2013年05月24日
水分子のビーチボール

水(H2O)分子のビーチボールです。
酸素原子(赤色球)1つに水素原子(白色球)2つがくっついた形をしています。
本物の水分子に比べると、10億倍の大きさです。
ビーチボールでは、表面がツルリンとしていますが、本物の水分子の表面もツルリンとしているのでしょうか?
科学者が分子模型として扱うこのような分子像は、電子の発見される確率の大小について、ある値を決めて、その値の表面(等値表面)を描いたもの(電子密度表面)、あるいはファンデルワールス半径の球で原子球を表現したものだと思います。
電子のような小さい粒子は、今どこにあってどちらの方向にどれぐらいの速度で動いているのか、という情報を私たち人間は観測することはできません。
動いているだろうけど、動いている様子は見えない!

水分子ビーチボールは、ポーンと投げれば飛んでいきます。
見えます! 飛んでいく様子が見えます!
これは、マクロの世界だから、観測できることです。
ミクロの世界(量子論の世界)は不思議な世界で、電子が動いている様子(電子の位置と運動量の両方を同時に正確に知ること)は、観測できないのです。
不確定性原理(uncertainty principle)です。
秀丸エディタに構築されたDV-Xα法計算支援環境をプラットフォームに、教育用分子軌道計算システムeduDVを起動して水分子の電子状態を計算してみます。
水分子は折れ線AB2型分子で、属する点群はC2vです。

eduDVで入力する値は4つです。
A原子の原子番号は? 8 [Enter]
B原子の原子番号は? 1 [Enter]
A-Bの原子間距離(Å)は? 0.9579 [Enter]
∠BABの原子間角度(°)は? 104.50 [Enter]
あとは全自動でDV-Xα分子軌道法プログラムのセルフコンシステントな繰り返し計算が収束するまで実行され、様々なDV-Xαのユーティリティプログラムが実行されます。
最後にVESTAで計算結果を三次元可視化します。
まず、計算に用いた原子座標の確認。

VESTAの「Ball-and-stick」(球と棒)表示です。
表示方法を変えてみます。

VESTAの「Space-filling」(空間充填)表示です。
次に、DV-Xα分子軌道法計算結果を表示します。

電子密度を黄色の等値表面で描きました(原子座標(Ball-and-stick)を重ね書きしてあります)。
この形が、ビーチボールの形に近いのではないでしょうか。

静電ポテンシャルマップを描きました。電子密度の等値表面を、静電ポテンシャルの大小で色付けしたものです。電子の僅かな偏りを読み取ることができます。
赤いところが、比較的、電子の多いところです。
青いところが、比較的、電子の少ないところです。

せっかくDV-Xα分子軌道法で水分子の電子状態を計算したのですから、分子軌道も少し紹介いたします。
上の図は、水分子のHOMO(電子の入った分子軌道の中で、一番上にある分子軌道)です。
点群(C2v)に基づいた名前では、1b2軌道といいます。

水分子のLUMO(電子が入っていない空の分子軌道の中で、一番下の分子軌道)です。
名前は4a1軌道といいます。

水分子のビーチボールは、本物の水分子を10億倍にした大きさですが、本物の水分子におけるそのツルリンとした表面は、そこに発見される確率の大小でしか表現できない電子の、等値表面(ある値を決めて、その値を場所をつないで面を描いた表面)であると考えられそうです。
電子が発見される確率は、計算上は原子核位置からいくら離れてもゼロにはなりません。
確率の大小を、点の密度で表現した図は、「電子雲」と呼ばれます。
ビーチボールの水分子のイメージは、「電子雲」ではなく、「等値表面」で、電子の発見される確率の大きさを表現したものだと思います。
水分子のビーチボールは、仮説社の通信販売、あるいは以下の楽天のサイトで入手できます。

【10億倍水の分子模型】水分子ビーチボール