痙性麻痺はリハビリテーションを進めていく上で重大な阻害因子となる。当ブログでは過去に、痙性麻痺に関する記事を書いてきたが、どれも多くの人々に読まれている。それだけ、痙性麻痺をどのように克服、改善していくべきなのか悩んでいる人が多いのであろう。ブログ筆者も同様であり、現在でも痙性麻痺に対する治療手段は悩むべき問題である。今までに様々な論文に当たり、ある程度の考えに行き着いたので、この記事では痙性麻痺に対する原因とリハビリテーション介入においてアップデートした情報を紹介したいと思う。

痙性麻痺に対する効果的な徒手的治療方法の考察:Keep On Thinking

脳卒中による筋緊張異常は適正化できるのか?:Keep On Thinking

まず、痙性麻痺はどのような原因によって起こるのであろうか。Graciesは文献[1]で痙性麻痺が3つのステップによって引き起こされると述べている。

1) モーターユニットの自発的動員の減少によって起こる麻痺。
2) 短縮位でのポジショニングによって筋肉が短縮したり、関節が拘縮したりする。そのような、置かれた環境によって麻痺肢が不動的となる。
3) 麻痺肢の慢性的な不使用によって、高次の運動関連領野の可塑的な再組織化を引き起こす。それによって、さらにモーターユニットを自発的に動員させる能力が減少してしまう。

脳卒中によって、大脳皮質の運動野や皮質脊髄路が障害されることで、四肢に麻痺を呈する。麻痺というのは、運動を引き起こす筋骨格系のモーターユニットの自発的動員が減少することである。神経細胞の障害に由来するものや、活動依存的なものに由来する可塑的な生体内の再組織化が、運動遂行に関与する高次なレベルから脊髄や運動に関わる筋や軟部組織、関節、皮膚といった末梢の低次のレベルにまで変化を与える。

痙性は伸張反射の速度依存的な増加と定義されている。痙性麻痺の原因は、麻痺だけに由来するものではなく、麻痺による二次的な軟部組織の繊維化や筋の短縮、関節の拘縮が引き起こされ、それがさらに、筋の過活動(Muscle overactivity)を招いているのだ。筋の過活動は、非自発的なモーターユニットの動員が増加することであり、筋をリラックする能力が失われている状態である。

スライド1
文献[1]から図を引用し、ブログ筆者改編

スライド2
文献[2]から図を引用し、ブログ筆者改編

そして、二次的な筋や軟部組織、関節、皮膚といった末梢レベルでの変化だけでなく、慢性期に移行すると、麻痺による不動性が「不使用の学習」を招き、麻痺肢の機能を司っていた大脳皮質領野の地図が縮小し、周囲の領野に乗っ取られてしまう。つまり、麻痺による不動性が大脳レベルでの退行変容を引き起こし、「不使用の学習」を招くのだ。それが、さらに麻痺肢の使用を妨げ、末梢レベルでの負の変化を引き起こすといった負の連鎖を招き、筋の過活動(Muscle overactivity)を助長させてしまう。

Graciesは「麻痺→不使用の学習→ 麻痺の増悪」の負のパラレルを阻害することが痙性麻痺に対する治療として重要であると述べている。それには、過活動となっていない筋のグループにおける集中的な運動訓練が一つの治療概念として必要となってくる。

原寛美氏はGraciesの論文をひも解きながら、痙性麻痺を引き起こすメカニズムを文献[3]で述べている。以下に引用してみる。

発症後の麻痺肢においては構成する筋は短縮位でのポジショニングがなされており、さらに他動運動の介入遅延に起因する不動性 immobilizationの結果、一層の筋繊維の短縮が惹起され助長される。一方筋の生理学的メカニズムでは数時間の不動化により筋繊維の変性が惹起され、結合組織と脂肪組織への置換が生じてくる。その結果麻痺肢骨格筋はその弾性が失われ、錘内繊維内の筋紡錘の興奮性が増大する。そのためにわずかな伸張刺激により筋紡錘は過敏に反応し、深部腱反射の亢進として具現する。それが高じて痙縮へと伸展する。さらに麻痺肢の不動化および不使用は中枢神経の組織転換をもたらし、大脳皮質運動野の萎縮 central disuseへとつながる。この中枢神経系の退行変容と末梢における骨格筋変性が相まって痙縮さらに拘縮へと伸展することになる。このimmobilizationにより生じる痙縮の発現•増悪が運動麻痺回復の第二の阻害因子となる。(p522)

以上のように、痙性麻痺は筋肉や関節、軟部組織といった末梢性の問題と、神経細胞の損傷によって動員されるモーターユニットが減少したり、慢性的な麻痺肢の不使用による大脳皮質の萎縮といった中枢性の問題が相まって悪循環となり、引き起こされるのである。

それでは、どのように痙性麻痺を予防/治療/克服していけばよいのであろうか。まず、何と言っても脳卒中急性期での麻痺肢に対する治療が重要となってくる。Gracies[1,2]、原寛美氏[3]が述べるように、麻痺肢における深部腱反射亢進を初期のwarning signと捉えて、急性期から麻痺肢の不動性を予防/克服を念頭にしてリハビリテーションを介入していくことが重要である。

前回の記事でも述べたように、脳卒中の急性期に求められるのは、残存した皮質脊髄路の興奮性を賦活させることである。発症から約3ヶ月といった急性期の段階(1st stage)において、皮質脊髄路の興奮性を高めることが、回復期(2nd stage)から慢性期(3rd stage)での回復を効果的に効率的にすることができる。
スライド2
文献[3]から図を引用し、ブログ筆者改編

脳卒中リハビリテーションにおける運動麻痺回復のステージ理論:Keep On Thinking

そのため、脳卒中の急性期においては残存した皮質脊髄路の興奮性を高め、それと同時に損傷領野周辺の神経可塑性を高めるような介入を行っていく必要がある。具体的なリハビリテーション介入を以下に挙げているが、世界中の脳卒中治療ガイドラインで推奨されている治療を実践していくことが先決であろう。

1) Functional Electrical Stimulation(FES)
2) Strength training
3) Task-oriented-training
4) Constraint-induced movement therapy
5) Modified constraint-induced movement therapy
6) To increase the number of hours therapeutic use of the upper limb
7) the use of motor imagery
8) mirror therapy, virtual reality, robot-assisted therapy
9) the use of bilateral upper limb activity

エビデンス for 課題指向型訓練(task-specific training)~脳卒中リハビリテーション~:Keep On Thinking

徒手的な手段だけでなく、電気刺激、歩行訓練や上肢機能訓練を介助するロボットといったリハビリテーション機器を積極的に使用していくことが必要であることは言うまでもないだろう。また、原寛美氏も述べているように、ボツリヌス治療といった薬物療法と運動療法を併用した治療も、痙性麻痺に対して積極的に実施いく必要性を述べている。

次に、「不使用の学習(Learned-non-use)」を予防/克服していくことが重要となってくる。急性期(1st stage)においては麻痺の重症度によって、麻痺肢の使用頻度が減少してしまう。もし麻痺の程度が軽ければ、麻痺手や麻痺脚の使用頻度は大きく損なわれないかもしれないが、中等度から重度になってくると、日常生活では健側優位になり、麻痺肢の使用頻度が減少してしまう。それによって上記でも述べたように、麻痺側の手や前腕、肩の機能を司る神経領野が縮小してしまい、大脳皮質運動野の萎縮を招いてしまう。さらに、原寛美氏[3]が述べるように、急性期から損傷半球の皮質脊髄路を使わなければ、皮質脊髄路のワーラー変性が起こり、それが運動麻痺の回復を阻害する重大な因子となる。

したがって、急性期でのリハビリテーションでは、損傷半球での残存した皮質脊髄路の興奮性を高めると同時に、「不使用の学習(Learned-non-use)」を予防していかなければならない。以下のチャート図で説明されているように、CI療法によって訓練場面や日常生活場面での麻痺手の使用が促進され、大脳皮質運動野のマップを変化させ、同時に関節拘縮や筋に短縮といった末梢性にも良い影響を与える。「不使用の学習(Learn-non-use)」を予防していくための具体的な麻痺側上肢に対する介入は、1) 麻痺側上下肢の使用を促す課題を設定し、2) その課題が患者にとって意味のあるものであり、3) 適切に難易度調整され、4) 課題を集中的に反復して行い(サルの研究では1日に数百から数千回反復して課題を遂行している)、5) 日常生活での麻痺側上下肢の使用を促すことが必要となってくる。

スライド2

以上のように、痙性麻痺はステップ1のモーターユニットの減少による麻痺の出現、ステップ2の麻痺による不動性によって引き起こされる末梢レベルでの二次的変化、スタップ3の不動性によって引き起こされる大脳皮質の退行変容、つまり「不使用の学習」といったこれらの3つのステップが段階を踏み、症状に至る。そして、さらに「不使用の学習」が麻痺肢の不動性を招き、筋の短縮や関節の拘縮、皮膚、軟部組織の不可逆的な変化を引き起こし、負のスパイラルが起こる。これを食い止めるには、急性期から損傷半球の皮質脊髄路の興奮性を高めることと、大脳皮質の神経可塑性を促進させて、麻痺肢の機能を回復させることが求められるのだ。それには徒手的な治療だけでなく、ボツリヌス治療のような薬物療法から、電気刺激、ロボットといったリハビリテーション機器を併用していくことが重要であろう。さらに、日常生活での麻痺手の使用を促進させる課題指向型訓練を取り入れたCI療法を実施していくことも重要であると考えられる。痙性麻痺を予防/治療していくためには、急性期からの集中的なリハビリテーションの介入が最も大切であろう。

参考•引用文献
[1]Gracies JM. Pathophysiology of spastic paresis. 1 : Paresis and soft tissue change. Muscle Nerve 2005; 31: 535-551.

[2]Gracies JM. Pathophysiology of spastic paresis. 2 : Emergence of muscle overactivity. Muscle Nerve 2005; 31: 552-571.

[3]原寛美.脳卒中運動麻痺回復可塑性理論とステージ理論に依拠したリハビリテーション.脳外誌 2012; 21(7): 516-526.

痙性麻痺に対する効果的な徒手的治療方法の考察:Keep On Thinking

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