Keep On Thinking

少しでも日本の医療を良くして、多くの人々が健康な生活を送ることができる世の中にしたい。このブログは自分の思考の軌跡を綴る場であり、少しでも多くの人々に「気づき」を与える場でもある。医療、社会全般、科学にも視野を広げ、リハビリテーションや神経科学などの分野も紹介します。「必要なのは、信じる心ではなく、それとは正反対の、知ろうとする心である。-バートランド•ラッセル」

脳卒中回復機構

急性期脳卒中患者に対する上肢集中練習による脳の活動の変化(NNRから)

Hubbard IJ, Carey LM, Budd TW, Levi C, McElduff P, Hudson S, Bateman G, Parsons MW. A Randomized Controlled Trial of the Effect of Early Upper-Limb Training on Stroke Recovery and Brain Activation. Neurorehabil Neural Repair. 2015 Sep;29(8):703-13. PMID: 25527488

オーストラリアにある2つの急性期脳卒中病棟で行われた、単盲検化、無作為比較試験。初発の脳梗塞患者23名を発症後1週間以内に2群のいずれかに無作為に割り付けた。対照群(12名、平均年齢69.3歳)は通常ケアを実施した。介入群(11名、平均年齢61.7歳)は、通常ケアに加えて、集中的な上肢集中練習を実施した。全ての対象者は、急性期病棟での平均11.5日の期間に、作業療法と理学療法を合わせて平均31.5分のセッションを平均6回実施した。介入群では、1日2時間、週に5日、3週間の計30時間の課題指向型練習を実施した。

プライマリアウトカムは、手指のタッピング時のfMRIで計測した脳活動、セカンダリアウトカムは、Motor Assessment Scaleの上肢項目、mRSであった。

その結果、Motor Assessment Scaleの変化量は、1ヶ月の時点で通常ケア群は平均4.33(SD:3.37)ポイント、介入群では5.36(3.67)ポイント、3ヶ月の時点で通常ケア群は平均12.8(6.00)ポイント、介入群では16.4(1.75)ポイントであった。Motor Assessment Scaleの変化量は、両群で有意な差がみられなかったが、介入群では標準偏差が小さくなり、一貫した改善が認められた。

通常ケアと比較して、介入群では損傷半球の補足運動野と前部帯状回の活動が高くなり、非損傷半球の小脳の活動が収束した。

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図は論文から引用

結論として、脳卒中発症後早期から上肢集中練習をすることによって、補足運動野や小脳といった運動関連領野や前部帯状回といった注意に関連する領野の脳活動に大きな変化をもたらす可能性がある。

私見。私が勤めている病院では、急性期における上肢麻痺に対するリハビリテーションを実施しているので、こういった知見をイメージしながら臨床すると面白い。

脳卒中発症後、重度上肢麻痺を呈した患者の麻痺側手指の随意伸展はいつ起こる?(PLoS ONEから)

EXPLICIT-stroke studyのサブ解析を用いた研究。

急性期脳卒中患者に対する上肢練習の効果検証:EXPLICIT-Stroke(Neurorehabil Neural Repairから):Keep On Thinking

Winters C, Kwakkel G, Nijland R, van Wegen E, EXPLICIT-stroke consortium (2016) When Does Return of Voluntary Finger Extension Occur Post-Stroke? A Prospective Cohort Study. PLoS ONE 11(8): e0160528. doi:10.1371/journal.pone.0160528

目的:脳卒中後早期における麻痺側手指の随意伸展の有無は、発症6ヶ月後の麻痺側上肢の回復の予後を左右する。このような麻痺側手指の随意伸展がみられない予後不良の予測にも関わらず、麻痺側上肢の機能が改善する患者がなかには存在する。我々の目的は、運動回復の経過における麻痺側手指の随意伸展の回復に対するtime windowを調べること、そして予後不良の予測にも関わらず脳卒中発症後6ヶ月を経過して麻痺側上肢の機能が改善する患者の臨床的特性を明らかにすることである。

方法:麻痺側手指の随意伸展(Fugl-Meyer Assessmentの「手」の下位項目で手指の伸展が1以上)の回復に対するtime windowを評価するために生存分析を使用した。Action Research Arm Testで10点以上をいくらかの上肢機能の改善(小さな物品をつかむことができる)と定義した。 脳卒中発症後6ヶ月の時点での上肢機能の改善の可能性を、対象者特性を使用した多変量ロジスティック回帰分析で明らかにした。

結果:脳卒中発症後8日±4日の時点で麻痺側手指の随意伸展がみられなかった100名の対象者のうち、45名は発症後6ヶ月の時点でAction Research Arm Testで10点以上を達成していた。これらの対象者において手指の随意伸展の回復がみられた時期の中央値は4週間であった(第1四分位数は2週間、第3四分位数は8週間)。全ての対象者(N=100名)が、time windowである4週間で、手指の随意伸展は達成されたわけではなかった。中等度から良好な下肢の機能(Motricity Indexの下肢項目が35点以上)が保たれている、半側空間無視がない(文字抹消で損傷半球側と非損傷半球側の空間との差が2点未満)、十分な感覚機能が保たれている(Erasmus MC modified Nottingham Sensory Assessmentで33以上)の対象者は、脳卒中発症後6ヶ月の時点で、上肢機能の回復が0.94の割合で認められた。

結論:我々は脳卒中発症後4週間以内、望ましくは8週間まで麻痺側手指の随意伸展を常に観察することを推奨する。麻痺が主に上肢に限局されており、半側空間無視がなく、十分な感覚機能が保たれている脳卒中患者は、脳卒中発症後6ヶ月の時点で、少なくともある程度の上肢機能の改善がみられる可能性がある。

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図は論文から引用(脳卒中発症後6ヶ月の時点で、ある程度の上肢機能の改善がみられた45名)

私見。課題指向型練習に移行できるかどうかは、麻痺側手指の随意伸展の有無が重要な要素となる。それは、脳卒中発症後72時間以内の手指の随意伸展の有無が、手指巧緻性の改善の予後を左右する重要な因子になっていることからも物語っている。そのため、手指の随意伸展が可能かどうかを日々評価することは大切なことである。脳卒中発症後約1週間の時点で、手指の随意伸展が認められなくても、約45%の患者が発症後6ヶ月の時点で、ある程度の上肢機能の改善がみられ、それらの脳卒中患者の約50%で、発症から約2週間から4週間で随意伸展が出現する。特に、下肢機能が良好で、半側空間無視がなく、感覚機能が保たれている者であれば、たとえ発症後1週間の時点で手指の随意伸展がみられなくても、経過のなかで手指の随意伸展が出現する可能性が高くなるのだ。本研究の結果は、重度上肢麻痺を呈した脳卒中患者に対する介入計画を立てる上で重要な材料となる。

一次運動野と背側運動前野からの皮質脊髄路の残存程度は、脳卒中後の手の運動機能回復と関連している(Strokeから)。


Nick Ward先生(UCL Institute of Neurology, Queen Square)の「Motor Recovery after Stroke - What is the Future?」からの学びは続きます。本記事では、脳卒中後の運動機能回復は、脳卒中による神経損傷とどの程度関係があるのか?について1つの論文を紹介します。

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Schulz R, Park CH, Boudrias MH, Gerloff C, Hummel FC, Ward NS. Assessing the Integrity of Corticospinal Pathways From Primary and Secondary Cortical Motor Areas After Stroke. Stroke. 2012; 43:2248-2251.

背景と目的:一次運動野はもちろんのことだが、皮質脊髄路は背側・腹側運動前野皮質や補足運動野からも神経線維を受けており、これらの皮質から出ている神経線維は、脳卒中後の運動機能の回復に潜在的に関わっている可能性がある。我々の目的は、これら4つの運動皮質(一次運動野、背側・腹側運動前野皮質、補足運動野)における手の運動を司る領野から出ている皮質脊髄路の微細構造の残存程度を測ることと、これらの変数が手の運動機能障害にどのように関係しているのか調べることである。
方法:機能的MRIから同定された皮質領野からの確率的トラクトグラフィー(拡散テンソル画像を用いた脳などの三次元的視覚的評価法)によって、健常対象者のグループにおけるそれぞれの運動野内の手の運動を司る部分から出ている皮質脊髄路を明らかにした。慢性期脳卒中患者のグループにおける内包後脚のレベルで、それぞれの皮質脊髄路に対する微細構造の残存程度をfractional anisotropy(FA)を使って計算した。
結果:fractional anisotropyは損傷半球において、全ての皮質脊髄路で減少していた。握力は、一次運動野と背側運動前野から出ている皮質脊髄路の残存程度と関連していた。しかし重回帰分析では、背側運動前野が、握力の強さに関わる一次運動野の皮質脊髄路の能力を向上していた。
結論:握力は一次運動野から出ている皮質脊髄路に決定的に関与しているが、運動前野から出ている皮質脊髄路の微細構造の残存程度は、脳卒中後の運動機能の回復を援助する役割があると思われる。

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図は論文から引用
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図は論文から引用

私見。運動機能の回復は、一次運動野と背側運動前野からの皮質脊髄路の残存程度と関連する。運動機能の回復を予測するうえで、皮質脊髄路の残存程度を知ることは、大事であろう。普段見るMRIからも、ある程度評価できる?

脳卒中後の回復が良好な脳卒中患者では、損傷半球の一次運動野と頭頂間溝との結びつきが強い(Strokeから)

Robert Schulz,et al. Enhanced Effective Connectivity Between Primary Motor Cortex and Intraparietal Sulcus in Well-Recovered Stroke Patients. Stroke. 2016 Feb;47(2):482-9.

脳卒中後の回復が良好な脳卒中患者15名を、発症後3ヶ月の時点で、麻痺手の運動時における脳の活動をfMRIで計測した。その結果、年齢と性別をマッチングした健常者と比較して、脳卒中患者では、損傷半球の一次運動野と頭頂間溝前部との間の相互的・促進的な結びつきが有意に強かった。

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図は文献から引用

私見。15名の発症時の上肢機能のrangeは、Fugl-Meyer Testで42点から66点(1名が7点)、発症3ヶ月後のrangeは58点から66点であった。15名の脳卒中患者の上肢機能は、比較的軽度。やはり、頭頂葉は上肢の回復に重要な役割を担う。

左右大脳半球間の抑制は麻痺手の運動機能回復を阻害するが、筋特有の皮質内抑制は良好な運動機能回復と痙縮の低下に関連しているかもしれない

Michelle L. Harris-Love, et al.:Neural Substrates of Motor Recovery in Severely Impaired Stroke Patients With Hand Paralysis. Neurorehabil Neural Repair July 10, 2015

中等度から重度の麻痺を呈している慢性期脳卒中患者16名(Fugl-Meyer Assessment 27.0 ± 8.6、発症後平均5.0 ± 3.8年)を対象にして、麻痺側上肢の筋において皮質間と皮質内の抑制機能を調べた。麻痺側の上腕二頭筋と上腕三頭筋の自発的な等尺性収縮の間にTMSを用いてSilent Periodを計測した(上腕二頭筋と上腕三頭筋それぞれ、皮質間、皮質内の抑制機能を調べた)。さらに、以前には検証されていなかった問題である、Silent Periodと運動機能の回復との関連を調査した。その結果、皮質間の抑制は、麻痺側上肢の重症度(Fugl-Meyer score)と有意な相関を示しており、麻痺側の上腕二頭筋よりも上腕三頭筋において大きかった。一方で、麻痺側の上腕二頭筋における皮質内抑制は、運動回復の良さと正の相関を示していた。また、痙縮の低下と正の相関を示していた。しかし、上腕三等筋ではみられなかった。本研究の結果から、麻痺側上肢の筋の皮質間抑制と皮質内抑制とは異なった機序で運動回復に関連することが示された。皮質間抑制は麻痺側上肢の運動機能の回復の悪さに関わっており、筋特有の皮質内抑制は良好な運動機能の回復と痙縮の低下に関連しているかもしれない。

脳卒中後の失語の回復において、右半球の代償は良好な失語の改善を導く

Science Dailyから

Righting a wrong? Right side of brain can compensate for post-stroke loss of speech

左半球が優位半球の人では、脳卒中による左半球損傷により、失語を呈することがある。失語からの回復において、右半球の関与は、良好な失語の改善を導くのか?記事によると、この論争は130年以上も続けられているらしい。今回、その論争にまた一つ答えが出たらしく、右半球の関与(代償)は、良好な失語の改善を導くみたい。原著は以下の論文である。

Shihui Xing, Elizabeth H. Lacey, Laura M. Skipper-Kallal, Xiong Jiang, Michelle L. Harris-Love, Jinsheng Zeng, Peter E. Turkeltaub. Right hemisphere grey matter structure and language outcomes in chronic left hemisphere stroke. Brain. 2015 Oct 31

ちなみに運動機能に関しては、非損傷半球の関与(代償)は、あまり良好な改善を導かない。その一つの理由としては、非損傷半球から損傷半球に対する抑制が強くなるからである。しかし、大脳の広範囲な損傷では、非損傷半球の関与が重要になってくる。このあたりの議論は、はっきりしておらず、まだ決着がついていないのかな。

脳卒中機能回復における神経ネットワークを基にしたリハビリテーション:Keep On Thinking

脳卒中皮質下損傷において、半球間の機能結合の向上は、解剖学的な神経結合の損傷を代償する(Strokeから)

Jingchun Liu, et al.:Enhanced Interhemispheric Functional Connectivity Compensates for Anatomical Connection Damages in Subcortical Stroke. Stroke. 2015;46:1045-1051.

運動回復における半球間の機能結合の代償または向上の役割はわかっていない。本研究の目的は、軽度の運動麻痺を呈している慢性期脳卒中皮質下損傷患者において、皮質脊髄路の損傷と半球間の解剖学的結合と半球間の機能結合との間に関連があるかどうかを調べることである。

対象者は、20名の慢性期脳卒中患者(発症後平均29.8ヶ月、FMA平均65.3)と16名の健常者である。それらの対象者に対して、皮質脊髄路の損傷と半球間の解剖学的結合と半球間の機能結合との間の関連を調べた結果、健常者と比較して、脳卒中患者では以下のことがわかった。

・健常者と比較して、脳卒中患者では、損傷側の皮質脊髄路と左右の半球間(一次運動野)の解剖学的結合は減少していたが、左右の半球間(一次運動野)の機能結合は強くなっていた。
・脳卒中患者において、損傷側の皮質脊髄路と左右の半球間(一次運動野)の解剖学的結合は正の相関を示していた。
・脳卒中患者において、左右の半球間(一次運動野)の解剖学的結合と左右の半球間(一次運動野)の機能結合は負の相関を示していた。

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図は論文から引用

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図は論文から引用

結論として、左右の半球間(一次運動野)の解剖学的結合の障害は、皮質脊髄路の損傷の二次的障害である。皮質脊髄路が損傷した脳卒中患者では、左右半球間の機能結合の向上が代償を図り、神経可塑性を惹起させる。

私見。皮質脊髄路の損傷によって、左右半球間の解剖学的結合は破壊されるが、左右半球間の機能的な結合は向上する。この変化が必ずしも良い傾向なのか悪い傾向なのかはわからないが、脳の可塑的変化はすごい。
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脳卒中リハビリテーションの必読書

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