ロープを知る

The Official Blog of Model Ship Builder's Club "The ROPE"

カテゴリ: 紀行・エッセイ

メアリー・ローズ博物館とHMSビクトリー
 メアリー・ローズ博物館とHMSビクトリー

ポーツマスの必見アトラクションの一つが、2013年5月にリニューアルオープンしたメアリー・ローズ博物館。HMSビクトリー号の横にある、楕円形で黒色の平べったいモダンな建物の内部が博物館となっている。入場料金はポーツマス海事博物館のアトラクションとは別料金建てだが、現在は入場時間のスロット制限が解除されている。

メアリー・ローズは、16世紀の初頭にヘンリー8世によりポーツマスで建造された。
1545年、対英侵攻作戦を展開するフランス艦隊との遭遇時に沈没、1971年になりポーツマスと対岸にあるワイト島の間にあるソレント海峡の海底で船の一部が発見された。その後、発掘が進められて1982年に船体の約半分が、チューダー朝時代の多数の遺物とともに引き揚げれらた。船体の半分というのには理由があり、海底に斜めに横たわった船体の上部が海流で流され、下半分は堆積物に埋まり生き残ったというわけだ。

船体は、ストックホルムのVASAと同様な乾燥処理が続けられ、この処理が完了したのはつい最近の2016年になってのこと。博物館内部は3階建てとなっており、ガラス越しでメアリー・ローズの各甲板が見られる。また、各階に引き揚げられたチューダー朝の遺物の展示がある。乾燥ダクト類はすでに撤去されており、船体全体が良く見えるようになっているとともに、船内での生活ぶりがプロジェクションマッピングで投影もされていた。


館内風景3
館内風景1
 館内風景1

見学順路の設計も工夫されていた。順路は2階入り口→1階→3階→2階出口で、出口にミュージアムショップとカフェテリアが併設されている。特に面白いのは、最初と最後のプレゼンテーションであった。まず1545年7月19日メアリー・ローズの最期と題した ”The Cowdry Picture” c.1545の大きな拡大絵があり、チューダー朝の服をまとったガイドがこの絵の内容を説明する。

メアリー・ローズの最期の絵(絵葉書)
 メアリー・ローズの最期の絵(絵葉書)

これはショップで販売されていた横長の絵葉書だが、絵の下に『ポーツマス沖のフランスとの戦闘』のタイトルとともに番号をつけて解説している。これらをガイドがストーリー仕立てで丁寧に説明した。これがヘンリー8世、これがフランス艦隊、これがフランスのガレー船と撃ち合いをするイギリス艦、そして絵のほぼ中心に海面上に横になったマスト2本出ているのがメアリー・ローズ、周囲に溺れそうな船員と救助船といった具合だ。

ただし、メアリー・ローズの沈没した理由は諸説あってはっきりとしていない。追加で搭載した予備の大砲の重さに加えて艤装が重すぎ、ガンポートの位置が喫水近くなり過ぎた、はたまた予備の兵隊を積み過ぎて船の安定を欠いた、などなど。

説明はこれから始める館内見学を大いに盛り上げた。展示されているのは引き揚げられた船体の一部で、船全部を見れるわけでもなくよく考えられた演出だった。(訪問後で知ったことだが、初期の来訪者の中には、ストックホルムのVASA博物館のように船全体が見れると誤解している向きもいたそうだ。)

館内風景2
館内風景4
 館内風景2

館内を順路に従い廻った後の最後の展示は、その後継続された海底調査や引き揚げの様子も示すビデオ展示もあり、中身が濃い。例えば、これまでの引き揚げの様子に加えて、まだ展示がされていない船首部分のステムの引き揚げ状況などだ。加えて、見学後に購入したEXPOSEDと題するガイドブックには、21世紀の発掘と題して直面する課題も記載されていた。

現在のイギリス海軍は大型空母クィーンエリザベス(満水排水量65,000トン)を就役させポーツマス港に配置しているが、この空母のポーツマス港の出入港水路がメアリー・ローズが発見されたサイトと干渉していることだ。このガイドブックには、さる2014年にメアリー・ローズが発見された海面上に将来の水中考古学者による調査用にと新たなブイが設置されている写真が掲載されていた。意味深な写真だ。ヘンリー8世時代の最新鋭艦と現代の最新鋭空母がソレント海峡で遭遇しているのだ。

最新鋭空母クィーンエリザベス
 最新鋭空母クィーンエリザベス

ミュージアムショップ情報:

参考図書:
参考図書
MARY ROSE King Henry VIII’s warship 1510 - 45 Owners’ Workshop Manual,
Brian Lavern, Haynes Publishing 2015

英語になるが、メアリー・ローズの歴史に始まり、引き揚げから展示まで網羅的に解説しているハードカバーの参考書。本書の最後にチューダー朝時代を研究するイギリスの歴史家の言葉が印象的で、簡にして要を得ている。
The Mary Rose is the English Pompeii, preserved by water, not fire.
All Tudor life is there; it is like stepping inside a Holbein painting.

メアリー・ローズのキットモデル
Jotika が、Heritageシリーズのキットとして発売している。以下のサイトをご参照。
掲載されている写真は白黒だが、クリックするとカラー版の映像を見ることができる。
http://www.jotika-ltd.com/Pages/1024768/Heritage_Front.htm

参考
博物館公式サイト https://maryrose.org
展示解説は英語のみ

博物館の前で館員と記念撮影
 博物館の前で館員と記念撮影

(2018年6月 栗田正樹)


1716年創業のパブ The Dolphin
 1716年創業のパブ The Dolphin

ロンドン近郊から1泊2日でポーツマスに出かけました。第一日目のお目当はHMSビクトリーとその博物館、ならびに英国海軍博物館の見学です。HMSビクリトリー関係展示をほぼ丸1日かけて巡回をしました。HMSビクトリーの大規模保存修繕プロジェクトについてレポートします。


訪問のまとめ

最初に第一日目の訪問の総括をしてしまうと、大雑把に2点。
  • ビクトリーは2011年から向こう15年をかける大規模保存修繕作業途上にある。これも資金の調達進捗次第のところもありそうで、マストやリギングが装備されたHMSビクトリーの勇姿はしばらくの間は拝観できないということ。
  • ただし、船体の塗装については専門的な調査の結果を踏まえ、既に1805年のトラファルガー海戦時代の塗装色に改められている。「黄色」ではなくどちらかというと「肌色」と、「黒」というより「ダークグレー」に再塗装されていた。私はHMSビクトリーの模型を制作する技量もなく、そもそも取り掛かる気力もないが、これからチャレンジを考えているモデラーにとっては参考になる。


大規模修繕計画の概要

ビクトリー展示の現況
 ビクトリー展示の現況

HMSビクトリーの周りには立て看板で計画の概要が簡単に掲示されているが、その横にあるビクトリーの博物館には、大規模修繕計画の概要が結構詳しく開示解説されていた。

HMSビクトリーは、2012年に英国海軍より保存財団に移管されるとともに、その際に緊急に対処を要する分野として、雨漏れ/腐食/マストのぐらつき/船体構造の歪が指摘されている。保存財団はこれらを真正面から受け止め、向こう100年の維持保存を担保する大胆なプロジェクトの立ち上げを資金確保とともに動き出している。

船体仮支柱の状況
 船体仮支柱の状況

展示を見ると、かなり突っ込んだ診断が行われており、船体はレーザースキャンで症状を把握している。1920年以降合計22箇所の支柱で支えられた船体の歪みが明らかになっている。解説では、そもそも洋上での運動で船体の重力の分散具合が変化した結果船体が膨んでおり、雨水のアッパーデッキへの浸透とプランキングの腐食が進行していたことが原因だとしている。展示を見ると、これからもっと大変な工程があることが、修繕作業の大項目とその工程表から見て読み取れた。

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(左)修繕前のスキャニング (右)船体の歪みを示すパネル

大規模修繕のプロジェクトは期間15年、予算規模27百万ポンド(為替レートを現在の1ポンド150円で換算して40億円)、現在のようなオープンエアの展示で、まずは少なくとも向こう50年間は小修繕を加えながら持たせるという意欲的なもの。また、マスト/ヤード/リギングの全取り外しは、現在のポーツマス展示以降初めてとなる。(従い、HMSビクトリー目当ての来訪者の減少は覚悟の上とも言える。)

大規模修繕は大きく4段階の順番で施工される。第1段階 スターボード側 → 第2段階 船首部分 → 第3段階 ポートサイド側 → 第四段階 船尾側。並行して各段階の工程表が掲示されていた。それぞれの段階で詳細な施工分野が検証され、完了を経て次のステップに入るという計画になっている。

4段階の大規模保存修繕計画表x-horz
 4段階の大規模保存修繕計画表


塗装については、1920年にポーツマスに展示された時には1820年代に使われたクロームイエロー色としたが、このカラースキームは1990年代亜鉛成分が使用禁止となるまで使われたが、それ以降イエローオレンジ色の塗装に改められた(この色がこれまで我々モデラーのお馴染みの色合い)。

これを現物の塗装層を分析し、1805年前後の色、展示解説ではpale yellowと書いてあったが、日本語で言えば「肌色」に改められた。同時にお馴染みの黒色も、ダークグレーに改められた。

塗装層の説明パネル
 塗装層の説明パネル

さらに解説では、保存の議論としてはお隣のメアリー・ローズのように「船を建物で覆ってしまい、空調が効く室内展示」も検討されたとあった。これはさすが資金的なハードルがあったのであろう。続く解説では、「これから10年ごとに温暖化の影響や大規模な気候変動の変化を見ながら見直す」とあった。

歴史的なアイコンを長期的な視野で後世のために維持保存するという強い意志と、資金を何とか確保するという覚悟に対し、強い感銘と尊敬の念を抱いた訪問となった。UKというのはすごい国だ。


余話:ポーツマスのパブをはしご

夕方の早い時間にホテルから徒歩でパブ巡りに出かけた。1件目は小振のパブで日本のスナック感覚だったが、バーテンダーというかママは化粧がやたら濃い女性で、迫力があった。怖そうな感じで生ビール一杯目で失礼。

2件目はポーツマスで一番古い1716年創業のThe Dolphinというパブ。すぐに目に飛び込んできたのが「お犬様歓迎」のサインとカウンターに下げられた各国の国旗。サッカーのワールドカップもあってのことだ。もちろん我が日章旗もあった。

パブ内部 犬歓迎のサインと国旗の掲示
 パブ内部 犬歓迎のサインと国旗の掲示

同行したイギリス人から「どこかの国の国旗が欠けているが分かるか?」と問いかけられた。答えは「サウジアラビア」で、「彼らは酒が飲めないからさ」だそうだ。イギリスのユーモアである。暖炉の前にはお犬様用のボールが無造作に置いてあった。これもユーモアか。

パブでは軽食も楽しめる。定番のフィッシュ&チップスはボリュームあるが、ポテトフライは本物。生ビールを試したが、なぜかイタリーのラガーが飛び切り喉越しが良かった。満足満足の一日だった。

(2018年6月 栗田正樹)
















ガイドブック扉
アトラクション配置図

晴天に恵まれた去る6月11日、ケント州にあるメドウェイ川に面した歴史的なイギリス海軍工廠跡を訪問しました。工廠そのものは1984年に閉鎖され、現在は海事博物館として一般公開されています。

400年超の期間に500隻以上の軍艦を海軍向けに建造した由緒ある造船所で、ポーツマスにあるHMS ビクトリーもこの造船所で建造されました。往時の姿をそのまま残す造船所跡で、見所が沢山あります。

長いロープ工場 筆者
 長いロープ工場 筆者


Victorian Ropery(ロープ工場)

来訪者受付で購入した入場券は1年間有効で、発行に際して顔写真を撮影された。入場券には顔写真は印刷されないが、再入場の際に本人照合されるとのこと。ロープ工場の実演デモは1日1回なので、入場直後見学者受付で予約をすることが肝心。これ以外の展示はかなり柔軟に対応している様子であった。

ロープ工場のガイドツアーには、時間になると50人ほどの来訪者がぞろぞろと集まってきた。女性のガイドの説明を受けながら、工場関連の施設を順次周り、最後にロープ巻きのデモが行われた。このロープ工場では現在でもロープを製造・外部販売を行なっている。この売り上げで工場の保守維持費をまかなっているとのことだ。

ここで喫煙具を保管する
 ここで喫煙具を保管する

ガイドツアーでまず説明が行われたのはRopery Officeで、Smoking Materials(喫煙具)の看板がついた建物。ロープの材料は麻が使われる。製造途中で建物内にこまかな繊維が空中に舞うので、当然のことながら火気厳禁。工員は工場入場に先立ち喫煙道具をここに預けることが義務付けられたとのことだ。

次にロープがどのように作られるのかの基礎講座。女性のガイドが手慣れた手つきで麻の繊維を持ち来訪者に質問を投げかけながら、糸紡ぎから始まり錨に取り付けられた太いロープまでがどのように作られるかの説明が行われた。ツアー参加者は自分も含めておじさんおばさん達がほとんどであったが、皆無邪気にツアーガイドとやりとりするのは日本とは少し違った雰囲気。

ロープの作り方を説明
 ロープの作り方を説明

ぞろぞろと歩きロープ工場の横にある入り口前で次の説明に移った。階段を上がった入り口の上に、赤字で「Entrance to Spinning Room Women Only」(糸紡ぎ部屋入り口、女性のみ)との看板が掲示されていた。ロープ製造工程の初めとなる糸紡ぎは、未亡人や若い女性が担当していたとのことで、男性と遭遇しないように職場を分け、また出勤時間も男性より30分早く来て、30分早く帰ったそうだ。女性の労働力確保の知恵と努力が行われていたわけだ。

糸紡場入り口と女性のみ入場可の掲示版
 糸紡場入り口と女性のみ入場可の掲示版

いよいよ全長400メートルにも及ぶ縦長の建物に入りロープ製造のデモ見学となるが、まず気が付いたのは工場建物の壁の厚さだ。耐震用でもなさそうだし、建築技術の未熟でもなく、多くのイギリスの建築物の壁は厚かったのが普通なようだ。

ロープ工場の厚い壁
 ロープ工場の厚い壁

中に入ると壁際にそって並ばされ、これから実演を始めると説明があり、品のいい緑色のつなぎを着た職人が準備を始めた。この工場では5名の工員が働いており、内1人は女性だそうだ。すでに縒られたヤーン3本をテンションを見ながら糸縒り機械に取り付け、次に溝が3本切ってある円錐形の木片を取り付け、巻き始めにもつれが出ないようにする前工程のデモが行われた。

ロープ工場実演風景
 ロープ工場実演風景

巻き始めの合図は横上に貼ったロープに取り付けられたベルを鳴らす。スピニングホイールが、現在の機械工場ではとても聞くことができない独特の音を出しながら動き始める。この巻き機械は1850年製だそうで、2ヶ月に1度の保守点検が行われて今でも現役で稼働している優れもの。保守費は製造したロープの販売代金から充当しているそうだ。

この巻き機械は400mを6分で走るというから時速4キロ、動きをみていると思いのほか速い。自分も含めた一部の訪問者は壁に沿って追いかけた。デモが終わると、工員は手際よく次の本来の仕事の準備に入った。確かにこの博物館の人気アトラクションで、来訪者を楽しませる。

全長400mのロープ工場
 全長400mのロープ工場

ロープ工場の横から出て改めて建物を見ると、確かに長いことを改めて実感する。あのHMSビクトリーに使われたロープの総延長は50Kmと言われるから、機械化も進んでいない往時で効率を追求すれば、工場が長くなるわけだ。

Slip The Big Space (屋根のある船台)

見所の一つが1838年に建築された木造の大きな屋根がついた船台(slip)。イギリス海軍は、ナポレオン戦争の時代から造船の際に船体の木材保護のために船台に屋根を付け始めた。これは現存する最も古い屋根付き船台で、往時としてはヨーロッパの木造建築の中では最もスパンが長いものであったとのことだ。

船台の屋根とメザニン
 船台の屋根とメザニン

1904年になりメザニンが構築されてボートの保管設備になったが、現在ではこのフロアーはパーティーなどイベント用の貸し出しスペースになっている。それにしても、この博物館は財団によって運営されているが、維持費捻出のための努力はここチャタムにとどまらず、今回訪問したポーツマスのビクトリーやメアリーローズでも同様にスペースの貸出を宣伝していた。


Steam, Steel & Submarines(歴史博物館)

海軍工廠の歴史を展示する建物の中に、往時の造船所の風景を再現するジオラマ展示があった。興味深かったのは、戦艦を長期間係留した際に、マスト、ヤードなどを取り外し雨露を防ぐために屋根を実際にどのようにつけたかという展示。船首部分を除いて屋根をつけている。イギリス北東部のハートリプールで訪問したトリンコマリーの博物館では、長期保存の様子を示す絵画では木製のカバーであったが、このジオラマでは木材かキャンバスだったのかははっきりしない。

歴史博物館のジオラマ、戦艦の係留保管
 歴史博物館のジオラマ、戦艦の係留保管


Command of the Oceans (海の覇権)

往時の造船工程や帆船の仕組みを展示するアトラクションで、順次歩きながら、18世紀の帆船戦艦の建造や維持においてチャタムが果たした役割を解説していた。特に力をいれていたのが、1756年にチャタムで建造された第2級戦艦Namurで利用された木材の10%程度が1995年に建物の床下から発見され、スクラップされた際に材料が再利用されていたことを現物とともに展示解説されていたことだ。

Namurの木材再利用の現物展示
Namurの木材の再利用の様子1
(上)Namurの木材再利用の現物展示(下)Namurの木材の再利用の様子

鉄のスクラップは溶かされて再利用となるが、木の命は永い。このアトラクションの最後には、1952年に日本で公開された映画「美女ありき」の撮影のために作られた大型のHMSビクトリーの模型が展示されていた。なかなか迫力がある模型。(この映画の英語タイトルは”That Lady Hamilton Woman”で白黒2時間。日本語の字幕はないがYouTubeに全編がアップされている。)

映画に使われたビクトリーの模型
 映画に使われたビクトリーの模型

訪問のヒント

・博物館のガイドブック、内部解説、ツアーは英語のみ。
・情報源:
 公式サイト:http://thedockyard.co.uk または、chatham dockyard で検索。
・アクセス:今回は車で訪問したが、鉄道でロンドン(Victoria, Charing Cross)から
 Chatham駅まで40~50分、Chatham駅からは徒歩20分程度。
・飲食設備やトイレは完備している。
・ミュージアムショップは新刊の海事関連書籍含めて品揃えは良い。
・推奨参考文献:
 図説英国の帆船軍艦、ジェイムズ・トッズ/ジェイムズ・ムーア著、渡辺修治訳
 原書房(1995年)
 この本の原書は以下。
 Building the Wooden Fighting Ship,
James Dodds and James Moore, Illustrations by James Dodds
Chatham Publishing London 1984

(2018年6月栗田正樹)

船尾側風景と入り口xx
 船尾側風景と入り口

20年振りにグリニッジのカティーサークを訪問した。

2006年に着手した大規模修復保存プロジェクトは2007年5月に発生した火災の影響で遅延し、再開場は2012年4月となった。休日に発生した火災の原因調査は1年超にも及んだ。考えられる原因を消去法で絞り込んだところでは、工事現場に置かれた集塵機の加熱と判定されたとのことだ。

修復作業中であったことから、船体のプランキングは外されて別に保管されていたこと、また、鉄のフレームも1000度Cの高熱に良く耐えて、利用不能となったのは全体の5%に留まったことなどが幸いした。

船首側よりの風景L
 船首側よりの風景

新たなカティーサークは船体の下部がガラスのキャノピーで覆われ、船体もドックから3㍍ほど空中に浮いたユニークな展示で蘇った。この展示変更により、これまで見学できなかった船体を下から眺めることができ、より良く船が理解できるようになった。カティーサークを下からこの目で見てみたいのが、今回のグリジッジ訪問の最大の目的だった。

キャノピーは、ガラス総面積1,500平米、鉄骨フレームは72トンにも及ぶ一大構造物。オーストリーの seele が施工している。同社のホームページの施工実績には、”Cutty Sark Conservation Project, London, UK”として5枚ほどの3Dモデル、フレームの状況、施工時の写真が紹介されている。

空中に浮いたキールxxxxx
 空中に浮いたキール

ちなみに、今回のグリニッジ訪問では、DLR(ドックランド・ライト・レール、東京のゆりかもめに相当)を利用したが、グリニッジに向かう際に利用した Canary Wharf 駅もキャノピーで覆われており、同じ会社が施工を行なっている。

1957年のカティーサーク展示開場時、船体の銅板貼りはMuntzメタル(銅70%、亜鉛30%)のシートで覆われていたが、今回の修復では銅60%、亜鉛40%のイエローメタルのシートで覆われた。この材料変更によりコストは従来の3分の2となるが効果は同じとの解説だった。

2012年の再開場時の写真を見ると船体下部はキラキラと輝いていたが、6年の歳月を経て表面の色合いが良い具合に風化してきていた。しかし良く見ると、キャノピーと船体の密着部分から雨漏りが始まっており、水垢がところところで目立つ。


雨漏り1
雨漏り2
 雨漏りが始まっている

特に出口に向かう階段では間近に銅板貼りの様子を見れる。銅板のネイリングの様子もよく分かるが、それよりも雨漏りの様子が目立った。雨の多いロンドンのことだから設計施工に際しては十分留意はしたのだと思うが、日本のスーパーゼネコンの施工ならこうはならないだろう。


雨漏り3_接近とネイリング
 雨漏り3_接近とネイリング

施設内にあるショップでは、Osprey Publishingが今年ハードカバーで発売したThe Cutty Sark Pocket Manual がすぐに目に飛び込んできた。手にとって中身をみると、会報でご紹介した大型本(Cutty Sark The Last of The Tea Clippers) のコンサイス版のようなもので、写真やデータの掲載は大幅に削除されているが、結構細かいことまでコンパクトにまとめており、うれしいことに索引もある。安価な好著との印象を受け早速購入した。(なお、本書は日本のアマゾンでも購入可能)


The_Cutty_Sark_Pocket_Manual
 The Cutty Sark Pocket Manual

この本では、建造代金に支払いの記載も手抜きせずに掲載している。船の建造代金は、通常CKLD(Contract, Keel Laying, Launching, Delivery) の4段階で均等に支払われるが、カティーサークの当時の建造代金£18,650の支払いは以下の8段階となっている。

1. £500 契約時
2. £1,500 キールレイング
3. £2,000 フレーム/ビームのリベット完了時
4. £1,000 船体プランキングの準備完了時
5. £2,500 プランキング、甲板完了時
6. £2,500 コーキング、銅板貼りを終えて、進水準備完了時
7. £2,500 進水時
8. £6,150 セイルの操作、コンパスの調整が完了し、注文主の検収完了時

これらを見ると、契約時には総額の3%しか支払われず、進水時まで全体の67%は支払われるものの、残金30%は帆の展帆やコンパスの正常動作となっていることの検収後というのがいかにも帆船らしい。

建造を請け負ったスコットランドの造船会社は、スチームボートなどの建造経験はあったが帆船は初めて、また重なる設計変更や遅延で資金繰りが回らず挙げ句の果てに倒産し、新たなスポンサーの手により完成させたとのこと。


天文台からの風景 ロンドン新市街とNMM
 天文台からの風景 ロンドン新市街と国立博物館(NMM)

今回のカティーサークとの再会でたっぷり3時間を使い、その足で国立博物館(NMM)の館内をパトロールし、グリニッジ天文台に向かったのは夕方になってしまった。夏時間で明るく芝生でくつろぐ人たちの間を天文台まで登る坂が大変で体力テストとなった。

疲れ切った足腰での天文台見学は、内部の世界標準時の子午線を決めた観察装置の以外は駆け足となってしまった。午後5時には閉館となるので、肝心なクロノメターの展示解説などは次回のお楽しみとした。


(2018年6月栗田正樹)

19世紀の忘れられた戦いコーナー

次に足を運んだのが、19世紀の忘れられた戦いという名称が付けられたコーナー。主だった展示パネルは次の通りだが、解説が多く、目立った模型はコンスティチューションのみで、甲板のボートの積層に注目した。


「19世紀の忘れられた戦い」のコーナー


解説をひとつひとつ丁寧に辿って感じたことは、自由と民主で独立した新興アメリカも、自国の発展、勢力圏の拡大膨張のために海軍力を活用したということで、これは欧州大陸の国家がやったことと同じではないかという歴史的な事実である。軍事史を理解せずして世界史を語るなかれと改めて自戒。

戦いの地を示す地図パネル

擬似戦争(1798 - 1801):アメリカ合衆国と革命後のフランスとの間で、すべて海上で行われた宣戦布告なき戦い。
バーバリ戦争(1801 - 1805):オスマン帝国支配下のトリポリとの間で行われた戦争。独立後宣戦布告がなされた最初の戦争。
米英戦争(1812 - 1815):第二次独立戦争とも呼ばれ、米英がカナダ、アメリカ東海岸、アメリカ南部、大西洋、 エリー湖、オンタリオ湖の領土を奪い合った。インディアンによる代理戦争とも言われる。
メキシコ戦争(1846 - 1848):テキサスが1836年に独立を宣言し、1845年に合衆国に組み入れられた後に領土を争った戦争。成熟していない合衆国海軍がメキシコ湾の海岸線やユカタン半島の海上封鎖を行なった。


南北戦争


装甲艦の模型で目を引いたのはCSS Virginiaの縮尺1/48の模型で、ドックで建造中の仕立てとなっている。RAM Tennesseeの模型は丁寧に作り込んでいる。MonitorとMerrimackの戦闘ジオラマも鑑賞する視点が面白い。艦上から戦況を見ているような仕立てになっている。

CSS_VIRGINIA_1_48
RAM_TENNESSEE
装甲艦との戦い、大砲のジオラマ
(上)CSS_VIRGINIA_1/48(中)RAM_TENNESSEE(下)装甲艦との戦い、大砲のジオラマ


その他注目した模型2点

まず目に入ったのが、U.S.S. Powhatanの模型で、これもすっきりとしている。ペリーと一緒に日本に来航、帰路条約を運ぶ役割を担った歴史的な船。10インチのライフル砲を搭載しているが、甲板上の大砲の運動導線を再現している。乾燥して甲板の木材の一部が浮き上がっていた。

S_Powhatan(1)
_Powhatanの大砲導線(1)
 U.S.S. Powhatanの大砲導線

次に、U.S.S. Miami。この模型は船底を銅板貼りで仕上げている。解説では、ダブルエンドの船体は前後両方向の運動がしやすく、特に狭い川の航行では威力を発揮したとあった。確かにラダーを船首、船尾に装着している。

USS_Miami
USS_Miami_Bow(1)
USS_Miami_Stern
 USS_Miami

これらの他に「第二次世界大戦における海軍の活躍」の展示があり、真珠湾攻撃からD-Dayまでを史実と写真、ビデオで紹介している。太平洋戦争で日本の降伏文書が調印された戦艦ミズーリが展示場内中心に堂々と飾られていた。

戦艦ミズーリ
 戦艦ミズーリ

予定していた2時間はあっという間に過ぎて、慌ててミュージアムショップに行く。事前にネットで販売書籍を物色し品定めをしていたので、書名を言うとすぐに取り出してくれた。海軍関連の品揃えは衣類、贈答品、記念品、絵画のレプリカプリントなど多かった。ここでしか買えないと言われたアメリカ海軍公認のマグネットを購入した。8ドルと中国製で多少高めと感じたが公認だけにさすが出来栄えが良い。

また、奥に中古本もあると言われて覗いてみた。確かに海軍関連の中古本が著者名アルファベット別に整理され安価の値札が付いていた。書籍名での棚揃えではないので見るのに時間がかかりそうなことと、一見して専門書が中心のようであったので、ざっと眺めるだけに留めた。

通用門に近い構内にSubwayとダンキンドーナッツの店が同居しており、丁度昼時で軍人や関係者で賑わっていた。迎えのタクシーは既にビジターセンターの駐車場にいたので、コーヒーとドーナッツで簡単な昼食となった。入門証は訪問記念に持ち帰りたいと係の警官に話したら、即OKの返事がきた。満足できた訪問となった。

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 ここでしか買えないと言われたアメリカ海軍公認のマグネット

(栗田正樹 記)

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