『フロー体験 喜びの現象学』
 浜田省吾の「MONEY」という歌。田舎暮らしの青年が、野心を抱いて「純白のメルセデス/プール付きのマンション/最高の女と/ベッドでドン・ペリニヨン…♪」と贅沢なものを夢想する。

 それらを手に入れても、幸せにはなれないと私は思う。歌詞を書いた浜田省吾も同意見だろう。幸福は別のところにある…みんな何となく気付いている。
 心理学者のM・チクセントミハイは、本書の中で、人間にとって幸福とは何か、幸福であるとはどのような状態か、心理学の観点から具体的に示している。

 人間が喜びや楽しさを覚え、幸福を実感する条件を知るため、著者は世界各地の人々の事例を収集。分析を重ねて「フロー」という概念に至った。大雑把に言うと「何かに夢中で打ち込んでいる」「行為自体に達成感や充実感が伴っている」みたいな状態。

 絶壁を登るクライマー、病巣を摘出する外科医、難曲を奏でるバイオリニスト…才能や技術を発揮する人々の多くは、「フロー」している。結果的に富や賞賛、社会的意義などがもたらされる場合もあるけれど、それらは副産物でしかない。幸福とは、意欲をそそる課題や目標に対し、自分の能力が存分に駆使できている、その“真っ最中”なのだ。

 単調な日常や、極限的な環境でも、「フロー」は得られるという。
 工場の生産ラインで同じ作業を繰り返す労働者は、作業速度の向上に面白さを覚え、独自の工夫を続けていた。独房に何年も幽閉されていた政治犯は、各種の独り遊びを考案し、正気を保ち続けた。

 本書に「フロー」への近道は書かれていない。各人各様だから。
 けれど、各人各様に異なる喜びや楽しさの源泉を見付けるには、どのあたりを探すべきなのか、重要なヒントを教えてくれる。