2011年08月14日

西加奈子「通天閣」4

男と女は目を覚ます
息も凍るような部屋
タバコの煙のような天井の染み
畳に脱ぎ散らかした洋服、本、煙草

暖かい布団から起き出すというコトは、目をそらしていた現実に立ち向かうのと似ている
何時までも、ぬくぬくとした世界に逃げかくれることは出来ないのだ

近くのラーメン屋で塩焼きそなの海老に毒づき、慣れ慣れしく話しかける奴に毒づき
隣部屋のオカマに毒づく 町工場で働く男

恋人がNYに留学し、ひとり 部屋に残された女
寂しくて哀しくてしょうがないのを我慢して男が去った部屋で暮らす女

通天閣のお膝元 ミナミを舞台に
町と人の何気ない日常が描かれて行く

何か読んだことがある気がしたが初読みだった西加奈子
織田作之助賞を受賞している本作
うまくて驚く たしかに織田作之助賞っぽい(過去の受賞作知らないけど)
織田作之助も誰だか判らず検索したら あ〜夫婦善哉か いかん思い出せそのくらい......

この見事な本の巻末に、これまた見事な津村記久子氏の解説が書いてあります
この本を読んで面白いと思った人なら、
その見事な解説に、そうそう!そう思ったのよ...とうなずくほどはず

同意したことは書いてもしょうがないので他のことを書こうと思うんですが
すべて書かれちゃってる...... どうしようねぇ てなわけで...

 このしょーもない世の中に、救いようのない人生に、
 ささやかだけど暖かい灯をともす絶望と再生の物語

とか本のコピーが書かれてますが、一言で言えばそうなんだけど、
こう書いちゃったら味けないでしょ? ささやかだけど暖かい灯火とか嫌でしょ?

嫌じゃない人もいるだろうけど、嫌なわたしに静かに冷徹に、
やんわりと絶望とささやかな希望と言う人生のアメとムチを与えてくれる小説です

臨月の妻を持つ新人、子供をひとり育てる中華屋の女店員、毎回砂糖とミルクを尋ねる喫茶店の主人、雨の日も雪の日も町に立ちタクシーに話しかける老人

すべての人に自分を投影し後悔と不安に目を背ける
でもそれは誰かと関わる事で時折、歪んだ隙間から溜まったオリを吐き出し半歩前に足を踏み出すのだ

この本でやたら気になるのはスナックのママ
ほぼ何を言ってるかわからない程の小声で話すキャラ…でとにかく面白いんだけど
通天閣で思いのまま語ってくれるのが、また生きてます 

この本でうまいと思うのは女の心情
NYから同じ映像を志す女性を好きになったと別れ話をしてきた男

生き生きとしていなけらばダメなのか
大きな目標を持って輝いていなければダメなのか
好きな男の事をいつも思い、帰りを待ってバイトに明け暮れる女ではダメなのかと

残酷で真面目で馬鹿な男だ

でも人生は、こんな馬鹿な奴や馬鹿な自分に苦しんで生きていかなければならない
だからワタシは布団から出たくないのだと思う
現実は布団の横に転がっているのだ



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この記事へのコメント

1. Posted by オリニシ   2011年09月03日 00:07
たしかにしょーも無い世界だけど

それでも面白い作品になってます。

>やんわりと絶望とささやかな希望と言う人生のアメとムチを与えてくれる小説

なるほど〜。アメとムチですか。
西加奈子さんの作品は『はちみつ色の』で興味持ったので
読んでみたいと思います。

しかしとあるサイトでは西さんのことを
結構ぶっ飛んだ?方なんて書いたりするサイトが・・・。
http://www.birthday-energy.co.jp

でもちょっとぶっ飛んでるくらいじゃないと、作家さん
家業は厳しい・・・?
2. Posted by きりり   2011年09月04日 01:17
オリニシさん コメントありがとうございます。
この本読むと、なんかぶっ飛んだイメージがありますね(この本しか知らないんだけ....)
この本は面白かったです
今度「はちみつ色の」読んでみます

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