『デアデビル:ボーン・アゲイン』
 素顔を隠すと、私たちは大胆になる。程度の差はあるけれど、普段の自分と異なる言動ができるようになる。
 悪い例だと、ネット上で悪口を撒き散らす「名無しさん」とか、覆面をした犯罪者とか。良い例なら、養護施設への匿名での寄付とか、覆面をした正義の味方とか。

 アメリカンコミックのスーパーヒーローが、素顔を暴かれて大きな苦難に直面するのが本作。物語はフランク・ミラー、絵はデビッド・マツケリー。
 主人公のマット・マードックは、少年時代に事故で失明、代わりにレーダーのような超感覚を得た。成長したマットは、昼は弁護士として弱者を助ける一方、夜はスーパーヒーロー「デアデビル」となって犯罪と闘っている。

 物語は、薬物中毒者に落ちぶれた、かつてのマットの恋人が、デアデビルの正体をギャングに売ったところから始まる。その情報は、ニューヨークの裏社会を支配する犯罪王、ウィルソン・フィスク(通称キング・ピン)に伝えられた。
 デアデビルに何度も煮え湯を飲まされてきたキング・ピンは、強大な権力を駆使し、陰湿な復讐を進める。マットは銀行口座を凍結され、弁護士資格を剥奪され、親友に去られ、自宅を爆破されてしまう。
 黒幕の正体に気付き、直接対決に臨むマット。しかし、スモウ・レスラー並みの巨躯に、神秘の東洋武術を習得しているキング・ピンは、心身ともに弱り果てていたマットを叩きのめす。
 事故死に偽装され、冬の海に沈むマット。

 それでも、マットは生きていた。
 生きている限り諦めない。正体がバレてもくじけない。マン・ウィズアウト・フィアー(恐れを知らぬ男)と呼ばれるデアデビル=マット・マードックの、熱い熱い復活劇が開幕する…。

 ニューヨークの路地裏で、強盗などを相手にすることが多いデアデビルは、スーパーヒーローとしては比較的、地味で渋い存在。だからこそ、アダルト向けのハードでシリアスな物語が似合う。

 アメコミ屈指の名作を、日本語で読めるシアワセ…10年前には想像できませんでした。