■関連SS

「ふぅ…。」 

荷物を網棚の上に置き、息を吐きます。 

これから、生まれ育った土地から、たった独りで東京へと向かうのです。 

慣れない電車に四苦八苦し、ようやくじいやの教え通りに席に着く事が出来ました。 

まもなく、電車は走り出します。時刻は早朝、乗客もまばら。 

がたん、ごとん。ゆっくり走り出した電車は次第に速度を上げ、窓が振動で軋み始めます。 

外を見ると、私の知っている景色が見え、そして知らない景色へと移り変わります。


2:2014/04/07(月) 17:02:10.68 :jwhVXhwao

「真…この電車というのは面妖な物ですね…。」 

私はただ座っているだけなのに、外の景色は目まぐるしく流れて消えていく。 

それが無性に可笑しく、私は隣の座席に顔を向けます。 

しかし、いつもなら側にいたじいやは居らず、私は独りで向かっている、と言う事実を改めて突きつけられます。


3:◆RY6L0rQza2:2014/04/07(月) 17:03:47.45 :jwhVXhwao

私は、四条家の長女として生を受けました。両親は跡取り娘がようやく産まれた、とそれは大喜びだったそうです。 

しかしまもなく、生えてきた髪を見て…跡を継がせる事は出来ない、と悟った、そうです。 

その数年後、妹が産まれました。妹は大層綺麗な黒髪でした。 

私は、この髪の色の所為で、親戚中から疎まれ、蔑まれ、そして差別を受けてきました。 

お前は四条の名に相応しくない、あの子は母親が不倫をして産まれた子だ、等。 

その度に私は悔しい思いをして参りました。何時かは見返したい、と何度も何度も思いました。


4:◆RY6L0rQza2:2014/04/07(月) 17:04:24.46 :jwhVXhwao

…天井を見上げながら今までを振り返っていましたが、ふ、と気配を感じ、足下を見ると、 

熊のぬいぐるみが転がっていました。誰かが落としたのでしょう。 

一瞬だけ、見なかった事に、と言う考えが過ぎりましたが、情けは人の為ならず。立ち上がり、拾う事にしました。 

すると、小さな女の子が駆け寄ってきたのが見え、落とし主だろうと顔を向けると、彼女はあからさまに怯えた表情をしていました。 

…恐らく、この銀髪でしょう。やはり、拾わなければ良かったのでしょうか。 

熊のぬいぐるみを差し出すと、女の子はひったくるように受け取り、そのまま席に戻っていきました。


5:◆RY6L0rQza2:2014/04/07(月) 17:05:11.69 :jwhVXhwao

ため息を吐き、いっその事東京に着くまで寝てしまおう、と席を倒すと、後ろの席から舌打ちが聞こえます。 

何も聞こえなかった事にして、目を瞑りますが、先ほどの舌打ちが気になり、眠る事が出来ません。 

………眠れない時は、考え事をしてしまいます。


6:◆RY6L0rQza2:2014/04/07(月) 17:06:11.90 :jwhVXhwao

私が育ち、義務教育を受け始めた頃も、やはりこの髪の色が原因で、周囲から虐められていました。 

嗜んでいた柔術で対処をし始めると、次第に周りから相手をされなくなり、進級する毎に同じ事を繰り返し、 

気が付けば孤立をしていたのです。それでも、私が挫けなかったのは、偏に、じいや…祖父の存在が大きかったのです。 

じいやは、常に私を見守り、両親に代わり私を厳しく、時に優しく育ててくださいました。 

そのお陰で、私は孤立していても、挫けず今日まで生きてこられました。


7:◆RY6L0rQza2:2014/04/07(月) 17:08:38.30 :jwhVXhwao

やはり眠れず、目を開けて外を見ると、既に明るく日が差していました。 

電車は駅に着き、客を乗せ、そして下ろしているようです。この車両にも、何人かが席を探しにやってきたようです。 

その中で、綺麗な長い髪をした女性が目に付き、私は無意識の内に彼女を目で追っていました。 

彼女は、私と同じ側の席に座ったようです。席に隠れ見えなくなった後でも、暫く彼女の長く美しい髪を思い返していました。


8:◆RY6L0rQza2:2014/04/07(月) 17:09:28.52 :jwhVXhwao

ぼんやりと思い返していると、電車が走り出します。 

また外を見ていると、線路沿いの下り坂を、自転車が併走していきます。 

どこかで窓が開く音がし、それから、自転車の女性の声が聞こえてきました。 

「あずさーっ!!!アイドルになっても、忘れないでねーーーっっ!!!」 

あの様に見送られては、あずさ、と言う方は恥ずかしいのではないでしょうか。 

自転車は、やがて電車に引き離されていき、見えなくなりました。


9:◆RY6L0rQza2:2014/04/07(月) 17:11:31.10 :jwhVXhwao

…しかし、あの様に見送られるのは、とても羨ましいものです。 

私には、見送って下さる人も居ませんでした。私には、あの様に言って下さる人も居ませんでした。 

前の席から、啜り泣く声が聞こえます。恐らく、先ほどのあずさ、と言う方が泣いているのでしょう。 

あの様に想って頂けるのは、幸せなのでしょうね。私は、そっと目を閉じます。 

私は……私は……、これまで誰の役にも立てず仕舞いで、居るだけで邪魔者扱いされ……、 

これ以上はいけませんね。じいやが側にいないだけで、このように弱くなってしまうのでしょうか。


10:◆RY6L0rQza2:2014/04/07(月) 17:14:02.31 :jwhVXhwao

目を瞑っていると、辛くなってしまいます。仕方なく、目を開けると、視界の隅に、先ほどの熊の持ち主が入りました。 

顔を向けると、彼女は赤い包み紙の飴玉を差し出してきました。 

「これは…?」 

「おねえさん、くまちゃんひろってくれて、ありがとう!これ、おれいにって、おかあさんが!」 

「なんと…、頂いても宜しいのでしょうか?」 

「うん!おねえさんにあげる!」 

「では、有り難く。」 

「えへへ、ありがとう、おねえさん!それと、さっきはごめんなさい。」


11:◆RY6L0rQza2:2014/04/07(月) 17:14:42.50 :jwhVXhwao

彼女は、笑いながら席へと戻っていきました。……私も、少しは役に立てたという事でしょうか。 

その事実に気が付くと、涙が止めどなく溢れてきました。 

顔を伏せ、誰にも見られないように一人静かに涙を流します。 

やがて、涙が止まり、顔を上げると、どうやら東京が近づいているようです。 

恐らく、私を出迎えて下さる人は居ないでしょう。 

しかし、この赤い包み紙の飴玉が一人でも、きっと大丈夫と勇気づけてくれます。


12:◆RY6L0rQza2:2014/04/07(月) 17:15:27.49 :jwhVXhwao

私は常に役に立たず、邪魔になるだけだと思っていました。しかし、それは間違いだったのです。 

私も常に変わっているのです。少しだけ、夢に向かっていく事への自信が持てました。 

一人、決意を持った私を、電車は目的地へと運んでいきます。 

じいや、私は、あの日憧れたあいどるになり、そしてじいやにも見えるよう、頂点に立ってみせます。 

それまで、どうか見守っていてください。大好きなじいや。 

おわり


15:◆RY6L0rQza2:2014/04/07(月) 17:20:58.62 :jwhVXhwao

BUMP OF CHICKEN「銀河鉄道」を貴音に当てはめて書いてみました 
世界観とマッチさせるのがちょっと難しかった 

見てくれてありがとう


元スレ
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1396857705