベル自体が向上した現在、こういうチームを標榜することは非常に危険と考えられる。
●慶應・林ヘッドコーチの認識
ナンバーに慶應・林ヘッドコーチの面白いコメントが掲載されていた。
「筑波戦の敗因は、ゲームプランを持たないで臨んだことにありました。これも自分のミステイクなんですが、ウチのBKだったら細かい決め事を与えなくても大丈夫だろうと思ったんです。学生はそれだと不安なんですね。それよりも相手を丸裸にして、すべての情報を与えた方が安心して戦えるみたいで」
ある意味では選手を「コドモ扱い」した発言である。しかし、コーチとしてはこういう認識が正しいのだろう。シーズン初頭、慶應を5−32で降した筑波も、徹底した分析で相手の弱点を突いてくる試合運びで、今季台頭した。昨年の関東学院を見ていても指導者が選手にゲームプランを徹底した方が勝利への近道のように思える。
早稲田も分析は大学屈指である。しかし、その分析を基にゲームプランを練り上げたり、試合中の修正は選手に任されているように思える。それが早稲田のやり方なんだろう。
●試合は互角か
早稲田が勝てないかもと思うのは、もうお分かりだろう。ゲームプランという意味で、慶應が早稲田を上回るのではないかと思うのだ。私自身、理想としては早稲田(というか中竹)のやり方で勝ってほしい。勝てばカッコいい。
しかし、勝負というのはもっとシビアなものだ。五郎丸歩という選手としてもリーダーとしても一級の選手が戻ってきたとしても、慶應に混乱させられると危ない。特に帝京大戦は、タックルで早稲田を混乱させられることが証明された。慶應はタックルに自信を持っている。恐らく、自信を持って早稲田に襲い掛かってくるだろう。
ただ、選手個々の技量では早稲田が慶應を圧倒しているし、早稲田もモールという強みがある。これは中竹が『最後のより所となる部分』として一年間鍛えてきたらしい。全く、何もしないわけではないのだ。最後の最後で頼れるプレーがあることは、まだ安心できる。
とはいえ、慶應も早稲田のモール対策を考えてくるだろう。モールを止めるのは不可能だが、ゴール前でのモールを組ませなければいいわけだ。慶應はトライを取るのに時間はかからない。早稲田にゆっくり攻めさせて、一瞬でトライを取る。そんな試合運びを標榜してくるだろう。
現実を見れば慶應はかなり上手い試合運びをしてくる。ただ、私の中にある理想主義的な側面が早稲田に勝たせたい…
日々、現実の中で生きているからこそ、打算的にうまくやろうと考えるようになってしまっているからこそ、スポーツくらいは日常を離れたい。
「何の打算もないものに人は感動する」
と言ったのは、早稲田ラグビーの「神様」大西鉄之祐だ。
それで勝てなくってもいいじゃないか、とすら思う。
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この記事へのコメント
1. Posted by soggy 2008年01月11日 17:36
昨シーズン終わった後のテレビか何かで、中竹さんは「全て選手任せにして勝てなかった。来シーズンは全て管理していきます。」みたいなことを言っていた気がしましたが。
・・・やっぱり自主性を重んじることにしたんでしょうかねー。
帝京戦は五郎丸がいなくて、やっぱり攻め手が1つ足りないように感じました。
そういう意味ではチームとして未熟ということでしょうね。
日本選手権まで見据えてレベルアップしていってほしいです。
・・・やっぱり自主性を重んじることにしたんでしょうかねー。
帝京戦は五郎丸がいなくて、やっぱり攻め手が1つ足りないように感じました。
そういう意味ではチームとして未熟ということでしょうね。
日本選手権まで見据えてレベルアップしていってほしいです。
2. Posted by 熱き心の若人 2008年01月13日 21:51
中竹さんの1年後輩で
平成10年卒の熱き心の若人です。
行ってきましたよ、国立^^
寒くて仕方がありませんでしたが・・・。
10年前、純正野球ファンさんが書いた文章、
今でも覚えています。
こんなところで目にできるとは思いませんでした。
ぜひ一度、お会いしたいですね。
平成10年卒の熱き心の若人です。
行ってきましたよ、国立^^
寒くて仕方がありませんでしたが・・・。
10年前、純正野球ファンさんが書いた文章、
今でも覚えています。
こんなところで目にできるとは思いませんでした。
ぜひ一度、お会いしたいですね。
3. Posted by 純正 2008年01月14日 11:30
soggy様
決勝を見て感じたのは「管理」と「自律」を上手いこと両立させたんでしょう。まぁ、かって良かったですけど、日本選手権はなかなか厳しいかな(笑)
熱き心の若人様
覚えていましたか。うーん、それは恥ずかしい…。是非、一度お目にかかりたいものです。
国立寒かったでしょうねえ。私はヘタレて観戦をキャンセルして、家でみんなで鍋をつつきながら見ておりました。
決勝を見て感じたのは「管理」と「自律」を上手いこと両立させたんでしょう。まぁ、かって良かったですけど、日本選手権はなかなか厳しいかな(笑)
熱き心の若人様
覚えていましたか。うーん、それは恥ずかしい…。是非、一度お目にかかりたいものです。
国立寒かったでしょうねえ。私はヘタレて観戦をキャンセルして、家でみんなで鍋をつつきながら見ておりました。