1:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/30 20:53:43 :isTA4K3y0

 それは突然のことだった。目の前でサッカーボールのように跳ね飛ばされる弟。今でも夢に出てくる。 
如月優、私にとって初めてのファンで、大切な弟。 

千早「!!」 

 また、夢に出た。 

 ゴシップ記事は大げさに書くもの。分かってはいるけど、私が見殺しにしたなんて記事を書かれると、嫌でもショックを受ける。声が出なくなってどれぐらい経ったのだろうか。音のないこの部屋において、足蹴く通う春香の声だけが響く。 
微睡の中、不意に携帯電話が光っているのが見えた。765の仲間からの心配のメールに混じって、見たことのないアドレスからメールが来ていた。いつもなら迷惑メールとゴミ箱に入れるところだけど、そのメールを削除することが出来なかった。 

『もしも5回だけ過去に戻れたら、あなたはどうしますか?』


3:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/30 21:02:18 :isTA4K3y0

 意味の分からない、悪戯メールの類だろう。過去に戻る? 都合がよすぎる。 
機械に疎い私でもそれぐらい分かる。不愉快なメールをゴミ箱に捨てようとすると、メールの着信が。 

『例えば、死ぬ運命の人間を救うとか』 

千早「!?」 

 まるで私をピンポイントに狙ったかのような内容。心臓の鼓動が早くなる。 
あたりを見渡す、当然私以外誰もいない。じゃあ監視カメラでもあるの? 私は怖くなって、部屋着で外に駆け出す。 

千早「ハァ……、ハァ……」 

 とりあえず外に出ようと、当てもなく走ったため、息も切れ切れだ。そして私はふと気づく。今私が立っている場所は、優が事故にあった道路だと。


4:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/30 21:05:35 :ba69bjkA0

 携帯を見ると着信を知らせる光。 

『過去に飛びたければ、メールを返してください』 

 ずいぶんご丁寧な送り主だ。どうすればいいかまで教えてくれるなんて。 

 どうせ最初から信じていない。ただ悪戯メールに返信するだけだ。 

 少しばかりの期待を込めて、悪戯メールに返信する。 

千早「!?」 

 世界が、変っていく――。


6:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/30 21:12:49 :XhZIlboF0

気づくと、太陽が昇っており、道を行きかう人々。 

千早「どういうこと……」 

 予想もしていなかった展開に、私は混乱する。ここはどこなんだろう、本当に過去に飛んだのだろうか? 

?「ボールが転がっちゃった!」 

 私の耳に、とても懐かしい声が聞こえた。小さなころ、ずっと聞いていた声。 

??「まってよ、優!」 

 私の前を通り過ぎて行った青髪の姉弟。そうだ、あの子たちは……。 

千早「優、止まってー!!」 

優「え?」 

 大きく息を吸い込み、割れんばかりの声で叫ぶ。優と呼ばれる少年はこちらを向いて、転がっていくボールはスピードを出し過ぎている青い車にぶつかり、 
シュートが決まったように飛んでいく。 

千早「た、助かったの? ゆ……」 

 急に眠気が襲ってきて、その名を最後まで呼ぶことが出来なかった


7:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/30 21:16:50 :ba69bjkA0

――さん、起きて……。 

 誰かの声が聞こえる。おかしいわね、私の家には誰もいないはず……。重い瞼を開けると、そこには 

?「おはよう、姉さん」 

千早「ゆ、優なの……?」 

優「どうしたの、僕が優以外に見えるの? ってどうしたの、泣きそうな顔をして……」 

千早「優!!」 

優「うわっ! どうしたの、姉さん!?」 

 抱きしめた優の体温を感じる。そうだ、紛れもない。背も高くなって、声も少し低くなっているけど、目の前にいる彼は、正真正銘如月優だ! 

千早「ってあれ?」 

 優を抱きしめながら気づく。ここ、私の部屋じゃないわね……。


8:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/30 21:24:18 :isTA4K3y0

 私の部屋じゃない、けれども、クラシックのCDが棚に入っているし、寝巻は昨日のままだ。 
もしかして……。 

優「母さんが待ってるよ。土曜日曜、姉さんが忙しくないときは、みんなで朝食。忘れたの? 提案したの姉さんでしょ?」 

千早「みんなって……」 

 寝ぼけた頭が覚めてくるにつれ、事情が読み込めてきた。優が助かったから、両親が喧嘩する理由もなくなったのだ。 
こういうのをバタフライエフェクトっていうのかしら? 優が生きていることで、私たち家族が離ればなれになることがなくなったんだ。 

 階段を下りると、美味しそうな匂いがしてくる。私一人の部屋にはなかった、家庭の温かみがそこにあった。 

千早「そうだっ、携帯は!?」 

 過去に戻るメール、携帯電話を見ると、新たな受信が。 

『残り4回』 

千早「必要ないわよ、そんなに」 

 ごみ箱に捨てようかとも思ったけど、このメールのおかげで優は助かったんだ。記念に保護しておく。


9:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/30 21:30:14 :isTA4K3y0

 携帯でもう1つ気づいたこと。それはみんなからの心配のメールがなかった。成程、優がいるだけで、こんなに変わってしまうんだ。 

如月家『いただきます』 

 家族4人の団欒。もう叶うわけがないと思っていたけど、奇跡は起きたようだ。 

優「そうそう、姉さん今度ライブでしょ?」 

千早「ライブ? ああ、そうね」 

 予定ではライブが何日か後にあったはずだ。そこで思い出す。 

 私、歌えるのかしら? 

千早「フレッ、フレッ、頑張れっ♪ さぁ行こう♪ フレッ、フレッ、頑張れっ♪ 最高♪」 

優「ね、姉さん……」 

千早「歌える……、私歌えるようになったのね!!」 

 高槻さんの曲だからかしら? その後自分の持ち歌、今度のライブで披露する曲を歌い、私は完全に復活したと確信した。 

優「姉さんやっぱり上手いね」 

 私のファン1号もご満悦だ。


10:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/30 21:35:55 :isTA4K3y0

優「そろそろ行かないとレッスンに間に合わないんじゃない?」 

千早「へ? そうかしら?」 

優「いや、聞かれても分からないよ。メーリスとか来てるんじゃないの?」 

 優に言われて携帯を見ると、レッスンの時間と場所が書かれたメールが、アイドルに一斉に送られていた。竜宮の分は律子が管理しているのだろう。 

千早「あれ? 美希には来てないのかしら?」 

 メーリングリストを見ると、美希の名前がない。大方、プロデューサーに、 

美希『美希は一斉送信嫌なの! ハニーは美希だけに特別なの送ればいいと思うな!』 

 とでも言ったんだろう。プロデューサーの苦労が窺える。 

千早「それじゃあ行ってくるわ」 

優「うん、気をつけて行ってきてね」 

 優に見送られ、事務所へと向かう。空は青く澄み渡っている。なんとなく、私の気分もよくなる。


12:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/30 21:41:45 :XhZIlboF0

千早「おはようございます」 

春香「千早ちゃん、おはよう!」 

やよい「おはようございます! 千早さんなんかすごく嬉しそうです。いいことありました?」 

千早「ええ、とても素晴らしいことがね」 

 765プロに着いた私をいつも通りのみんなが迎えてくれる。私たちを長年苦しめていた原因を取り除いたからか、他人からは嬉しそうに見えるみたいだ。 

P「よし、みんな集まったな。それじゃあ今日の予定だけど……」 

 ぞろぞろとアイドルのみんなも事務所に入ってきて、ミーティングを始める。あれ、水瀬さんはいないのかしら? 

P「以上だ。みんな、今日も大変だけど頑張ってくれ」 

一同『はいっ!』 

 水瀬さんは休みみたいね。後でお見舞いメールでも送ってあげようかしら?


14:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/30 21:45:59 :XhZIlboF0

 社長からの流行情報を受け、私たちは各々の準備を始める。今日は歌唱レッスン、自ずとテンションも上がる。 

律子「じゃあ行きますよ。亜美、あずささん、美希。用意お願いね」 

あずさ「はーい」 

亜美「らじゃー!」 

美希「ハニー、寂しいけど、美希頑張るから!!」 

 竜宮組は別行動のようだ――。 



千早「へ?」 

 どうして美希が竜宮にいるの?


16:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/30 21:51:07 :vcTcQyyI0

千早「律子、なんで美希が竜宮にいるのよ?」 

 おかしいと思った私は律子に尋ねる。 

律子「へ? 竜宮? なによそれ」 

美希「千早さん、美希は浦島太郎じゃないよ?」 

千早「竜宮小町よ! 律子がプロデュースしたんでしょ!? 水瀬さんがリーダーで、亜美とあずささんの水関係の苗字の3人グループよ!」 

春香「水関係なら私もなんだけどな……」 

真美「真美もだよ」 

 一体どんな顔をしていたのだろうか? 律子は少し怯えるが、落ち着いてこう伝えるのだった。 

律子「千早、竜宮なんて知らないし、そもそも伊織って子知らないわよ?」 

 頭が真っ白になっていく――。


20:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/30 21:58:06 :vcTcQyyI0

律子「えーと、誰かその伊織って子知ってる?」 

 律子が尋ねるが、誰も答えない。 

律子「千早どうしたのよ? 記憶喪失にでもなった?」 

千早「違う! 私は……」 

律子「スターフィッシュよ。海と浦、そして星。海の星でヒトデにしたんじゃない。まあ流石にヒトデってアイドルグループはいやだけど……」 

 律子の説明によると、私の知っている竜宮から伊織と美希を入れ替えたようだ。じゃあ伊織はどこに……。混乱していると、社長が口をはさむ。 

社長「如月君、もしかして伊織というのは、水瀬伊織君のことかね?」 

千早「!! そうです! 水瀬伊織! うちの事務所のアイドルよ!!」 

 社長は少し驚いた顔を見せると、心苦しそうに告げるのだった。 

社長「そうだね……。もし生きていれば、それも叶ったかもしれないね」 

千早「生きていればってどういうことですか……」 

 震える声で尋ねる。 

社長「水瀬伊織君は、小さなときに亡くなっているんだ」 

 それは、一番聞きたくなかった言葉だ。


23:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/30 22:03:10 :vcTcQyyI0

 社長の話によると、水瀬伊織は小学校の頃、不審者に殺されたという。取り乱す私を、社長は家へと帰す。 

千早「どうなっているのよ……」 

優「ただいま、早いね。どうしたの?」 

 家に帰った私を、優が迎えてくれる。 

千早「ねえ優。あなたパソコン使える?」 

優「パソコン? 一応出来るけど、珍しいね。アナログな姉さんがパソコンに興味を示すなんて」 

千早「じゃ、じゃあ調べて欲しいことがあるんだけど……」 

優「?」


26:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/30 22:09:44 :ba69bjkA0

優「水瀬……、伊織っと。これだね、釘宮小で起きた女子殺害事件。被害者が水瀬伊織って言うんだ。あれ? この日は確か……」 

千早「そ、そんな!? どうして……」 

 ディスプレイには当時の新聞が映っている。水瀬財閥の長女、水瀬伊織。間違いなく、私の知っている彼女本人だ。 

優「なんというか因果な話だね」 

千早「へ?」 

優「ああ、うん。この日ってさ、僕が車に轢かれそうになった日じゃんか。あのお姉さんのおかげで助かったけど。ってそういや姉さんに似てるな……」 

 まさか優を助けた代償で、水瀬さんが死んだっていうの!? 私は食い入るように写真を見る。するとあることに気付く。 

千早「ね、ねえこの車って……」 

 小学校に乗り込んだ不審者の車。この車は、 

千早「青い車……?」 

優「あっ、ホントだ。あの時の車そっくりだ」 

 かつて私の弟を轢き殺した、青い車がそこにあった。


28:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/30 22:20:36 :isTA4K3y0

 優は生き残った。だけど今度は水瀬さんが同じ人間に殺されてしまった。いや、優の場合は事故なんだけど……。 

優「この人、水瀬系列の会社で働いていったみたいだね。首になって、奥さんにも逃げられて、借金が残ったって書いてる」 

 もしかすると、優が事故に遭ったから、怖くなって水瀬さんを殺さなかったのだろうか? そう考えると、この連鎖に納得がいく。 
1人考えていると、不意に携帯が震える。またあのメールかと思ったけど、ただの迷惑メールだった。 

千早「そうよ……、あのメールがあるわ! ねえ、優。いくつか調べて欲しいんだけど……」 

優「何を?」 

千早「えっと、釘宮小学校の電話番号と……」 

優「そんなの調べてどうするの? 姉さんにそんな趣味あったっけ?」 

千早「何でもいいから! お願い、どうしても必要なの」 

優「なんかの映画の真似? まあ良いや。ちょっとまってね……」


30:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/30 22:27:03 :ba69bjkA0

優「はい、これ。って姉さん年齢的に無理なんじゃ……」 

千早「好きなのよ。ありがとっ、ちょっと行ってくるわ!」 

優「行ってくるって……、どこに?」 

千早「ちょっと昔に!」 

 過去に飛べるのは残り4回。私は優からもらったものを落とさないように握って、メールへと返信するのだった。

 世界が再び変わっていく――。 


千早「さっきと一緒ね……」 

 たどり着いた先は、優の事故現場。恐らく……、 

?「ボールが転がっちゃった!」 

??「まってよ、優!」 

 やっぱり。ここからやり直すのね……。 

千早「優、止まってー!」 

優「え?」 

 ボールは車のヘディングを食らう。優の無事確認、次は……。


31:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/30 22:32:23 :XhZIlboF0

千早「携帯は使えないわね」 

 過去に飛んだため、その時に発売していないモデルの携帯は使えないようだ。来るのはあのメールぐらいだろう。 

千早「確かこの辺に……。あった!」 

 幸いにして近くに公衆電話があった。最近は少なくなってきて、少々さびしく思う。私は釘宮小に電話をかける。 

先生「はい、もしもし。釘宮小学校ですが……」 

千早「すみません! 今すぐ生徒を教室に閉じ込めてもらえませんか?」 

先生「は?」 

千早「意味が分からないかと思いますが、お願いです。教室に非難させてください」 

先生「ちょっと、なんですか? 悪戯ですか!?」 

千早「いいえ、こっちは真剣です」 

先生「こっちも真剣なの。もう気が済んだ? 切りますよ……」 

 やはりそう来るか……。でもこっちにはまだ手があるわ。


33:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/30 22:40:09 :isTA4K3y0

千早「今すぐテレビをつけて競馬にチャンネルを変えてください!」 

先生「はぁ? 競馬?」 

千早「このレース、3番のサイレントナナジュウニが1着、6番のナカムラセンセーが2着、1番のユリシーが3着、5番のワカバヤシシンが4着ですから」 

先生「何言ってるのよ」 

 優に調べてもらった競馬情報。これなら信じてもらえるはず――。 

千早「確かめてください! それで正しかったら、子供たちを教室に入れて、警察を呼んでください!」 

先生「もう何が何だか……」 

千早「どうですか?」 

先生「ビンゴよ……。なんなの? あなた競馬予想師?」 

千早「いいえ、通りすがりのアイドルです」 

先生「別に通り過ぎてないじゃない……。分かったわよ、信じてあげる。その代わりなにもなかったら通報するわよ?」 

千早「お好きにどうぞ」 

 受話器を置く。これで警察が間に合えば……。気が抜けたのか、また私は意識を失っていく――。


36:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/30 22:45:12 :vcTcQyyI0

――さん、起きて……。 

 私を呼ぶ声。どうやら第一関門は突破したみたいね。 

千早「おはよう、優」 

優「おはよう姉さん」 

 目の前には、弟が笑顔で座っていた。 

千早「ねえ、水瀬伊織って知ってる? それと竜宮小町って」 

優「水瀬伊織って姉さんの事務所の? 竜宮小町すっごく売れてんじゃん。まぁ姉さんの方が上だけど。ってどうしたの急に」 

千早「いいえ、これで全部丸く収まったと思って」 

優「変なの」 

 水瀬さんは生きていて、竜宮小町も活動している。これで全部上手くいったんだろう。


39:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/30 22:49:55 :isTA4K3y0

千早「思えば回りくどかったわね……」 

 結果として救えたからよかったけど、競馬情報って他になかったかしら。不慣れな奴ほど奇をてらう、だったかしら。そんなことを誰かが言ってた気がする。 

千早「残り3回ね……」 

 3回のチャンス。正直もう戻ることはないと思うけど、そのままにしておく。 

千早「行ってくるわ」 

優「行ってらっしゃい」 

 レッスンスタジオは昨日と変わらず。私は大してメールを確認もせずに外に出る。 

 ……この時、きちんと確認しておけば、後に待っている新たなる火種に驚くこともなかったかもしれない。


41:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/30 22:54:14 :isTA4K3y0

千早「おはようございます」 

春香「おはよう千早ちゃん!」 

伊織「おはよう」 

千早「おはよう2人とも」 

 事務所に水瀬さんはいた。よし、これですべて上手くいったんだ。そう、全部……。 

P「それじゃあミーティングだぞー」 

 プロデューサーに集められ、ミーティングを受ける。内容も昨日と同じだ。ただ、違う所があるとすれば……。 

律子「竜宮行くわよー」 

あずさ「はーい」 

伊織「今日の予定は何だったかしら?」 

春香「今日はいいともだよ!」 

 亜美と真美がいないこと。


44:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/30 23:02:35 :vcTcQyyI0

千早「ねえ律子。竜宮小町のメンバーの誕生日を教えてくれる?」 

律子「へ? 急にどうしたの? 伊織が5月5日、あずささんが7月19日、春香は……、いつだっけ?」 

春香「4月3日です!」 

律子「冗談よ。それ知ってどうするの? 相性占いでもするわけ?」 

千早「じゃあ、双海亜美と双海真美の誕生日は?」 

律子「へ? 誰それ」 

千早「……クッ」 

 二人の姿が見当たらないから、なんとなくそうじゃないかと思っていた。 
今度は何がダメだったの!? 

社長「如月君、どうして双海姉妹の名前を知っているのかね?」 

千早「風の便りです」 

社長「良く分からないが、彼女たちも可哀そうな子たちだ。あんなことがなければ……」 

律子「あんなこと?」 

社長「身代金目的で誘拐されたんだ。双海姉妹は病院の院長の娘で……、どこに行く気だね如月君!」 

千早「ごめんなさい、今日はお休みします」 

 驚くみんなを背に、私は家へと駆けだす。事故、殺人ときて次は誘拐!? 一体どこでボタンのかけ違いが起きてるのよ……。


46:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/30 23:07:17 :isTA4K3y0

優「ただいま姉さん、早かったね」 

千早「優!」 

優「はいっ! なんでしょうか?」 

千早「パソコン借りるわよ」 

優「へ? あっ、どうぞご自由に……。って姉さんパソコン出来たっけ?」 

千早「出来ないわよ。だから操作してほしいの」 

優「はいはい。何を調べたらいいの?」 

千早「双海病院 誘拐 で調べてみて」 

優「ちょっと待ってね……」


48:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/30 23:17:15 :isTA4K3y0

優「はい、これだね。双海病院の双子の娘が、近くの公園で誘拐された事件。身代金目的の誘拐で犯人は捕まったんだけど、双子の姉妹は心に深い傷を負ったみたい」 

千早「トラウマね……」 

 犯人に何をされたかは知らないし、知る術もないけど、二人が生きているということにひとまずホッとする。 

優「で、この事件の犯人なんだけど、実は元々近くの小学校に通っている子が目的だったみたいでさ、警察がいたから逃げたんだって。それで次はお金持ちの娘を誘拐して……。ってどうかした?」 

千早「近くの小学校って釘宮小のこと……?」 

 画面に映る犯人の顔は、水瀬さんを殺した男の顔と同じだった。どうやら、すべての元凶はこいつで間違いなさそうだ。 

千早「何の恨みがあるのよ……。優、どこで誘拐されたって?」 

優「えっと、公園だよ。僕らも良く遊んだあそこの公園」 

千早「分かったわ、ありがとう」 

優「どういたしまして。って何を始める気なの? 急に昔の誘拐事件を調べたいとか言って……」 

千早「日付よ」 

優「日付? あれ、この日って……。姉さん?」 

 世界が変わっていく――。


51:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/30 23:22:33 :XhZIlboF0

千早「優、止まってー!!」 

優「え?」 

 3度目となると慣れたものだ。優の事故を防ぎ、公衆電話へと急ぐ。 

先生「もしもし、釘宮小学校ですけど……」 

千早「すみません、釘宮小学校に爆弾を仕掛けちゃいました」 

先生「は?」 

千早「爆弾です。ドカンと一発行けますよ」 

先生「なんですか!? 悪戯ですか!?」 

千早「本気です。早く警察を呼んで爆弾を探した方が賢明かと」 

先生「要求は何よ!!」 

千早「じゃあ子供たちをまだ帰宅させないでください。1人でも校門を出たら、ドカンと行きますから」 

先生「け、警察に電話をー!」 

千早「ふぅ、競馬より早く行ったわね」


52:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/30 23:31:06 :vcTcQyyI0

千早「次は……、公園ね」 

 誘拐される前に、亜美と真美のもとへと走り出す。 

亜美「ねぇねぇ真美、うちってお金持ちなんだってね」 

真美「そ→そ→、だから誘拐されちゃうかもね!」 

 公園で能天気に遊ぶ若かりし亜美真美。真美は思春期真っ盛りだけど、亜美は今とあまり変わらない気がする。 

千早「ねえあなた達、少し聞きたいんだけど……」 

真美「ん? 真美たちになんか用?」 

千早「ええ、少し道を聞きたいんだけど……」 

 誘拐犯はここを通るらしい。来る前に何とかしないと……。 

真美「だってさ、亜美」 

亜美「亜美たち知らない人に付いてっちゃダメって言われてるんだ」 

 そうよね、私も知らない人にカウントされるわよね。名前を……。 

千早「クリス、牧瀬紅莉栖よ」 

 でっち上げちゃいました。


55:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/30 23:35:42 :vcTcQyyI0

真美「クリスってがいこくじん?」 

亜美「スッパイみたいな名前だね!」 

 恐らくスパイと言いたいのだろう。 

千早「そうよ! 私はスパイなの! ある任務でこの町に来たんだけど、道に迷っちゃって……。そこで二人に聞いたの」 

真美「スパイなのに道がわからないってむのーだね」 

亜美「むのーむのー!」 

千早「クッ……、だから教えて欲しいの。場所はそうね……、カラオケなんだけど」 

亜美「じゃんからかな?」 

真美「かもねー」 

千早「そうそう! ジャンから! 悪いんだけど私を助けると思って道教えてくれないかしら?」 

真美「いーよ!」 

亜美「亜美たちもつれてけー!」 

 時間つぶしにはなるかしら? 誘拐犯が来る前に、公園を後にする。


57:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/30 23:42:09 :vcTcQyyI0

亜美「~♪」 

真美「~♪」 

千早「誰かとカラオケって久しぶりね……」 

 優が死んでから、私は1人を好むようになった。今では1人カラオケも珍しくはないけど、初めの内は奇妙な目で見られてたっけ。 

亜美「ねぇねぇ、クリスお姉ちゃんも歌おうよ~」 

真美「スッパイの歌声聞かせて!」 

 亜美真美にマイクを渡される。と言っても子供が喜ぶ曲なんて知らないわよ? 高槻さんの曲もないし……。 

千早「適当に入れるか……」 

 履歴からそれっぽい曲を選ぶ。 

 想い出がいっぱい。また古い曲ね。合唱で歌ったっけ?


61:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/30 23:51:37 :vcTcQyyI0

亜美「すげー」 

真美「スッパイすげー」 

 亜美と真美は眼を点にする。 

千早「こんなものかしら」 

 歌い終わると、終了10分前のコール。延長する理由もないし、亜美真美をいつまでも連れ回すわけにもいかない。 
双海総合病院に2人を送り届ける。 

真美「ねえクリス姉ちゃん、また会えるかなぁ?」 

亜美「また遊ぼうよ~」 

 亜美と真美は寂しそうに私の服をつかむ。


62:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/30 23:54:33 :ba69bjkA0

千早「ええ、また遊べるわ。私みたいに歌の上手なアイドルになってみなさい、そしたらいつか会えるから」 

亜美「アイドル?」 

真美「なにそれ」 

千早「ごめんなさいね、私はスパイじゃないの。アイドルなの。歌を歌って、ダンスを踊ってみんなを楽しませる仕事よ」 

亜美「すごそう!」 

真美「真美たち、絶対クリスお姉ちゃんみたいなアイドルになるかんね!」 

千早「ええ、楽しみに待ってるわ……」 

 最後まで言うことなく、私は現在へと戻る。これで、誘拐はなくなったはずだ。


63:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/30 23:58:00 :XhZIlboF0

千早「おはよう、優」 

優「あっ、起きてたんだ」 

千早「ねえ、うちの事務所に双子の姉妹がいること知ってる?」 

優「うん、亜美と真美でしょ?」 

千早「じゃあ竜宮のリーダーは?」 

優「伊織さん?」 

千早「正解よ」 

 今回は私も正解したみたいだ。これで全部上手くいくはず――。


69:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/05/01 00:05:21 :7cJ7WgX00

千早「おはようございま……、あれ?」 

 事務所のドアを開けると、見慣れない青髪の双子がいた。 

亜美「あっ、クリ、千早お姉ちゃん!!」 

真美「おはよう!!」 

千早「ぐふっ……」 

 扉を開けるや否や、亜美と真美が抱き着いてきた。きれいに入ったわよ……。 

春香「もう、亜美真美はしゃぎ過ぎだよ?」 

伊織「そうよ。その憧れのアイドルが千早にどれだけ似てるのか知らないけど、別人なんだから」 

千早「ははは……」 

 成程、そう来ましたか。確か亜美と真美はriolaってアイドルグループに憧れてたはずだけど、私が介入したせいで変ってしまったんだ。 
私をまねたような青髪がまさにそれだろう。riolaには悪いことをしてしまったかしら? 

P「よーし、ミーティング始めるぞー」 

 プロデューサーがミーティングの合図をする。見渡すと、うん。13人いる。ようやく、悪夢のループから逃れることが出来たようだ。


74:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/05/01 00:12:08 :hB7FSO420

 それから、ライブは無事にとりおこなわれた。961プロの姑息な妨害があったみたいだけど、そんなのにへこたれる私達じゃない。 
そしてクリスマス、春香やプロデューサーが調整したおかげで、クリスマスパーティ&萩原さんの誕生日パーティーが決行されることとなった。 

社長「ふむ……、なかなか時間がかかっているようだね」 

 予定時刻は過ぎているが、どうやら美希とプロデューサーはまだ戻って来ていないようだ。 

春香「渋滞に捕まったのかな?」 

 クリスマスだから仕方ないかもしれないわね。美希のことだから、 

美希『ハニーと長くいたいの!』 

P『ちょ、やめろって!』 

 って感じでやってるんじゃないかしら?


78:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/05/01 00:19:02 :Q9X6ZQ7O0

 まだかまだかと待ちわびていると、事務所に電話が鳴り響く。 

小鳥「はい、765プロです! え? 警察の方ですか? ええ、はい……」 

 音無さんが対応するが、どんどんと顔色が悪くなっていく。 

小鳥「はい、分かりました。ありがとうございます……」 

春香「小鳥さん、どうしたの?」 

 ただならぬ様子の音無さんは、目に涙を浮かべながら、 

小鳥「プ、プロデューサーさんと……、美希ちゃんが……」 

小鳥「事故に遭ったって……」 

千早「!?」 

 天災は忘れたころにやってくる、人災もまた然り。 

小鳥「それで美希ちゃんが……、足が動かなくなったって……」 

 小鳥さんはそういうとその場に泣き崩れた。


80:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/05/01 00:26:42 :Q9X6ZQ7O0

 小鳥さんが言うには、プロデューサーも美希も重体、とりわけ美希は酷く、最悪足を切断しなければいけないと。 

春香「どうして……、どうしてなの……」 

 楽しいはずのクリスマスパーティーは、一本の電話によってぶち壊されてしまった。 


千早「美希!?」 

美希「あっ、千早さん。来てくれたんだ」 

 数日後、私は意識を取り戻した美希のもとへ見舞いに行っていた。プロデューサーは美希よりはマシだったらしく、リハビリに励んでいる。 
しかし美希は……。 

美希「ねえ千早さん。車いすって難しいのかな?」 

千早「美希……」 

美希「ううん、良いの。足を切っちゃうよりはマシだと思うから……」 

 寂しそうな目で私を見る。 

美希「美希ね、もうアイドル出来ないんだよね……。車いすの人を馬鹿にするわけじゃないよ? でもファンのみんなは、それを望むのかな?」 

千早「それは……」 

美希「もう十分楽しんだし、輝き過ぎちゃったんだと思う。だから美希悲しくなんてないよ? 悲しくなんてないんだから……」 

 美希の涙を、私は止めることが出来なかった。


81:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/05/01 00:33:08 :hB7FSO420

優「姉さん……」 

千早「あっ、優。ゴメンね。少し良いかしら?」 

優「ううん。どうしたの?」 

千早「美希の事故のこと、少し調べようと思って」 

優「美希さんの事故? あれはトラックが突っ込んできたって聞いたけど」 

 単純な話だ。酒気帯び運転のトラックが突っ込んできた。幸い死者は出なかったが、美希とプロデューサーは深い傷を負った。 
それだけの話。だけど癖になったのかしら? 事故の起きた背景を調べたくなるってのは。今回は優も伊織も亜美真美も関係ない、別の事件なのに……。 

優「これだね。容疑者も自認しているし、そんな映画みたいに陰謀があるわけ……」 

千早「そうよね」 

 もちろんだけど、運転手は私たちを散々苦しめたあの男とは別人だ。だからこの事故は、優が死んだとしても、起きた事故なはずだ。


83:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/05/01 00:40:03 :Q9X6ZQ7O0

優「でもこれは酷いよね。ネットはやっぱ怖いや」 

千早「どうしたの急に」 

優「ん? この事故関係のスレッドだけどさ、姉さんは見ない方がいいよ。気分を害すると思うから」 

千早「そこまで弱くないわよ。何が書いてるの?」 

優「うん、この運転手の人って、本当ならずっと前に死んでいたんだって」 

千早「へ? どういうこと?」 

優「うん。自称看護師の書き込みだけどさ、この運転手は何年か前に死にかけて、骨髄移植を受けたんだって 

千早「生きながらえたんだけど、今度はこうやって事故を起こした。ってこと?」 

優「そうだね。だから美希さんが事故った原因は、骨髄移植のドナーが悪いってさ」


84:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/05/01 00:45:50 :Q9X6ZQ7O0

千早「そんなの言いがかりもいいとこじゃない!」 

優「だから言ったんだって。ご丁寧に顔写真まで載せてさ……。これじゃあドナーの人も可哀想だよ」 

千早「え? どうして?」 

 私は目を疑った。悪意ある書き込みに張られた写真には、知っている顔が写っていた。 

千早「どうしてこうなるのよ……」 

 それは、青い車で優を轢き、水瀬さんを殺し、亜美真美を誘拐した、これ以上なく迷惑な男の顔だった。 

千早「どうすればいいのよ……」 

 ネットの書き込みと同じだ。もし彼がドナー登録しなかったら、いやドナー登録者なんて何万人もいる。 
その誰かの与えた命のバトンが、もし渡らなかったら? 美希は今も輝く舞台にいただろうし、プロデューサーも怪我することがなかった。 

千早「今度は殺せって言いたいの……?」 

 携帯電話が、着信を知らせた。


87:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/05/01 00:52:04 :hB7FSO420

美希「あっ、千早さん。また来てくれたんだ」 

 ベッドに寝たきりの美希が、笑顔で私を迎えてくれる。 

千早「ねえ美希、一つ聞いていいかしら?」 

美希「なに?」 

千早「もし傷つけてしまったらごめんなさい、美希はまだ、アイドルを続けたい?」 

美希「うーん、美希ね、今の方がハニーが付き合ってくれるから、このままでいいかなって思ってたりするの」 

美希「でもね、ハニーにはこんな美希じゃなくて、キラキラ輝いている美希を見て欲しかったかな……。無理だけどね」 

千早「いや……、まだ行けるかもしれないわ」 

美希「千早さん?」 

千早「私なら変えることが出来る、それだけよ」 

美希「変な千早さん」


92:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/05/01 01:02:04 :7cJ7WgX00

 変で結構。誰かに話しても信じてもらえるわけじゃない、だけど良い方向に変わるなら。 

千早「残りは2回。これで終わるはずよ……」 

 メールに返信、またもや風景が変わっていく――。 

亜美「アイドルすげー」 

真美「リオラっていうんだあのお姉ちゃんたち!」 

 公園で遊んでいた亜美と真美を、デパートの屋上へ連れて行く。 
黒髪ロングの2人も可愛らしかったけど、全部丸く収めるんだから、元に戻しておく。 

亜美「クリスお姉ちゃん行っちゃうの?」 

真美「また会えるよね?」 

千早「ええ、会えるわよ。あのお姉さんたちみたいに頑張っていればね!」 

 先輩アイドルに後輩を託し、私は例の男を探す。公園付近にまだいるはずだ。 

千早「ビンゴね」 

 公園のブランコに乗って、俯いているうだつの上がらない男。車は小学校で乗り捨ててきたのだろうか、見当たらない。 
亜美真美は知らない人に付いていったんだろうか? 名前を名乗れば付いてくるか。


94:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/05/01 01:08:00 :7cJ7WgX00

千早「隣良いですか?」 

男「え?」 

千早「いや、昔はこうして弟と一緒にブランコに乗ったなぁと思いまして」 

男「昔ですか……。信じて貰えないかもしれないですけど、これでも私大企業で重役だったんです」 

千早「水瀬とかですか?」 

男「凄い……、どうして分かったんですか?」 

千早「……勘ですよ」 

 新聞で見ましたなんか言えない。会社を首になり、借金を背負い、家族に逃げられた。 
不運の見本市のような人で、同情したくもなるけど、水瀬の娘を殺そうとするわ、大病院の娘を攫うわ、碌なことをしていない。 
そんな気力があるならハローワークにでも行けばいいのにと心の中で思ってしまう。 
 そんな彼でも、死の間際役に立とうとドナーに登録した。結果として、それが事故につながったのだけど。


97:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/05/01 01:17:45 :hB7FSO420

男「それにね、私今日最低なことをしようとしたんです。私をクビにしたのは水瀬です、でも娘さんに罪はない。それに気づいたのは、学校に着いてからでした」 

千早「そうですか。でも思いとどまって良かったじゃないですか」 

男「ふらふら~と公園に来たら、なんかブランコが懐かしくなって、それでこんな昼間っから漕いでるんですよ。うちのチビと一緒に漕いだなぁって」 

千早「お子さんがいるんですか?」 

男「ええ、まだはなたれ小僧ですが。かみさんが連れて逃げちゃいましたけどね。もうすぐ再婚するみたいです」 

千早「それは複雑ですね」 

男「良いんですよ。私みたいな男より、ずっといい男ですよ。それにね、私長くないんですよ」 

千早「えっ……」 

男「ははっ、心労が祟ったんでしょうね。もう私には何も残されていないんです、だから最後ぐらいは人の役に立ちたいですね」 

千早「例えば?」 

男「そうですね。骨髄ドナーなんてどうでしょうか?」 

千早「それはとても素晴らしいと思いますよ。でも」


98:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/05/01 01:24:21 :ehzls+Wr0

男「でも?」 

千早「カードを添えてあげてください。飲んだら乗るな、飲むなら乗るなって」 

男「?」 

千早「誰かの未来を救える、魔法の言葉ですよ」 

男「不思議な言葉ですね……」 

千早「ええ、こんなんでも救えちゃうんですよ。少なくとも、私の大切な人たちは」 

男「じゃあそうさせてもらいましょうかね。なんかあなたと話してたら、気分が楽になりました。えっと、お名前は……」 

千早「如月、如月千早です」 

男「如月さん、ありがとうございます。あなたのおかげで、もう少し頑張ってみようと思えました。さようなら……」 

千早「あれ、何か落としましたよ。名刺?」 

男「あっ、まだ名刺なんか持ってたんだ。すみません、こんなの持ってても仕方ないのに」 

千早「そうですか。それじゃあありがたく貰っておきますね、天ヶ瀬さん」 

天ヶ瀬「ええ、それでは……」 

 世界が変わっていく――。


101:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/05/01 01:33:08 :hB7FSO420

――さん、起きて……。 

優「おはよう、姉さん」 

千早「おはよう、優」 

 新しい朝が、今日も始まる。 

亜美「千早お姉ちゃんおはよう!」 

真美「おっはー!」 

千早「おはよう、亜美、真美」 

 黒髪ロングの亜美真美……、やっぱりこの子たちは元の方が似合ってるわね。 

伊織「おはよう千早」 

千早「おはよう、水瀬さん」 

美希「千早さん、でこちゃんおはようなの!」 

千早「おはよう、美希」 

伊織「でこちゃん言うなー!!」 

 あのころと変わったこと、優がいて、家族みんながいる。そのせいで色々大変な目にあったけど、これでよかったんだと思う。 
誰も死なない、最高にハッピーな終わり方。 

千早「あと1回か……」


102:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/05/01 01:38:55 :hB7FSO420

 5回だけって言うけど、5回も有れば十分すぎるわよね。4回で何とかなったし。 
残り1回を使う日が来ないことを、心から願っておく。人の人生に介入するってのは、勘弁願いたい。 

P「それじゃあ今日もミーティングだ!」 

 アイドル、プロデューサー、事務員、社長、全員揃って1日が始まる。スターフィッシュも、春香の竜宮入りもない。 

 ライブはもちろん大盛況、黒井社長がなんやかんやしてたみたいだけど、そんなものにうちの団結が負けるものですか。 
おととい来なさい! 


一同『メリークリスマス&雪歩、誕生日おめでとう!!』 

雪歩「あ、ありがとうございますぅ!」 

優「ねえ姉さん、僕もここにいていいの?」 

千早「良いわよ。なんせ今日この日が無事に過ごせるのは、優のおかげと言っても過言ではないわ」 

優「どういうこと?」 

千早「教えてあげない」


105:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/05/01 01:46:33 :ehzls+Wr0

P「遅くなってすみません!」 

美希「なのー!」 

 渋滞に捕まっていたプロデューサーと美希も合流。これで全部上手くいった。 
大きなどんでん返しとかは無いかもしれないけど、それでも私は十分だ。これ以上天ヶ瀬さんに振り回されるのもごめんだしね。 


冬馬『俺の親父はダメな奴でしたけど、親父のバトンが苦しんでいる人を救いました。 
怖いかもしれません、でも命のバトンは繋がっていきます。骨髄ドナーに御登録を』 

P「天ヶ瀬君もなかなか大変な家だったみたいだな」 

伊織「直接は関係ないけど、申し訳なく感じるわね」 

 天ヶ瀬さん、あなたの息子は立派に育っています。少し口が悪いけど、根は悪い子ではありません。


107:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/05/01 01:53:54 :hB7FSO420

 年が明けて――。 

春香「きゃっ!」 

P「春香!!」 

春香「プロデューサーさ……」 

P「のわっ! なんだ? ネット?」 

スタッフA「おい、こんなの用意したか?」 

スタッフB「知らないぞ? おーい、あんた大丈夫か!?」 

P「ええ、ネットのおかげで何とか……。ホント、どこから出てきたんだ?」 




千早「それは秘密です」 

お終い


109:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/05/01 02:00:45 :ehzls+Wr0

これで終わりです。 
最初から最後までミスが多かったですが、自分なりに最良の終わり方が出来たんじゃないかなと。 

最初は3週目後 美希が不審者に殺される→□リ美希に知らない人と話しちゃダメと忠告する 

4週目後 理解者のいない不審者自殺→息子が伊織を殺そうとするが、優が盾になり優が死ぬ 

5週目は水瀬パパに連絡して、クビを防いだからハッピーエンド、プロデューサー怪我で今度は春香が……、 
で終わる感じでしたが、書いてる途中で変わってきました。 

最後まで付き合ってくださった方、ありがとうございました。落ちが弱くてゴメンナサイ。


元スレ
http://hayabusa.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1335786823