これは世紀末うどん伝説か?『北斗の拳』みたいなグルメマンガ『食戦記』

これは世紀末うどん伝説か?『北斗の拳』みたいなグルメマンガ『食戦記』

飽食の時代といわれる現代において、日々雑誌やネットで紹介されるグルメ情報やレシピ情報は、われわれにとって欠かせない情報のひとつとなっていますね。しかし、「食べログ」とか「クックパッド」などでお気軽に手に入れられるような情報が、ある日忽然と消滅し、特定の人間たちだけが情報を操ることのできる世界が訪れたら、人々はどうなってしまうのか……?

今回ご紹介するマンガ『食戦記』は、人類が壊滅し、あらゆる文化が崩壊、原始時代に逆行した近未来の世界が舞台。生き残った人間たちの間には、知性より暴力による支配が横行していて、まるで『北斗の拳』のような世界観になっています。出てくるキャラも、いかにも「ヒャッハー」って言いそうな格好をしています(実際は言わないけど)。

そんな世界において、数少ない知性を持った一族が「食師」という人々でした。食師は民を飢えから救うために、自然の中で食べられる物を見分け、 食物の栽培や料理法等を教えてくれるという、こんな時代に超ありがたい人たちなのですが、頭の悪そうなヒャッハーな人たちには理解されません。

「人間業とは思えないような超おいしい食い物を作る奴らがいる」→「なんだ? コイツらは妖術使いか!? きっと食べ物に呪いをかけているに違いない」→ 「悪いこと企てる前に皆殺しだ! 焼き払えー!!」

……という思考回路により、食師の一族は皆殺しにされてしまうのです。魔女狩りならぬ食師狩り。人にレシピ教えただけで殺されちゃう時代とか、そうとうヤバイですね。クックパッドなんかに投稿した日には、命がいくつあっても足りません。

そんな悲劇の食師一族の中で唯一、一命を取り留めた青年・ワタルが本作の主人公です。ワタルは、自分の命を助けてくれた部族への恩返しとして、必殺の激ウマ料理を振る舞います。村の民を全員集めて、小麦をこねるワタル。

日時計を見ながら生地を数時間寝かし、作った驚愕のメニュー、それが……!

「かけうどんというものです!」

ドーン!!

なんと、数時間かけてドヤ顔で出してきたメニューが、まさかのかけうどんです。もちろん「食師」ってくらいですから、これだけで済むはずがありません。こんなメニューは軽いジャブに違いないのです。……ということで、さらに繰り出してきたメニューが「山菜うどん」とか「焼きうどん」。お前は香川県民か!!

しかし、さすが食の原始時代だけあって、初めて見た「うどん」に対するリアクションが半端ありません。

「!!」
「旨い」
「ああーーっ」
「このような食べ物が人間の手で作れるのか!!」

これ、繰り返しますが、かけうどんの話です。「人間の手で作れるのか!!」って……。ほかに誰が作るんだよ。この調子だと、もはや立ち食いそば屋のおばちゃんだって、神になれる時代です。香川に連れて行こうものなら、天国に連れてこられたと思い込むに違いありませんね。

ちなみに一連のうどんレシピのほかに出てきた食べ物といえば「大学いも」がありますが、これもまた渋いチョイスです。確かに、原始時代に大学いもが出てきたらビックリ仰天するでしょうね。

さて、うどんのくだりの後、いよいよワタルに旅立ちの時が訪れます。さんざん伏線をちりばめまくって、さあいよいよこれからどんな奇想天外なグルメ旅が始まるのか……というところで単行本第1巻が終了するのですが、どうやら掲載誌「A-ZERO」(双葉社)が休刊となったため、残念ながら2巻以降が出ておりません。食師の夢と希望は、そのままお蔵入りになってしまっている模様です。うどんだけを残して……。

そんなわけで極限世界のグルメを描いたマンガ『食戦記』、未完なのが残念ですが、グルメマンガにおける超異端児として、ぜひとも一度読んでみてはいかがでしょうか。とりあえず、かけうどんだけでこんなにテンションが上がるマンガって、そうそうないです。

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引用)
『食戦記』
中村博文 / 双葉社

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