THE ANOTHER SIDE

bar

イギリス・ロンドン留学記

もしも英語が話せたら、一体何が変わるのか

No.75 road's end

May.07.am

フーリガン先生の怒号に包まれた授業も、
今日だけはいつまでも、その喧騒に浸っていたかった。
がなり、叫び、地団駄、視覚的暴力、感覚的恫喝。
彼のすべてを堪能し尽くした後、
最後の授業は終わった、、、

終了後、なぜかフーリガン先生は私の元へ近づいてきた。
重火器のような足音が大きくなるにつれ、
逃げたほうが良いんじゃないかと思ったが、
奴は目だけで私の心を制圧し、
首を簡単に折れるほどの太い腕を振り上げ、
顔を一瞬で握りつぶせるほどの巨大な手が飛んできた。
ああ、ここまでかと思いきや、
「今日が最後だったな、、、元気でな!TOM!」
握手を求めるゴツイ掌は、意外にも柔らかく温かい。
彼の心のようだった。

重火器が過ぎ去りし後、
韓国・ヒーヤンが私の肩に手を乗せた。
「TOM、、、今日が最後なんてな、、、
 韓国に来るときは俺に連絡くれよ!
 案内してやるからな!」
と言って、メールアドレスを交換する。
ありがとう、、、ヒーヤン。
次、会う日までには髪を切りなよ、、、

そして台湾・セイラと目が合った。
「今日が最後ね、、、日本に帰るのは嬉しい?」
もちろん、故郷へ帰れる嬉しさはあるが、
友人達と別れ、イギリス生活が終わる寂しさもある。
こと今日に限っては、帰国の高揚感なんて失せており、
釈然としない寂寥感が心を占めていた。
表情を読んだセイラは、
「私には分からないわ、、、このイギリスのどこが良いの?
 御飯はまずいし、天気も悪いし、古臭いし。
 私は早く台湾に帰りたいわ、、、」
まだ半年以上、ここでの生活が残っているセイラ。
今が辛い時期なのだろうか、、、
でも帰る時になればきっと分かるよ。
それら全てが捨てがたい魅力で、
それらを置いて祖国に発つことこそが、耐えがたい行為なのだと。

「、、、私は帰国日になっても、きっとそうは思わないわよ、TOM。」
と言って教室を出て行くセイラ。
彼女の鬱積した顔を思い出す。
それが最後に見た表情だという事が、ただ残念だ。