今月9日に衆院が解散されて以来、各政党の動向や、自民党の刺客擁立などが注目されてきた。しかし、選挙の主役は何も候補者ばかりではない。いや、選挙の真の主役はむしろ有権者であるはずだ。その有権者に、実に興味深い動きが見られだしたことを、僕は心から歓迎したい。

今月17日、株式会社グロービス堀義人氏のブログにこんな見出しが躍った。衆議院選挙に向けて、若手起業家からの提言-「YES運動」 この運動は8日後の25日に、YES! PROJECTとして結実する。この運動がユニークなのは、特定の政治思想を支持することではなく、「草の根的に若者の政治参画意識を高めていくこと(プレスリリースより)」を目的としている点にある。従って、具体的な訴えは実にシンプルだ。「選挙に行こう」「改革を進めよう」「もっと発言しよう」の3つに対してYES!と答えること。ただそれだけである。

市民が政治に参加する意志と能力を持っていることは、実は民主主義の最低条件である。YES! PROJECTが素晴らしいのは、まさにこの点に自覚的であることだ。改革云々は置いておくとして、かつてこれほど明確に、歯切れよく政治参画を訴えた運動があっただろうか。僕自身は、ちょっと記憶にない。
人々の政治参画意識は、実際あまりにも低い。その好例は、例えば広島6区に見ることが出来る。19日、ライブドア堀江氏広島6区から無所属で立候補した。何かと物議を醸すこの人物の立候補について、加藤紘一元自民党幹事長は痛烈な批判を浴びせている。曰く、「まじめに政治をやってきた人間たちの努力が馬鹿にされたような感じ。世の中お金で何でもできるんだ、などと公言した人が、政治に参加するなら十分説明がなければいけない」と。彼のこの発言は、実際もっと批判されるべきだ。いつから政治参画に説明が必要になったのか。自らとその周辺をして「まじめに政治をやってきた人間たち」を任じるのは勝手だが、それを判断するのは有権者であって、本人ではないだろう。僕ははっきり言って堀江氏は好きではない。しかし、彼が立候補するのに説明を求めようとは思わない。政治に参加するのに理由は必要ないからだ。それは、定められた年齢に達している全ての日本人が持っている当然の権利なのだ。

広島6区に関して本当に批判されなければならない点は、むしろ堀江氏を待たねば対立候補が出なかったという状況にある。郵政解散である以上、有権者に郵政改革に賛成か反対かの選択肢を与えなければならないという小泉首相の意見は実に尤もだが、「与える」という感覚が既に民主主義的ではない。なぜ、その土地の議員を選出するのに中央が対立候補を立てる必要があるのか。実は、郵政改革反対候補の出馬がなかったという事実が、既にある程度まで民意の反映ではないのか。要するに人々は、何も発言しないほど無関心ではないが、立候補するほどの関心はないということだろう。無論、これは広島6区に限ったことではない。

確かに、議員として立候補するというのは並大抵のことではない。時間も金も労力も、高くつき過ぎる。しかし民主主義の理念を大切にするならば、これは解決されなければならない問題だろう。そしてその第一歩は、とにかく政治参画意識を高めていくことしかない。まさにこの意味で、YES! PROJECTが果たし得る役割は大きいのだ。

もちろん、YES! PROJECTの成果を評価するには早くとも来月11日を待たねばならないが、この運動が時宜にかなっていることは既に明らかだ。第一に、「自民党をぶっ壊す」と言って登場した小泉首相の型破りな政治が、人々の政治への関心を呼び戻しつつある。第二に、ニートやフリーターなどの問題に象徴される若い世代が、政治に対して真摯な目を向けつつある。そして第三に、インターネットが想像以上に民主主義の理念に相応しいツールであることが明らかになってきたことがある。第一点や第二点ももちろん重要だが、この記事では特に第三点に注目したい。いみじくもYES! PROJECTのプレスリリースが指摘しているように、実は「今回の衆議院選挙は、ブログとSNS(Social Networking Service)が普及した後の初めての国政選挙」なのである。インターネットは、まずアクセサビリティ(accessability)という点で非常に民主主義的である。初期のインフラ整備と技術的な知識にこそ格差が生じ得るが、アクセス性の高さは他のインフラの追随を許さない。さらに、ブログなどのツールによって誰でも簡単に意見表明が出来るようになったことも、政治との相性が良い。加えてトラックバックやコメント機能、そして何よりもソーシャル・ネットワーキング・サービス(以後、SNS)が生み出した相互のコミュニケーションの可能性は、基本的に討議を通じた合意形成及び意見調整を前提としている民主主義に実によく馴染む。実際、9月11日の選挙に向けてインターネットから動き出している民主主義は、YES! PROJECTだけではない。

なんと言っても注目されるのはmixiGREEという二大SNSで展開されている「一票いっとく?」運動である。両SNSを合わせても参加者200人ほどと、まだまだ小規模ではあるが、この運動が非常に興味深いのは若者の自発的運動であるという点だ。SNS内の運動という性格上ここであまり詳しく書くことはしないが、20代の若者自身の手で20代の投票率を上げることを目的としている。「一票いっとく?」運動では、30日の選挙公示日に合わせて『投票ラブ・ストーリー』というサイトを公開することを検討しており、どれほどの影響を持ち得るかが注目される。(公開されました。9月3日リンク追加。)

さらに、YAHOO! JAPANの衆院選特集マニフェスト比較を行うなど、手軽に利用できる解説が増えていることも重要だろう。インターネット上には、人々の政治への関心に応えるに十分な情報が蓄積されつつある。昨今注目を集めるWIKIのシステムを使った、政治・選挙ウィキもその一つだ。有志が自発的に集まって、よく耳にするけれどよく知らないという、なかなか人には聞き辛いような用語を平易に解説してあり、実に便利である。

また、立候補者の側からもこういった動きに応える活動が行われ始めている。ブログを通じた政策発信は、その最たるものだ。個人的なブログはもちろん、ele-logのような多数の政治家が参加するブログも注目を集める。先日、自民党がメールマガジンとブログの発信者を招いて行った懇談会などは、まさにこういった流れの象徴と言えるのではないだろうか。最後に、既に二大政党である自民党と民主党が公式にYES! PROJECTを支持していることも付記しておこう。(自民党民主党

民主主義は動き出している。楽観は出来ないとしても、確実に動き出してる。力強いのは、それが従来の啓蒙を脱し、主体的な運動として展開されているように見受けられることだ。劇場型選挙が一時的に若者の関心を集めているだけという観測もある中で、この芽を摘まないために僕たちに出来ることは何か。まずはマニフェストを読み、きちんと考え、人と話し、そして来る9月11日の選挙へと足を運ぶことである。この政局の行方がどうなるにしろ、動き出した民主主義が留まることのないように願うばかりである。

<参考>
僕が最近立ち上げたWikiTimesというサイトで、オンラインで利用できるYES! PROJECT関連情報を収集しているので、参照されたい。