2008年05月14日
化学はセントラルサイエンス
岡山は、東に行けば関西、西に行けば九州、北に行けば山陰、南に行けば四国と、まさに西日本の交通の要所、交差点にあたります。全国の皆様も、岡山には降りたことはなくても通過したことはあるという方が多いのではないでしょうか。
ところで自然科学を学ぼうとするとき、小学校・中学校では理科、高等学校では化学、物理、生物、地学といった教科を学習します。いわば理科4教科(化学、物理、生物、地学)は自然科学の基礎4分野といった分類です(もちろん自然科学を学習するには、道具・インフラとしての数学や国語が重要なのは言うまでもありません)。
しかしその理科4分野の中でも、『化学』は特別な存在です。なぜならば、自然科学は“物質”を対象とすることが多く、『化学』はその“物質”を原子・分子レベルで学習・理解する分野だからです。物理の実験・研究の多くでも“物質”を扱いますし、これは生物や地学でも同様です。『物理』でも『生物』でも『地学』でも、“物質”に関しての知識は『化学』に立脚しておりますから、『化学』は理科4分野の中では、残り3分野すべてに共通して関与している交通の要所、交差点にあたるのです。一番重要と言っているわけではありません。物理の理論・法則も、生物や地学の知識も化学と同じように重要です。ただ位置関係からみると、『化学』は交差点にあたるのです。
自然科学の中の、基礎分野の中の、一番中心に位置している分野、それが『化学』なのです。“物質”についての知識と経験が集積している『化学』を学べば、それは『物理』、『生物』、『地学』、いずれの分野の学習・研究にも役立ちます。さらに応用・技術・工学分野に至るまで、“物質”を扱う限りは『化学』は役に立つ分野なのです。
まるで西日本における岡山のような存在、セントラル西日本が岡山なら、セントラル自然科学(セントラルサイエンス)が『化学』と言えます。
ただ残念なことは、自動車・高速道路、列車・線路が整備された現代では、岡山を通過する人数は膨大でも、岡山に降り立ち、岡山を味わっていただける方は意外に少ないという現実です。住めば都、実は岡山には魅力がたくさんあり、何よりちょっと東に行けば関西、ちょっと南に行けば四国、ちょっと西に行けば広島・山口・九州、ちょっと北に行けば鳥取・島根などの山陰と、すこぶる便利な位置にあるのですが、なぜか岡山に立ち寄ってくれる方は決して多くはない、宣伝・アピール不足なのでしょうか。
同じように、理科系に進路を取る学生さん達は、高等学校でほとんどの方が少なからず『化学』を学んでいるかと思いますが、本当に深く『化学』に足を踏み入れ、『化学』でメシを喰っていこうという方は残念ながら減少傾向にあるように思います。住めば都、実際に大学で『化学』をきちんと学んで化学実験・研究に勤しめば、『物理』にも『生物』にも『地学』にも『産業社会(化学工業・化粧品・食品・環境・その他ものづくり業界全般)』にも深く関係のあることばかり、実に楽しく奥が深く、その魅力は虹の七色の如く色鮮やかなのですが(実際に化学にハマった人たちは情熱的にその魅力を語ってくれます)、19世紀から20世紀、そして21世紀にかけて、自然科学が急速な進歩を遂げ、教科書などの教材も整備された現代では、高等学校で化学を経験はしたものの、化学の世界に降り立ち、化学を味わっていただける方(すなわち大学の『化学』に足を踏み入れてくれる方)は減少傾向にある、それが残念でなりません。
大学の化学の研究室で卒業研究(実験)をするとき、ある物質とある物質を反応させたら、これまでたぶんこの広い宇宙で(少なくとも知的生命体が地球にしか存在しない太陽系の中では)一度も合成されたことのない全く新しい化学物質が合成できた、なんて発見は日常茶飯事です。なにしろ約90種類の元素の組み合わせである化学物質は、地球上の人類の研究活動の結果、今日(2008年5月14日(水))現在、有機・無機物質(有機・無機化合物、錯体、有機金属化合物、金属、合金、鉱物、元素、高分子など)の総数が35,360,523、バイオシーケンス(遺伝子の塩基配列やポリペプチドやタンパク質のアミノ酸配列など)の総数が59,853,831、合計で95,214,354種類、9500万種類を超えてもうすぐ一億種類といったところまで来ているのです。
ケミカルアブストラクツにおけるCAS登録番号(CAS Registry Number)が付与された化学物質の総数
新しい化合物(化学物質)の合成という研究は、料理の世界ととてもよく似ています。料理も一種の化学合成です。混ぜるものの種類、混ぜる割合、混ぜたり加熱したりする程度やタイミング、その他様々な合成条件(料理のレシピと腕前)で、できるものは千差万別、その種類は無限にあります。料理人が新しい料理を創作するのと同様、化学者は新しい化学物質を合成するのです。
岡山理科大学の理学部化学科は西暦1964年(昭和39年)に開設された学科ですが、現在(西暦2008年(平成20年))に至る43年以上の歴史の中で、歴代の化学科の学生さん(学部3年生、4年生、大学院生)が初めて合成に成功した新規化学物質は、数え切れないほどの種類があります(その成果は前述のケミカルアブストラクツ・データベースに多数登録されています)。大学生になって卒業までの4年間の間に、人類のその分野の歴史(化学の場合は、化合物のデータベース:ケミカルアブストラクツ・データベース)に名前を永遠に刻んで残せる可能性のある分野なんて、理系・文系併せて見渡してみても、そうはないのではないでしょうか。岡山理科大学理学部化学科では、学部の3年生・4年生で新規化合物の合成に成功し、化学の学会で発表した例は数え切れないほどたくさんあります。
私などは、高校時代(東京都板橋区にある私立城北高等学校化学部)で化学の魅力にどっぷりと浸かり、化学に携わり続ける人生が送りたいと願い、私立にしては珍しい『理学部化学科』がある岡山理科大学を選び、受験・合格して岡山理科大学の学生となりました。入学して、まず岡山理科大学の図書館に行き、神田の古書店街に通い詰めた高校時代と比較して、あまりの化学の専門書の充実度に度肝を抜かれ、大学時代はほぼずっと、次から次へと化学やその他の専門書を借りまくりました。当時は図書カードというカードに借りた本を記録していく形式だったのですが、図書カードの記載欄がすぐに一杯になってしまって、数え切れないほど何度も作り直していただいたものです。
次に4年次の研究室に配属になって、研究室や分析センター(現在の総合機器センター)の研究・分析機器のあまりの充実度、最先端の超高額な機器が山のようにあることに驚き、またそれを学部生や大学院生に、研修後には自由に操作させてもらえることに驚きました。学部生の段階で、もういっぱしの研究者と同じ環境になれるのです。情報処理センターの大型計算機も学部時代から自由に大量のジョブ時間を使わせていただくことができ、これにも感激しました。
今、私はそのまま岡山理科大学で化学の教員として仕事をしておりますが、岡山理科大学の学生時代に化学の守備範囲の広さ、奥の深さ、色鮮やかな魅力を存分に味わうことができたこと、そういった環境に入ることができたことに心から感謝している次第です。今は逆に教員の立場ですので、学生のみなさんに、私が味わったような化学の楽しさを存分に伝えていきたいと思っております。
私の岡山での生活も、22年目になります(途中1年間は英国にいましたが)。西日本の交差点である岡山での生活、その心地よさにこれも大満足しています。どこに行くにも便利、岡山市内の生活も便利で快適、人口密度はほどよく自然も豊富、ちょっと県北に行けば冬はスキー場があり、ちょっと県南に行けば夏は海水浴場があり、山があり、川があり、畑があり、田圃があり、果樹園があり、野生動物、植物、昆虫、そして何より海産物が豊富で食が豊か!(例:べらた、どろめ)暑すぎず、寒すぎず、台風の直撃は少なく、地震も(今のところ)少なく、河川が多く(岡山の三大水系:高梁川、旭川、吉井川)渇水もほとんどなく、水道水も美味しい!何より晴れの日が多い!(晴天率は都道府県の中でもトップクラスです)
岡山で化学に携わって生きていける人生に、感謝しています。
岡山にも化学にも、みなさん是非お越しください!
その魅力や楽しさ、味わい深さは、そこに長年(といっても私はつい数ヶ月前に40歳になったばかりの若造ですが)実際に住んでいる私が自信を持ってお薦めできます。