Keep On Thinking

少しでも日本の医療を良くして、多くの人々が健康な生活を送ることができる世の中にしたい。このブログは自分の思考の軌跡を綴る場であり、少しでも多くの人々に「気づき」を与える場でもある。医療、社会全般、科学にも視野を広げ、リハビリテーションや神経科学などの分野も紹介します。「必要なのは、信じる心ではなく、それとは正反対の、知ろうとする心である。-バートランド•ラッセル」

慢性期

慢性期脳卒中患者の上肢麻痺に対する課題指向型練習の量的反応性の検証(Annals of Neurologyから)

Catherine E Lang, Michael J Strube, Marghuretta D Bland, Kimberly J Waddell, Kendra M Cherry-Allen, Randolph J Nudo, Alexander W Dromerick and Rebecca L Birkenmeier. Dose-response of task-specific upper limb training in people at least 6 months post stroke: A Phase II, single-blind, randomized, controlled trial. Accepted manuscript online: 22 JUL 2016

目的:慢性期脳卒中片麻痺患者に対する高負荷の運動療法は、低負荷よりも機能改善の効果があるかどうかを明らかにすること、そして量的反応性の潜在的な修飾因子を調べることが目的である。

方法:本研究は、単一盲検化、並行に実施された無作為比較試験。脳卒中発症後6ヶ月を経過し、上肢麻痺を呈した85名の成人脳卒中患者を、練習量で分けた4つの群の1つに無作為に割り付けた。操作された練習量のパラメータは、課題指向型練習の量、つまり課題の反復数によって示された。4つの群の対象者は、1セッション1時間、週に4日間、計8週間でそれぞれ3200回、6400回、9600回、個人が可能である最大の反復の課題練習を実施した。対象者は、麻痺側上肢の機能を改善するためにデザインされた、個人に合わせて難易度調整された課題指向型の上肢練習を実施した。プライマリアウトカムは、Action Reserch Arm Test(ARAT)の1週間の変化量であった。量的反応性の潜在的な修飾因子と量の効果は、階層的線形モデルによって評価した。

結果:3200回の群、9600回の群、最大の反復数を実施した群は、介入期間においてARATのスコアは改善し、1週間の変化量はそれぞれ0.40±0.15、0.31±0.16、0.66±0.14であった(それぞれp<0.05)。6400回の群はより小さく(-0.05±0.15)、3200回の群と最大の反復数を実施した群と有意な差がみられた(p<0.001)。初回の運動機能、半側空間無視、他のテストの特性は、量的反応性に影響しなかった。

解釈:全体を通して、治療の効果は小さかった。慢性期脳卒中片麻痺患者の上肢麻痺に対する課題特異型練習の量的反応性の効果は確認できなかった。

私見。Abstractしか読んでいないので、明確なことは言えないが、本研究の結果によって、量だけではダメということが再認識できたのではないだろうか。

軽度から中等度の上肢麻痺を呈した慢性期脳卒中患者に対する短期間での集中的な上肢リーチ練習は、持続的で般化的な効果がある。(NNRから)

Hyeshin Park, Sujin Kim, Carolee J. Winstein, James Gordon, and Nicolas Schweighofer. Short-Duration and Intensive Training Improves Long-Term Reaching Performance in Individuals With Chronic Stroke. Neurorehabilitation and Neural Repair 2016, Vol. 30(6) 551–561

脳卒中後平均72ヶ月(SD:11ヶ月)を経過し、FMAが平均48.7ポイント(SD:2.5ポイント)の軽度から中等度の上肢麻痺を呈した慢性期脳卒中患者16名を対象としたケーススタディ。対象者は、1セッション600回の麻痺側上肢のリーチ練習を集中的、2セッションという短期間で実施した。上肢のリーチ練習では、各運動ごとにパフォーマンスを基にしたフィードバックをディスプレイ上で提示した。上肢のリーチ練習は、介助はせずに随意運動で実施し、体幹をベルトで固定し、代償動作を抑制した。練習の結果、上肢リーチの運動時間は介入から1ヶ月後で平均20.4%向上し(速くなり)、運動のなめらかさは平均22.7%向上し、有意な改善が1ヶ月間持続した。初回評価時に最も重度の上肢麻痺を呈した対象者で、最も大きな改善がみられた。それに加えて、介入1日、1ヶ月後の再評価で、練習をしていないターゲットに対する上肢リーチのパフォーマンスで有意な改善がみられた。結論として、軽度から中等度の上肢麻痺を呈した慢性期脳卒中患者に対する短期間での集中的な上肢リーチ練習は、持続的で般化的な効果がある。

私見。慢性期の脳卒中患者であり、2セッション(1日休みで3日間)という短期間であっても、1回のセッションで600回の集中的な上肢リーチ練習をすることで、持続的な上肢機能の改善がみられる。「脳卒中になって半年を超えたら、機能は良くならない」というのはもう過去の話し(もう15年ぐらい前?)。外来では、1回のセッションで600回のリーチ練習を達成するのは難しいかもしれないが、運動学習(例:フィードバック)を取り入れ、麻痺手の自発的な運動を伴う、量的な練習を集中的に実施すれば、慢性期であっても上肢機能は改善するのだ。

56
図は論文から引用

43
図は論文から引用

24
図は論文から引用

慢性期重度上肢麻痺に対する複合的訓練によって食事動作を獲得した1症例

後輩の論文が、2016年5月号の作業療法ジャーナルの症例報告に公表されました!私も、本報告の患者さんに何度か代診で関わらせていただきました。本報告を読んでいただければわかりますが、患者さんに提供した食具には、後輩のアイデアが加わっています。介入全体を通して、後輩が症例に対して丁寧に関わっていたことが印象に残っています。是非、お読みください。

原田奈菜子,竹林崇,笹沼里味,高木真人,島田眞一.複合的訓練を実施し,麻痺手による食事動作を獲得した1症例.作業療法 2016; 50(5) : 491 - 495.

写真 2016-05-02 18 15 45

中等度から重度の麻痺を呈した慢性期脳卒中患者に対するロボット訓練単体の治療効果は小さい。

慢性期脳卒中患者の上肢麻痺に対してロボットを用いた訓練が、近年では普及しはじめている。2013年のThe Lancet Neurologyにロボット訓練の効果が検証されたRCTの研究が報告されている。

Verena Klamroth-Marganska, Javier Blanco, Katrin Campen, Armin Curt, Volker Dietz, Thierry Ettlin, Morena Felder, Bernd Fellinghauer, Marco Guidali, Anja Kollmar, Andreas Luft, Tobias Nef, Corina Schuster-Amft, Werner Stahel, Robert Riener. Three-dimensional, task-specific robot therapy of the arm after stroke: a multicentre, parallel-group randomized trial. Lancet Neurol 2013 Published Online December.

背景:脳卒中による二次的な上肢麻痺は共通にみられる障害である。我々はARMinを用いて上肢麻痺に対するロボット訓練が一般的な訓練と比較して上肢機能障害をより効果的に軽減させるかどうか検証することを目的とした。ARMinは、3次元で課題指向型訓練が遂行できる外骨格性のロボット[an exoskelton robot]である。
方法:本研究は、前向き、多施設、平行群間、無作為比較試験である。我々は、発症後6ヶ月以上を経過し、運動障害を呈した脳卒中患者であり、スイスにある4つの施設から適格基準に見合った、脳卒中後中程度から重度の麻痺を呈した者である。基準に見合った患者は、centre-stratifiedランダム化手続きを使用し、ロボットまたは一般的な訓練を受ける群に1:1の割合で無作為に割り付けた。両方の群は、8週間にわたって、週に3回、少なくとも1回45分の訓練を実施した(全部で24セッション)。プライマリーアウトカムはFugl-Meyerの上肢項目のスコアの変化量とした。評価者は患者を介入開始前、介入開始4週間後、介入終了後、介入を開始してから16週間、34週間後に評価した。評価者は治療の割り当てに関して盲検化されたが、患者と治療者、データ解析者は盲検化されなかった。解析はITTによって修正された。
結果:2009年の5月4日から2012年の9月3日の間に、143名の患者が研究に適格かどうか検査を受け、77名が基準に見合い、参加の了承を得られた。38名はロボット訓練に、35名は一般的な訓練に割り付けられた。ロボット訓練を受けた群は、一般的な訓練を受けた群と比較して、FMA-UEで測定された麻痺手の運動機能が試験期間を通して、有意な改善がみられた(F=4.1, p=0.041; スコアの平均差 0.78 ポイント, 95%信頼区間 0.03–1.53)。試験に関連する有害事象はみられなかった。
解釈:外骨格性のロボットを用いた課題指向型訓練を含めたニューロリハビリテーションは、一般的な訓練よりも慢性的な脳卒中後上肢麻痺における運動機能障害をより効果的に改善することができる。しかし、本研究におけるロボットと一般的な治療の効果の絶対的な差は小さく、有意性は弱い。本研究に関する臨床的な疑問は残されたままである。

ロボット訓練で使用されたものは以下に示したARMinである。ロボットを装着して、様々なゲームやバーチャルリアリティーの環境下でADL訓練ができる。例えば、ボールゲームや迷路ゲーム、台所の様々な活動など。ロボットを装着しながら、課題指向型訓練が実施できる。

Robots2
図は文献から引用

臨床試験の参加基準は以下の通りである。当初計画されていた期間では試験が終了できないと判断し、臨床試験は17ヶ月延長された。それと同時に適格基準は緩和されたとのこと。例えば、対象者を脳梗塞に絞っていたが、それを脳血管障害に拡大した。他にも、てんかんは除外されていたが基準内にした、18歳から80歳までの基準を18歳以上にした。

Robots3
図は文献から引用

ARMinを用いたロボット訓練では、モビライゼーション、ゲーム、ADL訓練の3つの訓練モードがあり、それぞれを少なくと10分実施した。一般的な治療は、モビライゼーションやゲーム、ADL訓練、それらを組み合わせたものを実施した。

同じ作業療法士と理学療法士が、両方の群で訓練を提供した。療法士はランダム化の前に、個々の患者に割り付けられた。療法士の経験年数は4年以上であった。

プライマリーアウトカムはFugl-Meyer、セカンダリアウトカムはWolf Motor Function Test、MAL、Stroke Impact Scale、the Goal Attainment Scale、modified Ashworth Scaleを用いた。評価は、介入3~4週間前、介入直前(ベースライン)、介入4週間後、介入8週間後(介入終了時)、介入16週間後、34週間後の6時点で実施した。

結果は以下の通りである。論文には、FMAの研究全体を通しての平均変化量[The mean change over the whole course of the study]が、ロボット治療群で3.25ポイント(SD:1.68)、一般的な治療群では2.47ポイント(SD:1.67)と記載されている。この値は、グラフの値とは異なる。本研究では、介入の3~4週間前にも評価を実施しており、研究全体というのは、介入3~4週間前から介入34週間後のことなのだろうか。

Robots
図は文献から引用

治療によって、FMAの変化量が5ポイントを超えたのは、ロボット群で34%、一般的な治療群では26%であった。セカンダリアウトカムでは、筋力[mean strength]以外のいずれの評価も両群において有意な差がみられなかった。

私の意見を述べると、本研究において、ロボットを用いた訓練の効果はわずかしかない印象である。グラフの値を見ると、FMAの変化量は、8週間の訓練終了時は3.4ポイントであり、その後のフォローアップでは下がっている。慢性期脳卒中患者におけるFMAの臨床的な有意な差は、4.25~7.25ポイントであるが、本研究ではそれに至っていない。研究者が言うには、本研究の対象者は中等度から重度の麻痺を呈した患者であり、Stephen J. Page氏が示したFMAのMCIDは、軽度から中等度の麻痺を呈した患者のデータから算出されたものであるため、参考にならないとのこと。

ロボット訓練で良い結果が出なかったのは、一回のセッションが少なくとも45分であり、週に3回実施されている。訓練が集中的に行われておらず、訓練時間が短く、量が少ないように思える。ロボット訓練単体ではADLへの汎化や訓練の効果は小さいように思える。そのため、慢性期脳卒中患者に対しては、ロボット訓練と他の治療方法との併用が良いと考える。
スポンサードリンク
Blog管理者

thnkks0304

Twitter
記事検索
脳卒中リハビリテーションの必読書

↑現在進行形で、こつこつ読んでいます。

↑日本語訳が出たみたいです。

↑英語ですけど、脳卒中リハビリテーションの教科書で世界No1だと思います。これは原著4版です。

↑原著3版の日本語版が出ました!

↑英語ですけど、神経疾患に対する効果的なリハビリテーションを学ぶことができます。

↑上の日本語版です。

↑作業療法士は、一読あれ。

↑高次脳機能障害に対するリハビリテーション、作業療法に関する書籍ではNo1だと思っています。

↑高次脳機能障害を学ぶなら、まずこれでしょう。

↑面白くて良書ですが、残念ながら絶版です。

↑第2版が出ました。改訂されて第6章に注意と注意障害が加筆されています。

↑症例が豊富で面白いです。英語の文献もたくさん紹介している。

↑読みやすくて臨床に活かせます。

↑高次脳機能障害に対する検査と評価の入門書。

↑ニューロリハビリテーションの入門書と言えば、これ。

↑ニューロリハビリテーションの入門書Part2。脳卒中に関わる療法士は、必読です。

↑学習と脳の関係を知らずして臨床ができるか。いやできない。

↑運動と脳の関係を知らずして、臨床ができるか。いやできない。

↑認知、注意、運動、思考など様々なトピックを面白く学べます。

↑物理療法、特に電気刺激療法を学び、治療に活かすには、この教科書が一番だと思います。

↑ハーバードの学生と教師が作り上げた教科書。心臓病の病態生理や治療を知ることができる良書です。

↑心電図の教科書がたくさんありますが、この本が一番わかりやすくて、臨床に活かせると思います。

↑脳卒中リハビリテーションでは、呼吸・循環の知識と技術も必要です。

↑リスク管理を学ぶなら、とりあえずこれ。

↑合わせて読みたいリスク管理本

↑上のケーススタディ本で、応用編。

↑栄養管理を学ぶための入門書。内容は歯ごたえがあります。

運動療法のための 機能解剖学的触診技術 上肢

運動療法のための 機能解剖学的触診技術 下肢・体幹
↑触診技術を学ぶなら、私はこのテキストを選びます。

筋骨格系のキネシオロジー カラー版
↑やっと出ました第2版。生体力学を学ぶならこれしかない。

↑基本動作の動作分析の教科書では、これが第一選択だろう。

コツさえわかればあなたも読める リハに役立つ脳画像
↑脳画像の入門書。おすすめです。

よくわかる脳MRI 第3版 (画像診断別冊KEY BOOKシリーズ)
↑第3版出ました!脳MRIの参考書では上位を争う。脳卒中だけではなく、脳疾患全般の画像が学べます。


↑神経疾患を学ぶなら、最高の入門書。

↑18版が出たみたいです。僕が学生時代は青だったな。神経疾患に対する検査と評価は、これがあればとりあえず大丈夫。

神経内科ハンドブック 第4版―鑑別診療と治療
↑神経内科は全般的におさえておきたい。

神経内科ケース・スタディ―病変部位決定の仕方
↑これ読んでから、ハンマー振る頻度増えました。


活動分析アプローチ-中枢神経系障害の評価と治療-【第2版】
↑第2版でました。ADLへの介入には大変参考になります。

↑第2版出ました!一般向けに書かれた脳卒中で失われた機能を回復するための戦略。

↑第2版の日本語訳です!
アクセスカウンター
  • 今日:
  • 昨日:
  • 累計:

  • ライブドアブログ