別れは突然やってくる。
感謝の念は出来るうちにしておいたほうが、良いのかもしれない。
それが親でも友人でもホストマザーでも。
朝食はいつものように、うっすいパンを2枚ほど。
寝起きで視界が定まらず、パンは板のような薄さに見え、
突然、視界へ飛び込んできたホストマザーは人形のようだ。
「TOM、食事中ごめんなさい、大事な話があるの。」
朝っぱらから、ややこしそうな展開だ。
「ジョンの奥さん知っているでしょ?ほら、クリスマスに来た、、、」
クリスマスのロイデンライブの時に、
孫狂いのジョン爺さんはもちろん、奥さんも来ていた。
「彼女、目を悪くしてしまって手術しなくてはならないの。
私は今からブライトンに行って、
身の回りをお手伝いしなくてはならないの。」
つまりホストマザーは、お姑さんの手術のため、
来週まで帰れないそうだ。
と言う事は、、、
「これが最後なのよ、TOM。見送れなくて本当にごめんなさい。」
ホストマザーは料理の腕はイマイチだったが、
常に話しかけてくれたし、具合が悪いときは沢山薬をくれ、
クラスが上がったときは自分のことのように喜び、
襲われたときも本当に心配してくれた。
その気遣いは、不安な異国で暮らす身にとって、
どれほど心強く思ったことか。
今こそ、やっと身についた英語で、
深い感謝の念を伝えたかったが、
想いが先走り、言葉が出ないことへの焦りが、
さらに次の言葉をせき止める。
自分の脳が苛立たしい。
「あなたが来たばかりの頃は会話にならなかったけど、
よく頑張ったわね、、、日本に帰ってもチャレンジを忘れずに、
人生を楽しく生きてね、TOM。」
Thank you と私。そんなの中学生でも言える。
言葉!言葉よ!何のための言葉だ!感謝の言葉を出せ!!
「それでは、、、元気で!Good luck、、、TOM!」
後ろ髪を引かれるように去り行く姿へ、
せめて笑顔で手を振り、送り出すことしかできなかった、、、
ようやく脳が動き出した頃、
もう会えないことを理解し、何も言えなかった事を痛感する。
このままでは帰れない。
手紙を書こう。