「エアマンシップ―消えたファイター・パイロットたち」(田中石城・かや書房・平成八年)【テストパイロット】<高高度飛行の事故>では次のように記されている(要旨抜粋)。

 

次のスクランブルで離陸する順番は、二美男たちの編隊である。深夜、一時過ぎだったろうか。スクランブルのベルがけたたましく鳴った。

 

二美男はそろそろスクランブルがかかるのでは、と予期していたので、眠かったけれども頭ははっきりしており、順調にエンジンが始動すると、編隊長に続いて滑走路に向かってタクシーして行った。

 

編隊長が滑走を開始すると、僚機は十五秒後に滑走を始める。そうすれば離陸したときに約三マイルの距離が保てるのだ。

 

F-104は、離陸時にアフターバーナーを使う。だから最初は、目視でも容易に編隊長の位置を確認できるが、約三〇〇ノットになればアフターバーナーを切るので、目視できなくなってしまう。

 

だから二番機は、そのころちょうど編隊長機が自分のレーダーに映るように、アンテナの角度などをあらかじめ調整しておくのである。

 

ところがこの夜は、編隊長がアフターバーナーを切った後も、二美男のレーダーには何も映らなかった。

 

「高度は?」と、二美男が編隊長に尋ねた。このときレーダーに映らないのは、おそらく高度が違っているのだろうと考えたからだった。

 

「あっ!」とだけ、編隊長の無線が聞こえた。実は、編隊長機の姿勢指示器が故障して、「OFF」と書いた文字が計器の左下に出ているにもかかわらず、それに気づかずに姿勢指示器を信用して三〇度バンクの旋回を行い、海上に出ようとしていた。

 

方位はほぼ間違いがなかったものの、上昇しているつもりが、実は降下していたのだった。離陸直後に降下したのだから、そのまま降下を続けていたら、結果は容易に想像できよう。

 

彼は、二美男に「高度は?」と聞かれて高度計を見ると、一〇〇〇フィートぐらいの高度から降下していることに気づき、機体を引っ張り上げたのだった。

 

その直後、姿勢指示器の「OFF」に気づき、二美男に無線で連絡してきた。機体姿勢がわからないと、夜間飛行は極めて困難である。二美男は後方から編隊長機に近づくと空中集合した。

 

その後は二美男が一番機位置を飛行し、編隊長は二美男に密集隊形で編隊を組んだ。幸いなことに、天候はそれほど悪くなかったので、編隊を組むのに苦労はなかった。

 

しかし今度は、相手機がそれほど我が国に接近して来なかったので、相手機をレーダーで捕えることができなかった。およそ三十分ほどCAPすると、帰投の指示がきた。

 

僚機位置にいる編隊長の姿勢指示器が故障したままなので、密集編隊を崩すことはできない。そのままの隊形で地上レーダーによる誘導を受け、編隊隊形を保持したまま着陸した。

 

アラート待機室に戻ってからの編隊長の言である。「いやぁ、ありがとうございました。『高度は?』と言われたとき前を見ると、なんだか海面がヒタヒタと波立っているのが見えたような気がしました」(以下略)