『イリアム』
 料理に例えるなら、国産黒毛和牛の分厚い炭火焼ステーキか。
 食べ応えも腹応えも満点。決して大味ではなく、弾力ある肉を噛み締めると、口の中に脂とともに滋味があふれ…あ、本の紹介でしたね。

 本書は、ダン・シモンズのSF娯楽超大作。SFで娯楽で、しかも超大作なのだ。生�權範義の重厚かつゴージャスなカバーイラストがバッチリ似合うぞ。
 これが映画だったら、莫大な費用をかけ、名監督と人気俳優と一流スタッフが結集し、最先端の映像技術と斬新な演出を…あ、本の紹介でしたね。
 本書では、3つの物語で3人(?)の主人公が活躍する。
 古代の城塞都市トロイでの攻防戦を観察する、オリュンポスの神によって20世紀から“転生”した歴史学者。未来の地球で享楽的な日々をおくっていたが、前向きな生き方に目覚めて旅に出た肥満漢。木星衛生群で独自進化した人工知性体の国家が、火星で起きている異変を調べるために派遣した、シェイクスピア好きの半生物機械。
 別々に進行する物語が、やがて絡み合い、壮大な謎を浮かび上がらせる。

 一番の読みどころは、トロイア戦争のシーン。アキレウスやオデュッセウスらマッチョな英雄・豪傑が青銅剣を振り回して城塞へ突撃し、人馬の間ではアテナやアポロンら美しい神々(身長3メートル以上!)が稲妻を走らせる。何でもアリの大激戦、この豪快さ、この痛快さ。ページをめくりながら脳内にドーパミンがほとばしる。

 ナノマシンや量子テクノロジーなど小難しいSFネタも頻出するけれど、まず娯楽作品として高品質なことを評価したい。やっぱSFは面白くなきゃ。

 本作は驚くべきクライマックスを迎え、唐突に終わってしまう。2部作なのだ。より大作という続編『オリュンポス』が待ち遠しい。料理に例えるなら…アラの姿煮?