THE ANOTHER SIDE

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イギリス・ロンドン留学記

もしも英語が話せたら、一体何が変わるのか

No.66 rule

April.20

先生にはそれぞれの掟がある。例えば、
初級部屋・シンディー先生の頭は触ってはいけない。
マレーシア出身なのでそれは大変失礼にあたるらしい。
初級会話部屋・バーバラ先生が愛するサッカーチーム、
トッテナムをけなしてはいけない。熱狂的なので、
昨日負けちゃったねとか言われると、立場を忘れ取り乱すらしい。
中級部屋・フーリガン先生の授業は1日たりとも休んではいけない。
休んだ者は次の日、いちいち叫ばれガンガン床を鳴らされる。
我々生徒は各教師の掟を暗黙に理解し従う。
それが秘密を明かすことになっても。

フーリガン先生が休んだ代わりに、
中級会話部屋・ヘレン先生が来たので、私はニット帽子を取った。
彼女の掟は、マナーを重んじる事で、
授業中の私語や帽子などを禁ずる、保守派の硬派先生だからだ。
しかし、会話クラスを受講していなかったため、
これが初ヘレン授業となったヒーヤンは戸惑いを隠せない。
「ヒーヤン。申し訳ないけど、
 私の授業の時は帽子を取ってください。」
なんでですか?と、ヒーヤン。
「イギリスでは、それはとても失礼な事なのよ。ヒーヤン。
 特別な理由がなければ、帽子はとりましょうね。」

内心、私はどきどきしていた。
ヒーヤンと会って以来、彼が帽子を取ったところを見たことがない。
恐らくクラスのみんなも、漠然とその理由を察していた。
しかし彼は帽子に手をかけ、清々しく言い放った。
「OK!わかったよ。」
ええ!!ちょちょちょ、どうするんだよ!
もし、、もしあれがなかったら、どうするんだよ!ヘレン先生!!

そんな心の叫びも、厳格なイギリスマナーの前には無力で、
秘められし、封ぜられしヒーヤンの頭部は、
各国から集まった12人の熱い視線が一点に集まる中、
帽子の下で、教室の光に照らされるのを待ち、
また僕らも、もしもの突発性の反射光に備えていた。

日の出は正月だけでいい。
御来光は富士山だけでいい。
こんなイギリスの、ましてやアジアの歴史を語り合えた、
友人の頭でなんて見たくはない。

本人の手により、いよいよ上昇を始めたヒーヤン帽子。
固唾を飲み込み、僕らはその行く末に身をゆだねる。
まず側頭部は無事、健康的な黒線で覆われていた。
くせっ毛なのか、毛先が八方にカールしている。
だが、なんにしても今はあることが重要だ。
どうか、、、どうか、そのまま頂に向かって、
しかるべき黒で染まっている事を切に願うだけだ。

そしてついに、主を失った帽子が頭上に掲げられ、
ヘレン先生が
「OK、ヒーヤン。グッドヘアーよ。」
と掛け声をあげたのは、同時だった、、、


「ああ俺、天然パーマ凄いでしょ?
 めんどくさいから韓国でも、いつも帽子だぜ。」
イエッツPUBで、ふっさふさな頭を掻くヒーヤン。
あんた、まぎらわしいよ、、、