さきらく第六席「編失気」

演:須叭月亭照

 
テンテケテケテンテン♪


 楽屋でお菓子を食べておりましたらもうこんな時分になっておりまして、第六席目にしてやっと演ずることになります。

 インターハイAブロックがメインとして描かれた、番外編、阿知賀編も先日で最終回を迎えました。私は明らかに敵役としての登場でございましたが、あの日倒れた園城寺も今では同じ落語家としてぴんぴんしております。

 先ほども私が扇子とポッキーを間違えて持っていこうとしまして、引き留めてくれた優しい同僚です。

 さて、女子高校生麻雀部の活躍が描かれている咲-Saki-という物語でございますが、もちろん私達には大変思い出深い作品でございます。

 ある夏の日、 部室で漫画を読んでいる時のこと。

「菫、ホンペン、ある?」

 何やら池田が嶺上開花、もとい、ハトが豆鉄砲をくらったような顔をした菫でしたが、どうやら菫には少々の知ったかぶりの気があったようで。

「ホンペン? あー、ない、な。持っていない」

「そう。ないならないでいいんだけど」

 そう言って帰ったのですが、これが気になってしょうがない。

「ホンペン……? 何だホンペンって。しまったな、あの場で聞いておけばよかったものの、ついつい知ったかぶりをしてしまうのは私の悪い癖だ」

 一辺癖で痛い目を見たにもかかわらず学習しない人でございます。 とにかくホンペンというものが気になってしょうがありません。

「ホンペン、ホンペン、そうだ、淡だ。あいつは意外に何でも知っているからな、ちょいと淡を呼んでみよう」

パンパン

「淡、いるか」

「はーい、なになにどったの?」

「お前、ホンペンはどこにやった?」

「ホ、ホンペン? 何それ?」

「この前預けただろう? もしかして忘れたのか?」

「え? え? そんなの知らないよ!?」

「しょうがないやつだな、そうだ、亦野に聞いてひとつ借りてこい。実物を見れば思い出すだろう。ほら、行ってこい」

「はーい…………菫ってばおかしなこと言うなー。ホンペンなんて見たことも聞いたこともないんだけどな。ましてや借りた覚えなんて全然ないよ」

「お、どうした淡、難しい顔をして」

「あ、亦野先輩ちょうどよかった。菫に頼まれたんだけど、ホンペン貸してください」

「……は?」

「ホンペン、一つ借りたいんですけど」

「ホンペン……あー、ああ。清澄の副将が持ってた、あれ」

「清澄?……それエトペンじゃないですか?」

「あー、そうだっけ」

「エトペンじゃなくてホンペンですよ」

「うっかりしてたわ、ホンペンな、ちょっと待ってろ、尭深が持ってた気がするわ…………尭深、尭深!」

「……何?」

「淡がホンペン貸してくれってさ」

「ホンペン……ギリシャの?」

「それ、多分だけどポンペイだな」

「埋まっちゃったとこ?」

「埋まっちゃったとこ。そうじゃなくてホンペンだよ」

「ラケットとボールどっちも?」

「それピンポンだな」

「よくわかったね」

「だろ? じゃなくて、淡がホンペン借りに来てんだよ」

「ホンペン……? 何、それ」

「まったく、尭深知らないのか? ホンペン……え? いや、私も知らないよ。まあ、淡のことだから適当にごまかせばいいか」

「淡ちゃんかわいそう……」

「大丈夫大丈夫……ああ、悪い、待たせたな」

「ありました? ホンペン」

「いやー、ちょうど一個あったんだけどな? さっき宮永先輩が食べちゃったみたいなんだ」

「ホンペンって食べれるんだー」

「東京バばな奈みたいな味がするらしいな」

「へー。んー、じゃあいいです、ありがとうございましたー」

「はいよー」

「テルーが食べちゃったんだ……菫ー、行ってきたよー」

「おお、どうだ、ホンペンは見つかったか?」

「亦野先輩に借りに行ったんだけど、テルーが食べちゃったんだって」

「食べた……? そうか、照が食べてしまったのか、あいつもしょうがないやつだな」

「あのー、菫、ホンペンって何?」

「ふう、お前はわからないことがあれば何でも私に聞けばいいと思っている節がある。その心に油断があるんだ。いいか? 人間は恥じることによって物事を強く覚えるんだ。しょうがない、照のところへ行って直接聞いてこい。そして、さっき照が借りようとしてたホンペンなんだけど、私それが何か知らないから、今後のために教えて、と頼んでこい。ただ、くれぐれも私に言われた、なんてことは言うなよ。で、聞いてきたら私のところへ戻ってこい、使い方を教えてやるから」

「はーい…………うーん、やっぱりホンペンなんて聞いたことないんだけどな。えっと、多分テルは図書館に……いた、テルー!」

「淡、図書館の中では静かにしなきゃ」

「ごめん。あのね、さっきテルが借りようとしてたホンペンなんだけど、私それが何か知らないから、今後のために教えて?」

「わざわざそれを聞きにきたの? 聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥、って言うけど、淡も素直になったね。でも、別に教えるほどのことでもないかな」

「もしかして、あんまり聞いちゃいけないこと?」

「いやいや、違うよ。うん、ホンペンって言うのは、咲のことだよ」

「サキ? テルの妹の?」

「惜しい。咲が主人公の漫画、咲-Saki-のことだよ」

「えー! 漫画!?」

「うん」

「違うよー! だってさっき亦野先輩が、ホンペンは照が食べちゃったって言ってたもん!」

「さすがの私も漫画を食べるほど意地汚くはない」

「ホンペンって、咲-Saki-のことなの?」

「そう。番外編の阿知賀編に対して、ホンペン、本編だね」

「そっか、なるほどね、本編か」

「わかった?」

「うん! ありがと、テルー!…………番外じゃない方の本筋の話だから、本編、か。なるほどね~。って、あれ? 亦野先輩、テルが食べちゃったって言ってたけど……ふふ~ん、さては本編が何か知らなかったんだ! 一年坊の前で知らないって言うのは恥ずかしいから、ごまかそうとしたんだよ。汚いなぁ、まったくもって! 大体先輩達って……もしかして、菫も知らないのかな? そうだ! 菫を試すために、意地悪しよう。阿知賀編の方を持っていって、これがホンペンだよ! って言って、菫がそうだって言ったら菫も知らないんだ。ただで怒られるのは嫌だから、よーし!」

「遅かったな、淡」

「ごめんごめん、ちゃんと聞いてきたよ!」

「そうか、何て言ってた?」

「ねえ、菫は本編が何か知ってるんだよね?」

「当たり前だろう」

「じゃあ別に言わなくてもいいよね」

「ちょ、ちょっと待て。照はああ見えて結構抜けていることがある。一応確認してやろう」

「ふ~ん、えっとね、テルは本編は咲-Saki-阿知賀編のことだって言ってたよ?」

「漫画のか?」

「うん」

「ホンペンホンペン、ああ、私たち白糸台が描かれているから、なるほどそれで本編か……ん、ゴホン、そうだ、淡。この前本編を貸しただろう」

「借りたっけ? プクク」

「何がおかしい?」

「なんでもないよ~?」

 この日はここでおしまいでございますが、次の日も部室で漫画を読んでおりますと。

「そうだ、照。昨日は無いと言ったがな、うちにも本編はあったぞ」

「そうなんだ、あれは感動だよね」

「ああ。部員が少ない麻雀部が、力を合わせて全国を目指す、うちでは経験できないものだな」

「特に県大会の決勝は見ものだね」

「県大会? 王者を速攻破ったところか」

「まあ、本編の王者は去年も負けてたけどね」

「何!? じゃあ王者の打ち筋ってのは何だったんだ!?」

「にゃあああああ、ってやつじゃない?」

「にゃあ!? そもそも県大会は四ページくらいじゃなかったか?」

「え? それってもしかして番外編? 普通は清澄の方を本編っていうんだけど」

「何!? くっ、淡! 淡出てこい!!」

「わああああっ!!」

「騙したのか!? 清澄の方が本編ならこれは何だ!」

「ええええええっと、えっと、その」

 とっさに一言。

「あっちが変!」


 お後がよろしいようで。


テンテケテケテンテン♪

「改名記念 第七席 池田の皿 丸跋亭穏乃」ペラッ