記念特別展の会場『こむこむ』―こどもの夢を育む施設
『こむこむ』は公益財団法人福島市振興公社が運営する施設で、鉄筋鉄骨コンクリート造、地上4階地下1階、敷地面積5,000㎡、延床面積9,886㎡、JR福島駅東口から徒歩3分の至近距離にある立派な施設である。会場となった『にぎわい広場』は1階入口に直結した解放感ある空間。 訪問時には施設を利用していた小学生の団体が、集団でマナー良くあちらこちらに散らばり模型を見学していた場面もあり『こどもの夢を育む施設』の名前のとおり、この中から木製船舶模型モデラーが出てくるかもしれない。
過去最大規模となる52作品・地元福島にまつわる展示を企画10月23日か29日までJR福島駅近接の「福島市こどもの夢を育む施設 こむこむ」の「にぎわい広場」で開催、初日に訪問しました。数多くのピンチを乗り切り、この第30回特別記念展を迎えることができたのは誠にご同慶の至りです。
福島帆船同好会と展示会の足跡―幾多のピンチを切り抜けてきた歴史

第1回展のポスター(1990年12月)
第1回展は1990年12月に福島市内の模型店「SEKIYA」で応援出品も含め約30隻を集めて開催された。呼びかけたのは相馬市の鈴木琢磨氏(故人)と福島市の吉田耕平氏(現会長)のお二人で、福島県内における最初の本格な木製帆船模型展となる。現在の会員数は東京、山形、栃木在住の遠隔地会員も含めて13名。現在は隔月で例会を開催し、毎年秋に展示会を開催している。
当会の歴史を振り返ると会員数は多い時でも名前ばかり会員も含めて10人台で推移しており、1995年から1998年の展示会中断時期は5人まで減少して最大のピンチを迎えたとのことだ。これを最後に解散しようとして1999年に第6回を開催したが、来場者の中から入会者が相次ぎ息を吹き返した。以後休むことなく展示会を毎年開催してきているが、吉田会長は、模型工作としてはマイナーな分野であることから、道のりでは楽なものではなかったと振り返っている。
諸般の事情から、展示会の開催場所も2002年の第9回まで「SEKIYA」の3階ホール、2003年から2018年まで「ふくしんギャラリー」、2019年よりは市内中心地から少し離れた「道の駅ここら」へと転遷した。2011年は、東日本大震災で展示会に向けて製作していた数多くの模型が破損し、また 津波や原発事故の影響の中で開催の是非について会員が思い悩んでいた。ザ・ロープが「こんな時にこそ」とJSMCCの仲間に声をかけ、50を超える作品を集めて2011年10月に第18回展の開催に漕ぎ着け、会場は作品で埋め尽くされ多くの来場者へ感動を与えた。
今回の第30回記念展はこの第18回展と同規模だが、全て自前の作品となり単独としては過去最大となった。このほかでは、2010/2012/2013年の7月にいわき市の「いわきら・ら・ミュー」でも出張展示会を開催している。この会場での来場者数は半端なものではなかったようで、模型保護の観点から取りやめたとのことだ。
福島にまつわる企画―「福吉丸」と「咸臨丸」


『福吉丸』スクラッチビルド 縮尺1/ 32 福島の御用米を運んだ廻船
昨年の第29回展訪問レポートでご紹介したが、今回の第30回記念特別展の中心となる展示は吉田会長が製作した福島の御用米を運んだ廻船「福吉丸」。スクラッチ、縮尺1/ 32、材料はけやき、希釈ワトコイル仕上げの作品だ。
一緒に展示されていた「武左衛門漂流記」 の資料や日本海事史学会の小林郁氏の論文に加えて、船の科学館が発行した資料ガイド「菱垣廻船/樽廻船」に挿入されていた谷井健三氏による「弁才船の内部精密解剖図」の展示も目を引いた。この資料は近年ではなかなか手に入らない。

模型製作では、船首にある碇は銅棒の端部を四分割して バーナーで加熱して曲げている。常苫(じょうどま)と呼ばれる雨おおいの屋根は、すすきの穂で工作して取り外しが可能。船尾に向けての寄掛かりは硬いけやき板を蒸気で曲げているが、木目が綺麗に出ている。帆柱、帆桁、打廻し、帆ずれ、蝉などもしっかり作り込んでいる。船梁の下の神棚、仏壇、窯の造作も手抜きがない。

この作品を自宅で所蔵保管するのは勿体ないと吉田会長に話してみたところ、製作のきっかけとなった漂流記を所蔵していた大笹生塩釡神社は無理そうだが、積荷の御用米にゆかりがある施設に寄贈しようかと考えているとのことだ。

もう一つの福島にゆかりのある展示では、「こむこむ」が所蔵している咸臨丸の模型展示だった。この模型の由来や仕様などは不明ながら、今回傷んでいた模型を展示に向けて吉田会長が修復したとのことだ。元日本丸船長の橋本進氏の著作『咸臨丸、大海をゆく―サンフランシスコ航海の真相』(海文堂、2010年)によれば、公用方・操練所勤番として幕臣吉岡勇平30才が福島出身と記載されている。

「こむこむ」が所蔵している咸臨丸の模型展示 傷んでいた模型を展示に向けて吉田会長が修復
通訳として乗船した中浜万次郎のすぐ隣に紹介されており、重要なポジションであったことが窺える 。福島帆船同好会の展示会では毎回吉田会長が地元に因んだテーマで企画展示を行ってきており勉強になるが、これは今回の会場施設との連携に相応しい展示であった。また、海事関連図書の精読とはこういうことかということも学び、今回訪問の収穫の一つにもなった。

サンタマリア アマティ 縮尺1/65
茂木会員が製作した模型はアマティの縮尺1/65のキットをベースとしているが、キールとフレーム以外はスクラッチの作品。飾り台はサワラの一枚板から吉田会長が加工している。この模型は昨年の第29回にも出品されたが、今回は完成した姿で会場の入り口に展示された。

メインセール、ボンネット、ドラブラーに書かれているアルファベットの文字に注目

「こむこむ」が所蔵している咸臨丸の模型展示 傷んでいた模型を展示に向けて吉田会長が修復
通訳として乗船した中浜万次郎のすぐ隣に紹介されており、重要なポジションであったことが窺える 。福島帆船同好会の展示会では毎回吉田会長が地元に因んだテーマで企画展示を行ってきており勉強になるが、これは今回の会場施設との連携に相応しい展示であった。また、海事関連図書の精読とはこういうことかということも学び、今回訪問の収穫の一つにもなった。
完成した茂木会員のサンタマリア

サンタマリア アマティ 縮尺1/65
茂木会員が製作した模型はアマティの縮尺1/65のキットをベースとしているが、キールとフレーム以外はスクラッチの作品。飾り台はサワラの一枚板から吉田会長が加工している。この模型は昨年の第29回にも出品されたが、今回は完成した姿で会場の入り口に展示された。

メインセール、ボンネット、ドラブラーに書かれているアルファベットの文字に注目
前回の訪問で気がつかなかったことがあった。メインセール、ボンネット、ドラブラーに書かれているアルファベットの文字である。これらの文字表記はWofram zu Mondfeld著『Historic Ship Models』のBonnets and reefsにイラスト入りで解説されていた。
「スペイン・ポルトガルといったカトリックの帆船ではアベ・マリアの祈りの一部がセールの継ぎ合わせに書き込まれており、その目的は船員が帆を継ぎ合わせる位置を間違えないため」となっている。ちなみに後で調べてみると、ラテン語の表記は ”AVE MARIA GRATIA PLENA, DOMINUS TECUM BENEDICTA” であり、 これを和訳すると”アヴェ、マリア恵に満ちた方、主はあなたと共におられます”となる。
「スペイン・ポルトガルといったカトリックの帆船ではアベ・マリアの祈りの一部がセールの継ぎ合わせに書き込まれており、その目的は船員が帆を継ぎ合わせる位置を間違えないため」となっている。ちなみに後で調べてみると、ラテン語の表記は ”AVE MARIA GRATIA PLENA, DOMINUS TECUM BENEDICTA” であり、 これを和訳すると”アヴェ、マリア恵に満ちた方、主はあなたと共におられます”となる。
製作メモとして作品と一緒に紹介されていたのはセールの縫い合わせの表現方法で、ミシンではなくカットした布を貼り付ける方法を紹介していた。製作者はミシンが使えないのでと謙遜していたが、仕上がりは綺麗で雰囲気が出ていた。

セールの縫い合わせの表現方法

手順は①布の縦糸を2本おきに抜く②縦糸2本分のストリップを切り出す③切り出したストリップを布用接着剤で布の両面に等間隔で接着する。今回の展示では、製作の参考としたAdametz図面のサンプルも卓上で展示された。Adametzのサンタマリアの図面は復元船の製作図面のもので、出所は会報118号(2023年1月1日発行)福島帆船模型展訪問レポートの注記で紹介している。

製作の参考としたAdametz図面のサンプル

セールの縫い合わせの表現方法

手順は①布の縦糸を2本おきに抜く②縦糸2本分のストリップを切り出す③切り出したストリップを布用接着剤で布の両面に等間隔で接着する。今回の展示では、製作の参考としたAdametz図面のサンプルも卓上で展示された。Adametzのサンタマリアの図面は復元船の製作図面のもので、出所は会報118号(2023年1月1日発行)福島帆船模型展訪問レポートの注記で紹介している。

製作の参考としたAdametz図面のサンプル
注目した展示作品
縮尺1/192で製作されている加藤会員の作品は、今回ケースから取り出して展示された。裸の展示により作品が色々な角度から鑑賞しやすくなり、作品から受ける印象が全く新たなものになった。また製作中の「ロイヤル・キャロライン」は縮尺1/48の模型と並列して展示された。このようなインパクトがある並列展示は、ザ・ロープ第30回展のラ・ルノメ(このときは縮尺1/64と1/300の展示)以来である。

縮尺1/192で統一して製作されている加藤会員の作品

縮尺1/192で統一して製作されている加藤会員の作品
川口会員はコーレルの縮尺1/70の「ベネチアコカ」を出品、木地仕上げで落ち着いており、ユニー クな船首形状が分かる。 飯岡会員はアラブのダウ船「スルタン」、アルテサニア・ラティーナ、縮尺1/60のキット。ダウ船の展示は近年では珍しい。久々に鑑賞できたのは渡辺会員のサーモピレーで、これはウッディージョーの1/100のキットで、すっきりとした仕上がり。
吉田会長の「ラ・レアル」は、コーレルの1/60のキットベース。自宅で保管の際にはオールを全て取り外しているそうだ。この模型の見せ場はオールにあるが、展示の都度オールの取り付けとアライメント確保には手間がかかるだろう。一方、飾り台に据え付けている支柱に注目した。葛飾北斎の神奈川沖浪裏をイメージしているとのことで。ユニークな和洋の取り合わせだ。

ラ・レアル コーレル 1/60

葛飾北斎の神奈川沖浪裏をイメージ
ザ・ロープの故志村嘉則会員が製作したロープ撚器が展示されていた。吉田会長は現在この機器は使用していないとのことだが、吉田会長は若い頃より故志村会員とは行き来交流を重ねたとのことで、ベテラン同志で同好会を跨いでオリジナル工具が保存や伝承されている。この狭い帆船模型工作の世界ならではのエピソードではないだろうか。


ラ・レアル コーレル 1/60

葛飾北斎の神奈川沖浪裏をイメージ
ザ・ロープの故志村嘉則会員が製作したロープ撚器が展示されていた。吉田会長は現在この機器は使用していないとのことだが、吉田会長は若い頃より故志村会員とは行き来交流を重ねたとのことで、ベテラン同志で同好会を跨いでオリジナル工具が保存や伝承されている。この狭い帆船模型工作の世界ならではのエピソードではないだろうか。

(栗田正樹)
































