フーリガン先生の怒号に包まれた授業も、
今日だけはいつまでも、その喧騒に浸っていたかった。
がなり、叫び、地団駄、視覚的暴力、感覚的恫喝。
彼のすべてを堪能し尽くした後、
最後の授業は終わった、、、
終了後、なぜかフーリガン先生は私の元へ近づいてきた。
重火器のような足音が大きくなるにつれ、
逃げたほうが良いんじゃないかと思ったが、
奴は目だけで私の心を制圧し、
首を簡単に折れるほどの太い腕を振り上げ、
顔を一瞬で握りつぶせるほどの巨大な手が飛んできた。
ああ、ここまでかと思いきや、
「今日が最後だったな、、、元気でな!TOM!」
握手を求めるゴツイ掌は、意外にも柔らかく温かい。
彼の心のようだった。
重火器が過ぎ去りし後、
韓国・ヒーヤンが私の肩に手を乗せた。
「TOM、、、今日が最後なんてな、、、
韓国に来るときは俺に連絡くれよ!
案内してやるからな!」
と言って、メールアドレスを交換する。
ありがとう、、、ヒーヤン。
次、会う日までには髪を切りなよ、、、
そして台湾・セイラと目が合った。
「今日が最後ね、、、日本に帰るのは嬉しい?」
もちろん、故郷へ帰れる嬉しさはあるが、
友人達と別れ、イギリス生活が終わる寂しさもある。
こと今日に限っては、帰国の高揚感なんて失せており、
釈然としない寂寥感が心を占めていた。
表情を読んだセイラは、
「私には分からないわ、、、このイギリスのどこが良いの?
御飯はまずいし、天気も悪いし、古臭いし。
私は早く台湾に帰りたいわ、、、」
まだ半年以上、ここでの生活が残っているセイラ。
今が辛い時期なのだろうか、、、
でも帰る時になればきっと分かるよ。
それら全てが捨てがたい魅力で、
それらを置いて祖国に発つことこそが、耐えがたい行為なのだと。
「、、、私は帰国日になっても、きっとそうは思わないわよ、TOM。」
と言って教室を出て行くセイラ。
彼女の鬱積した顔を思い出す。
それが最後に見た表情だという事が、ただ残念だ。