国会にてコンテ答弁両脇の副首相


イタリア政府の2019年度の予算案に対して、財界や中央銀行はもとよりEU
(欧州連合)からも見直しを迫る声が相次いでいる。財政赤字の対GDP(国内総生産)比率が2.4%となるバラマキ予算案だからだ。

赤字の対GDP比率が2、4%という数字は、民主党前政権が示した予想の3倍に上り、来年の構造的債務をGDP比で0.8%まで押し上げる計算になる。それは国内外のエコノミストやEU(欧州連合)からの批判を招いたほか、イタリア政府債利回りの大きな上昇を招いた。

同盟と五つ星運動が連立を組むポピュリスト政権は、一律15%の所得税導入、貧困層への1ト月一律10万円余のベーシックインカム支給(最低所得保証))、年金給付年齢の「引き下げ」などを主張して選挙を戦い、勝利した。

そして6月に政権運営が始まると同時に、選挙公約を実現しようとやっきになっている。イタリアは約2兆3000億ユーロ(約300兆円)というEU圏最大の借金を抱えて呻吟している。それはEUが緊急時に加盟国を支援する常設基金、ESM(欧州安定メカニズム)でさえ対応しきれない規模の数字だ。

その額は例えば、1100兆円に近い日本の累積債務に比較すると小さく見えるかもしれないが、日本の借金が円建てでイタリアのそれがユーロ建てであることを考えれば、天と地ほどの違いがある。

分かりやすいように極端なことを言えば、日本はいざ鎌倉の時には自国通貨を発行しまくって借金をチャラにすることができる。が、EU共通通貨ユーロの発行権を持たないイタリアにはそんな芸当はできない。

借金漬けの家計を整理し健全化するのではなく、さらなる借金で楽に暮らそうとする一家があるならば、その家族には必ず自己破産という地獄が訪れることになる。

イタリアの現政権が打ち出した2019年度の予算案は普通に考えれば、自己破産という地獄へ向けてまっしぐらに走る、「借金漬け一家」のクレージーな生活設計である。

政権の主張は減税と福祉支出等の増加によって経済成長を促すというもの。2019年の経済成長率を1.5%、2020年を1.6%、2021年を1.4%と予測している。だが それらの数字に対しては、多くの専門家が楽観的すぎるとの批判を強めている。

政権の実質的なボスであるディマイオ副首相兼労働相は、ベーシックインカム導入に強い意欲を示し、年金給付年齢を引き上げた2011年の政府決定は、選挙を経ないテクノクラート内閣が決定したものであるから無効だ、として年齢引き下げを強硬に主張。

また 政権内で彼と同等以上の力を持つと見られている片方のボス・サルヴィーニ副首相兼内相は、イタリアの来年の経済成長率は政府が先に示した1,5%ではなく2%になる、と根拠のない主張をするありさま。

2人のボスは「予算案を批判しているのはイタリアを今の混乱に導いた張本人たちだ」と吼えて、内外の政敵をけん制している。

政権を担当することになった彼らの今の主張を待つまでもなく、五つ星運動と同盟が去った3月のイタリア総選挙で勝利し連立政権を組んだところで、今日の状況が訪れることはすでに分かっていたことである。

言うまでもなく彼らは、移民難民を排斥し、(票獲得のために)ありとあらゆるバラマキ策を実施し、米トランプ主義を大手を振って賞賛する、ということを繰り返し主張し実践し確認して、政権を掌握した。

いまさら彼らの施策につべこべ言うのは負け犬の遠吠えにも似た無益な態度だ。それがイタリアを破壊するものであっても、彼らは行き着くところまで行くべきだ、というのが僕の一貫した主張である。

事実上の首班であるサルヴィーニ副首相兼内相と、ディマイオ副首相兼労働相は内外からの批判に答えて、予算案の見直しは絶対にしない、と繰り返し発言している。EUへの強い対抗意識がはたらいているからだ。

予算案は間もなく正式にEU本部に提出される。EUは見直しを求めてそれをつき返すと見られている。イタリアは従わない場合は巨額の罰金を科され、且つEUとの厳しい対立に巻き込まれることになる。

対立はEUに再びソブリン危機並みの混乱をもたらすかもしれない。またイタリアがユーロ圏から去り、挙句にはEUそのものからの離脱を模索する可能性さえある。

そうした危険も、同盟と五つ星運動というポピュリスト勢力が政権を樹立した時点で、予測されていたことである。イタリアは大きな岐路に立たされている。

ところが各界からの非難や懸念や罵倒などにも関わらずに、イタリア国民の連立政権への支持率は高い。それはそうだ、彼らは反EU政策を選挙公約に掲げて選挙戦を戦い勝利を収めたのだ。

国民の支持率の高さは、ジュゼッペ・コンテ首相への信頼感と無関係ではない。政治的には全く無名の存在だったコンテ首相は、政権の船出の頃こそ学歴詐称疑惑などでつまずき「ミスター・ノーバディ(名無しの権兵衛 )」などと揶揄される存在だった。

ところがその後、同首相の学者然とした落ち着いた慎重な物腰が好感されて、政治家のアクの強さに辟易しているイタリア国民の心をしっかりと捉え、人気が高まっている。

最新の世論調査によると、コンテ首相の支持率は67%に達する。その数字はここ最近の彼の前任者の誰よりも高いものだ。さらにその数字は彼よりも目立つことが多い連立政権の2人のボス、同盟のサルヴィーニ党首の57%、五つ星運動のディマイオ党首の52%よりも高い。

コンテ首相への好感度も手伝って、ポピュリスト政権への支持率も64%に達する。また同盟と五つ星運動両党への支持率も合計で62%余りにのぼっている。政権発足から100日目までのいわゆるハネムーン期間の状況は願ってもないものだ。

ポピュリストとも寄せ集めとも揶揄される政権が、国民から高い支持を受けているのは、選挙公約を忠実に実施しようとする彼らの「ぶれない」姿勢が評価されているからだ。

同時に、深い政治不信に陥って疲弊しているイタリアの有権者が、確かな「変化」の風を感じて、国中が密かな興奮に包まれている状況もある。それが冷めない限り、イタリアの危機はますます深まるばかりである。


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