遠い日の約束

ギン乱,小説, 登場人物は市丸ギン、松本乱菊、ちょっと平子真子。 
真央霊術院入学前卒業後までの妄想。
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最近、家に戻らないと思っていたら、突然帰ってきた。
ギンは、土間に転がったまま、袋を差し出す。

干し柿。

別に、お土産を買ってこなくても、怒らないし、詮索だってしないのに。
まあ、うれしいけど。
乱菊は満面の笑みで受け取る。

「なあ、ボクね、真央霊術院に入ろうと思うわ。」
「シンオウ…インって何?」
「死神になる学校。」
「ギン、死神になるの?」
「そう。」
「ふーん。まあ、ギンってケンカ強いもんね。」
「乱菊もいっしょ入れへん?」
「え、私?やーよ。私、呉服屋になるんだもの。」
「そっか、乱菊、服縫うの上手いからね。」
「でねでね、呉服屋のアルバイト決まったの。南越後屋って、わかる、大きな呉服屋、あそこで子供服のモデルやるの。」
「へえ。がんばりや。」


この一週間、ギンは、毎晩、家にいる。
「ねえ、ギン、でかけないの?」
「おったらあかんの?」
「そういうわけじゃないけど…」
それどころか、バイトの帰りには迎えに来てくれる。
やっぱり、あの日のこと、気にしてるのかな?
別に、もう大丈夫なのに。

一週間前、バイト帰り、夜道で男に襲われた。
実際には、危ういところをギンに助けられ、何にもなかったのだけど。
私って子供じゃないの?
もう、そいういう対象なの?
そういえば、最近男が親切だなあとは思ってたけど。
大体、きたないガキっていつも街で追っ払われていたのが、仕事が見つかるようになったんだものね、
私、もう、子供じゃないんだ‥きっと。うん。
なんて、今は冷静に考えられるけど、あの日は、びっくりしてびっくりして、ギンの前で、取り乱して泣きじゃくってしまった。
ギンの前で泣くなんて何年ぶりだっただろう?
やっぱり気にしてくれているのかしら。


「ねえ、私ならもう大丈夫だから、いつもみたいに、ふらふらして来ていいのよ。」
「…なぁ、乱菊も、真央霊術院いっしょに入らへん?」
「え?」
乱菊は目を丸くする。
「死神になりたくないなら、ボクが死神になったら、やめて呉服屋で働き始めればえぇよ。瀞霊廷でいっしょにくらさへん?」
「でも……死神の学校なんて、私、無理だよ。ギンみたくな力強くないもん。」
「乱菊、ちゃんと霊力あるよ。ボク、わかる。それに‥やっぱり、ここに、置いてけへんわ。」
感情のこもらない声で、ギンは言った。
そして、目をあわさずに、
「いっしょ行こう。」
「う、うん。」
「おおきに。」


霊央霊術院

ギンと乱菊は一発で入試に合格し、1組、すなわち特進クラスに在籍していた。
試験も訓練も、私たちが暮らしてきた環境に比べれば、生ぬるいものに感じた。
おかげで、二人ともいい加減なわりには成績は良かった。
しかし、とりたてて目立つほど優秀というわけでもなかった。
あの時までは。

「今日は1年次最後の総合実技試験だ。
この白い枠の中で、私たち教官と1対1で勝負する。
ただし、これは真剣を用いて行う試験だ。
すなわち、本気で闘うということだ。いいな。」

本気っていったてねぇ…
乱菊は退屈そうに試験風景を見つめる。
ほのぼのとしたものだった。
教官もかなり手加減しているし、あの狭い枠で、2,3分先生の攻撃をかわせばいいんでしょう?

「次、松本!」
「はい。」
「おまえは、いつもふざけているツケがまわらないといいな。」
げっ、豚メガネ…!
やる気がない、育ちが悪い、外見が目立つ、3拍子揃った乱菊は、この教官にかなり嫌われていた。

「おねがいします。」
乱菊は、軽く構えると、いきなり、間合いに入られる。
なんとかかわすが、じーんと腕がしびれる。
その後も連続攻撃。
ちょっと、私のときだけ強くない?しかも早くない?
が、持前の気の強さで切り返す。
と、さらに教官の太刀さばきが鋭くなる。
最終的には、押し負けて、よろける。
「そこまで、場外だ。」
審判が旗をあげた。
「松本、2分ぎりぎりじゃないか、今まででの生徒で、最低の成績だぞ。」
豚メガネが一言。
乱菊は、無言で一礼して下がる。

乱菊は、ため息まじりに、腰をおろした。
っとについていないわ…
と、視界に銀色の髪がちらつく。
隣に、すとんとギンが座った。
「えらいめにおおたね。」
「…別に。」
「乱菊、腕、みして。」
「っ痛…」
「手首いためたやろ?」
「…気がつかなかったわ。」
「日頃の行いが悪いからやない?」
乱菊は、黙ってむくれる。
「もっと要領よく生きなきゃあかんよ。」
ギンは、いつのまにか手首に布を巻き固定してくれる。

が、そこで、豚メガネの怒号。
「こら、また、松本か!私語を慎め!他の物の試合をちゃんと見ろ。」
…本当に目をつけられているわ。

豚メガネは傍らのギンの視線を落とす。
「次、市丸。」
ギンは、真剣をひょいっと抜くと、前に出ていく。
「よろしゅうお願いします。」

「はじめ。」
審判の声が響く。

「市丸、へらへらしていると、特進から落ちるぞ。本気で来い。」
「…本気だして、ええの?」
教官にしか聞こえないくらい、小さな声が低く響く。
「あたりまえだ。」
教官は、そう言って、剣を振り上げた。

が、次の瞬間、教官の動きが止まった。
そして、どす黒い血がポタポタと滴り落ちていく。
教官の身体が崩れる。

何も見えなかった。
何がおこったかわからなかった。
みんな、あまりのことに、動けない。

「ちょっと、早く人呼んでよ!まだ、死んじゃいないわよ!!」
乱菊の一括で、我にかえった他の教官が、4番隊に連絡を入れる。

乱菊は一人、止血を試みながら、ギンを見上げる。
「ギン、あんた大丈夫なの?」
「無傷やけど。」
「だ、だったら、早く手伝いなさいよ!!」
ギンは、静かに血に染まった剣をもどすと、乱菊を補助する。


教官は、その日のうちに亡くなった。
ギンは、院には戻らなかった。
「1組所属、市丸ギンは、本日をもって、本院を卒業し、5番隊に配属された。以上。」

1年で霊央霊術院を卒業という異例の待遇にもかかわらず、
以後、ギンのことが、表向きに語られることはなかった。
あまりに血なまぐさい事件がつきまとうため。



あーあ、眠い。
乱菊は、霊央霊術院の裏庭の柿木の上で、あくびをした。
前は、よく、ギンとここでさぼっていたな。
あれ以来、ギンに会っていない。
連絡しようにも連絡先がわからない。
このまま会えなくなっちゃうのかな…実感がわかない。
そもそも、ここに私を連れてきたのは、ギンなのに。
ギンが死神になったら、いっしょにくらそうって言ったのに。
って、まあ、いいんだけど。
霊央霊術院には、寮もあるし、食べ物もあるし。
置いて行かれたとか贅沢は言えない。

「また、サボってるん?こりない子やね、乱菊は。」

ギン?
乱菊は、下を見る。

「最近、真面目にやっているわよ。」
「ホンマ?」
「そっちこそ、仕事さぼってるの?」
「そうや。」
「怒られるよ。隊長さんとか副隊長さんとかいるんでしょ。」
「大丈夫や、ボク、要領ええから。」

いつもどおりにしなくちゃ…
ギンに会って、涙がでそうなくらい、うれしくなるとは思わなかった。
本当は心細かったのかな?

「どう、楽しい?」
「まあまあやね。」
「そう。」
「乱菊は、どうなん?」
「まあまあ。」
「成績上がったんやってね。」
そういや、豚メガネがいなくなったら、なぜか成績上がったわ。
「なんで、そんなこと知ってるの。」
「人事評定で、院の成績見られるん。」
「ふーん。」
「乱菊も死神なるん?」
「わかんない。」
「そっか。」
ギンは、小さくうなずいた。
乱菊は、目を丸くする。
もしかして、覚えているの?
約束。

「ギン…わたし。」
「どうしたん?」
「わたし…」
いっしょにいたぃ…

いっしょにいたら、邪魔かな?
急に脳裏にはしる思い。

今までそんなこと考えたことなかった。
どうして?

「どうしたん?」
「なんでもない。」
「あかん、もう、行かんと。」
「もう?」
思わず。
ギンは、袂から、透明の小石のついた首飾りを取り出し、首元に軽くあてる。
「思ったとおり似合うわ。」
「あ、ありがとう。」
「ほな、行くわ。」
乱菊は小さくうなずく。

死神になったら、
私が死神になったら、
いっしょにいても邪魔じゃない?
足手まといにならない?



数日前の給料日

「ギンのやつ、子どものくせに、何を買うてるんや?」
平子がぎょっとしたように。
「子供すぎて、お金の使い方がわからんとちゃうん?藍染教えてやれ、いくらなんでも。」
初給料袋ごと、渡して、高価な石をちりばめた首飾りを手にする子供。
「自分、それどうするんや?」
「キラキラして綺麗やから。」
ギンは、営業スマイルで答える。
「綺麗やからって…」
「女性にでもあげるんではないですか?」
藍染が横で穏やかに笑う。
「女性って、あいつ、まだそんな生意気な年ちゃうだろ?お前ら、ポイントずれてるぞ。ぜったい。」



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5番隊時代、ギンは、藍染の部下だし、平子の部下でもあるんですよね。二人の絡みがみたいです。だって、いくら、入ったばかりとはいえ、天才少年とかなら、少しは、隊長も覚えているはずでは。なのに、過去編では、二人のやりとりなし。さびしいわ。

そして、乱菊と同期設定。卒業年次じゃなく、入学年次でいっしょ設定にしてみました。

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