さきらく第四席「姫の芝浜」

演:永史亭春


テンテケテケテンテン♪


 団体戦で一番大事なのは、個人の実力ではなくチームワークだ、というように、レギュラー陣同士での信頼関係というものは非常に大切にされます。
 かくいう私たちも、永水女子の代表として、姫様を支えるべく団体戦にエントリーしたわけでございますが……。

 ふぅ。あまりしゃべるのは得意ではないもので。

 ならば何でこんなことをしているのかと言われれば返す言葉もないのですが。
 私にも事情というものがございまして、ここで一席お付き合い願います。

 牌に愛された子、霧島永水の姫と呼ばれる神代小蒔でございますが、お察しの通り素の雀力はからっきし。十万点持ちでも飛びかねないのですが。
 しかし寝ているときの強さと言ったら、並大抵のものではございません。

 まあ、本人は納得のいかない部分もあるようで。

「起きている私は、皆さんの足を引っ張ってしまっているのでしょうか……」

 もちろん強いとは言えませんが、それでも私たちは仲間なものですから、そんなことは滅相も思っておりません。何とか姫様に自信を持ってもらいたいものなのですが、そう考えていたある日のこと。

「つ、自摸です! 四暗刻!」

 部内の練習試合で、姫様が役満を和了りまして。聞けば起きているときでは初めての役満和了。
 これが相当嬉しかったのでしょうか、それっきり安心してずっと九面に頼りっぱなしに。

「確かに九面は強いのだけれど、小蒔ちゃんのためにはならないわね」

 ババアとかいうとそれはもう大層教育されてしまいますので、露出狂ロリ巫女のような真似は致しません。
 それはさておき、確かに姫様の今後を考えると、能力に頼りっきりなのはよろしくない。

 そういう事でその晩は終わり、あくる日の部活です。

「霞ちゃん、昨日の牌譜、記念に取っておきたいのですけれど」

「昨日の牌譜? 何かあったかしら」

「姫様は昨日も普段通りだったのですよー」

 誰も役満のことを覚えていません。

「それは、やっぱり夢じゃないですか?」 

「と、巴ちゃんまでそんなことを言うんですか!?」

「でも、実際に牌譜はないわけですし、昨日も姫様寝てたじゃないですか」

「それは、そうですけれど……」

「巴さんが嘘をつくとは思えないのですよー」

「いえ、巴さんの言う通りかもしれませんね……大会も近いのに、変な夢を見ちゃいました。情けないです、あんな夢を見るなんて。もう、能力に頼りっぱなしなのはやめます! 力というものはもらうものじゃなくて自分でつけるものです! やっと目が覚めました」

 それからというもの、姫様、 朝早くから夜遅くまで麻雀に精を出しました。元々素質がないわけではございませんから、どんどん腕は上達し今では一端のエースです。

 数か月、経ったある日のことでございます。

「小蒔ちゃん、その局が終わったらちょっといらっしゃい」

「はい、これで終局です。何でしょうか、霞ちゃん?」 

「話しておきたいことがあるのだけれど、話が済むまで怒らないって約束してくれるかしら?」

「何のことかはわかりませんが、約束します」 

「本当?」

「はい。約束します」

「それじゃあ、この牌譜を見てほしいの」 

「これは、四暗刻ですね。これが一体?」

「この牌譜に、心当たりはないかしら」

「そう言われてみれば、数か月前にそんな夢を見た気がします」

「あれは夢じゃなかったのよ。小蒔ちゃん、本当に役満を和了ったの」

「えっ? 本当ですか! ひどいです!」

「小蒔ちゃん、怒らないって約束したでしょう」

「しました」

「小蒔ちゃんのこと心配だったのよ。あれで安心しちゃって、満足しないかって。能力に呑まれたりしないかって。小蒔ちゃんが眠っている間に、牌譜を隠して、保管しておいたの。でも、あれから頑張って、小蒔ちゃんも実力をつけた。だから、お詫びかたがたこの牌譜を見せることにしたのよ。怒るのも無理ないわ、せっかく初めての役満の記念の牌譜だったのに」

「怒るつもりなんてありません。皆さんのおかげです。あの時に満足していたら、私は弱いままだったかもしれません。ありがとうございます」

「嬉しいわ。数か月ぶりかしら、もっと九面を降ろして打ってもいいかもしれないわね」

「そうですね、そろそろ役満が恋しくなってきましたが……でも」

 そう言うと姫様、牌譜を棚にしまってしまいました。

「やめておきます」

「どうしたの、小蒔ちゃん」

「また夢になってはいけません」


 お後がよろしいようで。


テンテケテケテンテン♪

「第五席 怜そば 馬素賀出留亭怜」ペラッ