さきらく第十二席「新免鰻」

演:暑寒亭美幸


テンテケテケテンテン♪

 インターハイというものは、まあ全国からいろんな人が集まってくるもので。
 中でも服装というのはそれはそれは個性的な人が大勢いるものでございます、もー。

 穏乃ちゃんはジャージで対局しておりまして、それこそ注目の選手でございましたが、もっとすごい人が大勢いるのがインターハイ。

 個人戦で活躍しました三箇牧の荒川さんはナース服、妹弟子の春は巫女服で出場しておりました。

 しかしまあ、もーすごい勢いで異彩を放っていた選手がおりまして、それが岡山は讃甘高校のエースで部長、新免那岐さん。対局室に二本の刀を持ち込んだのは有名な話でございます。

 何でもその讃甘というのが、かの有名な剣豪、宮本武蔵の生誕地と言われておりまして、彼女の二刀流もそれを由来としているようでございます。

 しかし、惜しくも、といいますか。讃甘高校は阿知賀に敗れて一回戦敗退。

 同じブロックにはこれまた前年度個人戦十五位の寺崎遊月さんがおりまして。
 実力は申し分ないのですが何ともえらく強気で勝ち気な女の子でございます。

 さて、その新免さんと寺崎さん、ひょんなことから店を構えることになりまして。
 その店というものが、なんと鰻屋でございます。

「鰻屋を始めたのはいいものの、客足はうっすいねぇ~」

「ふん、戯れ言を抜かす前に手を動かしたらどうだ」

 生憎新免さんは会話シーンがなかったもので、喋り方なんかは私の想像です、もー。

「しかし、何だい? 岡山ってのは鰻が有名なのかい?」

「別段有名という事はないが」

「そうかいそうかい、まあ、富山も有名ってわけじゃないんだけどね」

「それにしては鰻の捌き方が妙に板についているな」

「私を誰だと思っているのさ、個人戦十五位の寺崎遊月だよ」

「関係ないと思うが」

「まあ、私に任せな。すぐに繁盛する鰻屋にしてやるよ」

 腕がいいのは確かな様で、流しから料理、出前、何でもござれでございまして、新免さんも満足の働きぶりでございます。

 しかし勝ち気な寺崎さん、そうそう長く続くわけもございません。
 店の方針と自分の意見が衝突する度に、すぐにかっとなってしまう性質でして。

「富山じゃこんなのは鰻って言わねえよ! とろ一見習え!」

「岡山の鰻だって十分美味いだろう」 

「とろ一は北陸一の鰻屋なんだよ! もういい、こんな店出て行くよ」

「出て行きたいなら出て行けばいい」

「わかったよ!」

 とまあ、ほんのちょっとの諍いで寺崎さんが出て行く、新免さんがほっとく、そして頭を冷やした寺崎さんが帰ってくるといったのがいつものことなのでございますが、しかし今回ばかりはいつまでたっても帰ってこない。
 そこそこ繁盛した店でございますから、鰻を捌けないことには客足はぱったりと途絶えてしまいます。

 仕方がないので新免さん、福島の方から助っ人を呼びますが、その助っ人というのが裏磐梯高校の先鋒、森合愛美さん。

「そういうわけで呼んだのだが」 

「私スキーしかできませんよ」

「何、捌くのは私がやろう」

「新免さん鰻捌けるんですか?」

「こう見えて二刀流の居合の心得がある。鰻くらい捌けるさ」

 意気揚々と言ったはいいものの、鰻に関しては素人でございますから、ぬるぬるして中々つかめない。
 米ぬかなんかを滑り止めにして、ああ、もー、やっとのことで一匹捕まえてまな板に打ち付けますと、今度は隣の鰻がにょろにょろ逃げ出します。

 何とか捕まえようと、両手で交互に掴み掴み、とうとう戸口の方に向かいまして。

「森合、履物を出してくれ!」

「どこに行くんですか?」

「どこにだと? それは鰻に聞いてくれ」


 お後がよろしいようで。


テンテケテケテンテン♪

「第十三席 咲世床 丸跋亭穏乃」ペラッ