2007年03月

2007年03月14日

寒の戻りと勘の戻り、現代の情報化社会と古き良き時代の書、人類としての勘

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2007年03月08日私のブログ「桜の開花と結晶成長、みんなの四苦八苦」で紹介しました気象庁のさくらの開花予想(第1回)(pdfによる資料全文)は、そもそも一部の地点で気温のデータを誤入力してしまうなど、本来の計算値よりも早い開花日を発表してしまったなど、誤りがあったそうです(pdfによる資料全文)。

本日(3月14日)午後、第2回の開花予想が発表されました(pdfによる資料全文)。

それにしても先週の、まるで春か夏かといった麗らかな小春日和から一転して、今週は真冬日のような激しい「寒の戻り」、気象庁観測部計画課情報管理室応用気象情報係の方々もソメイヨシノの休眠打破状況を見極めた上で花芽の生長と開花を予測するのはさぞ難しかろうとは思います。

岡山理科大学生物地球システム研究会の皆様による桜開花プロジェクトでは、桜の木をまるごと覆ったビニールハウスで室温管理しながら花芽の生長と開花を観測されておられますので、思いもかけない「寒の戻り」などには影響されずに実験が進行していることと思います。

日本全国の桜の開花は「寒の戻り」にかなり影響を受けたようですが、化学の研究世界では「勘(直感によって感じ取る一種の感覚)の戻り」に大きな影響を受けます。

化合物合成の「勘」、結晶化の「勘」、プログラミングの「勘」、毎日毎晩続けて仕事に熱中している時に発揮される「勘」は仕事を大きく進行させますが、時に雑用が割り込んできたり、時に他の仕事をせざるを得なかったりすると、すぐに「勘」は鈍ります。

人間の脳味噌は、忘れやすい(情報が揮発しやすい)メモリーなのです。

いずれも作業中、面倒くさがることなくノート等に「他人が見ても分かる程度に丁寧に」記録を取ることで、後日、ある程度は「勘」を取り戻すことが可能ですが、最近ではそれもそう簡単なことではありません。

凄い速度で細分化しつつもどんどん広範囲に進化・発展していく学問分野において、情報が多すぎるのです。凄い速度で増量していく情報の洪水に飲み込まれ、自分が進もうと思っていた道を見失ってしまいがちなのです。

大学で何かを学ぼうと思うとき、どの分野を選ぶにしても、この根源的な問題は意識しておく必要があります。

どの学問分野も時間の経過と共に加速度的に、分野は細分化しながら広範囲に増殖しています。専門分野の教科書は情報量が増えてどんどん厚みを増していき、臨界点を超えると内容が浅くなって厚みが減ります。なぜなら、大学の講義で扱える内容量には限界があるからです。

だから私は、どの分野の書籍に関しても、古書を読むのが好きです。

さすがに明治期の書籍となると、西欧から入ってきた知識の翻訳で精一杯といった感があり、日本語として内容がこなれていない印象を受ける書籍が多いように思いますが、昭和の初期の専門書などは、21世紀の現代と比べてまだ情報量も飽和には達しておらず、社会の時間の進み方も比較的ゆっくりしていたこともあって、じっくりと考察・消化・吟味されてから執筆された書籍が多く、現代の書籍では省略されてしまって書かれていない「とても大事なこと」が書かれていることがあります。

高校時代から、東京の神田の古書店街で稀少本を物色するのが何より好きな私でしたが(参照:私のバックグラウンド)、実は岡山には、神田の古書店街にも存在しない「凄まじい蔵書量の古書店」があるのは皆様ご存知だったでしょうか。江戸期の古書、明治期の古書も含め、ありとあらゆる年代と分野の古書が豊富に揃えられています。神田の古書店どころか日本一の品揃えといっても過言ではないかもしれない古書店です。

その名は「万歩書店」といい、岡山市を中心に岡山県内、本店奥田店東岡山店平島店平井店倉敷店総社店津山店中之町店と9店舗が散在しています。なお書籍以外の家具・骨董品・衣類等を扱う店舗は別に2店舗(ステップ21自由市場)あります。

私の自宅のすぐ近くに万歩書店の本店がありますが、英国の大英博物館か、日本の国会図書館か、と見まがうばかり(少々誇張しすぎかもしれません)の蔵書数(約20万点あるそうです)で、店内に入れば考古学探検家のインディ・ジョーンズの気分です。

神田の古書店街や岡山の万歩書店などで発掘した理科・科学・化学分野の素晴らしい古書(とその内容)、このブログでも追々、紹介していこうと考えております。

凄まじい速度で発展していく学問分野、洪水のような情報の海、今自分がどこにいて、どこに向かって何をしていけばよいのか、人類は今、立ち止まる時間と考える時間が必要なのだと思います。

英国では、温室効果ガスとなる二酸化炭素の排出量を西暦2050年までに西暦1990年比で60%削減することを柱とする「気候変動法案」を発表したそうですね。

岡山市など、元々は川の中州やら沼地やら海だったところを埋め立てたような、全国でも有数のズブズブの軟弱地盤です。地球温暖化で海面が上昇したら、いったいどうなってしまうのだろうかと思ってしまいます。

日本にしろ、アメリカにしろ、本当に自分のお尻に火が付かないと動き出さないのでしょうか。

個人レベルの話ではありません。政府としての決意と決断、戦略的な(実効性のある)対策が必要です。もちろんグローバル化した経済の話、国家間の利害関係、複雑化した社会の仕組みを操作するのは、それは大変なことでしょう。

この話、加速度的に発展・進化して魑魅魍魎が巣くうかの如く複雑怪奇化してしまって全体の把握、進むべき方向性を見極めるのが困難になってしまっている学問分野の話と、似ていると思いませんか。

人間の社会システムは加速度的に発展・進化・複雑化し、情報だけは豊富にあっても、全体の把握と進むべき方向性を見極めは、国家公務員の方々にとっても政治家の方々にとっても困難な状況にあるのかもしれません。

国家の脳味噌たるそうした人々が、特にその中でもアクティブに動作して欲しい政治家の方々が、国民の人気や選挙の対策ばかりに気を取られて、肝心要のことに関して「休眠中」であることを心配しております。

人間の把握できる容量を超えた量の情報がそこにあったところで、メモリーオーバーフローを起こして人間はそれを処理不能、国家の脳味噌たる政府とてそれは同じことでしょう。

情報過多社会、政府もいったいこの国をどの方向にどうやって持っていけば良いのか四苦八苦されていることはよく分かります。

目を閉じて溢れ来る情報を一旦遮断し、今この地球はどのような状況にあるのか、人類はどのような状況にあるのか、そしてこの国はどこに向かって今何をしたら良いのか、「直感」で判断する必要があるのだと思います。

脳味噌は、デジタル的な処理しかできないパソコンとは違い、

アナログ的な「勘」を働かせることもできるのです。

ノイマン型コンピュータであるパソコンには、そうした処理はできません。山のような量の情報をデジタル的に処理するのではなく、全体をピントをぼかせてぼぉ〜っと眺めるが如く把握し、「勘」によって正解を導き出す、それはまるで仏教の悟りの境地のようです。

宇宙を理解する、この世の中を理解する、人間とは何なのか、人間はどこへ向かって歩いていけば良いのか、自然科学の最終的なゴールも案外、デジタル的な処理方法ではいつまでたっても辿り着かないのかもしれません。

ところで英国政府はこれまでの歴史の中でも、そうした「勘(直感によって感じ取る一種の感覚)による判断(勇断)を重要な局面で下してきた実績があります(その判断が結果として有効であったかどうかは別として)。これは国家の「脳味噌」たる政府が決断しなければどうにもならないことなのです。

日本政府に、どの程度その判断を下す「勘」が宿っているのか私には分かりませんが、一国民として、100年後、200年後に子孫が「正しかったね」と言ってくれる迅速な判断と実行をしていただけることを期待する次第です。自分たちの子孫に「正しかったね」と言ってもらえる判断が今できれば、それが私たちの正しい進む道なのではないでしょうか。

もし日本政府が目先の枝葉末節に捕らわれ、溢れ余る情報に飲み込まれ、100年後、200年後に子孫が「正しかったね」と言ってくれる判断と実行をする「勘」が宿っていないのであれば、一刻も早く「勘の戻り」に期待したいものです。

「勘の戻り」で国家の脳味噌たる政府の休眠を打破し、政策の生長と開花が実現することを望みつつ、私も自分の「勘」を大事に人生を歩んでいこうと思っております。



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2007年03月08日

桜の開花と結晶成長、みんなの四苦八苦

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2006年5月21日の私のブログ「奇跡の一粒」でも書いた通り、一粒(以上)の美しい単結晶を成長させることに成功するか否か(そしてその美しい一粒を顕微鏡下で発見、掬い上げてX線を照射できるか否か)で私たち錯体合成化学の研究は進展する否かが決まります。

いや錯体化学(無機化学)分野に限らず、「単結晶X線構造解析」という技法がここ十数年で著しく進歩(X線源のX線強度(輝度)の向上、回折X線の位置と強度に関する観測装置の革命的な改善、計算機の計算速度の劇的な向上、測定プログラムの進歩、初期位相決定等構造解析プログラムの進歩など)した結果、例えば有機化学分野においても有機物質(例えば糖類、脂質、成長ホルモン分子など)の立体的な分子構造の解明に際して、百聞は一見にしかずとばかり、気楽に「単結晶X線構造解析」が行われるようになりました。

何といっても「単結晶X線構造解析」では立体的に規則正しく並んだ分子の「電子」によって電磁波の一種であるX線が反射する現象(回折)を利用し、実験的に結晶内の三次元的な電子密度分布を求め、その情報から三次元的な分子の立体構造を求めるのですから、まるで自分がミクロの世界の住人になって、空間を飛び回る分子を直接見るかの如く、分子の形が明瞭明確に分かるのです。どの原子とどの原子が何々オングストロームの距離でどのような方向にどのように結合しているのか、分子モデルを手に取ってみるのと同じレベルで、正確に分子の形が分かります。

例えば、中学校や高等学校の理科や化学の実験でも登場する青色の結晶硫酸銅五水和物(CuSO4.5H2O)はご存知でしょうか。

硫酸銅五水和物の結晶の中では、銅イオン(Cu 2+)水分子(H2O)硫酸イオン(SO42-)、何と何がどのように結合しているのか、硫酸銅五水和物の結晶が一粒あれば、あっという間(1日程度)でX線構造が決まります。例えば、岡山理科大学理学部化学科錯体化学研究室で実際に決定してみた硫酸銅五水和物の結晶構造をご覧下さい。

世界中の化学の合成系実験室では日々、地球上に、いや恐らく宇宙の中でも、長い歴史の中これまでに存在したことのない新しい化学物質が生み出され続けています。

その化学物質は人類にとって役に立つ物質であるかもしれませんし、そうではないかもしれません。錬金術の時代を経て近代化学の研究が開始されて以来、人類は数え切れない数の化学物質を自然界の混合物から単離したり、化学反応により合成するなどして、地道にその情報を蓄積してきました。この化学物質に関する知識の集積の土台の上に現代文明が築かれているのは、良きにしろ悪しきにしろ、人類の現在の姿です。

ところでさきほど、人類がその構造や性質を明らかにした化学物質の数は数え切れないほどと書きましたが、実はそのようなことはありません。学会発表、論文発表などの形で化学者によって明らかにされた化学物質には、きちんと背番号(化合部番号, CAS Registry Number)が打たれてその情報はデータベースとして整理されています。すでに研究済みの化学物質については重複して無駄な研究をしなくて済むように、人類の知的財産としてその情報はアメリカ化学会の1部門、ケミカルアブストラクトサービス(CAS:Chemical Abstracts Service, a division of the American Chemical Society)によって管理されています。

その背番号登録済みの化学物質の数、いくつぐらいあると思いますか。

この数は日々刻々増えていきます。今日現在の数をご覧下さい。

さて、このように化学者は日々、試行錯誤して新しい化学物質を作ってみて、それがどんな性質を持った化学物質であるかを注意深く調べています。

錯体化学研究室でもメンバー(学部3年生、4年生、大学院生)が日々、新しい化学反応を試み、新しい化学物質を合成しています。そしてメンバーは学会で発表したり論文発表の形でその化合物の情報を整理・公開するなどして、上記データベース(ケミカルアブストラクトサービス)のレジストリーナンバー(化合物番号)の数をどんどん増やしています。

新しい化学反応を試みる作業は、ほとんど創作料理の世界と同じです。すでに性質の分かっている様々な原料を、様々な条件(温度、濃度など)下で混合させてみるのです。

創作料理の世界でしたら、その実験結果は食べてみて、味わってみて判断されることでしょう。

しかし化学合成の世界はそうはいきません。分光光度計で色を測定してみたり、核磁気共鳴装置で例えば水素原子核の電子状態に関する情報を得てみたり、あの手この手と多種多様な分析装置でどんな化学物質が合成されたのか、試行錯誤で調べていきます。岡山理科大学でしたら総合機器センターにこの多種多様な分析装置が勢揃いしておりますので、いろいろな装置で調べます。

しかし、比較的小さな分子ならいざ知らず、複雑な形の分子の立体構造を調べるのは容易なことではありません。なぜなら分子のサイズは小さすぎて、光学的な顕微鏡ではなかなか直接拡大して分子を見ることが困難だからです。人間が目で見ることのできる可視光線は、電場と磁場の変動が空間を伝播していくという波(電磁波)の一種ですが、その波長は分子のサイズと比べると長すぎるのです。

そこで登場するのがX線です。レントゲン撮影で使うあのX線は、可視光線と比べてずっと波長の短い電磁波です。このX線を単結晶に照射すれば、三次元的に規則正しく同じ方向に整列した分子中の電子によりX線は反射され(回折という現象です)、その回折X線の位置や強度を測定し、あとは計算機で構造解析をすることによって、分子の形がずばり、正確に判明します。

もしも良質な単結晶を一粒でも成長させることに成功したら、「単結晶X線構造解析」を行うことにより、その化学物質の分子構造を直接三次元で見ることができるのです。まさに百聞は一見にしかず、まるで自分がミクロのサイズになって、分子を直接手にとって見るのと同じことです。

これはもう、ジョージ・ガモフ氏(George Gamow, 1904.03.04-1968.08.19)の科学啓蒙書『原子探検のトムキンス』でトムキンス氏が冒険した世界の話そのものです。

前述の通り、「単結晶X線構造解析」という技法の進歩は著しいものです。最近では生物系の研究においても、巨大分子の三次元立体構造が「単結晶X線構造解析」により明らかにされるようになってきました。

ところで話は変わりますが、デオキシリボ核酸(deoxyribonucleic acid, DNA)がワトソン-クリックのDNAモデル(Watson-Crick DNA model)で有名な2重らせん構造(ダブルヘリックス構造,double helix structure)の鎖状重合体であることは皆様ご存知のことでしょう。

最近、ついに人間の遺伝子情報も解読されました(ヒトゲノムマップ)。ご興味のある方は文部科学省が作成した一家に1枚ヒトゲノムマップ「ここまでわかった!! ヒトゲノム」を是非ご入手下さい。

ところでこのDNA、構成する塩基、アデニン(adenine, A, = 6-アミノプリン)とグアニン(guanine, G, = 2-アミノ-6-ヒドロキシプリン)、そしてチミン(thymine, T, = 5-メチルウラシル)とシトシン(cytosine, C, = 2-ヒドロキシ-4-アミノピリミジン)、この4種類の塩基AGCTがひたすら並んでいます。このDNAにおけるAGCTの順番を調べる作業、それこそが遺伝子解読の作業に他なりません。DNAにおけるAGCTの配列、この情報はメッセンジャーRNA(messenger RNA, mRNA)に転写され、その情報はリボソーム(ribosome)によってタンパク質に翻訳されます。

なお、リボ核酸(ribonucleic acid, RNA)では、構成する塩基はアデニン(adenine, A, = 6-アミノプリン)、グアニン(guanine, G, = 2-アミノ-6-ヒドロキシプリン)、シトシン(cytosine, C, = 2-ヒドロキシ-4-アミノピリミジン)のほかに、DNAでのチミン(thymine, T, = 5-メチルウラシル)に代わってウラシル(uracil, U, = 2,4-ジヒドロキシピリミジン)の4種類になります。

mRNA上のコドン(codon, 3連塩基)は遺伝暗号の最小単位で、RNAを構成する4種類の塩基、アデニン(adenine, A, = 6-アミノプリン)、グアニン(guanine, G, = 2-アミノ-6-ヒドロキシプリン)、シトシン(cytosine, C, = 2-ヒドロキシ-4-アミノピリミジン)、ウラシル(uracil, U, = 2,4-ジヒドロキシピリミジン)が3つ並ぶと、それがあるアミノ酸を意味します。

大腸菌の遺伝情報の研究結果判明したコドン解読結果(この結果はいくつかの例外はあるものの、大部分は他の生物にも共通していると考えられています)によりますと、UUUUUCだったらフェニルアラニン(phenylalanine, Phe or F, = 2-アミノ-3-フェニルプロピオン酸)、UUAUUGCUUCUCCUACUGだったらロイシン(leucine, Leu or L, = 2-アミノ-4-メチルペンタン酸)、UCUUCCUCAUCGAGUAGCだったらセリン(serine, Ser or S, = 2-アミノ-3-ヒドロキシプロピオン酸)、UAUUACだったらチロシン(tyrosine, Tyr or Y, = p-ヒドロキシフェニルアラニン)、UGUUGCだったらシステイン(cysteine, Cys or C, = β-メルカプトアラニン)、UGGだったらトリプトファン(tryptophan, Trp or W, = 2-アミノ-3-(3-インドリル)プロピオン酸)、CCUCCCCCACCGだったらプロリン(proline, Pro or P, = ピロリジン-2-カルボン酸)、CAUCACだったらヒスチジン(histidine, His or H, = 2-アミノ-3-(1H-4-イミダゾリル)-プロピオン酸)、CAACAGだったらグルタミン(glutamine, Gln or Q, = グルタミン酸のγ-アミド)、CGUCGCCGACGGAGAAGGだったらアルギニン(arginine, Arg or R)、AUUAUCAUAだったらイソロイシン(isoleucine, Ile or I)、AUGだったらメチオニン(methionine, Met or M, = 2-アミノ-4-(メチルメルカプト)酪酸)、ACUACCACAACGだったらトレオニン(threonine, Thr or T, = 2-アミノ-3-ヒドロキシ酪酸)、AAUAACだったらアスパラギン(asparagine, Asn or N, = アスパラギン酸のβ-モノアミド)、AAAAAGだったらリシン(lysine, Lys or K, = 2,6-ジアミノヘキサン酸)、GUUGUCGUAGUGだったらバリン(valine, Val or V, = α-アミノイソ吉草酸)、GCUGCCGCAGCGだったらアラニン(alanine, Ala or A, = 2-アミノプロピオン酸)、GAUやGACだったらアスパラギン酸(aspartic acid, Asp or D, = アミノコハク酸)、GAAGAGだったらグルタミン酸(glutamic acid, Glu or E, = α-アミノグルタル酸)、GGUGGCGGAGGGだったらグリシン(glycine, Gly or G, = アミノ酢酸)を指定するのだそうです。

なおコドンのうち、UAA(ochre)、UAG(amber)、UGA(opal)の3つだけはアミノ酸には対応しないコドン(ナンセンスコドン)だそうで、タンパク合成の終止(すなわちC末端)を指示していると考えられているそうです。

RNAの3連塩基がアミノ酸を指定するコドンの話、計算機の二進数の世界および文字コードの話、しいてはプログラミングの話と同じ話をしているようだと思いませんか。

生体内ではこのように、DNAにおけるAGCTの配列情報がメッセンジャーRNA(messenger RNA, mRNA)に転写され、その情報がリボソーム(ribosome)によってタンパク質に翻訳されます。もっと噛み砕いて表現するならば、遺伝子DNAにおけるAGCTの配列順序という設計図に基づいて、生体内でその設計図の順序通りにアミノ酸が連結され、タンパク質が合成されていくのです。

人間の遺伝子DNAにおけるAGCTの配列順序が全て解読された現在、重要なのはタンパク質の正確な分子構造情報です。タンパク質がどのような順序でアミノ酸が配列されたものなのか、立体的にはどのような形状をしているのか、それを明らかにするのは「タンパク質の単結晶X線構造解析」なのです。

現在、世界各国の研究機関で競い合うように「タンパク質の単結晶X線構造解析」が行われています。例えば日本では、文部科学省の「タンパク3000プロジェクト」などが有名です。

もう人間の遺伝子DNAにおけるAGCTの配列順序が解読・公開されているのですから、あとは実際に生体内に存在しているタンパク質のアミノ酸配列順序や立体構造が分かれば、効果的な医薬品の開発へと話が進展していくのです。

医薬品市場は経済的に巨大な市場であり、国家間、企業間の利権が絡みますから、「タンパク質の単結晶X線構造解析」に対しては企業も国家も真剣勝負です(予算と人材を惜しみなく注ぎ込んで特許を競い合うように取得しようとしています)。

ところでタンパク質、これは私たちの身体を構成する化学物質です。こうしてブログを書いている私自身、両親から受け継いだ遺伝情報をもとにアミノ酸が連結されて作られたタンパク質でできています。

人間が生まれてから成長して老い病気になって死ぬまでの人生そのもの、約2500年前、現在のネパールにいた釈迦族の王子として生まれたゴータマ・シッダッタ氏(日本で言うお釈迦様)がある時、迦毘羅衛城の東門から出た時に老人に会い、南門より出た時には病人に会い、西門を出た時には死者を見て、ある故にもあると無常を感じたという話、この生老病死(いわゆる四苦)も現代科学の理解ではタンパク質の挙動に他なりません。

多くの疾患はタンパク質の様々な働きに起因します。ゆえに、生体内に存在する様々な「タンパク質の単結晶X線構造解析」を行ってタンパク質の構造や機能を解析すれば、タンパク質の働きを制御することができる化合物を予測することができ、結果として画期的な医薬品を開発することができる可能性があります。すなわち「タンパク質の単結晶X線構造解析」は、人類の健康増進、長寿に反映させることを意図した研究なのです。

ちなみに四門出遊のお話しでお釈迦様は、最後に残った北門から出た時、一人の出家沙門に出会い、世俗の苦や汚れを離れた沙門の清らかな姿を見て、出家の意志を持つようになったと伝えられています。

日本語で言う四苦八苦四苦は上記の生老病死(四苦)のことですが、四苦八苦八苦は、生老病死四苦に加えて、愛別離苦(愛する人と別れる苦しみ)、怨憎会苦(怨み憎む人と出会う苦しみ)、求不得苦(求めるものが得られない苦しみ)、五陰盛苦(存在を構成する物質的・精神的五つの要素に執着する苦しみ)の四苦を加えたものだそうです。

化学は地球上にこれまでに存在したことのない化学物質を試行錯誤で生み出し、食糧を豊かにし、医薬品を生み出し、物質的にも人類の文明を豊かにしてきました。試行錯誤の過程では多々問題も発生させましたが(例えば火薬や核物質による戦争、毒薬による犯罪、人間に有害な化学物質による環境汚染など)、古来より人間の持つ苦しみ「四苦八苦」に立ち向かい、いくばくかは改善されてきたのも化学の力であると私は思っています。

そして21世紀の今、人間の遺伝子情報が解読された今、「タンパク質の単結晶X線構造解析」は、人間の「四苦八苦」に立ち向かう化学の挑戦の中でも、是が非にでも越えたい壁なのだと思います。

「タンパク質の単結晶X線構造解析」を行うにあたり、一番の障壁は、「タンパク質の美しい一粒の単結晶」を成長させることです。いくら試行錯誤しても出ないときは出ない、現代におけるタンパク質研究者も、私たち合成化学を生業とする研究者も、いつもこの苦しみと闘っています。出ないときは出ない、これは私の2007年02月15日のブログでも書いたとおり、便秘の苦しみにも相通じるものがあります。

最近、この化学者の「四苦八苦」を乗り越える画期的なアイデアが登場、ベンチャー起業しました。目的価値の大きさや予算次第なのでしょうが、「タンパク質の美しい一粒の単結晶」を強引に得られる場合もあるようです。ご興味のある方は「創晶プロジェクト」をご参照下さい。

美しい一粒を成長させる、錯体化学研究室メンバーはいつもそこに情熱を注いでいます。

なかなかうまくいくものではありません。手を変え品を変えあの手この手と条件(化学物質の濃度、溶媒の種類、温度など)を変えてひたすら成長を願うのです。

それでも、2007年2月15日の私のブログで紹介しましたように、どうしても十分な大きさの単結晶が得られない場合には粉末(微結晶)のままでもX線を照射して構造解析に挑戦する時代にはなってきましたが、これはまだ確立された技術ではありません。ましてやタンパク質などの巨大分子では、粉末X線解析は不可能であり、「単結晶X線構造解析」を行わないとその構造に関する正確な情報は得られません。

いつの日か、粉末(微結晶)のままでも精度の高いX線解析ができることを期待していますが、今のところ錯体化学研究室で合成しているクラスター錯体の場合、良質な単結晶を得て「単結晶X線構造解析」を行うことが現実的な目標です。自分がどんな分子を作ったのか、良質な単結晶を得て「単結晶X線構造解析」を行えば、手に取るように分子の三次元構造が正確に分かるのですから・・・。

努力に努力を重ねて、情熱を注いで、美しい結晶を成長させる。錯体化学研究室メンバーのこの仕事ととてもよく似た仕事をされている方々が身近におられます。このエピソードは坂根弦太の人生Photographic Albumで紹介させていただきました。

この岡山理科大学生物地球システム研究会の皆様による桜開花プロジェクト、美しい桜の花を咲かせるために、努力に努力を重ねて、情熱を注いでおられます。桜の花を咲かせるため、環境(温度など)を制御(または測定記録)してデータを収集、地道な努力を続ける研究姿勢は、化学者が単結晶を成長させるため、環境(濃度や温度など)を制御(または測定記録)してデータを収集、地道な努力を重ねるのとピタリと符号、共感を覚えます。

桜というものは、夏頃に翌春咲く花のもととなる花芽を形成して休眠に入るのだそうですね。花芽は冬の低温に一定期間さらされると休眠から覚めるのだそうです(休眠打破)。そして花芽は休眠打破のあと気温の上昇とともに生長し開花します。

気象庁観測部計画課情報管理室応用気象情報係のさくらの開花予想(第1回)(北陸、関東甲信、東海、近畿、中国、四国、九州)(pdf文書による全文)によると、今年の桜(ソメイヨシノ)の開花予想は記録的に早くなるかもしれないそうですね。記録的な暖冬の影響で開花が促されているためだそうです。

しかし桜の開花は前述のように、花芽の形成、休眠、休眠打破、開花という過程を辿りますので、暖冬だからといって開花が早まるかというと、逆に冬の寒さが足りずに休眠から十分に目覚めていないという場合もあるようで、開花時期の予測というものは相当に難しいようです。

簡単そうに見えてそう簡単ではないという桜の開花予測(制御)、これも化学者の結晶成長に関する研究の状況と瓜二つです。今年のゼミ生が作成していた結晶が、年度が替わってゼミ生が変わると、なぜか同じ操作をしているはずなのに結晶が析出してこない、これは錯体化学研究室で毎年経験していることです。

再現性があるはずなのに再現性がない、制御できそうなのに制御が難しい、これはこの実験(現象)が、実際にはかなり複雑な因子が絡み合っていることを示しています。桜の開花の制御も、毎年毎年異なる気象条件の中、なかなか制御や予測は困難なことでしょう。

岡山理科大学生物地球システム研究会の皆様による桜開花プロジェクトでは、毎日のようにビニールハウス内の花芽の写真を公開されておられます。

この生物地球システム研究会の皆様による桜開花プロジェクトで採取されたデータは、気象庁「四苦八苦」している桜の開花予想の精度向上にも寄与するのではないでしょうか。



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