1716年創業のパブ The Dolphin
 1716年創業のパブ The Dolphin

ロンドン近郊から1泊2日でポーツマスに出かけました。第一日目のお目当はHMSビクトリーとその博物館、ならびに英国海軍博物館の見学です。HMSビクリトリー関係展示をほぼ丸1日かけて巡回をしました。HMSビクトリーの大規模保存修繕プロジェクトについてレポートします。


訪問のまとめ

最初に第一日目の訪問の総括をしてしまうと、大雑把に2点。
  • ビクトリーは2011年から向こう15年をかける大規模保存修繕作業途上にある。これも資金の調達進捗次第のところもありそうで、マストやリギングが装備されたHMSビクトリーの勇姿はしばらくの間は拝観できないということ。
  • ただし、船体の塗装については専門的な調査の結果を踏まえ、既に1805年のトラファルガー海戦時代の塗装色に改められている。「黄色」ではなくどちらかというと「肌色」と、「黒」というより「ダークグレー」に再塗装されていた。私はHMSビクトリーの模型を制作する技量もなく、そもそも取り掛かる気力もないが、これからチャレンジを考えているモデラーにとっては参考になる。


大規模修繕計画の概要

ビクトリー展示の現況
 ビクトリー展示の現況

HMSビクトリーの周りには立て看板で計画の概要が簡単に掲示されているが、その横にあるビクトリーの博物館には、大規模修繕計画の概要が結構詳しく開示解説されていた。

HMSビクトリーは、2012年に英国海軍より保存財団に移管されるとともに、その際に緊急に対処を要する分野として、雨漏れ/腐食/マストのぐらつき/船体構造の歪が指摘されている。保存財団はこれらを真正面から受け止め、向こう100年の維持保存を担保する大胆なプロジェクトの立ち上げを資金確保とともに動き出している。

船体仮支柱の状況
 船体仮支柱の状況

展示を見ると、かなり突っ込んだ診断が行われており、船体はレーザースキャンで症状を把握している。1920年以降合計22箇所の支柱で支えられた船体の歪みが明らかになっている。解説では、そもそも洋上での運動で船体の重力の分散具合が変化した結果船体が膨んでおり、雨水のアッパーデッキへの浸透とプランキングの腐食が進行していたことが原因だとしている。展示を見ると、これからもっと大変な工程があることが、修繕作業の大項目とその工程表から見て読み取れた。

page
(左)修繕前のスキャニング (右)船体の歪みを示すパネル

大規模修繕のプロジェクトは期間15年、予算規模27百万ポンド(為替レートを現在の1ポンド150円で換算して40億円)、現在のようなオープンエアの展示で、まずは少なくとも向こう50年間は小修繕を加えながら持たせるという意欲的なもの。また、マスト/ヤード/リギングの全取り外しは、現在のポーツマス展示以降初めてとなる。(従い、HMSビクトリー目当ての来訪者の減少は覚悟の上とも言える。)

大規模修繕は大きく4段階の順番で施工される。第1段階 スターボード側 → 第2段階 船首部分 → 第3段階 ポートサイド側 → 第四段階 船尾側。並行して各段階の工程表が掲示されていた。それぞれの段階で詳細な施工分野が検証され、完了を経て次のステップに入るという計画になっている。

4段階の大規模保存修繕計画表x-horz
 4段階の大規模保存修繕計画表


塗装については、1920年にポーツマスに展示された時には1820年代に使われたクロームイエロー色としたが、このカラースキームは1990年代亜鉛成分が使用禁止となるまで使われたが、それ以降イエローオレンジ色の塗装に改められた(この色がこれまで我々モデラーのお馴染みの色合い)。

これを現物の塗装層を分析し、1805年前後の色、展示解説ではpale yellowと書いてあったが、日本語で言えば「肌色」に改められた。同時にお馴染みの黒色も、ダークグレーに改められた。

塗装層の説明パネル
 塗装層の説明パネル

さらに解説では、保存の議論としてはお隣のメアリー・ローズのように「船を建物で覆ってしまい、空調が効く室内展示」も検討されたとあった。これはさすが資金的なハードルがあったのであろう。続く解説では、「これから10年ごとに温暖化の影響や大規模な気候変動の変化を見ながら見直す」とあった。

歴史的なアイコンを長期的な視野で後世のために維持保存するという強い意志と、資金を何とか確保するという覚悟に対し、強い感銘と尊敬の念を抱いた訪問となった。UKというのはすごい国だ。


余話:ポーツマスのパブをはしご

夕方の早い時間にホテルから徒歩でパブ巡りに出かけた。1件目は小振のパブで日本のスナック感覚だったが、バーテンダーというかママは化粧がやたら濃い女性で、迫力があった。怖そうな感じで生ビール一杯目で失礼。

2件目はポーツマスで一番古い1716年創業のThe Dolphinというパブ。すぐに目に飛び込んできたのが「お犬様歓迎」のサインとカウンターに下げられた各国の国旗。サッカーのワールドカップもあってのことだ。もちろん我が日章旗もあった。

パブ内部 犬歓迎のサインと国旗の掲示
 パブ内部 犬歓迎のサインと国旗の掲示

同行したイギリス人から「どこかの国の国旗が欠けているが分かるか?」と問いかけられた。答えは「サウジアラビア」で、「彼らは酒が飲めないからさ」だそうだ。イギリスのユーモアである。暖炉の前にはお犬様用のボールが無造作に置いてあった。これもユーモアか。

パブでは軽食も楽しめる。定番のフィッシュ&チップスはボリュームあるが、ポテトフライは本物。生ビールを試したが、なぜかイタリーのラガーが飛び切り喉越しが良かった。満足満足の一日だった。

(2018年6月 栗田正樹)