Over The Hills and Far Away : Gary Moore


 


インターハイが終わった夏。

一つの事件が世間を騒がせた。

「何故だ!? どうしてだ照!!」

インターハイ三年連続個人戦優勝。

「何とか言ってよ、テルー!!」ポロポロ

前人未踏の快挙を成し遂げたチャンピオン。

「早く入れ」

白糸台高校先峰、宮永照が。

「…………ごめんね」


強盗容疑で逮捕された。


「被告は強盗の罪により告発され……」

「……」

わかっていた。

「被告人は未成年であり、このような事件を起こすとは考えにくく……」

どんなに無実を主張しても。

「現場に落ちていた凶器には被告人の指紋が付着していて……」

どんな理由を並べても。

「被告人には、事件当時のアリバイがない」

「……はい」

私は自由の身にはなれない。


………………


(ここで暮らすことになるのか)

言い渡されたのは懲役十年。

(……長いな、十年。ここを出るときには私はもう二十八か)

あまりにも想像がつかなくて笑ってしまいそうだ。

「ここだ」ジャラッ

通された独房は白い部屋だった。

「……テレビ、見てもいいんですか」

「自由時間ならな。房の中ではある程度は何をしてもかまわん」

「わかりました」

早速つけてみる。

(私が映ってる……どこの局もこの話題が多いな……)

インターハイが終わってすぐの出来事だ。世間の関心も高まるんだろう。

「――――あ」

決勝卓のハイライト。

「…………」ポロッ

「っ……ううっ……」ポロポロ

あの子が、画面に映っていた。

いつも、どこか淋しげな。

少し物悲しいような表情で麻雀を打つ女の子が。

映っていた。

「ううううう……」ポロポロ

松実宥。

私の親友の彼女であり。

私があの日共に夜を過ごした女の子だった。


『私が本当の事を言えば照ちゃんの容疑は晴らされる……!!』

『それはダメ。絶対にダメ』

『どうして……っ?』

『菫が、傷つくから』

どの面下げてそんな事が言えるのか。

親友の恋人を奪うような事をして。

『でも……あんまり、だよ……』ポロポロ

『宥』

『なに……?』

『泣かない、で……』

これは罰なんだ。きっと。

親友をずっと騙しつづけた、私への。

『宥は、宥はいい子だから。私と一緒にいてはいけない』

『……照ちゃん』ポロポロ


『……終わりにしよう』


「……ん」

ふと目が覚める。

(泣きながら寝ちゃってるなんて……私は子供か)

「何時だろ……」

小さな窓から見える空は、灰色の雲で覆われていた。


丘を越えて遥か彼方。

「おねーちゃん! 頑張ってね!!」

「うん」

五年前の出来事がもう世間の人々から忘れ去られてしまいつつある。

「行ってくるね」

私はありとあらゆる手を使って、貴女を太陽の下へ取り戻そうとした。

貴女の潔白を示そうとした。

貴女はあんなことを言ったけど。

「全日本選手権決勝、その対局者がステージへと姿を現します!」

白糸台のシャープシューターさんは、私達のことなんか全部見抜いていた。

『当たり前だ……どれだけ君のことを見ていたと思っている』

『だから、さっさとあいつを外に出して、一発ぶん殴る。一発ぶん殴って…………宥を幸せにさせる』

私と菫ちゃんは、必死になって、無罪の証拠を集めようとした。

でも、二年前、あの手紙に書いていたように。

『本当の強盗事件の犯人は、もう、死んでるんだ』

アリバイの証明も棄却された。

もう何もかも投げ出したくなったこともあったけど。

パァンッッ

『君が死んだら!! 照はどうなる!?』

『菫ちゃん……』

『私は何としてでも、何年かかってでもあいつの無実を証明してみせる。だから宥は、あいつの戻る場所でいてくれ!!』

『照ちゃんの、戻る、場所……』

ごめんね。

私は一度諦めようとしたことがあった。

だけど、もう二度と、投げ出さない。

貴女の腕の中へたどり着くまで。

私は、貴女のいるべき場所を守りつづける。

「全日本選手権、決勝まで全局プラス収支! 日本一の座を奪うことができるか? ハートビーツ大宮、松実宥!!」


丘を越え遥か彼方。

「ついに今日、か」

十年間で職員とも随分と親しくなった。

「寂しくなりますか?」

「馬鹿言え。二度と戻ってくるなよ」

「こっちだってごめんです」

手に豆ができなくなるくらい、ずっとお互いを相手に麻雀を打ってきた。

他にも、囚人と打ったことだって何度もある。

時にはそれが原因で死にかけたこともあったけど。

「お前、プロを目指すんだっけか」

「はい」

「……正直、厳しい道程になると思うぞ」

「わかってます」

菫が本当に頑張ってくれているみたいで、最近はどこのニュースでも取り上げられている。

元インターハイチャンピオン、冤罪で十年間の拘留か。

「容疑、晴れるといいな」

「知ってたんですか? 誤認逮捕だって」

「確信はなかったんだけどな――――お前に強盗は向いていなさ過ぎる」

「……出してくれればよかったのに」

「こっちも仕事なんだよ……悪いとは思ってるんだがな」

「まあ、めでたく今日で出所です。今までお世話になりました」

「ああ、待て。まだ残ってるんだ」

上着の内から見慣れた封筒を取り出す。

「お前宛ての、最後の手紙だ」

中身を見て、つい笑ってしまう。

「結局最後までわからなかったんだが、その手紙、誰からのものだったんだ?」

「案外、よくご存知の人かも知れませんよ?」

つけっぱなしのテレビには、ピンクのマフラーをしたトッププロが映っている。

(五年連続優勝、私でも成し遂げたことはないのに)

あの場所に戻るのは、確かにきつそうだ。

(……けど)

きっと、私は戻ってみせる。

貴女の腕の中へ。


丘を越え遥か遠く。