2018年03月

復活祭のいつものあやしい楽しみ  

razoneヤギ群れ



毎年日付けが変わる移動祝日の復活祭。ことしは4月1日(明日)である。その前後の一週間ほどは学校を中心に春休みになる。

統計によると、ことしは1000万人以上のイタリア人が復活祭期の休みに旅行に出、それによって36億ユーロ(約4700億円)程度の消費が見込まれる。約90%はイタリア国内で過ごし、10%程度が外国旅行に向かう。

そうした数字だけを見れば、平和そのもののようなイタリアの復活祭だが、実はイタリア警察は、ここ1週間だけでもイスラム過激派関連の容疑で10人近くを拘束している。このうち5人は2016年、ベルリンのトラックテロで12人を殺害したアニス・アムリの仲間と見られている。

復活祭前後の春休みの間、カトリックの総本山・バチカンを始めイタリア中の観光地には訪問者があふれる。そこを狙ったイスラム過激派のテロが懸念されているのである。

先頃、マフィアが「イタリアでのテロを防いでいる」というヨタ話が日本で流布したと聞いた。しかし、マフィアはテロを防ぐのではなく、逆にそれを鼓舞するのだ。ヨタ話には気をつけたほうがいい。

テロリストと提携して社会不安を喚起したいのがマフィアだ。イタリア警察はこれまでのところ、テロリストをうまく抑え込んでいる。2017年だけでも132名の要注意人物を国外退去にし、ことしもこれまでに既に29名を同じ処置にしている。

英語のイースター、イタリア語でパスクアと呼ばれる復活祭は、イエス・キリストが死後3日後に甦った奇蹟を祝うキリスト教最大の祭りである。

非キリスト教徒の目には、イエス・キリストの誕生日をことほぐクリスマスが最大の祝祭に見える。が、復活祭こそキリスト教の最重要なイベントだ。

誕生はあなたにも僕にも誰にでも訪れる奇跡だが、「死からの復活」という大奇蹟は神の子であるイエス・キリストにしか起こり得ない。どちらが重要な祭事かは火を見るよりも明らかである。

食の国ここイタリアでは、復活祭にはクリスマス同様に多くの美味い食べ物が出現する。中でも卵そのものを使った料理や卵型チョコレートなど、卵関連の食品がよく食べられる。

卵はみずみずしい生命のシンボル。ヒナが堅い殻を破って生まれることを「キリストの死からの復活」になぞらえている。同時に全ての新しい命の芽生えをもたらす、春を祝う意味合いもある。

復活祭最大の「食のイベント」は、復活祭当日の各家庭での昼の大食事会。そこでは伝統的に子羊の肉料理がメインコースとして提供される。レストランなどで食べても同じである。

全ての人の罪を背負って、十字架で磔(はりつけ)にされたイエス・キリストは、「神の子羊」とも呼ばれる。子羊が生贄として神に捧げられたユダヤ教由来のコンセプトである。

復活祭に子羊の肉を食べるのは、人類のために死んだイエス・キリストを偲び、称える儀式の意味がある。子羊料理はやがて子ヤギ料理へと広がり、地域によっては後者がより多くなった。

僕はイタリアでは1年に1度、復活祭の日に子ヤギの肉を食べる習わし。それが祭の大きな楽しみでもある。子羊でもかまわないが、北イタリアの僕の住む地域では、子ヤギのほうがよく食べられる。

その習いが高じて、僕は地中海域を旅するときは、各地の子ヤギまた子羊料理を食べ歩くようになった。地中海域やバルカン半島の国々では、子羊や子ヤギがよく食べられ味もすばらしい。

いたいけな子ヤギ(子羊)を食するのは野蛮である。僕が復活祭の時期に必ず子ヤギ(子羊)料理に言及したくなるのは、その罪悪感故、という側面もないことはない。

ところが僕は自分の思いを「偽善」とみなす、もう一つの「思い」もまた胸中にかかえている。それらをできるだけ客観的に眺めてみると、どちらも正しくどちらも舌足らず、という風な結論になる。

つまり

豚や牛に始まるあらゆる動物の子供や成獣の肉を食らうのも野蛮である。それどころか野菜や果物を食するのも野蛮だ。動物も植物も同じ「生命(生物)」だからだ。

動物と植物は違う生命だ、と言う者がいたら、それは思い上がりである。われわれ人間には「今のところ」、動物と植物の《生命の違い》を正確に見極める術はない。

分かっているのは「動いて、食べるもの」が動物であり、「動かず、食べず、光合成を行う」ものが植物、ということぐらいだ。2つの「生命」については何も知らないと同じなのである。

植物が、特に野菜が、われわれに食べられるために殺されるとき、痛みを感じるかどうかをわれわれは判断できない。血も流れず悲鳴も発せられないが、植物は別の方法で苦痛を訴えているのかも知れない。

人間は人間以外の「生命を殺して食べる」生命である。それ以外には生存の方策がない。従って実はそれは野蛮でもなく、罪悪でもない。人間が「生きるとは殺すこと」なのである。肉食者も菜食主義者も変わりがない。

そうすると、生きるとは殺すこと、という自然の摂理を認めないことが野蛮であり罪悪である、という結論になるのかもしれない。

なぜならその摂理を認めない者、あるいは真理に気づかない者は、自らを棚に上げて他者の食習慣をなじる所業に陥ったりもするからである。例えば菜食主義者が肉食者を一方的に指弾するような。。。


たかがイタリア政局、されどイタリア連立政権の行方



伊国会AFP



ベルルスコーニさんを少しオチョくる記事を書いている間にも、イタリアの政治状況はめまぐるしく動いている。動いているがなにも決まらず、日に日に混迷の度合いが深まっているようにさえ見える。何度も指摘してきた通りそうした状況は、いつもの「イタリア的政治秩序」だと僕は考える。

3月4日に投開票が行われたイタリア総選挙では、37%の支持を得た右派連合と32%の支持率で単独政党としてはトップの「五つ星運動」が勝者だが、両者共に過半数に達しないため選挙で大敗した政権与党の民主党が、新政権樹立の鍵を握りかねない事態になっている。

連立政権の組み合わせは(1)右派連合と五つ星運動、(2)右派連合と民主党、(3)五つ星運動と民主党などだが、民主党は新政権入りを拒否すると表明しているため、今のところは選択肢は(1)の右派連合と五つ星運動の組み合わせしかない。

しかし、右派連合のうちのベルルスコーニ元首相が率いるFI(フォルツァ・イタリア)党は、五つ星運動とは犬猿の仲で、同党との連携を否定。元首相は、右派連合を主導する「同盟」が五つ星運動と手を組むなら、連合を脱退するとまで警告した。

だが民主党の下野宣言やベルルスコーニ元首相の警告は、本音交じりの「政治的駆け引き」と見るべきだろう。例え今現在は本音でも、政党間での交渉や妥協や折衝や化かし合いが進行するうちに、そうした言動は取引の材料に変わることも多い。

政権樹立に向けての右派連合内の2党と五つ星運動、また民主党の心理戦は、政策や理念や方針や綱領や哲学の競合ではなく、支持者に見えないところで裏取引や談合や密約を交わしつつ、誰もが自らの利を求めて暗躍する
「政局」にすぎない。

混沌とした探り合いが進行する中、上下両院議長を選ぶための新議会が一昨日(3月23日)召集された。両院議長の選出は政権樹立と直接つながるものではない。が、投票が繰り返される過程で、政党間の真の連携や離反が明らかになっていく重要な機会である。

上院議長選挙の投票は4回に渡って行われる。また下院議長選は、勝者が出るまで無制限に投票が繰り返される決まりだが、両院共に議会2日目に決着がついた。決定的な勝者が出なかった総選挙から考えて、両院議長選びも長引くと見られていたから、想定外の展開である。

上院は右派連合のFI党所属の女性議員 カゼラッティ氏(Casellati)、また下院は五つ星運動の フィーコ (Fico)氏が選出された。この結果は事前に予測されたように、五つ星運動と右派連合内の同盟との間に巧妙な駆け引き、また密約があったことを示している。

それに先立って、議会初日には右派連合内で早くもいがみ合いがあった。同盟がFI党との約束を無視して、独自に議長候補を指名したのだ。激怒したFI党首のベルルスコーニ元首相は、同盟党首のサルヴィーニ氏を「敵対者」と罵倒した。

それらの動きを素直に読めば、同盟のサルヴィーニ氏がベルルスコーニ氏を見限って、選挙最大勝者の五つ星運動と水面下で本格的に手を結び始めた、ということだ。しかし、真相はわからない。「混乱が秩序」であるイタリア政治を別言葉で表現すれば、「何でもあり」ということでもあるからだ。

政権合意まではまだまだ遠い道のりだろう。だが新議会の初日に早くも「ポピュリスト政党連合」とも形容できる、五つ星運動と同盟の連立の可能性を示唆する事態が露見したのは、興味深い。実現すればそれは、EU(欧州連合)にとって最も厳しい政権になることが確実である。

五つ星運動は既成利権や不正を厳しく指弾するすばらしい理念を持つが、「反EU(欧州連合)」を旗印に多くの非現実的な政策も主張している。また右派連合の勝者である同盟は、反EUと反移民が金看板の極右勢力。どちらもEUが嫌う政治集団なのである。

EUはBrexit(英国のEU離脱)や移民問題などで内部分裂の危機にある。ここでEU結成の中核メンバーであるイタリアに強い「反EU政権」が誕生すれば、屋台骨が揺らぎかねない。しかし、前述のようにイタリアの政治は混乱と不安定が常道である。今後も二転三転どころか、十転も二十転もあり得る。

五つ星運動と同盟のどちらかがふいに民主党と組んだり、同盟に反発したベルルスコーニ元首相が豹変して、自らの党との共通点も少なくない民主党を巻き込みながら、敵対している五つ星運動と連携することさえ起こり得る。

もっと目覚しいことがあるかもしれない。つまり今は「極論主義者」的傾向が強い五つ星運動と同盟が、それぞれ穏健路線に舵を切るケースだ。事実、五つ星運動の首相候補ディマイオ氏は、同党を「普通の党」にする意思を選挙前から明確にしている。

片や同盟の首相候補サルヴィーニ氏も、「一方的なユーロ離脱は選択肢ではない」と発言するなど、急激な「反EU政策」は取らないと示唆して、国民とEUの不信感を和らげる言動をし始めている。希望がないわけではないのである。

五つ星運動と同盟は、米トランプ主義や英国の「反EU勢力」、あるいはフランスの国民戦線やドイツの極右政党などと共に、「ポピュリズム」とひとくくりにされて語られることが多い。僕自身もそういう見方だ。

だがイタリアのポピュリズム勢力は、国内の政治勢力の総体が四分五裂されているために一方的で巨大な流れにはなりにくく、またその中身も変わりやすいように見える。前述の五つ星運動と同盟の変節などがその表れの一つだ。それはイタリア政界の多様性のたま物である。

ともあれ両院議長が選出されて、議会内の政党グループの構成がある程度見えてきた。それを受けて、政権合意を念頭に各政党幹部とマタレッラ大統領との協議が間もなく始まる。大統領が政権樹立への合意形成を目指して、政党間の調整役になり話し合いを進めるのである。

協議期間は無期限である。すぐに合意形成にいたらない場合は繰り返し開催され、何週間も、へたをすると何ヶ月もかかる可能性がある。例えば2013年の総選挙では政権合意までに40日もの時間を要した。イタリア共和国はその間政府が存在しない状態になる。それもまたイタリアの「いつもの政治状況」なのだ。

また政権合意に至らないケースも十分にありうる。その場合はマタレッラ大統領が各政党からの支持を取り付けて、挙国一致のテクノクラート(実務者)内閣の成立を模索することになるだろう。そしてそれもかなわなかった時には、再び総選挙が行われる以外に道筋はない。



イタリア総選挙余話~オッパイにしばかれたベルルスコーニさんは憎めない



L`ansia di berlusconi 800



3月4日のイタリア総選挙では早々と勝者と敗者が明らかになった。勝者はポピュリストの抗議政党「五つ星運動」と同じくポピュリストの極右政党「同盟」である。

敗者は政権与党の「民主党」とレンツィ同党党首。だが最大の敗者は、中道右派連合を率いた「フォルツァ・イタリア」党と同党党首のベルルスコーニ元首相である。

81歳の元首相は、醜聞と刑罰と非難にまみれていったん政治の表舞台から消えた後、昨年あたりから復活の兆しを見せ、今回選挙で勝利を収めて政局の目玉になると予想されていた

しかしフタを開けて見ると、ベルルスコーニ氏は統率する「フォルツァ・イタリア」党とともに崩落。支持率を大きく減らして中道右派連合の盟主の座も「同盟」党党首のサルヴィーニ氏に譲った。

実はベルルスコーニ氏の零落を象徴的に表すような事件が開票前に起きていた。ミラノ市内の投票所で投票をしようとした元首相の前に、トップレスの女性が飛び出して抗議をしたのだ。

女性は「ベルルスコーニよ、お前の賞味期限は切れている!」と大書きされた裸の上半身を誇示しながら、投票箱の上にバンザイをする形で仁王立ちになった。

抗議女性はフェミニスト団体「FEEMEN」のメンバーだった。ウクライナに本拠を置く「FEEMEN」は、女性差別への抗議活動の一環としてトップレスでの示威行動を頻繁に行っている。

「FEEMEN」は昨年、一連の流れの中でフランス大統領選でも物議をかもした。極右のル・ペン候補に対してもトップレスの抗議をして、世界中のメディアに取り上げられたのである。

突然の半裸女性の抗議も予想外だったが、ベルルスコーニ元首相のリアクションはもっと想定外に僕には見えた。

元首相の顔には明らかな恐怖が走った。彼は目の前の相手をほとんど見ることもなく、きびすを返して逃げるようにそこから立ち去った。

元首相は、過去に人だかりの中で、顔にオブジェを投げつけられてケガを負うなどの体験をしている。従って女性の突然の出現に思わず恐怖を覚えたのかもしれない。

同時に過去の元首相の、人を人とも思わないような言動に鑑みると、そこで即座に悪ふざけと機知に富んだ言葉を発していてもおかしくなかった。

例えば「きれいなオッパイだね」とか「オッパイなんてものは安売りしないほうがいいよ」とか「僕がオッパイ好きと誰から聞いたの?」などなどの。

いや、彼のこれまでの女性に対する数多いユルフン行動を斟酌すれば、女性のオッパイをツンツンとつついて「張りがない。もう年だね」と毒ついていても、きっと誰も驚かなかっただろう。

女性が怒って抗議しているのも、ジョークや軽妙にかこつけた元首相の、そうした胸中深くにある女性蔑視の心情に対するものであるはずなのだ。

しかし、元首相の動きは臆病な老爺のそれ以外の何ものでもなかった。1994年に還暦手前で初めて首相になった頃の、スケベとエネルギーと自信と女性軽視に満ち満ちた、権力者の面影は微塵もなかったのである。

僕は一連の映像を見たとき、2011年に彼が失脚した時や、2013年に脱税の罪で有罪判決を受けて議員資格を剥奪された時でさえ確信が持てなかった、ベルルスコーニ元首相の政治家としての真の終焉が来たのかも、と思った。

そうは言うものの、しかし、ベルルスコーニ氏は81歳と「まだ若い」ので、今後もしぶとく政界を掻き回す存在になるかもしれない、ともまた考えたりしてしまうのである。

90歳を過ぎても執拗に権力を握っていたジンバブエのムガベ前大統領や、ことし92歳で再びの権力掌握を目指すマレーシアのマハティール・モハマド元首相などを見るまでもなく、政治家の寿命は伸び続けている。

政治家に限らず、人々の寿命も伸び続けているのは周知の事実だ。今やわれわれは、「死ぬ心配」ではなく「ムダに長生きをする」リスクをこそ恐れなけばならない時代を生きている。

従って年齢を理由に、ベルルスコーニ元首相の政治力を見くびるのは少しもあたらない、という可能性も大いにあると思ったりするである。

やれやれ・・・


イタリア選挙結果の読み方



Salvini_Di-Maio
ディマイオ(左)&サルビーニ両氏



勝者と敗者

イタリア総選挙の最大の勝者は支持率4%から18%に跳ね上がった極右の
「同盟」と、支持率25%から32%に高まったポピュリストの「五つ星運動」である。

また最大の敗者は支持率25%から19%に落ちた政権与党の「民主党」と、支持率22%から14%に急落したベルルスコーニ元首相が率いる「フォルツァ・イタリア」党である。

前首相で民主党代表のレンツィ氏は、敗北を受けて党首を辞任。ベルルスコーニ元首相は連合仲間の「同盟」の党首、サルヴィーニ氏を首相候補として認めざるを得なくなった。

僕はこの前の記事で、《選挙の勝者の「五つ星運動」は、他党との連携や共闘を頑なに拒否していて今回も連立政権への参加を拒み、将来の単独での過半数制覇を模索するのではないか》と書いた。

どうやらそれは誤った見方だったようだ。「五つ星運動」のトップで首相候補のディマイオ氏が、全ての政党に「五つ星運動」との提携を呼びかけ、政権樹立への強い意欲を示したからだ。意外な展開だった。

首相候補者たち

最大の勝者である「五つ星運動」のディマイオ氏は首相になる大きなチャンスを握った。しかし「五つ星運動」が、“腐敗の塊”と罵倒する既成政党との連立なくしては、それは実現できない。ディマイオ氏にとっては困難な作業になるだろう。

なぜなら抗議政党とも呼ばれる「五つ星運動」の支持者は、既存の体制に激しい怒りを持っている。彼らの支持を引き止めつつ、既成政党との妥協を探るのは、矛盾する動きなのである。

一方、会派としては最も高い得票率を得た中道右派連合のうち、最大の勢力となった「同盟」のサルヴィーニ党首も、首相職に強い意欲を示している。

反EUと反移民の旗印を鮮明にするサルヴィーニ氏は、党名を「北部同盟」から単純に「同盟」に変えて、イタリア北部を地盤にする同党を全国区の党に育て上げる作戦に出た。

北部同盟は経済的に貧しい南部イタリアを怠け者、物乞いなどと侮蔑してきたが、サルヴィーニ氏は党名を変更すると同時に非難の矛先をアフリカや中東からの難民・移民に向けた。

イタリアの問題は今や南部イタリアの貧民ではなく、それよりもさらに貧しく且つ「危険な」難民・移民だと主張して、自らの排外差別主義を正当化していったのである。

ベルルスコーニの思惑

「同盟」は右派連合の中では選挙前、ベルルスコーニ元首相率いる「フォルツァ・イタリア」党に次ぐ第2党になると見られていた。ところが蓋を開けてみると「フォルツァ・イタリア」党を抑えて最大勢力になった。

これを受けて右派連合を主導してきたベルルスコーニ元首相は、同会派の首相候補としてサルヴィーニ氏を支持する、といち早く宣言。情勢ががらりと変わった。

盟約を結んではいるものの、元首相とサルヴィーニ氏との間には、例えば前者がEU支持派であるのに対して後者が強い「反EU」の立場を堅持するなど、政策や主張にへだたりがあり、状況によっては選挙後に両者が袂を分かつとも考えられていた。

その場合には元首相は、政権与党の「民主党」と連立政権を樹立する可能性が高いと見られていた。事実選挙前には、ベルルスコーニ元首相とレンツィ民主党党首が秘密裡に会談した、などの噂も流れた。

ところが元首相は、「同盟」が「フォルツァ・イタリア」党を上回る議席を得たことが明らかになると、前述のようにあっさりと身を引いて、サルヴィーニ氏による政権樹立の取り組みを支援する側に回った。

これによって、右派連合のうちの最大勢力「同盟」と、単独政党としては同じく最大勢力となった「五つ星運動」のそれぞれの指導者が、首相候補となって政権樹立に向けた工作を始めることが決定的になった。

連立の組み合わせ

右派連合は、「同盟」の約18%と「フォルツァ・イタリア」の約13%を含む全体の37%の支持を集め、「五つ星運動」は政党単独で約32%の支持を得た。だがどちらも単独過半数には遠く、誰かと連立を組まなければ政権樹立はできない。

最も自然な流れは右派連合を主導する「同盟」と「五つ星運動」による連立だ。彼らには政策上の最大の共通点がある。すなわちEU懐疑派で同時に移民が嫌い、というスタンスだ。「五つ星運動」のディマイオ氏は選挙戦略として「親EUのポーズ」を取ったが、同党の正体は飽くまでも「反EU」である。

ディマイオ氏とサルヴィーニ氏が共闘すれば、大衆迎合主義の大連立政権が発足することになる。しかし、サルヴィーニ氏は「五つ星運動」との連立の可能性を即座に否定した。

選挙で最大の支持を集めたディマイオ氏と手を結んだ場合、サルヴィーニ氏自身が首相になるチャンスが遠のく、というシナリオを嫌ったのではないかと考えられる。

「五つ星運動」の側にも「同盟」との連立を避けたい理由がある。一つはディマイオ氏が「反EU」の姿勢を弱めながら、腐敗勢力でイタリア経済の没落を招いた張本人、と罵倒し続けてきた既成政党側に歩み寄ったことである。

また「五つ星運動」が、イタリア南部の支持者に大きく依存していることも彼らが手を組む妨げになる。「同盟」は党名を変更したり、南部イタリアへの敵愾心を隠したりしているが、南部イタリア人の「同盟」に対する不信感は根深い。

「反EU政権」誕生の可能性

そうした障害を克服して、もしも「五つ星運動」と「同盟」が連立を組んだ場合には、反体制の「ポピュリスト政党連合」が上下両院を制することになる。それは強烈な「反EU政権」の誕生を意味する。

「五つ星運動」はディマイオ体制になって「親EU」のポーズを取ることが多くなっているが、彼らは根っからのEU懐疑派であり、格差是正を訴えて財政支出を最大限に広げようとするなど、イタリアの財政健全化を強く求めるEUにとっては最悪の相手だ。

また「同盟」は反移民と反EUを公然と掲げる極右政党である。彼らはフランスの国民戦線やオランダの極右自由党などとの提携を希求し、米トランプ大統領とロシアのプーチン大統領を賞賛して止まない。それらもEUが忌み嫌う姿である。

片や「五つ星運動」の創始者であるコメディアンのベッペ・グリッロ氏も、米トランプ大統領とロシアのプーチン大統領の信奉者。「五つ星運動」は自らを「左派でも右派でもない存在」と規定するが、「同盟」に良く似た「トランプ主義政党」という顔も持っている。

「五つ星運動」はネット投票で党の政策や運営を決定するなどの画期的な仕組みを構築して支持を広げてきた。ポピュリストであると同時に「右派の顔と左派の胴体と無政府主義者の脳味噌」を持つ生き物、とも形容される。

最近同党の指導者となった31歳のディマイオ氏は、グリッロ氏の過激主義を排して「普通の政党」への脱皮を試みているが、多くの国民にとっては「五つ星運動」は、依然として「ぬえ的」な印象を持つ正体不明の急進的政党でもあり続けている。

堕ちた民主党の役割

多くの共通点を持ちながら「五つ星運動」と「同盟」が連立を組まない場合は、選挙で大敗を喫した前政権与党の「民主党」がキングメーカーとして重要な役割を担う可能性がある。

どの政党もまた会派も過半数を獲得できない袋小路を抜け出す道は、「五つ星運動」と「民主党」の連立、という見方は根強い。それもまた「同盟」と「五つ星運動」が提携する形と同様に、自然の流れと見ることもできる。

ディマイオ氏がグリッロ路線の軌道修正を試みていることで、「五つ星運動」と「民主党」の間のEU政策や難民・移民ポリシー、また福祉や税制などに関する立場はきわめて似通ってきた。

「民主党」は、「五つ星運動」ともまた同盟主導の右派連合とも連立を構築することができる。だが彼らはできれば、反EUと排外差別主義に固まった「同盟ではなく、「五つ星運動」と連立を組んだ方が賢明だと思う。

そうすることで「民主党」は、「五つ星運動」と「同盟」が連立政権を樹立する道を阻むことができる。「民主党」はポピュリズム勢力が手を握る最悪のシナリオに待ったを掛けるべきだ。

「民主党」にとっては、それは能動的な政策立案と実施が可能な政権参加ではなく、連立相手の「思いのままの政策」を抑制するだけが目的の、受動的なものである。

それでも「民主党」はイタリアの極右化やポピュリズムの暴走を防ぐために、身を挺して連立政権樹立を目指すべきだ。

内部分裂を繰り返して支持者にそっぽを向かれ、挙句にはイタリアにポピュリストやトランプ主義者がはびこる事態を招いた責任の一端、いや責任の大半は、彼らにあるのだから。

イタリア式民主主義が行く

連立政権の組み合わせは現時点では誰にも読めず、また将来も政権樹立の瞬間までいくらでも紆余曲折がある、という意味で「組み合わせが無数にある」と形容してもあながち間違いではないだろう。

親EUで移民政策でも穏健な立場を取る「民主党」が参加する政権から、「五つ星運動」と「同盟」の勝者のどちらかが少数政党と組む政権、あるいは「五つ星運動」と「同盟」が連立を組む悪夢の組み合わせまで、多岐に渡る。

それどころか、政党間の対立と牽制が嵩じていつまでも政権が発足できず、大統領の裁量で繋ぎのための実務者内閣が作られたり、とどの詰まりには再選挙が実施されるかもしれない。

イタリア政治の最大で最良の特徴は「多様性」である。それは「混乱」や「不安定」と表裏一体のコンセプトだ。そして混乱や不安定の克服に欠かせないのが「話し合い」である。

政権樹立を目指す各勢力はここから嘘と裏切りと化かし合いと足の引っ張り合いの、且つ「対話」と「妥協」が満載の駆け引きを繰り出していくだろう。それがイタリア政治の王道である。

イタリアの政治は常にそういう風にして成り立ってきた。イタリアの政治混乱は混乱ではない。それは多様性の尊重故に生まれる、混乱という名の「イタリア的な秩序」であり「政治の常態」である。

今回の総選挙を経て、イタリアの政治地図はがらりと描き換えられた。プレーヤーも環境も勢力分布も、何もかもが変わった。あらゆる要素が最早依然と同じではない。

同時に多くの政党と主張が入り乱れて政治が動く“「多様性」に満ちた状況の顕現”という意味では、イタリアの政治環境は十年一日の如く変わらない、ともまた言えるのである。


伊総選挙、極右とポピュリストが躍進~2人の首相経験者が死に体に



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左からレンツィ、ベルルスコーニ、サルヴィーニ、五つ星運動リーダーのディマイオの各氏


イタリア総選挙の結果が出た。

右派連合、五つ星運動、左派連合の戦いは、ほぼ事前予測通りの順位で終わった。最終的な数字には若干の違いが出るだろうが、結果は確定した。

即ち上下院ともにベルルスコーニ元首相率いる中道右派連合が37%強でトップ。続いて反体制ポピュリズム政党の五つ星運動が32%弱、3位が政権与党・民主党主導の中道左派連合の約23.5%である。

事前予想の数字は、中道右派連合36~38%。「五つ星運動」27~29%。政権与党・民主党中心の中道左派連合26~28%。

結果は予想通りに右派連合が勝利した。しかし、よく見るとポピュリズム政党の五つ星運動が躍進、左派連合が敗退、という構図である。

また右派連合内の勢力図を見ると、ベルルスコーニ元首相率いるフォルツァ・イタリアが13%弱。「北部同盟」改め「同盟」が18%弱、となった。

つまり連合内でほぼ常にトップの支持率を誇っていたフォルツァ・イタリアと、その後塵を拝していた同盟の力関係が逆転した。右派連合は勝利したが,その主導者のベルルスコーニ元首相は敗北したのだ。

この結果から、ベルルスコーニ元首相がキングメーカーとして辣腕を振るう、と見られていた選挙後のシナリオはおそらく書き換えられた。負けた彼にはそんな力はないだろう。

イタリア中道右派の盟主を自認してきたフォルツァ・イタリアと元首相は、その座を同盟と同党のサルヴィーニ書記長に譲ることになったのである。

つまり「イタリア中道右派の指導者」がベルルスコーニ元首相からサルヴィーニ書記長に移った。これはイタリア政界の小さからぬ「革命」である。

そしてその革命によって、81歳のベルルスコーニ氏の政治的な「終わり」が本当にやって来たと考えられる。彼の復活劇は完成しなかったのだ。

右派の革命にも匹敵するのが、反体制運動から「政党」に成長した五つ星運動の急進である。単独政党としては最も高い支持率を誇ってきた五つ星運動は、今回選挙でさらに飛躍した。

彼らは他党との連携や共闘を頑なに拒否している。今回の結果を受けてその方針を変える可能性は皆無ではないが、やはり連立政権への参加を拒み、今後も単独での過半数制覇を模索するのではないか。

だが例え五つ星運動が政権入りを拒絶しても、イタリアでほぼコンスタントに国民の3分の一の支持を獲得している同党を無視することはもはや誰にもできない。五つ星運動の主張と影響力が高まることは必至だ。

今回の総選挙における真の勝者と敗者をまとめると次のようになる。

先ず勝者は同盟と五つ星運動。中でも同盟のサルヴィーニ書記長は大勝を収めたと言える。そして敗者はベルルスコーニ元首相と民主党のレンツィ前首相である。

イタリア政界の若手の旗手であるレンツィ前首相は、長老のベルルスコーニ元首相とともに凋落した。見る影もない、と言っても過言ではない。

81歳の元首相は諦めもつくだろうが、43歳のレンツィ前首相は、例えば惨敗した民主党党首の座にしがみつくなど、何かとジタバタして醜態をさらけ出すかもしれない。

ここまでが総選挙の結果を受けてのイタリアの「政局」だ。次はイタリアの政治、政策、政道の話である。

一言で言えばおそらくイタリアの政治状況は今後もあまり変わらない。極右の同盟とポピュリズム政党の五つ星運動の飛躍は、普通の国ならば大きな変化をもたらす要因となるだろう。

彼らの躍進は、Brexit(英国のEU離脱)主導勢力と米トランプ政権、また欧州内の極右及びポピュリストの台頭などにも通底する現象だから、なおさらだ。

しかしイタリアの政治の本流はかつて、欧州一の勢力を誇示した共産党を封じ込めて政権から排除し続けたように、極右やポピュリストを政権樹立の水際で抑え込んで除去するのではないか。

イタリア共和国は単独でもそうした能力を持つが、自身が所属するEUがドイツの主導でリベラルな体質を保持し続ければ、その可能性はさらに高くなると考えられる。

イタリアでは今回選挙でも過半数を握る政党や会派が誕生しなかった。従って、例によって、政権の発足がままならずに長い政治不安が続く可能性がある。

だがイタリアは、再び例によって、その危機をうまく切り抜けると思う。話し合いと対立と、さらなる話し合いによって、政権が生まれる。それがイタリアのいつものやり方だ。

例えそこに同盟や五つ星運動が絡んでも、それはイタリアの本質的な変化を意味するのではない。むしろ同盟や五つ星運動の方が「変化して」イタリア共和国に順応した、と考えるべきだ。

混乱と、軽薄と、嘘と無責任が跋扈しているように見えるイタリアの政治は、まるで帝政ローマの知恵の残滓が充満しているのでもあるかのような、「したたかな」側面を見せることがしばしばなのである。


ドイツ連立政権成る!!



オヤジこぶし800



メルケル首相率いる同盟(キリスト教民主・社会同盟)との連立を模索してきたドイツ社会民主党は今日(3月4日)、党員全員による投票を経て連立政権に参加する決定を下した。

46万人余りの党員による採決は賛成が66%余り、反対が約34%だった。

これによってメルケル首相は4期目の政権を担うことになり、ドイツの政治不安が解消されることになった。

それはEUの安定と強さを担保する朗報である。強いEUはトランプ米反動政権の暴走に歯止めをかけ、変形共産主義の独裁国家ロシアと中国ににらみをきかせることができる。

同時にEU内に巣食い、膨張しようとしている排外差別主義者の極右やポピュリストなどにも毅然として立ち向かうことができるようになるだろう。

今この時点では、ここイタリアで総選挙の投票が行われている。事前の世論調査ではこの国でも排外差別主義者の極右やポピュリストが勢いを強めている。

だが、例え彼らが予想以上の得票をしても、政治的に安定したドイツがあり、従って強いEUがある限り心配するには及ばない。

自由と民主主義と人権と多様性を尊重する強いEUの掌の中では、それらのトランプ主義者らが少々増長しても十分に抑制力が働く。

むしろそれらの反動勢力が少しは幅をきかせたほうが良い。そうすればその対極の力である欧州の良心がより輝きを帯びて見えてくることだろう。

つまり自由と民主主義と人権と多様性を重んじる精神が、それらの暗い流れに待ったをかけることになる。あるいはそこに向かうきっかけができる。





たかがイタリア総選挙、されどドイツ連立政権 



屋根雪800



北イタリアは昨日、今日と大雪である。ミラノからベニスに至るA4高速の途中の、ミラノ寄りにあるわが家のあたりも白一色の世界になった。

このまま降り続くと、明後日の総選挙の投票率に影響があるかもしれない、とちらと思ったりもするが深刻には考えない。

イタリアの政治状況は、ポピュリストの「五つ星運動」が突然単独で過半数を達成、という事態にでもならない限り、選挙後もほぼ何も変わらない、と思うからだ。

次の政権が左右どちらに振れても、また両方が入り乱れても、あるいはいつまでも政権が樹立できない環境に陥っても、イタリアは沈まない。したたかな国なのである。

かなり見え透いているイタリアの選挙よりも、同じく明後日の発表になるドイツ社会民主党の党員採決の方が僕はずっと気になる。

ドイツは昨年9月の総選挙以来、政権が発足できない異常事態に陥っている。メルケル首相率いる同盟(キリスト教民主・社会同盟)と国政第2党の社会民主党は、連立政権樹立を目指して協議を続けている。

しかし、社会民主党の中には、メルケル首相の陰に立たされることをよしとしない強い勢力があって、協議は難航している。それでも両党幹部は妥協を繰り返して合意を重ねてきた。

いくつものハードルを超えて最終的に残ったのが、社会民主党の46万人余 の党員全員による連立の是非を問う投票だ。今日2日で締め切られ、明後日4日に結果が発表される。

社会民主党は同盟との協議を続ける中、事案の一つ一つについて常に党員の合意を取り付けながら進んできた。従って最終的な投票でも連立賛成が上回る可能性が高い。

またもしも連立合意が流れて再選挙となった場合は、社会民主党は今よりも議席数を減らし、極右の「ドイツのための選択肢」のさらなる飛躍が予想されている。

そうした不都合を避けるためにも、良識ある党員は同盟との連立を支持すると見られている。が、あらゆる選挙同様に投票結果はフタを開けてみるまでは分からない。

連立反対の意思表示が上回り、少数与党政権を嫌うメルケル首相が再選挙を決意して、ドイツの政治不安がさらに高まる可能性はゼロではない。

もしそうなった場合は、欧州のみならず世界の政治地図が暗く塗り込められることになる。なぜならドイツの弱体化と混乱は、即座にEUと欧州全体の弱体化と混乱につながる。

それは自由と民主主義と寛容の精神が、今よりももっと速い速度で世界から消し去られかねないことを意味する。大げさな、と思うなら次のように考えてみればいい。

今現在の世界の力関係は、米、欧、露、中、に分けられている。そこに北朝鮮やシリアやイラン等々が火の粉を投げ込む形だ。

それらの力や勢力のうち、米欧は昨日までは足並みを揃えて自由と民主主義と人権と寛容の精神を守り、鼓舞し、謳歌してきた。

しかしトランプ大統領の誕生によって、米国は先ず寛容の心をかなぐり捨て、自由や民主主義や人権や言論・報道の尊重さえ危うい社会が生まれた。

それは一党独裁国家の中国、その変形政体の国であるロシア、さらには北朝鮮やシリアなどに代表される、人権無視の野蛮国にも通底するトランプ政権が生み出した社会だ。

それに対抗できるのは、今の時点では欧州のみである。その欧州は強いEUによって担保され、EUの力は安定した強いドイツによって担保される

僕がドイツの連立政権の誕生を待ち望んでいるのはそれが理由だ。ドイツがここから4年に渡って安定すれば、その間にトランプを排した米国が変わるだろう。

そこで欧州は、変わった米国と再び手を取り合う。それによって中露が変わり、やがて北朝鮮ほかの小煩い小国家群も制御されて世界はより平穏になる。

そこで世界は、自由と民主主義と人権と寛容が尊重される理想郷を目指して、再び試行錯誤を繰り返しながら歩みだす、というのは僕の甘い夢想、あるいはポジショントークに過ぎないのだろうか・・・

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