赤ちゃんの手
 目の前で火事が起きている。家から炎が上がり、誰かの悲鳴が聞こえてくる。
 しなければならないことは? 消火でしょ。中にいる人の救出でしょ。…「火の用心」を呼びかけたり、火災の怖さについて話し合っている場合じゃないでしょ。

 書きたいのは「赤ちゃんポスト(通称・こうのとりのゆりかご)」について。

 熊本市の「慈恵病院」が設置を計画、全国的に話題になっている。
 知らない人のために説明すると、事情があって親が育てられない新生児を匿名で受け付ける、24時間態勢の保育器のこと。捨て子の救命施設。路上からコッソリ、新生児を入れられる仕組み。ドイツでは実際に運用されているという。
 否定的な意見が、多数挙がっている。「赤ちゃんのゴミ箱か」「子捨てを助長することになる」「新生児の法的位置付けが難しい」などなど。

 あっても良い…と私は思う。より有効な救命策が他に無いなら、認めるべきだ。

 新生児を屋外に放置することは、火事にも等しい緊急事態。まずは人命を救おう。親の無責任を嘆いたりするのは後回し。社会啓発なんか別の機会にやってくれ。
 是非を好き嫌いで判断すべきではない。刑務所は誰もが嫌うけれど、必要だよね。

 「名前が直接的すぎるのでは」という意見もあった。
 あえて私は、もっと直接的な「捨て子入れ」を提案したい。
 切羽詰まった者なら、名称が何であれ新生児を捨てるだろう。名称に抵抗を感じて思いとどまるなら、結構なことだ。捨てられた子供が、長じてショックを受けるケースは想定できるけれど、決して「捨て子入れ」を使わない親になると思う。
 少なくとも、「こうのとりのゆりかご」は逆効果だぞ。

 馬小屋で生まれ、ニートみたいな生活をしていたのに、30代で「救世主」と呼ばれた人を、私は知っている。我が子を踏み付けて家出し、ホームレスになったのに、この世のすべてを悟ってしまった人を、私は知っている。
 生きていればこそ。スタート時が不幸でも、大成する可能性はある。誰にでも。

(加筆:2007年5月10日、「こうのとりのゆりかご」として運用が始まった)