Keep On Thinking

少しでも日本の医療を良くして、多くの人々が健康な生活を送ることができる世の中にしたい。このブログは自分の思考の軌跡を綴る場であり、少しでも多くの人々に「気づき」を与える場でもある。医療、社会全般、科学にも視野を広げ、リハビリテーションや神経科学などの分野も紹介します。「必要なのは、信じる心ではなく、それとは正反対の、知ろうとする心である。-バートランド•ラッセル」

脳卒中後の中枢性疼痛と半球間抑制の不均衡との関連(Front. Hum. Neuroticから)

Morishita T and Inoue T. Brain Stimulation Therapy for Central Post-Stroke Pain from a Perspective of Interhemispheric Neural Network Remodeling. Front. Hum. Neurotic. 2016; 10: 166-166.

脳卒中後の中枢性疼痛と半球間抑制の不均衡との関連を論じている総論である。下の図が示しているように、脳卒中によって左右半球の一次運動野の均衡が崩れ、損傷半球側の一次運動野から視床の後外側腹側核〔VPL〕への抑制が減少し、VPLの機能が過剰活動となる。さらに、VPLと神経ネットワークで結合している領域に影響が及ぶ。それらが、脳卒中後の中枢性疼痛の発生に大きく影響しているのではないか、とのこと。

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図は論文から引用

レビュー論文の著者は、脳卒中後の中枢性疼痛に対してtDCSを用いて半球間の不均衡を是正し、疼痛が改善した症例を報告している。対象者は、脳卒中によって左半球の視床が損傷され、中枢性疼痛を呈している。損傷半球の一次運動野の手の領域に陽極電極を、非損傷半球の一次運動野に陰極電極を設置し、tDCSを実施した。tDCSの効果はプラセボと比較し、二重盲検化で実施した。tDCSを20分間10セッション実施した結果、プラセボと比較してtDCSは、VASで測った疼痛の程度が有意に改善した。さらに、ARATが30ポイントから37ポイントへ向上し、上肢機能が改善した。

麻痺手(右手)の運動時の脳活動をfNIRSで計測したところ、通常時には右半球の過剰な活動がみられたが、tDCS施行後は、右半球の過活動が改善し、半球間の不均衡が是正されている。

Morishita T, Hyakutake K, Saita K, Takahara M, Shiota E, Inoue T. Pain reduction associated with improved functional interhemispheric balance following transcranial direct current stimulation for post-stroke central pain: A case study. J Neurol Sci. 2015 ;15(358): 484-5.

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図は論文から引用

疼痛に対するリハビリテーションを知りたければ、これ。

脳・神経科学の知見とリハビリテーションの臨床とをつなぐ架け橋



今から10年前の学生だった頃に、本書の第1版を夢中で読んだ記憶がある。当時は、基礎的な脳・神経科学の知見とリハビリテーションの臨床とをつなぐ架け橋となる参考書、特に日本語で読める本はなかったため、本書は画期的であった。約330本の膨大な参考文献をまとめ、初学者に対して読みやすく、しかし読み応えのある本書の第1版には圧倒された。

第2版はその第1版を超える内容となっている。参考文献は540本近くに及び、本書の分量は1.5倍となっている。しかし、語り口調は淀みがなく、強弱がはっきりしていて飽きず、読みやすくなっている。そのうえ、(これが大事なのだが)非常に内容が面白い。本書で取り上げられているトピックは全て、脳卒中リハビリテーションの臨床現場に欠かせないものだ。さらに、基礎的な脳・神経科学の知見と臨床とをつなぐ架け橋は強化されており、臨床を経験をしている者にとっては、基礎研究の知見がすっと頭に入ってくる。特に、疼痛に対するリハビリテーションや、運動学習理論、脳卒中の病期別の介入方法、身体所有感・運動主体感などは、明日からの臨床に活かせるだろう。

私は作業療法士になってから8年が経ち、人並みには論文を読んできたつもりだが、本書を読んで、知らないこと、読んでいない大事な文献がこれだけあるのかと再認識させてもらい、襟を正す気持ちになった。自分の無知を恥じずに、知の巨人である森岡先生の肩に乗って、脳・神経科学とリハビリテーションの広大な世界を見渡してみてはいかがだろうか。

上肢麻痺に対して電気刺激療法単独の効果は小さく、量的な練習が必要である。(NNRから)

Wilson RD, Page SJ, Delahanty M, Knutson JS, Gunzler DD, Sheffler LR, Chae J. Upper-Limb Recovery After Stroke: A Randomized Controlled Trial Comparing EMG-Triggered, Cyclic, and Sensory Electrical Stimulation. Neurorehabil Neural Repair. 2016 May 24

米国で行われた、脳卒中後の上肢麻痺に対する電気刺激療法の効果を検証した多施設、単盲検化、3群無作為比較試験。脳卒中発症後6ヶ月以内の中等度から重度上肢麻痺を呈した患者さんを対象にしている。122名の対象者を、随意運動を伴わずに神経筋電気刺激療法[NMES]を実施する群、随意運動介助型のNMESを実施する群、感覚閾値の電気刺激を与える群の3群に無作為に割り付けた。3群のいずれも、理学療法と作業療法に合わせて電気刺激療法を実施した。電気刺激療法は、1セッション40分を週に2回、8週間実施した。対象者は、8週間の介入終了後、6ヶ月間の追跡調査を受けた。その結果、3群いずれも、8週間の介入によってFugl-Meyer Assessmentのポイントは有意に向上がみられたが、3群間で有意な差はみられなかった(p=0.83)。結論として、上肢機能の改善は自然回復の可能性があり、電気刺激療法の種類には差がない、とのこと。

私見。まず本研究の結果で再認識したのは、電気刺激療法単独では上肢機能の改善に対して効果が小さいこと。先行研究においても、急性期での電気刺激療法の取り組み痙性麻痺に対する電気刺激療法のレビュー基礎研究でも示されていることであり、もうお腹がいっぱい。

2つ目は、1セッション40分の電気刺激療法を週に2回、8週間って、量的に少ない。表3を見ると、電気刺激療法と並行して実施した作業療法の合計時間は、平均21時間から23時間である。表2を見ると、3群のFMAの変化量は、だいたい5ポイントから7ポイントである。6ヶ月以内の回復期の脳卒中患者で、中等度からやや重度の上肢麻痺であることから考えると、本研究での上肢機能の改善度は低く、電気刺激療法の効果は小さいと思われる。8週間の介入で電気刺激療法が合計10時間ちょっと、作業療法の合計約22時間を足しても32時間ぐらいであるため、練習量が少ない。本研究は、電気刺激療法単独の効果は小さく、量的な練習が必要であることを物語っていると思われる。

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図は論文から引用

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図は論文から引用

軽度から中等度の上肢麻痺を呈した慢性期脳卒中患者に対する短期間での集中的な上肢リーチ練習は、持続的で般化的な効果がある。(NNRから)

Hyeshin Park, Sujin Kim, Carolee J. Winstein, James Gordon, and Nicolas Schweighofer. Short-Duration and Intensive Training Improves Long-Term Reaching Performance in Individuals With Chronic Stroke. Neurorehabilitation and Neural Repair 2016, Vol. 30(6) 551–561

脳卒中後平均72ヶ月(SD:11ヶ月)を経過し、FMAが平均48.7ポイント(SD:2.5ポイント)の軽度から中等度の上肢麻痺を呈した慢性期脳卒中患者16名を対象としたケーススタディ。対象者は、1セッション600回の麻痺側上肢のリーチ練習を集中的、2セッションという短期間で実施した。上肢のリーチ練習では、各運動ごとにパフォーマンスを基にしたフィードバックをディスプレイ上で提示した。上肢のリーチ練習は、介助はせずに随意運動で実施し、体幹をベルトで固定し、代償動作を抑制した。練習の結果、上肢リーチの運動時間は介入から1ヶ月後で平均20.4%向上し(速くなり)、運動のなめらかさは平均22.7%向上し、有意な改善が1ヶ月間持続した。初回評価時に最も重度の上肢麻痺を呈した対象者で、最も大きな改善がみられた。それに加えて、介入1日、1ヶ月後の再評価で、練習をしていないターゲットに対する上肢リーチのパフォーマンスで有意な改善がみられた。結論として、軽度から中等度の上肢麻痺を呈した慢性期脳卒中患者に対する短期間での集中的な上肢リーチ練習は、持続的で般化的な効果がある。

私見。慢性期の脳卒中患者であり、2セッション(1日休みで3日間)という短期間であっても、1回のセッションで600回の集中的な上肢リーチ練習をすることで、持続的な上肢機能の改善がみられる。「脳卒中になって半年を超えたら、機能は良くならない」というのはもう過去の話し(もう15年ぐらい前?)。外来では、1回のセッションで600回のリーチ練習を達成するのは難しいかもしれないが、運動学習(例:フィードバック)を取り入れ、麻痺手の自発的な運動を伴う、量的な練習を集中的に実施すれば、慢性期であっても上肢機能は改善するのだ。

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図は論文から引用

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図は論文から引用

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図は論文から引用

パーキンソン病のすくみ足に対する反復ステップ運動(PTジャーナルから)

パーキンソン病のすくみ足に対する介入について調べていたら、下記の研究論文を見つけた。第27回「理学療法ジャーナル賞」に準入賞した研究論文。パーキンソン症候群のすくみ足に対する介入として、僕も以前は反復ステップ運動を取り入れていた。しかし、最近ではもっとダイナミックに動いてもらいたいので取り入れる頻度は減ってきている。

梅原圭二,高橋光彦.パーキンソン病の姿勢反射障害,すくみ足に対するクロスオーバーデザイン・矛盾性運動を利用した反復ステップ運動の効果.PTジャーナル 2015; 49(4): 365 - 373

要旨
〔研究の目的〕パーキンソン病患者に,矛盾性運動を利用した反復ステップ運動を実施し姿勢反射障害,すくみ足への効果をクロスオーバーデザインで検証した.
〔方法〕対象は姿勢反射障害,すくみ足を呈するパーキンソン病患者19名である.対象を,先行群(1期:通常のリハビリテーション+反復ステップ運動,2期:通常のリハビリテーション)と後行群(1期:通常のリハビリテーション,2期:通常のリハビリテーション+反復ステップ運動)に振り分け実施した.評価は介入前,1期目終了時(2週間後),2期目終了時(4週間後)にPull-Test時の後方ステップ数,すくみ足,Timed Up and Go Test(TUGT),1回転,片脚立位を測定した.
〔結果〕反復ステップ運動を加えることで,姿勢反射障害,すくみ足,TUGT,右1回転が有意に改善した.
〔結論〕反復ステップ運動を通常リハビリテーションに加えることは,二次障害予防の観点からも臨床的に有用であることが示唆された.

すくみ足
図は論文から引用
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脳卒中リハビリテーションの必読書

Principles of Neural Science (Principles of Neural Science (Kandel))
↑現在進行形で、こつこつ必死に読んでいます。

カンデル神経科学
↑日本語訳が出たみたいです。




Stroke Rehabilitation: A Function-Based Approach, 3e

↑英語ですけど、脳卒中リハビリテーションの教科書で世界No1だと思います。

脳卒中のリハビリテーション 生活機能に基づくアプローチ 原著第3版
↑日本語版が出ました!

Stroke Rehabilitation: A Function-Based Approach, 4e
↑2015年9月に第4版が出ました!

Cognitive and Perceptual Rehabilitation: Optimizing Function, 1e
↑高次脳機能障害に対するリハビリテーション、作業療法に関する書籍ではNo1だと思っています。




Neurological Rehabilitation: Optimizing Motor Performance WITH PAGEBURST ACCESS, 2e

↑英語ですけど、神経疾患に対する効果的なリハビリテーションを学ぶことができます。

ニューロロジカルリハビリテーション―運動パフォーマンスの最適化に向けた臨床実践
↑上記の日本語版です。

Stronger After Stroke: Your Roadmap to Recovery
↑第2版出ました!一般向けに書かれた脳卒中で失われた機能を回復するための戦略。

エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション
↑第2版の日本語訳です!

作業で語る事例報告: 作業療法レジメの書きかた・考えかた
↑作業療法士は、一読あれ。




脳から見たリハビリ治療 (ブルーバックス)

↑ニューロリハビリテーションの入門書といえば、これだ。




学習と脳―器用さを獲得する脳 (ライブラリ脳の世紀:心のメカニズムを探る)

↑学習と脳の関係を知らずして臨床ができるか。いやできない。




最新運動と脳 改訂版―体を動かす脳のメカニズム (ライブラリ脳の世紀:心のメカニズムを探る 5)

↑運動と脳の関係を知らずして、臨床ができるか。いやできない。

認識と行動の脳科学 (シリーズ脳科学)
↑認知、注意、運動、思考など様々なトピックを面白く学べます。

ハーバード大学テキスト 心臓病の病態生理 第3版
↑ハーバードの学生と教師が作り上げた教科書。心臓病を知るにはこれしかない。

心電図のみかた、考え方―基礎編
↑私の中では心電図の教科書でこれが最強だと思います。

栄養塾 症例で学ぶクリニカルパール
↑栄養管理を学ぶための入門書。内容は歯ごたえがあります。

運動療法のための 機能解剖学的触診技術 上肢

運動療法のための 機能解剖学的触診技術 下肢・体幹
↑触診技術を学ぶなら、私はこのテキストを選びます。

筋骨格系のキネシオロジー カラー版
↑やっと出ました第2版。生体力学を学ぶならこれしかない。

よくわかる脳MRI 第3版 (画像診断別冊KEY BOOKシリーズ)
↑第3版出ました!脳MRIの参考書ではNo1。

理学療法リスク管理マニュアル
↑リスク管理を学ぶなら、とりあえずこれ。

リハビリテーションリスク管理ハンドブック
↑合わせて読みたいリスク管理本

ベッドサイドの神経の診かた 改訂17版
↑神経疾患に対する検査と評価は、これがあればとりあえず大丈夫。

神経内科ハンドブック 第4版―鑑別診療と治療
↑神経内科は全般的におさえておきたい。

神経内科ケース・スタディ―病変部位決定の仕方
↑これ読んでから、ハンマー振る頻度増えました。

神経心理学入門
↑高次脳機能障害を学ぶなら、まずこれでしょう。

神経心理学―認知・行為の神経機構とその障害 (放送大学教材)
↑面白くて良書ですが、残念ながら絶版です。

高次脳機能障害学 第2版
↑第2版が出ました。改訂されて第6章に注意と注意障害が加筆されています。

視覚性認知の神経心理学 (神経心理学コレクション)
↑症例が豊富で面白いです。英語の文献もたくさん紹介している。

臨床家のための高次脳機能のみかた
↑認知症患者の高次脳機能を理解するにはこの本がベスト。

高次脳機能障害マエストロシリーズ(3)リハビリテーション評価
↑高次脳機能障害に対する検査と評価の入門書。

リハビリテーションのための脳・神経科学入門
↑ニューロリハビリテーションの入門書Part2。

↑神経疾患を学ぶなら、最高の入門書。

活動分析アプローチ-中枢神経系障害の評価と治療-【第2版】
↑第2版でました。ADLへの介入には大変参考になります。
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