ロープを知る

A man is no sailor until he "learns the ropes."

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菱垣廻船「浪華丸」HIGAKIKAISEN ‘Naniwa-maru’ 田中 武敏  TANAKA Taketoshi 縮尺 1/100

木製帆船模型同好会ザ・ロープ(会長・栗田正樹)は4月14日(日)から20日(土)まで、東京交通会館B1F美術ギャラリー「ゴールドサロン」(東京都千代田区有楽町2-10-1)において第49回ザ・ロープ帆船模型展を開催します。多数の皆様のご来場をお待ちしております。

第49回ザ・ロープ帆船模型展では、世界各国の帆船とともに、特に日本の船にスポットライトを当て51点の作品を展示します。ぜひ会場に足を運んでいただき、夢とロマン溢れるモデルシップ・ワールドをお楽しみください。

なお、会場では今年度の帆船模型教室の参加申し込みの受付も行っています。奮ってご応募ください。

第49回展作品リストcompressed
会場: 東京交通会館 地下1階 美術ギャラリー ゴールドサロン

JR京浜東北線/東京メトロ有楽町線有楽町駅 徒歩1分
会場直通TEL:03-3215-7933
会期: 4月14日(日)~4月20日(土)  11時~18時

入場無料



④小学生で賑わう会場zzzzzzzzzzz
 記念特別展の会場『こむこむ』―こどもの夢を育む施設
『こむこむ』は公益財団法人福島市振興公社が運営する施設で、鉄筋鉄骨コンクリート造、地上4階地下1階、敷地面積5,000㎡、延床面積9,886㎡、JR福島駅東口から徒歩3分の至近距離にある立派な施設である。会場となった『にぎわい広場』は1階入口に直結した解放感ある空間。 訪問時には施設を利用していた小学生の団体が、集団でマナー良くあちらこちらに散らばり模型を見学していた場面もあり『こどもの夢を育む施設』の名前のとおり、この中から木製船舶模型モデラーが出てくるかもしれない。

過去最大規模となる52作品・地元福島にまつわる展示を企画10月23日か29日までJR福島駅近接の「福島市こどもの夢を育む施設 こむこむ」の「にぎわい広場」で開催、初日に訪問しました。数多くのピンチを乗り切り、この第30回特別記念展を迎えることができたのは誠にご同慶の至りです。



福島帆船同好会と展示会の足跡―幾多のピンチを切り抜けてきた歴史

①第1回記念ポスター
 第1回展のポスター(1990年12月)

第1回展は1990年12月に福島市内の模型店「SEKIYA」で応援出品も含め約30隻を集めて開催された。呼びかけたのは相馬市の鈴木琢磨氏(故人)と福島市の吉田耕平氏(現会長)のお二人で、福島県内における最初の本格な木製帆船模型展となる。現在の会員数は東京、山形、栃木在住の遠隔地会員も含めて13名。現在は隔月で例会を開催し、毎年秋に展示会を開催している。

当会の歴史を振り返ると会員数は多い時でも名前ばかり会員も含めて10人台で推移しており、1995年から1998年の展示会中断時期は5人まで減少して最大のピンチを迎えたとのことだ。これを最後に解散しようとして1999年に第6回を開催したが、来場者の中から入会者が相次ぎ息を吹き返した。以後休むことなく展示会を毎年開催してきているが、吉田会長は、模型工作としてはマイナーな分野であることから、道のりでは楽なものではなかったと振り返っている。

諸般の事情から、展示会の開催場所も2002年の第9回まで「SEKIYA」の3階ホール、2003年から2018年まで「ふくしんギャラリー」、2019年よりは市内中心地から少し離れた「道の駅ここら」へと転遷した。2011年は、東日本大震災で展示会に向けて製作していた数多くの模型が破損し、また 津波や原発事故の影響の中で開催の是非について会員が思い悩んでいた。ザ・ロープが「こんな時にこそ」とJSMCCの仲間に声をかけ、50を超える作品を集めて2011年10月に第18回展の開催に漕ぎ着け、会場は作品で埋め尽くされ多くの来場者へ感動を与えた。

今回の第30回記念展はこの第18回展と同規模だが、全て自前の作品となり単独としては過去最大となった。このほかでは、2010/2012/2013年の7月にいわき市の「いわきら・ら・ミュー」でも出張展示会を開催している。この会場での来場者数は半端なものではなかったようで、模型保護の観点から取りやめたとのことだ。 

福島にまつわる企画―「福吉丸」と「咸臨丸」

⑧福吉丸5⑦福吉丸3
『福吉丸』スクラッチビルド 縮尺1/ 32 福島の御用米を運んだ廻船

昨年の第29回展訪問レポートでご紹介したが、今回の第30回記念特別展の中心となる展示は吉田会長が製作した福島の御用米を運んだ廻船「福吉丸」。スクラッチ、縮尺1/ 32、材料はけやき、希釈ワトコイル仕上げの作品だ。

一緒に展示されていた「武左衛門漂流記」 の資料や日本海事史学会の小林郁氏の論文に加えて、船の科学館が発行した資料ガイド「菱垣廻船/樽廻船」に挿入されていた谷井健三氏による「弁才船の内部精密解剖図」の展示も目を引いた。この資料は近年ではなかなか手に入らない。

⑨福吉丸4

模型製作では、船首にある碇は銅棒の端部を四分割して バーナーで加熱して曲げている。常苫(じょうどま)と呼ばれる雨おおいの屋根は、すすきの穂で工作して取り外しが可能。船尾に向けての寄掛かりは硬いけやき板を蒸気で曲げているが、木目が綺麗に出ている。帆柱、帆桁、打廻し、帆ずれ、蝉などもしっかり作り込んでいる。船梁の下の神棚、仏壇、窯の造作も手抜きがない。

⑥福吉丸2x

この作品を自宅で所蔵保管するのは勿体ないと吉田会長に話してみたところ、製作のきっかけとなった漂流記を所蔵していた大笹生塩釡神社は無理そうだが、積荷の御用米にゆかりがある施設に寄贈しようかと考えているとのことだ。

⑤福吉丸1


もう一つの福島にゆかりのある展示では、「こむこむ」が所蔵している咸臨丸の模型展示だった。この模型の由来や仕様などは不明ながら、今回傷んでいた模型を展示に向けて吉田会長が修復したとのことだ。元日本丸船長の橋本進氏の著作『咸臨丸、大海をゆく―サンフランシスコ航海の真相』(海文堂、2010年)によれば、公用方・操練所勤番として幕臣吉岡勇平30才が福島出身と記載されている。

⑩咸臨丸こむこむ所蔵修理後
「こむこむ」が所蔵している咸臨丸の模型展示   傷んでいた模型を展示に向けて吉田会長が修復

通訳として乗船した中浜万次郎のすぐ隣に紹介されており、重要なポジションであったことが窺える 。福島帆船同好会の展示会では毎回吉田会長が地元に因んだテーマで企画展示を行ってきており勉強になるが、これは今回の会場施設との連携に相応しい展示であった。また、海事関連図書の精読とはこういうことかということも学び、今回訪問の収穫の一つにもなった。


完成した茂木会員のサンタマリア

⑪Santa Maria
 サンタマリア  アマティ 縮尺1/65

茂木会員が製作した模型はアマティの縮尺1/65のキットをベースとしているが、キールとフレーム以外はスクラッチの作品。飾り台はサワラの一枚板から吉田会長が加工している。この模型は昨年の第29回にも出品されたが、今回は完成した姿で会場の入り口に展示された。

⑫Bnnet Drabbler Ave Maria
メインセール、ボンネット、ドラブラーに書かれているアルファベットの文字に注目

前回の訪問で気がつかなかったことがあった。メインセール、ボンネット、ドラブラーに書かれているアルファベットの文字である。これらの文字表記はWofram zu Mondfeld著『Historic Ship Models』のBonnets and reefsにイラスト入りで解説されていた。

「スペイン・ポルトガルといったカトリックの帆船ではアベ・マリアの祈りの一部がセールの継ぎ合わせに書き込まれており、その目的は船員が帆を継ぎ合わせる位置を間違えないため」となっている。ちなみに後で調べてみると、ラテン語の表記は ”AVE MARIA GRATIA PLENA, DOMINUS TECUM BENEDICTA” であり、 これを和訳すると”アヴェ、マリア恵に満ちた方、主はあなたと共におられます”となる。

製作メモとして作品と一緒に紹介されていたのはセールの縫い合わせの表現方法で、ミシンではなくカットした布を貼り付ける方法を紹介していた。製作者はミシンが使えないのでと謙遜していたが、仕上がりは綺麗で雰囲気が出ていた。

⑬SantaMaria Sail Making 1
セールの縫い合わせの表現方法

⑭Santa Maria Sail Making 2

手順は①布の縦糸を2本おきに抜く②縦糸2本分のストリップを切り出す③切り出したストリップを布用接着剤で布の両面に等間隔で接着する。今回の展示では、製作の参考としたAdametz図面のサンプルも卓上で展示された。Adametzのサンタマリアの図面は復元船の製作図面のもので、出所は会報118号(2023年1月1日発行)福島帆船模型展訪問レポートの注記で紹介している。

⑮Adametz Plan
製作の参考としたAdametz図面のサンプル

注目した展示作品 

縮尺1/192で製作されている加藤会員の作品は、今回ケースから取り出して展示された。裸の展示により作品が色々な角度から鑑賞しやすくなり、作品から受ける印象が全く新たなものになった。また製作中の「ロイヤル・キャロライン」は縮尺1/48の模型と並列して展示された。このようなインパクトがある並列展示は、ザ・ロープ第30回展のラ・ルノメ(このときは縮尺1/64と1/300の展示)以来である。

⑯Royal Caroline by Katozzzz
縮尺1/192で統一して製作されている加藤会員の作品

川口会員はコーレルの縮尺1/70の「ベネチアコカ」を出品、木地仕上げで落ち着いており、ユニー クな船首形状が分かる。 飯岡会員はアラブのダウ船「スルタン」、アルテサニア・ラティーナ、縮尺1/60のキット。ダウ船の展示は近年では珍しい。久々に鑑賞できたのは渡辺会員のサーモピレーで、これはウッディージョーの1/100のキットで、すっきりとした仕上がり。

⑲Coca Veneta
 ベネチアコカ コーレル 1/70

⑳Sultan Dhow
 スルタン アルテサニア・ラティーナ 1/60

㉑Thermopylae
 サーモピレー ウッディージョー 1/100

吉田会長の「ラ・レアル」は、コーレルの1/60のキットベース。自宅で保管の際にはオールを全て取り外しているそうだ。この模型の見せ場はオールにあるが、展示の都度オールの取り付けとアライメント確保には手間がかかるだろう。一方、飾り台に据え付けている支柱に注目した。葛飾北斎の神奈川沖浪裏をイメージしているとのことで。ユニークな和洋の取り合わせだ。

㉒La Reale
 ラ・レアル コーレル 1/60

㉓La Reale Pedestal
 葛飾北斎の神奈川沖浪裏をイメージ

ザ・ロープの故志村嘉則会員が製作したロープ撚器が展示されていた。吉田会長は現在この機器は使用していないとのことだが、吉田会長は若い頃より故志村会員とは行き来交流を重ねたとのことで、ベテラン同志で同好会を跨いでオリジナル工具が保存や伝承されている。この狭い帆船模型工作の世界ならではのエピソードではないだろうか。

㉔故志村会員製作ロープ工具

(栗田正樹)

  


会場風景hd


第45回展は2023年7月16日から18日までの3日間、梅田スカイビル タワーイースト36階にあるスカイルームで開催され、ザ・ロープから5名の会員が訪問しました。報告者は17日の午後に会場を訪ね、当日夕刻に開催された懇親会にも当会安藤会員、岩本会員と一緒に参加し、楽しい一時を過ごしました。

今回の展示は34作品と絵画2点です。作品では、製作中のものが11点、2023年の新作が7点、これに2008年から2022年までに製作された会員自薦作品が加わり、期待通り見応えがある展示会でした。

ザ・ロープオーサカは1977年に設立されたザ・ロープに次ぐ老舗の同好会で、現在の会員規模は関西地区のモデラー41名で構成されてます。毎年7月の展示会と毎月第4日曜日に例会を実施するなど活発な活動を行なっています。

オーサカ第45回展目録表紙


JSMCCの会員クラブではどこも会員の高齢化に直面してますが、ザ・ロープオーサカでも毎回展示会会場で新会員の勧誘を行なっています。模型教室はザ・ロープと同じチャールズ・ヨットのキットを教材に1年かけて完成するプログラムを実施しているとともに、今年は帆船模型作りの楽しさをアピールするために、バイキング船のクリンカー張りの様子と、来場者にシュラウドにラットラインを張る体験を楽しんでいただく企画をされてました。毎年新しいアイディアを出されています。

ザ・ロープオーサカの展示会は、毎回訪問するたびに学ことが多くまた新たな刺激を受けます。紙面の都合もありフルカバーはできませんが、注目した模型を中心にレポートします。

まず、今年の展示会の目録カバーで紹介されたのは片岡さんのHMS Speedy (Vanguard Models, 縮尺1/64)の写真です。銅板張りに苦労されたとのことですが、sheathingの表現は大変丁寧な仕上がりでした。

#1 Speedy Coppering

中谷さんはネイビーボードスタイルで製作中のHMS Tygerを、右舷と左舷を別々に製作している様子を展示していました。このような展示スタイルは新鮮でした。中谷さんが手がける模型の縮尺は1/75で統一されており、このスクラッチ作品も1/75です。手がけた作品をずらりと並べると船の大きさの比較が分かりやすくなり、スクラッチのなせる技です。

#2 中谷氏タイガー

中島さんは、製作中のペーパーモデル、Shipyardの縮尺1/72 のHMS Wolfを展示していました。中島さんは木製模型の製作では超ベテランでザ・ロープオーサカを代表する匠のお一人ですが、「Shipyardは船のことを良く知っている」が、「紙は言うことを聞かない、主材料が紙であることを心構えて取り組むと出来栄えが違ってくる」とコメントされてました。

大石会長よりも、キットの指示手順通りでは上手く行かず、2〜3隻程度練習が必要だろうとコメントされてました。紙の厚さ(0.5mmとか1mm)のコントロールに加えてスティック糊を使うなど貼り合せも工夫が必要とのことです。

#3 中島氏ウルフ

もう一人の名工である早川さんは、フランスのフリゲート艦Belle Poule(スクラッチ、1/70)を展示されました。この作品は2017年に開催された第41回展で初披露されて今回再登場です。

第41回展の様子はザ・ロープニュース第97号(2017年9月)でもレポートしていますが、この第41回展を訪問したザ・ロープ会員は、リギングのブロックでは大きさ8種類、形状4種類を自作加工するという凝りように驚嘆するとともに、船尾の彫刻にも注目しました。

#4 早川氏ベルプール船尾

この船尾彫刻は前回では上手に撮影できませんでしたが、今回は性能が多少アップしたスマホのカメラで撮影を試みました。Belle Pouleの文字が刻まれています。船尾から見た写真をご覧いただくとレリーフの小ささがご理解いただけると思いますが、ここに船名を掘り込んでいます。凝り出すとここまでやるという見本です。

#5 早川氏ベルプール船尾彫刻 (1)


ザ・ロープオーサカ名匠の金岡さんはVASA(スクラッチ、1/78)を展示されてました。この作品は2013年に初出品されたものですが、特にキットの彫刻と比較するために今回出品したとのことです。写真の通り彫刻はそれぞれ掘り込み、中が透けて見える超絶技巧です。また、外板の釘頭の処理も綺麗に整っており脱帽の一言です。

製作に際してはストックホルムの博物館を訪問するとともに、名著”Historic Ship Models”でお馴染みのWolfram zu Mondfeldが1981年にドイツのMosaik Verlagから出版した”WASA”に含まれている図面をもとに、フレーム図面から起こして製作に4年半を要したとのことです。主材料はカバ桜だそうです。製作の苦労を示す出来栄えは添付写真4枚でご覧ください。

#6 金岡氏VASA 1

#7 金岡氏VASA2 船尾彫刻 (1)

#8 金岡氏VASA3船体釘打

#9 金岡氏VASA4 船首彫刻


金岡さんは製作中のLe Requin(スクラッチ+中国のキット、1/48)を展示していました。ザ・ロープでは中国のコピーキットは公式活動では対象外としていますが、キット彫刻部品の出来栄えをご覧いただくためにご参考までにレポートします。

当初フランスから図面を購入して製作図面を起こし始めたが、元の図が手書き図面のためにCADに取り込むと誤差が大きく後戻りの連続となり、この苦労の過程で中国でキットが発売されていることを知り、以前から中国のキットの進化には興味があったので製作に挑戦してみようと考えたとのことです。レーザーカットの正確さと、添付写真にある通りNCマシンによる彫刻の細かさに驚いているとのことです。

#10 金岡氏ルカン21

#11金岡氏ルカン彫刻

ザ・ロープ会員でもある三木さんは、新作としてオスマンの沿岸交易船(スクラッチ、1/60)を展示していました。この模型には個性を感じました。

FreeShipPlans.comより入手した基本3図面のみでフルスクラッチで挑戦した作品で、当初は小型で楽勝と思っていたがハードルが高く苦労したとのことです。イスラム圏の船なので帆装の取り回しが西欧のやり方と随分異なりさっぱりわからず、自分のテクニック総出で色々と試しながら楽しんだそうです。

#12 三木氏オスマン交易船

ユニークな模型としては、田中さんの四万十セール・カヌー(スクラッチ、1/60)で、カヌーにマストをセールを付けて製作してます。この作品解説で、四万十川は四万余りの支流があるという説に加えて、アイヌ語「シ・マムタ」(はなはだ美しい)が由来との説があることを知りました。

#13 田中氏四万十セールカヌー

最後になりますが、新入会員勧誘の努力を2枚ほどの写真で紹介します。
1枚目はクリンカー張りの説明で、これはBilling BoatsのOseberg720(縮尺1/25)の船体組み立ての様子のデモです。

#14 教室生徒勧誘テーブル

2枚目は「リギング(ロープ張り)挑戦しませんか」の看板でシュラウドにラットラインを張る体験用模型を展示していました。看板の後ろには「クラブ・ヒッチ」の説明と手順を示すボードが隠れてます。
#15 リギング体験

来年も海の日を挟んで展示会が開催されると思います。炎暑になるかと思いますが、是非ザ・ロープオーサカの技巧と匠の世界を覗きにお出かけください。
(ID144 栗田 正樹)

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