鮒寿司の茶漬け
 鼻を近付け、おそるおそる嗅いでみる。
 粕漬けのにおいをキツくした感じ。思ったほどくさくはない…ホッとした。

 滋賀県に旅行した人から、鮒寿司をもらった。
 卵を抱えた琵琶湖のフナを、塩漬けにした後、ご飯と一緒に漬け直して作るそうな。1年以上の手間ヒマがかかることや、ブラックバスなどの外来魚のせいでフナが減少していることなどから、値段が高い。
 杉浦日向子の酒肴掌編小説集『ごくらくちんみ』を読んで以来、鮒寿司にあこがれていた。茶漬けにして食べる話が、実にうまそうなのだ。
 食べたいなぁ…誰かくれないかなぁ…と念じ続けて幾星霜。他力本願の祈りが天に通じたのか、自分の懐を痛めずに入手することができた。

 何年か前に食べた、くさやの干物、あれはくさかった。〇〇〇みたいにくさかった。食べることはできたけれど、においは私にとって「悪臭」だった。

 そんなくさやと並び称されるほど、鮒寿司はくさい…どこかでそう聞いたことがあったので、食べる際は慎重を期した。早朝、まだ妻子が寝ている時に起き、お湯を沸かす。冷やご飯を電子レンジで温め直し、茶碗に入れて別室にこもる。

 ここまで配慮を重ねたにも関わらず、真空パックから出した鮒寿司は、くさくなかったのだ。ご飯の上に載せ、お湯をそそぎかけても、くさくはない。
 誰だ!?  くさやと並び称した奴はっ! …私の記憶違いかも知れないけれど。

 いささか拍子抜けした気分で、サラサラとかき込む。意外と酸っぱいぞ。穏やかな旨味もあるが、特徴的なのは酸味だ。薄くスライスしてある鮒寿司自体は、身や骨や卵が口の中でホロホロと崩れ、何とも微妙なコクを生む。

 やっぱ、これは酒のサカナ。早起きして食べるもんじゃなかったよ…。