学校の建物の一階は床屋になっており、
いつも、そこそこのお客と無難な内装で、
そこにあることを忘れるくらい、可も無く不可も無いお店。
折角ロンドンにいるのだから、髪も伸びてきたし、
良い経験だと思い、行ってみることにしたのだが、
それは今までの髪型に別れを告げる事でもあった、、、
店内に入ると床屋独特の匂いが鼻を刺激し、
世界全国、床屋はそう変わらないと思いきや、
ここはイギリス。サービスが違う。
店員は挨拶もなしに、相変わらずザックザック、
客の髪を切るだけで、私は完全に放置なのだ。
手持ちぶたさとはまさにこの事で、
入り口で、無駄に頭を掻いてみたり、
時間は知っているのに時計を確認してみたり、
もうほんと、作業がほしい。
でも店内をよく見ると椅子があるので、
座って待っていれば、いずれ挙動不審なアジア人にも、
救いの声をかけてくれるのかなという微かな希望に賭け、
バッサバッサなんだか適当に切っているような店員達の後ろで、
座って待つ事にした。逃げるチャンスだったのに。
やがてマスターらしき髭ミスターから床屋椅子に呼ばれ、
「どんな髪にしたいの?」
私は学生証の写真を見せて同じ髪型にして下さいと言った。
「おお!それは良い説明だね。理解したよ!」
と言って、タオルを軽く首に巻いただけで、
もういきなりザックザック豪快に切るのだ。
首から毛がわらわら入り、服にも毛が落ちまくり、
そのうち耳までも落とされるんじゃないかという幻想に、
さい悩まされて、たまったもんではないが、
ここで動じてしまっては、
さも折角ロンドンにいるのだから、髪も伸びてきたし、
良い経験だと思い、行ってみることにした的な、
初心者だと思われるのもシャクなので、
ロンドンの床屋は相変わらずだね、、、
という諦めの境地にまで達した常連顔を作り、恐怖に耐える事にした。
、、、どうも深度が深い。やばくないか、、、
右の前髪を切った時に、その短さを理解した。
「あの、、、短いですよ!写真くらいですって!」
「おお、、、私は目が悪くてね。まあ良いと思うよ、、、
心配するなって!これはフレンチカットだよ。な!!」
次の日、教室に行くとメキシカンは早速、私の頭を撫でて、
「アハ〜TOM!アハハ〜オオーッ!ヒュ〜!」
いや、、もっと具体的になんか言ってよ、、、
それ以来、いつにも増してニット帽子が欠かせなくなった、、、