ヤリタイホーダイ

小説中心のブログ。誤字などを見つけたらコメントに報告お願いします。

  ※毎月15日と末日の深夜に更新!

題が思いつかないってのは無しか?

 人間は死ぬと天国か地獄かへ行くらしい。死んだ人は霊になって地上に留まり、ある時ふらっと現れた死神がまとめて連れて行ってくれる。
 どこに?
 裁判所に。
 罪を持たない者にしか天国にはゆけない。だから良い事をしましょう――と、そんなキレイ言が存在するわけだけど、一体良い事とはなんなのか。裁判長が云うには「生きたいと思う事」をすると天国に行けない、のだそうだ。より噛み砕いていえば、「死んだくせに生きてる人間に迷惑かけるんじゃないよこの死霊共が。」とかそんな事らしい。生きたいと思うのが罪、という事なのだろうか。生物として、生きたいと思わないのはどうなんだ。それは生き物としての大事な前提がなくなってる、んじゃないのか。
「だから、そんな人間らしくもない人間じゃないと天国には行けない、ってことさ。」
「ふーん。」
「まぁ、天国なんて存在しないんだけれどね。」
「……盛大なネタバレの気がするんだが。」
「いいんだよ。どうせお前地獄に行けないんだから。」
「だからまたネタバレを」
「うるさいよ。ネタバレっていわなければネタバレって分からないネタもあるんだから、黙ってるくらいがちょうどいいのさ。」
「…………そう、……なの、か?」
 
 時間が少し戻る。あ、いや。時間なんて元から書いてなかったか。風景描写すらないな。苦手なんだよな……そういうの。
 まぁ。まぁ。
 とりあえず、裁判が始まる辺りから、話を進めるぞ。
 んでもって、こういうのの基本って確か、「いつどこで誰が誰(それ)と何をした」を書くんだよな。いつ、はさっきいった。裁判が始まるあたり。どこで……は裁判所。裁判が始まるのに裁判所にいなくてどこにいるんだ。教室? ……学級裁判? いや、そんな規模ちっさくねぇしな……。なにしろ、天国行きか地獄行きかを決める裁判だ。学級裁判のレベルでやられちゃかなわねぇよ。
 次、いつどこやったから、誰だな。これは俺でかまわないだろう。それから、誰と。これは相手だな。裁判長だ。
 裁判が始まるあたり、裁判所で、俺は、裁判長と、天国地獄の裁判をした。こんなところか。つまらない文章だけど、技量の限界ってことで。面白いのが見たければ面白い文章が得意なやつに任せとけばいいんだよ。例えば…………誰かわかんないけど。
 シジン(俺を裁判所に連れてきたやつ)の案内で、俺は待合室らしい場所に待機させられていた。1度に沢山連れて来る特性のため、待合室はかなり広く作られてある。あれ、裁判始まってない。……まぁ、いいか。
 俺を案内してくれたシジンはもういない。入ってきた入り口では違うシジンがまた大勢の霊魂を連れてきていて、とてもとても、人口密度が濃い。霊同士、触れ合うことは出来るから少しムッとしてしまう。ちなみに生きてるやつには触れれない。運ばれてくる前に遊んで実証済みだが、そんな情報天国だろうが地獄だろうがこれから行くどんな場所でも役立つようなものではない気がする。
 しかし、これだけ人(魂?)が多いと裁判も大変だろうな。1人1人への時間を短くしたところで、量で圧倒されちまってるだろうし。
 魂だけになって連れて行かれる場所なんて、裁判所の1択しかないからあえて何も言わなかったが、裁判で決まった先。天国と地獄がどんな場所か、って説明はいるかもしれない。
 まず、天国。ここは楽園だ。筆舌尽くしがたき馳走を思う存分味わうことが出来たりとかそんなことがする場所なんだそうだ。そんなすごい場所にいけるのは滅多にいない。だからこそ、いい場所なんだそうな。
 次、地獄。大体の人はここに行く。罪を犯した人間は死した後(のち)に裁判にて地獄に行く事を言い渡され、悪魔と戯れる毎日を送ることになる。小難しい言い方をしてもたいした内容は無いっていう。よくある現象。
 ちなみに、享年17歳。運ばれたのも、死んでから(他に比べると)そうたってないらしいから、まぁ精神年齢も17歳でいいと思う。なんで知ってるかっていえば、他の魂に聞いたからだ。待合室で待たされて結構時間あったしな。
「次、あんた。」
 ようやっと、声がかかった。俺を運んできたシジンでもさっき新たに霊をつれてきたシジンでもなく、法廷へを案内してる事務員らしい人物だった。
「25番の法廷へ行って。あとは中にいる裁判長から説明受けて答えればいいから。」
 てきぱきと指示だけして、あとはどうでもいいといわんばかりに放置。何もなかったけど、シッシッと追い払う仕草をしてもおかしくない程度にはもう無視されていた。
 いや、大変なのは分かるけど。
 ツッコミを入れようかと迷っていると事務員さんは「まだいるのか」とでも言いたげなジト目で俺を見てきた。……行きます。行くってば。
 無言の圧力こえぇよ。
 ……25番ってどこだ? 待合室と直接繋がる通路に出て、探してみるとすぐに手がかりを見つけた。何番から何番の法廷はこちらですよーというのが壁に書いてある。どうやら通路の1番奥のようだ。
 25と書かれた扉の前に立って、銀色のドアノブをまわす。
 かちゃ、ギィ……。
 油差せよな。

ペンローズの階段 続き

 女は敬語を取ってしまった。ため口のほうが、恐縮させてしまわないですむかもと考えたのではない。真剣な想いを伝える為に、あえてそうした。それは、なりふりかまってられない意思表示でもあった。
 対して。
 時計屋は無言だった。反応もない。
 せわしなく動くことをやめた、という事を反応したに入れるのなら、反応はあったといえるが。
「…………同じ……。」
 聞こえたのは、小さな声。誰かに聞かせるための言葉ではないものだと、女性はそう感じた。何故の答えが見付かって、しかしだからといって疑問がなくなったわけではない。更なる疑問が、時計屋の頭に浮かんだ。それを要約すると。
「……同じ時間が、何度も…………。……気付けないや……。」
 意味が分からなかった。頭に浮かんだのは確かだと思ったのに、女の直感は外れてしまったみたいだ。
 時計屋が女性を見た。異常な人見知りと、思考のためになかなかあわなかった視線が、ぴたりとあう。時計屋の目は前髪であまり見えないが、しっかりと女性のほうを見すえているのはよく分かった。それほどに、真剣な姿勢になった。
 まるで別人だ、とまではいわない。言えなかった。
 雑な造りの店に、この姿がなぜかよく馴染んでいたから。
「どういうことか、詳しく教えてほしいんだけどいい?」
 似合ってはいなかった。お店を持っているのが最初から合っていない。店らしい店であろうとそれは変わらないだろう。けれど、雰囲気や空気――形のないそれらが伝えてくる。
 この男こそが、時計屋の主(あるじ)だと。
「う。」
 今度は、女が後ずさる番だった。
 かすかな怯(おび)えから、外れた敬語が戻ってくる。
「いいです。けど……。」
 2歩目、浮いた足を後ろ足の隣へ無理矢理押し付ける。気後れしてる場合ではなかった。
「その前に、この店がどういう店が教えてもらえませんか?」
「あー……。そういえばしてなかったや……。」
 時計屋が苦笑する。
「ここはタイムリープ、時間跳躍とも言うんだけど……それを扱うお店なんだ。」
「タイムリープって、タイムスリップではなくて?」
「うん。自分の意思とは関係なく過去未来へ跳(と)ぶ事が違い……かな。」
「それじゃぁ私は、未来へ行けるんですね。」
 時間を移動できるお店なんて、ありえない。と、普通は誰も信じないはずだ。しかし、女は自身が2011年を繰り返すばかりで次の年へ行けない経験をしている。現在もその状態で、2012年へ行く方法を探しているところにタイムリープを取り扱っているお店とめぐり合うなど。怪しいと分かっていても、胡散臭いと理解していても抜け出せると期待してしまうのは仕方なかった。諦めたわけではないが、何度も繰り返して疲弊しているのは確かだった。
 しかし、時計屋の表情は硬い。
「あー……。タイムリープをするには、いろいろと決まりがあって…………。」
「……それは?」
 嫌な予感がしつつも、女性は先をうながす。
「……行きたい時間に貰った物がないと、その時間にいけないんだ。」
「……………………。」
「君が行きたいのは、2012年だよね。その時間に貰った物……ある?」
 女性は首を横に振った。ない。行った事がないのにあるわけがなかった。
 同時に、時計屋が必死に考えていた理由が分かった気がした。未来に行った事がある人などいるはずがないのだから、最初から時計屋の頭に未来の解答がなかったのだ。
 いや、それはおかしいか。それなら時計屋は必要なアイテムを持った上でこの店に訪れていると最初から知っていることになる。けれど女性は、それを持っていない。
「なら、2012年に跳ぶのは無理だ……。」
「そう……ですか…………。」
 女の肩から力が抜ける。いつの間にか力が入ってしまっていたようだ。自分が思っていたより大きな期待をしていたのに気付いて、さらに首が下がる。
「でも、未来には跳べるよ。」
 首が上がった。
「今日は、2011年の1月1日だよね。でも君は、2011年の1月2日以降に行った事がある。」
「でもそれじゃぁ、」
「僕はここから出られない。だから、君が解決する怪異のはずなんだ。怪異の原因を解くのも……。他にこの事に気付いた人はいる?」
「いない、と、思うけど……。」
「なら、原因を見つけられるのも多分君だけ。どこにあるかはわからないけど……きっと2011年のどこかのはずだよ。」
「どうして? なぜ、どこかってわかるの?」
 やけに自信満々に言う時計屋が不思議に見えた。女性には全くわからなかった現象を簡単に怪異だと言い切ったのも、気になる。
「君が行きたいのは未来だって言ったから。」
 返ってきた返事もさらりとしたものだった。間が入ることなく告げた言葉は、妙に説得力のある一言として女に受け止められた。
「強い願いがないと、このお店には入れない。君の願ったのが未来へ行くことなら……そこへ行かなきゃ。」
「未来に……。」
 気の弱そうな姿はもう無い。時計屋は力強く頷いて、女は財布などを入れた鞄(かばん)から本を取り出して渡した。時計屋はそれを受け取って表紙に視線を落とす。
「見ていい?」
 女性の顔を見て、頷いたのを確認してから中を開く。
「朱印は、貰った物に入る?」
 ページには筆で書かれた神社の名前、それから朱印が押されていた。続けてめくっていくと、1ページごとに違う神社の朱印が載っている。最後の1枚まで、朱印は押されていた。
 朱印帳を閉じ、時計屋はいつの間に直していたらしい懐中時計を再び取り出した。両方を胸の前に並べて目を瞑(つぶ)る。再び開くまでの時間は長かった。
「…………うん、大丈夫。どの日に行くかが問題だけど……。」
 朱印には押された日付も書かれてある。その中で平成23年のものは後ろの半分ほど。日付がさかのぼっているものはなかった。
「かして。」
 女は23年に押された朱印の日付と印を1つ1つ丁寧に点検していった。
「……間違えてこの朱印帳もってきたのは、偶然だと思う?」
「間違えて……って、どういう事?」
「何回2011年を迎えたかは覚えてないけど、確認は出来るように毎年元日に朱印を貰いに行くの。私の勘違いじゃないっていう確認も含めてね。なんでか朱印だけは2011年になっても消えないから。これは1多分、番最初の2011年に押してもらったもの……。元日以外の日付が入ってるから。」
「……それ、先に言っておいてほしかったな……。」
「わかるの? 原因。」
「わからないけど……。手がかりにはなるから。」
「私も、怪しいと思ってた。だからこれと同じように神社をまわったけど……変わらなかったわ。」
 紙をめくる手が止まる。
「この神社も、貰ってたんだっけ。」
 時計屋の屋台があった神社。そこの朱印が押されたページを時計屋に向ける。
「この日に。」
 平成二十三年十二月二十二日
 縦書きで書かれたその日付は、未来。
 原因が本当にその日にあるのかはわからない。しかし、これで解決できると信じて。それより先の未来へ、必ず行くんだと願って。
 彼女は、跳んだ。

ペンロースの階段

提灯の明かりが照らす神社の中。周りには、年初めに参拝しに来たお客から稼ごうと、屋台が並んでいる。その中にひとつ、文化祭にありそうな出来の悪い屋台があった。四方を布で覆って壁を作り、入り口は狭く中が見えない。明らかに周りから浮いたその店は、当たり前と言うべきか寄り付く人がいなかった。しかし、いぶかしそうに見る人もなく、すべての人がその屋台に気付いないとすら思えるほどに反応無く通り過ぎるのはどういうことなのだろう。
 いや、1人。店と呼ぶべきか分からないそれの中へ入る姿があった。屋台の内側は、見た目そのままを裏から見たような感じだった。布の裏地は丸見えだし、骨組みに養生テープで止めてあるだけのようで、しかもそれを隠すことなくテープの継ぎ目が見えている。店員はいるにはいた。前髪が長く、目が隠れてしまっている。髪の隙間から目がちらりとのぞいてはいるが、あまり世界に興味がなさそうな、半分閉じた瞳をしていた。気の弱そうな雰囲気もしているが、明らかに接客向きの見た目ではなかった。しかし、店内にいる人物といえば先ほど中に入った女性と、この男だけなのである。
「いらっしゃい。」
「このお店は、あなたの?」
「……一応。時計屋っていうんだ。」
 室内にいる唯一の店員は店主らしい。女は空へ視線を移し、緑のテープ以外に飾り気のない壁を見渡す。全く何も無い内装の部屋を確認のため見渡して、そして口にした。
「あの、時計置いてないですけど。」
「うん。」
 男は素直に頷いた。ズボンのポケットから、拳ほどの円盤を取り出す。表面にされた装飾はとても凝っていた。ただし、凝りすぎて若干柄が分からない。川のようにも見えるし、風で揺れる葉にも見えた。見れば見るほど回答が増えていく、そんな不思議な模様だった。
「時計は僕が持ってる懐中時計だけ。」
「……それが、商品なんですか?」
「売り物じゃないよ。これは。」
 女性が黙り込む。時計を売らない時計屋。言葉面にしても意味が分からないというか矛盾は消えるはずもなかった。どういう意味なのか考えていると、店主の少し戸惑った声が耳に入る。
「『時計屋』は商品じゃなくて……シンボルというか……。高田さんがお店をしてるからタカダ商事とか言うのと同じようなものなんだけど……。」
「あぁ、トケイさん。」
 お客は店主を指差して納得する。
 なるほど、トケイさんのお店だから時計屋だったのか。
「えっ、ちが…………あれ、違わない……? 覚えてないからわかんないや……。」
「名前覚えてないんですか?」
「あー………………。うん。」
 見るからに怪しい店に、接客態度がなっていない店員。店主でもあるその店員は自身の名前を覚えていない……らしい。
 女は足を踏み入れた自分の好奇心と勇気に後悔した。しかし、店主とこうして会話をしてしまった以上、あなたの素性が分からないから帰ります、という訳にもいかなかった。とりあえずこの男を時計屋と呼ぶことにして、重心が後ろになりつつある体を前へ戻す。しかしそれは体を前へ傾けるということでもあって。
「えぇと、」
 怯(おび)え気味の時計屋が悩むそぶりをしながら1歩後ずさる。ひっ、とごまかす事をなくしてしまえばそんな声が漏れていたに違いないすばやさで、この店大丈夫なのかと逆に女性は心配してしまった。と同時に、あまりの挙動のため、時計屋に対して妙な警戒心がさらに高まる。
 そんなお客の心境など露とも知らず、時計屋はごまかすためか割と強引な方角へ話題を持ち上げる。
「過去へ行きたいって、思ったことはない?」
「…………えぇ、まぁ……。」
 突然の方向からの質問に戸惑いつつも、これ以上こんな反応されたらたまらないという意味も込めて返事を寄こす。
 というかちょうど今、そう思っていますけれども。
「とても強く、あの時に戻ってみたいって、思ったことはない?」
「それは無いわ。」
「え。」
 時計屋の強ばった顔がなくなる。一瞬だけ、思考が止まった真っ白な表情になった。
「えっ……っじゃぁ……。」
 続く言葉が見付からない。先ほどまでとは違うおどおどした動きになって、表情がめまぐるしく変わる。『何故』を追い求めて、思いついては否定しているかのようだ。目元から上が見えないのに、顔色はよく分かる。きっと隠し事が苦手なタイプに入るのだろう。
「行きたいのは、未来。」
 過去ではないのなら、未来。簡単な発想なのに、なぜか時計屋には決してこの答えにたどり着けないような気がした。今しがた目の前で、長考するその様子を見たからかもしれない。
 女性は、店主の顔をしっかりと見て言った。
「つつがなく年が明けたと思ったらもう1度2011年。もう何度繰り返したか分からないわ。」
 
「だから、わたしは未来へ行きたいわね。」

うつつをぬかすな

 暗闇を駆け抜ける人影が1つ。遠い電灯からのうっすらとした明かりが、ぼやけた輪郭を映し出していた。全力疾走という表現がぴったりと似合うような前傾姿勢でダッシュする姿は、なにか一大事があったからなのか。その人物が走る方向には何があるというのだろう。それとも、ただの逃走劇なのだろうか。
 人影の進行方向に、新たな電灯が現れた。電灯の下には、小さな姿もあった。
 疾走する人物にとって、その影は予想外だったようだ。当たり前といえば、当たり前かもしれない。なにせ小さな子供などいるはずが無い時間なのだから。暗い夜道を、たった1人でいていいはずは無いのだから。
 足運びが、ずれた。もつれた足のせいでつんのめり、危ういところで立て直す。立て直したところでさらにたたらを踏む。
 目の前に、子供が居たからだ。
 いつのまに、それだけの距離を進んだ……?
 電灯の光が、スポットライトに見えた。舞台の上に立つのは幼い人物と、しわの無い大人の姿。頬はすこしこけている。
 子供は、じっとどこかを見つめていた。どこか、と聞かれれば怪しい。ただ何も無い空間に視点を合わせるばかりだ。視点の合わないその目を、大人の人影は戸惑いながらも観察する。
(…………あ。)
 子供の顔が、こちらを向いた。からっぽの瞳で、じっと見据えられる。その吸い込まれそうな瞳を、見つめ返す。目と目が合った。しかし何も起こらない。
 否、すでに起きていたか。
「その包みは、誰のもの?」
 大きい人影が走るのをやめている時点で、『何か』は起きていた。
 小さな人影が眼前にいるような錯覚を受ける。距離が縮まったのは、これで2度目だ。
「ねぇ、その包みは誰のもの?」
 なぜ、この子供は包みを持っていることを知っているのだろう。
 至近距離からの問いにたじろいだ。答えたくても、喉がきゅっと絞まったように音が出ない。口をぱくぱくさせても、言葉にはならなかった。
「そっか。大切な人への、贈り物なんだね。」
 唇の動きだけで、子供は言葉を理解したようだった。小さな身で、そんな技術を身につけていることに驚きである。
「でも、その人には会わないで。」
 嫌にはっきりとした口調。表情は先ほどから動かないし、声の調子も1本調子で、まったく感情というものが見えなかった。しかし、それなのにこの一言が胸に響いたのはなぜだろう。子供が口を開く。大人とは違って、ちゃんと言葉が発音された。
「会ってはいけない。物語の登場人物である貴方が、遭(あ)ってしまうわけにはいかないの。」
「どう……し、て……。」
 喉の調子が戻りつつあるようだ。まだかすれ声だが、日本語として聞き取れる発音は出来た。
 子供の眉が、わずかに下がる。
「……貴方のため、だから。」
「どうして……、それが私のため、なんだ……?」
「包みの中にある指輪も、渡しては駄目。」
「ッ! っなぜだ!」
「ハッピーエンドで終わらないといけないから。登場人物が悲しむことは、決してあってはいけない。」
 登場人物は、大きな人影のこと。悲しむのは、大人である人物だ。簡単な発想、しかしそれ以外の回答は見当たらなかった。
「まさか、彼女に何かあったのか!? …………あんたは一体……。」
「ユメ。これはユメ。だから、起きたらなんともない。」
 大人の額に、何かが触れた。それは触れたまま、まぶたへ下がり大人の視界には何も入らなくなってしまう。
「眠って。眠れば、物語は終わるから。」
 触れるものによって、まぶたが閉じられようとしている。抵抗しようと思ってはみたものの、考えた先から思考は停止する。眠りにつくのと同じように、意識が遠のいていく。
「おやすみなさい。」
 その言葉が耳に届いたのは、深い眠りにつくよりも後だった。
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