〜筋緊張亢進•低下に対する自分なりのメモ〜

片麻痺患者は運動の随意性の低下に加えて、筋緊張の異常も呈している。それは脳卒中によって上位運動ニューロンが障害されると同時に、皮質核路も障害されるからである。皮質核路の障害により、錐体外路の機能が亢進し、筋緊張の異常を呈するのだ。臨床の中では、筋緊張の亢進や低下が問題になると考えるセラピストが多いが、本当に筋緊張の異常は運動機能に問題となるのであろうか。そもそも「筋緊張の低下」という概念が正しいのか?この記事では筋緊張の異常が起こるメカニズムを簡単に説明して、「筋緊張の低下」が正しさを追求したい。

痙性麻痺に対する効果的な徒手的治療方法の考察でも述べたように、まず脳卒中片麻痺患者がなりやすい上肢の屈筋パターン、下肢の伸筋パターンがなぜ生じるのかを、おさらいしておこう。

我々が手足の運動を行う際には運動野が働き、電気刺激が錐体路を通って脊髄の前核細胞に信号が送られる。そして、それと同時に筋肉がどの程度の長さで収縮すればよいのか、どのくらいの力を発揮すればよいのかなどの筋活動の調整も必要となってくる。そういった調整は錐体外路系が調節しているが、下の図のように前角細胞には様々な錐体外路が働いている。

筋緊張制御2-1


そこで脳卒中片麻痺患者の屈筋パターン、伸筋パターンを考えるときに重要となってくるのは、γ-運動ニューロンである。γ-運動ニューロンは筋トーヌスの調整に重要な役割を担っている。γ-運動ニューロンが興奮すると、γ-繊維を伝わって筋紡錐の両端が収縮する。筋紡錐は「引き延ばされた」と感じると、その情報がI-a繊維にそって前角細胞に伝えられ、深部腱反射と同じメカニズムで筋肉全体が収縮する。つまり、γ-運動ニューロンは筋紡錐を収縮することで筋紡錐の感度を鋭敏にし、筋肉全体を収縮させる方向へ促す働きがある。

このように、γ-運動ニューロンの興奮の程度によって筋肉全体の緊張の程度を調節することができる。言い換えれば、筋トーヌスを調節しているということである。さてこのγ-運動ニューロンは何に制御されているのだろうか。それは、先ほども述べたように錐体外路によって調整されている。錐体外路のなかでも網様体脊髄路が重要な役割を担っている。そこで錐体外路の機能的な役割を示す。

筋緊張制御23


まず網様体脊髄路だが、大脳皮質運動野や脳幹からは運動指令を送る神経伝導路があり、大きく分けて背外側系と腹内側系とが存在し、網様体脊髄路は腹内側系に属する。腹内側系は、両側性に脊髄を下行し、主として近位筋、肩帯、腰帯、体幹帯を両側性に支配する。

網様体脊髄路は橋網様体脊髄路と延髄脊髄路の2つの種類がある。
•橋網様体脊髄路は伸筋の収縮活動を高める
•延髄網様体脊髄路は屈筋の収縮活動を高める
といった役割がある。

前庭脊髄路は伸筋の収縮活動を高め、それは上肢よりも下肢で強く働く。
赤核脊髄路は上肢の前腕屈筋の収縮活動を高める働きがある。

ここで重要になるのは最初で述べたように錐体外路を制御している皮質核路である。皮質核路は錐体外路が暴走しないように抑制系に制御する役割を担っている。そして皮質核路は錐体路と平行して大脳皮質の第6野から下行してきている。そのため脳卒中によって上位運動ニューロンが障害されると、上位運動ニューロンだけでなく、皮質核路も同時に障害されるため筋緊張の異常を生じることになる。

皮質核路が障害されると、錐体外路が暴走し、以下のような現象が起こる。
•上肢前腕が屈筋パターン
•下肢が伸筋パターン
こういったメカニズムで脳卒中片麻痺患者の筋緊張異常が生じる。

これだけみても、筋緊張は複雑なメカニズムによって成り立っており、ここには書いていないが、大脳基底核や小脳も関わっており、さらにシステムとして複雑となる。そのため、筋緊張を徒手的に適正化するのは困難であると思われる。

次に、上位運動ニューロンの障害によって筋緊張の亢進が起こることがわかったが、「筋緊張が低下」することはあるのだろうか。そもそも脳卒中による上位運動ニューロンの障害によって筋緊張の低下が起こることが重要な要素となってくるのかが疑問となってくる。


以下の図は上位運動ニューロンの障害によって起こる現象である。

スライド2


最近の議論では、「筋緊張の低下」という概念が曖昧になっていると言われている。そこで、もっとわかりやすい考え方として、麻痺の状態を筋活動が欠如した状態(the absence of muscle activation)、
weaknessを筋力の発動(産出)が減少した状態(reduced muscle force generation)と見なすべきではないかと言われている。

Weaknessとはまた、自発的な最大筋力が平均的な筋力と比較して低下していることと定義されている。それに加えて、先ほど述べたような筋力の発動(産出)の減少、筋出力のタイミング、またこれらをコントロールしたり、多関節運動や重力に対して他の力を発揮するといったことが困難になってくる。

Weaknessは2つの要因から引き起こされている。1つは、皮質脊髄路からの入力が減少するために、筋の発動に対してのモーターユニットが減少すること。2つ目は筋活動の欠如と不動性である。モーターユニットとは運動単位のことであり、前角細胞から出た運動神経は多数の筋繊維を支配し、ひとつの運動単位は1個の運動ニューロンとそれに支配される筋繊維群から成り立っている。例えば、上腕二頭筋ではα運動ニューロン数は約800個、平均運動単位数は750と言われている。

運動単位の減少や発火頻度の減少などが、Weaknessに関与している。これらの陰性症状のほうが筋緊張が低下するよりも、運動障害に対して重要な要素となると思われる。そのため、Weaknessを改善するためにも、積極的な自発的運動や、課題特異的で反復運動を取り入れ、拘縮などを予防することが重要である。

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参考•引用文献