「正庵」の生ビール
 玄関で靴を脱ぎ、板張りに上がる。
 途端に店員たちが、大声で「いらっしゃいませ〜〜〜えっ!! お待ちしておりました〜〜〜あっ!!」と唱和するのだ。声がピッタリ揃っていて、語尾の「えっ」と「あっ」が妙に甲高い。…何なんだ、この店は?
 初めて訪れた客は、例外なくビックリする。私も最初は驚いた。

 八代市出町の焼肉屋「正庵」。
 上質の肉が、適正価格で食べられる。自宅の近くにあり、重宝している。
 良い店だけど、特徴は別のところにある。それは、店員たちの異常なまでのテンションの高さ。みんな威勢が良くて明朗で、ちょっとだけ不気味だ。

 客席係の店員がオーダーを読み上げると、厨房から「あいよっ!」。数人の声が、見事に一致している。何度聞いてもズレがない。凄い。
 応答は必ず「あいよっ!」。焼肉の煙が渦巻く店内に、「あいよっ!」の声が飛び交う。本当は「はいよ」かも知れないが、私には「あいよ」としか聞こえない。

 肉もうまいが、お勧めは生ビール。男性店員がジョッキを抱えて現れ、何が嬉しいのか満面の笑顔で「こちら、おいっし〜〜〜いっ、生ビールでェす!!」と言ってくれる。語尾の「でェす」が、何となく“オネエ”っぽくて面白い。
 これが女性店員だと、「おいっしぃ、生ビールでっす」。男性店員に比べ、“弾け方”が足りないのが残念だ。

 ここまでテンションを高くする必要があるのだろうか…なんて考えてしまう。
 経営者に「とにかく焼肉屋は元気に」みたいな確固とした信念があり、それが過剰で珍妙な接客スタイルを生み、店員たちに叩き込まれてしまったのだろう。

 満腹になって、店を出る。背後から、またもや一斉に「ありがとうございました〜〜〜あっ!! またお願いしま〜〜〜あすっ!!」。
 また来ますとも。焼肉と、「おいっし〜〜〜いっ」生ビールを味わいに。

(追記:その後、松江町に移転し、きれいで大きな店になった。と同時に、あのハイテンションな接客がなくなってしまい、少々残念)