◆本書の概要
本書の内容は、金丸脱税事件から始まり、政治家の国税庁への介入や口利き、検察と国税庁との関係、強制力であるマルサと任意調査である料調など他の部署との違い、大企業と中小企業に対するマルサの対応の違い、国税庁とマスコミの攻防など、多肢に渡る。長年国税庁を担当してきた一流記者ならではの鋭くバランスの取れた視点で書かれている。
とりわけこの本の大きなテーマとなっているのは、国税庁という大きな権力の概要を浮き彫りにすること、そしてもうひとつ、「課税の公平」ということが大きなテーマとなっている。この課税の公平については、最終章で「国税対創価学会」という特別な章まで設けて記述している。国の中枢に入り込んでいる公明党の支持基盤である創価学会への不公平な課税について踏み込んでいるものである。

◆記者ならではの切り口
朝日新聞で長年、国税庁担当記者を務めた著者は、前書きで次のように述べている。
『03年3月、私は朝日新聞を退社したが、やり残したことがあった。』『・・・しかし、情報収集と資料分析にはけては「最強の収集機関」と喧伝される検察庁をもしのぐ実力を持つ徴税機関の内情は、これまでほとんど報じられることがなかった。』『・・・国税庁の公平な理解者でありたいと思ってきたが、決してサポーターであってはならないと自戒してきた。知られざる「徴税権力」の「奥の院」に肉薄できないか、国税庁にとって書かれなくないことを書かねばならないと考え続けていた。』

本書の内容は、国税にとって書かれたくない事項も多くあると推測されるものである。課税の公平などについても国税にとって耳の痛いものといえるものであろう。もちろん創価学会に対する批判にもなるから、やはりマークされる存在となるであろう。いわば、国税や創価学会など、巨大な権力を敵に回すというリスクを犯して書きかれたものであるともいえる。

◆内部資料の存在
本書の重みを増しているのが「内部資料」の存在である。通常は外部の記者が入手できないはずの、内部資料を敏腕の新聞記者は入手しているのである。そういった資料を駆使して本書は書かれている。またそれに関しては「情報ソース」という問題が出てくる。国税幹部は捜査の妨げになるような記事を出してほしくない。国税内部に情報を提供する職員がいるということは、国税幹部にとって大きな問題ともなる。
本書は第一章から第九章で構成される。以下、主な各章の内容について述べてゆきたい。

◆第一章、金丸信摘発の舞台裏
金丸信という大物政治家を所得税法違反で逮捕した事件であった。ヤミ献金を政治家個人の所得ととらえ、刑事責任を問うた初めての例である。この章では、金丸信への税法違反の摘発の経緯を詳細に記載している。
この事件によって政界再編につながり、自民党は戦後初めて政権を離れた。国税庁というのは財務省の一外局機関。自民党が財務省の人事に大きな影響を与えることも多い。その政治家を所得税法違反で告発するまでには大きな決断が必要である。本当に紙一重で摘発されたのだということが理解できる。
政治家を税法違反で摘発することには異論もある。政治家は収賄容疑などで摘発するものではないのかという意見も聞く。しかし、政治家はお金についての感覚が麻痺しているようなところも見受けられる。この事件によって政治資金規正法が整備された。「政治資金の浄化」に一役買ったことは確かであろう。

◆第二章、介入する政治家
この章では、企業の脱税事件に政治化が介入することがいかに多いかということが述べられている。政治家の口利きによって捜査が甘くなり手心を加えられたり、納税金額が減額されたという事例は枚挙に暇がないのであろう。
この中で注目すべきものは、元総理大臣である小泉純一郎の口利きした事件について、多く紙面を割かれているということである。クリーンなイメージのある小泉元総理にしても、不当とも言える国税庁への介入を行っているのである。

◆第四章、検察との確執と協力
検察との国税との関係というものがわかりやすく述べられている。国税の調査能力というのはすさまじいものである。そして脱税がらみの事件では、国税が「刑事告発」して検察が証拠がためをして「起訴」するという関係が基本である。それゆえに両機関の連携はとても重要である。その両者の歴史において、検察との確執を生んだ事件や国税と検察の見事な連携プレーなどに触れていて興味深い。

◆第八章、国税対創価学会
税の三大原則は、「公平」「中立」「簡素化」である。その中で課税の公平と中立が本書のテーマのひとつであると感じたが、マルサが大企業に対して摘発をしたことがないこと、政治家の国税への介入など、課税を行う上で、多くの不公平がまかり通っている。そして創価学会に対する課税の不公平がある。
本来、収益事業で課税されるべき「霊園事業」が非課税となる公益事業に計上されていた。悪質といえる申告漏れ事案にもかかわらず、過去3年間分のみしか課税されていないのである。通常の企業なら確実に過去5年分徴収されている。しかも1977年ごろから霊園事業は始まって、調査があったのは1990年、本来、十数年分課税が必要なのに、過去3年分しか課税されないというのである。数十億円にも上る、膨大な課税もれということになる。
このように創価学会に対して公平な課税がなされていない。そして、創価学会に対しては、まともな税務調査画ほとんど行われていないということが書かれている。これは十年間封印された、国税当局門外不出の内部資料などを参考に書かれている。

本書は国税の概要を描いたもので、各論について踏み込んだものではない。細かな税法云々というより、大きな枠組みについて書かれた本と言えよう。国税にとって書かれたくないことや創価学会にまで踏み込んだということで、既存の書物と違い、本書は読み応えのあるものとなっている。