2010年01月04日
もっと創意工夫を!
新しい年が明けた。この季節は大学・高校とラグビーがピークです。
●46回目で初めて
今年の大学選手権決勝は東海大と帝京大の顔合わせとなった。ともに勝てば初優勝。帝京は昨年に続いて2度目の決勝進出で、東海は初めての決勝進出となった。実に新鮮な顔合わせである。
数あるスポーツの中でラグビーほど「排他的」な競技はない。大学選手権は46年の歴史を数えるが、ともに勝てば初優勝という対戦は第1回の法政対早稲田(勝者は法政)以来なのである。事実上、史上初といっていい。
これまで大学選手権決勝に進出したクラブは法政、早稲田、慶應、日本体育、明治、同志社、大東文化、関東学院、帝京のわずか9つ。帝京以外は全て優勝を経験している。
例えば正月の風物詩である箱根駅伝だと新興チームがシード権を獲得したり、常連がシード落ちを経験したり、あるいは優勝候補だった順天堂が今年は出場を逃していたりと、まさに群雄割拠の様相を呈している。
ラグビーはこういった競技と比べると極めて「伝統」という敷居が高い。帝京・東海の両クラブはそこを乗り越えた。
●帝京の重み、東海の凄み
帝京はFWの重みで関東学院、早稲田、明治を破ってきた。帝京のラグビーは全てFWの重みを生かすことに集中されている。BK陣は距離の出るキック力を持っており、これがFWをことごとく前に出す。また、ディフェンスの強さも帝京の魅力だ。帝京のディフェンスを破るにはボールを大きく動かし、縦横無尽に攻め抜いてやっとの思いで敵陣に至る。一旦、相手にボールを渡すと帝京はロングキックで陣地を稼いでくるので、粘り強く攻め続けなければならない。しかも、接点ではFW、BKとも強烈なプレッシャーをかけてくる。接点で惜しみなく15人が働く。誠に見事なチームを作り上げたと思う。
一方の東海。こちらもFWは重い。しかし、重さを生かしつつ、個々の能力で圧倒する。日本代表のHO木津、FLリーチなど多彩な才能が接点で挑んでくる。選手権に入って足踏みが見られたが、それでも今季唯一の負け知らずのクラブだ。
接点の強さと、取りきる凄み。大きくボールを動かすことも出来るので、帝京にとっては厄介な相手なはずだ。
私の独断では東海が有利と見ている。東海が東海らしいラグビーをすれば、帝京のディフェンスを破ることも出来る。接点も互角に渡り合える。帝京のFWを受け止めるだけのFWの重さがあるからだ。しかし、これは余程完璧なゲームメイクをしなければならない、という条件付だ。漫然としたゲーム運びだと昨年、決勝の舞台を踏んでいる帝京に利がある。いずれにしても熱戦を期待したい。
●単純なチーム作りに終始した早稲田
3連覇がかかった早稲田は2回戦で帝京に粉砕された。ミスが重なるまずいゲーム運びだった。そもそも早稲田というクラブは「いかに勝つか」に集中してきた伝統があり、この勝利への集中力、緊張感こそが最大の強みだったのだが、この日の試合ではそこが完全に崩れていた。
ミスを怖れては大胆なプレーが出来なくなるという指摘もあるだろうが、今年(というか近年)の早稲田はミスに大らかで、それゆえ勝負への厳しさを失っていった。勝負師としては「緩い」中竹監督の個性にもよるだろうが、彼がキャプテンを務めたチームは例年になく緊張感溢れるチームだった。彼がキャプテンとして勝利よりも重きを置いた「勝者」にいかになるか、メンバー全員が願いを共有した素晴らしいチームだった。
特に今年のチームはメンバーに共通した何かに欠けていたように感じる。チームワークというべきだろうか。勝利への意志を高いレベルで共有すれば、大胆にプレーをして、かつミス無くプレーを遂行できるはずなのだが、それが最後まで見られなかった。
さらに言えば、早稲田らしい工夫も無かった。清宮監督時代にFWの強化を図ったため(それでも清宮監督は最後はFWで劣る社会人相手に勝利を挙げた。彼のFW強化は結局FWが強い相手にいかに勝つかという命題に対する彼なりの答えだったのだ)、早稲田はFWで相手に勝てなければ勝てないチームになってしまった。
これは、全てのクラブに感じることで、単純な「力比べ」で勝負をするクラブが増えてきた。今年のクラブで力比べを超えた土俵で勝負しようという気概を感じたのは慶應くらいだろうか。もちろん、FWで勝つというのは単純かつ強烈だ。帝京や東海もそれで成功したわけだし、単純にFWを大きく、重くすることだけでは勝利は覚束ないのだが。
●桐蔭の工夫
大学ラグビーが「創意工夫」という点で停滞気味なのに対し、高校ラグビーは近年、創意工夫に溢れている。特に印象的なのが桐蔭学園のラグビーである。
桐蔭は準々決勝で常翔学園(旧大阪工大高)と対戦した。FW一人の平均体重で10キロ下回る桐蔭だったが、機動力で圧倒した。もちろん、スクラムが1・5メートルしか押せないローカルルールがあるおかげで、スクラムの強さをある程度捨てても軽いFWで対抗できるわけだが、それでも桐蔭の工夫振りは目を見張る。
小さくて早いから集散で上回るし、接点で一人ひとりがよく仕事をする。当たる、倒す、起き上がる、また当たる。この一連の動きのスピードを上げることで、数的優位を作るという思想が徹底されている。
聞けば、BKの選手をFWに転向させたりしているそうだが、FWもボールを持つと生き生きと走る。手数をかけず一気に攻め込むパス。見るものにラグビーの面白さを教えてくれるチームだ。恐らく決勝で、無敵の強さを誇る東福岡と対戦するだろうが、巨人を相手にいかに挑みかかるか、楽しみだ。
●理屈っぽいスポーツ
思うに、ラグビーは理屈っぽいスポーツだと思う。やることはいちいちシンプルなのだが、目を凝らしてみると、そこに「理屈」が宿っている。これを見出すのが、ラグビーの面白さでもあり、敷居の高さでもある。
シンプルな戦略こそ有効で、帝京大などは極めてシンプルな戦略なのだが、そこから産み出される戦術は極めて理に叶っている。一方、こうしたシンプルな戦略を打ち破るために、理が求められ、創意工夫が続けられる。この無限の営みこそラグビーの生命力であり、これが失われては、ラグビーは単なる「力比べ」になる。
願わくば力比べを超越した壮絶な頭脳戦を見たい。それを見出せる眼が欲しい。つくづくの願いである。
今年の大学選手権決勝は東海大と帝京大の顔合わせとなった。ともに勝てば初優勝。帝京は昨年に続いて2度目の決勝進出で、東海は初めての決勝進出となった。実に新鮮な顔合わせである。
数あるスポーツの中でラグビーほど「排他的」な競技はない。大学選手権は46年の歴史を数えるが、ともに勝てば初優勝という対戦は第1回の法政対早稲田(勝者は法政)以来なのである。事実上、史上初といっていい。
これまで大学選手権決勝に進出したクラブは法政、早稲田、慶應、日本体育、明治、同志社、大東文化、関東学院、帝京のわずか9つ。帝京以外は全て優勝を経験している。
例えば正月の風物詩である箱根駅伝だと新興チームがシード権を獲得したり、常連がシード落ちを経験したり、あるいは優勝候補だった順天堂が今年は出場を逃していたりと、まさに群雄割拠の様相を呈している。
ラグビーはこういった競技と比べると極めて「伝統」という敷居が高い。帝京・東海の両クラブはそこを乗り越えた。
●帝京の重み、東海の凄み
帝京はFWの重みで関東学院、早稲田、明治を破ってきた。帝京のラグビーは全てFWの重みを生かすことに集中されている。BK陣は距離の出るキック力を持っており、これがFWをことごとく前に出す。また、ディフェンスの強さも帝京の魅力だ。帝京のディフェンスを破るにはボールを大きく動かし、縦横無尽に攻め抜いてやっとの思いで敵陣に至る。一旦、相手にボールを渡すと帝京はロングキックで陣地を稼いでくるので、粘り強く攻め続けなければならない。しかも、接点ではFW、BKとも強烈なプレッシャーをかけてくる。接点で惜しみなく15人が働く。誠に見事なチームを作り上げたと思う。
一方の東海。こちらもFWは重い。しかし、重さを生かしつつ、個々の能力で圧倒する。日本代表のHO木津、FLリーチなど多彩な才能が接点で挑んでくる。選手権に入って足踏みが見られたが、それでも今季唯一の負け知らずのクラブだ。
接点の強さと、取りきる凄み。大きくボールを動かすことも出来るので、帝京にとっては厄介な相手なはずだ。
私の独断では東海が有利と見ている。東海が東海らしいラグビーをすれば、帝京のディフェンスを破ることも出来る。接点も互角に渡り合える。帝京のFWを受け止めるだけのFWの重さがあるからだ。しかし、これは余程完璧なゲームメイクをしなければならない、という条件付だ。漫然としたゲーム運びだと昨年、決勝の舞台を踏んでいる帝京に利がある。いずれにしても熱戦を期待したい。
●単純なチーム作りに終始した早稲田
3連覇がかかった早稲田は2回戦で帝京に粉砕された。ミスが重なるまずいゲーム運びだった。そもそも早稲田というクラブは「いかに勝つか」に集中してきた伝統があり、この勝利への集中力、緊張感こそが最大の強みだったのだが、この日の試合ではそこが完全に崩れていた。
ミスを怖れては大胆なプレーが出来なくなるという指摘もあるだろうが、今年(というか近年)の早稲田はミスに大らかで、それゆえ勝負への厳しさを失っていった。勝負師としては「緩い」中竹監督の個性にもよるだろうが、彼がキャプテンを務めたチームは例年になく緊張感溢れるチームだった。彼がキャプテンとして勝利よりも重きを置いた「勝者」にいかになるか、メンバー全員が願いを共有した素晴らしいチームだった。
特に今年のチームはメンバーに共通した何かに欠けていたように感じる。チームワークというべきだろうか。勝利への意志を高いレベルで共有すれば、大胆にプレーをして、かつミス無くプレーを遂行できるはずなのだが、それが最後まで見られなかった。
さらに言えば、早稲田らしい工夫も無かった。清宮監督時代にFWの強化を図ったため(それでも清宮監督は最後はFWで劣る社会人相手に勝利を挙げた。彼のFW強化は結局FWが強い相手にいかに勝つかという命題に対する彼なりの答えだったのだ)、早稲田はFWで相手に勝てなければ勝てないチームになってしまった。
これは、全てのクラブに感じることで、単純な「力比べ」で勝負をするクラブが増えてきた。今年のクラブで力比べを超えた土俵で勝負しようという気概を感じたのは慶應くらいだろうか。もちろん、FWで勝つというのは単純かつ強烈だ。帝京や東海もそれで成功したわけだし、単純にFWを大きく、重くすることだけでは勝利は覚束ないのだが。
●桐蔭の工夫
大学ラグビーが「創意工夫」という点で停滞気味なのに対し、高校ラグビーは近年、創意工夫に溢れている。特に印象的なのが桐蔭学園のラグビーである。
桐蔭は準々決勝で常翔学園(旧大阪工大高)と対戦した。FW一人の平均体重で10キロ下回る桐蔭だったが、機動力で圧倒した。もちろん、スクラムが1・5メートルしか押せないローカルルールがあるおかげで、スクラムの強さをある程度捨てても軽いFWで対抗できるわけだが、それでも桐蔭の工夫振りは目を見張る。
小さくて早いから集散で上回るし、接点で一人ひとりがよく仕事をする。当たる、倒す、起き上がる、また当たる。この一連の動きのスピードを上げることで、数的優位を作るという思想が徹底されている。
聞けば、BKの選手をFWに転向させたりしているそうだが、FWもボールを持つと生き生きと走る。手数をかけず一気に攻め込むパス。見るものにラグビーの面白さを教えてくれるチームだ。恐らく決勝で、無敵の強さを誇る東福岡と対戦するだろうが、巨人を相手にいかに挑みかかるか、楽しみだ。
●理屈っぽいスポーツ
思うに、ラグビーは理屈っぽいスポーツだと思う。やることはいちいちシンプルなのだが、目を凝らしてみると、そこに「理屈」が宿っている。これを見出すのが、ラグビーの面白さでもあり、敷居の高さでもある。
シンプルな戦略こそ有効で、帝京大などは極めてシンプルな戦略なのだが、そこから産み出される戦術は極めて理に叶っている。一方、こうしたシンプルな戦略を打ち破るために、理が求められ、創意工夫が続けられる。この無限の営みこそラグビーの生命力であり、これが失われては、ラグビーは単なる「力比べ」になる。
願わくば力比べを超越した壮絶な頭脳戦を見たい。それを見出せる眼が欲しい。つくづくの願いである。